擬人ぽよはしばらく続きます。今回は前回の続きでお昼を食べに行くところからです。
「うえええ!? 明石の作った薬でカービィか人になった結果がこれかぁ!?」
提督の悲鳴にも似た叫び声が執務室に響く。真実を明かされるまで、割と本気で明石の告げた嘘を信じていただけにショックは大きいので声も比例するのは仕方ないだろう。
ちなみに春雨ちゃん。ここまで一言も発さないどころか身動き一つ取っていない。完璧に解脱されてしまったようだ……。
「はああああああ……心配して損したじゃないか。お前も悪趣味だなあ、明石」
「いや、このイタズラを仕掛けようと提案したのはカービィちゃんですよ?」
「カービィなのかよ! ああ、もう……一気に疲れたなこの野郎!」
ヤケクソ気味に被っていた帽子を投げ捨てると、今更のように解脱してしまった春雨に気がついて彼女を元に戻そうとする。幸いなことに、数秒で春雨は現実に帰還した。
……が、カービィと明石から真実を告げられて再び解脱した。慌てて提督が現実に引き戻す。
何とか我に返った春雨は、今度はプンスカと怒り出す。怒っても可愛いと提督と明石は秘かに感想を零した。
「もう、お二人は子供ですか!? イタズラにしては悪趣味すぎますよ!」
「え、うん……ゴメンね。ちょっと魔が差しちゃって」
「あうう……その顔は反則ですっ」
心の中の「影の自分」の仕業だとは流石に言えないカービィさん。嘘をつくことへの後ろめたさが生み出した表情が幸いして、春雨の怒りをあっという間に鎮火してしまった。
「あー、うん。とりあえず、目の前の少年は人間化したカービィなんだな。明石や春雨の親戚と言われたら信じてしまいそうだが」
「それを見越したカービィちゃんのイタズラ、ですよ提督。それにしても……小さいですよねえ。駆逐艦と同じぐらいの見た目じゃないですか?」
もっとも、駆逐艦でも型によって個体差がある。夕立や春雨の属する白露型はそれなりに成長しているし、逆に暁型駆逐艦なんかはそれこそ小学生低学年のような見た目と精神年齢である。
イレギュラーの生じた駆逐艦、と嘯いても多くの人は騙せるんじゃないか? と提督は思ってしまう。カービィの力の一端を伝えられてることもあって、ふんぞり返るだけのお偉方に本当に仕掛けようかとすら割と本気で思い始めた。
ちなみに提督はお偉方が大嫌いである。それは彼の過去が関係してるのだが、それはまた別の機会に話そう。
「ま、良いか。それよりも、折角だし二人も外食しに行くか? 春雨と洋食を食べに行こうと思ってたんだが……」
「洋食! 僕も食べたい!」
「奢りですか? 奢りなら私も……」
「まあ、元々は春雨に奢る予定だったしな。二人増えても大して変わらないよ」
「なら私も行きますかねぇ」
それなりに懐は潤っている。衝動買いをしても余裕で贅沢できるぐらいにはお金を持っているため、特に嫌悪もなく「良いぞ」と告げる提督。「価値観が違いすぎる」は禁句だ。
「ちょっと着替えてきますね」と言ってその場を立ち去った明石を見送ると、残された三人は鎮守府正門の前で待つことにする。ちなみにカービィは春雨と手を繋いでいる。傍から見ると完全に姉弟だ。
それを感じたのは提督も同じであり、二人の様子をまじまじと見て「ふーん?」と言ったような表情を浮かべる。そして、こっそりとカメラで二人の姿を写真に撮った。
そんなことをしている内に明石がやってきたので、四人は洋食屋目指して出発した。近くの洋食屋まで歩いて数十分の距離である。
「いらっしゃいませ~……ってうわお!? 提督さんじゃないですか!」
「やあ。今日は四人で頼む」
「了解ですっ! ささ、こちらへどうぞ!」
行きつけの店なのだろう。四人を迎え入れたウェイターは、提督の顔を見て納得したらしく、慣れた手つきで席へ案内する。以前も似たようなシチュエーションがあったに違いない。カービィはそう思った。
席に着き、メニューを広げて各々食べたい料理を決めていく。カービィは当然のように五人前ぐらいを決めているのはご愛嬌だ。ピザ一枚丸々。スパゲッティ。フレンチトースト。チーズインハンバーグエトセトラエトセトラ……。
カービィの注文を聞いて、ウェイターの顔色が少し変わったのを気がついたのは提督だけである。ちなみに、注文を聞かされたシェフたちは皆悲鳴を上げた。
「……アイツら大変そうだな。あとで酒でも差し入れてやるか」
「知り合いなんですか?」
「まあな。この店は陸軍時代に同じ部隊で戦場に向かってた奴らが経営してるんだ」
サラッと告げられた衝撃的な事実。カービィはいまいちピンときてないし、明石は知っていたので特に気にしていない。だが、艦娘の中では比較的新参者である春雨は目を見開いた。
「え、り、陸軍ですか? 提督は兵隊さんだったんですか?」
「そうだな、兵隊さんだよ。俺は艦娘が完成する前は陸軍に所属してたんだ。当時は深海棲艦に対して打つ手なしだったから、まあ目を背けたくなるぐらいに犠牲が出たけどな」
あくまで淡々と告げると、タイミング良く並べられた料理に手を付ける提督。提督が頼んだのはミートソーススパゲッティ。軍服が汚れないように注意して食べるその姿だけ見ると、到底陸軍に所属してたとは思えない。
もっと詳しい話を聞きたかった春雨であったが、質問をする前に提督がカービィに向けて質問攻めを始めたのでそれは叶わなかった。
「俺の過去よりもカービィの力について聞きたいな。何でも夕立と激突して勝ったと聞いてるぞ」
それも改二の夕立にな、と付け足す提督。改二というのは……まあ、あれだ。レベルアップして近代化改装を施したと思ってもらえたら良い。なお改二になると見た目が変わる艦娘が殆どだ。
ちなみに夕立は瞳が赤くなった。見た目は某ありふれた物語のヒロインに似ている。
「僕は夕立ちゃんの訓練に付き合っただけだよ? 勝ち負けはないと思うなあ……あ、このハンバーグ美味しい! もっと頼もうかな……」
「いや、艦娘とドンパチできる時点で何かおかしいけどな?」
「そーなの? でも、確かに夕立ちゃんはなあ。気を抜いたら僕が吹っ飛ばされそうだったよ……うーん、このピザも美味しいなあ」
食レポしながらのカービィさん。普通ならちょびっとイラつく場面だが……相手がカービィだからなのか、負の感情を持つことはなぜかない。可愛いは正義ということか。
ちなみにここまでの話を聞いた提督は、カービィが本当に強者であることを察した。
夕立と言えば、鎮守府に所属する艦娘の中でもトップクラスに練度の高い艦娘だ。駆逐艦の中では幸運艦の雪風や初期艦の吹雪と並んでエースとも言える存在である。
そんな夕立と対決し、後れを取るばかりか圧倒。さらに初見で夕立の破天荒な戦闘スタイルを攻略。しかも手加減して傷を殆ど付けずに気絶させるという神業まで披露した。そこまでしてるのに強者と言わない方がどうかしてるだろう。
「夕立との対決では剣を使ったと聞いてるぞ。コピー能力は何でもありなのか?」
一番の疑問である。これまで提督が見てきたコピー能力はコックのみだ。しかし、カービィの発言や春雨の証言から文字通り「何でもあり」なのではないかと疑ってる。
それに対するカービィの回答は、
「何でもできるよ~」
である。ものすごくサクッと軽く告げた。
誇張表現でも何でもなく、本当にコピー能力は何でもありだ。嘘偽りない事実である。剣士や魔法使いになるのはもちろんだが、ドラゴンを召喚したり超巨大なハンマーを取り出せたりと彼の能力は留まることを知らない。
ついでに、彼の食欲も留まることを知らない。誰よりも注文したはずなのだが……もう完食したようだ。皿が綺麗に積み重ねられている。口を拭いて「ごちそーさまでした!」とカービィは手を合わせた。
「……本当に君は何者なんだい? 旅人と言ってたけど、明らかに持っている力が大きすぎやしないか?」
「誰が何と言っても僕は旅人だよ! 春風とお友達の旅人さ!」
「春風が運ぶ旅人、か」
うーむ、と考え込み始めた提督。それを見た明石は、ついさっき食べ終わった春雨とカービィに「先に出て町を散策してきたら?」と言った。こうして考え込み始めると長いらしい。
言葉に甘えて外に出た二人。洋食屋は町の中心近くにあるため、真っ昼間であっても店の前はそれなりに人通りがあるし子供たちはその辺を元気に駆け回ってる。
「ねえねえ春雨ちゃん。どこ行く?」
「え、ううん。ちょっと思いつかないです、はい……」
「それじゃあ、折角だし走り回ってる子供たちの後を追いかけてみようか」
「子供たち……良いかもです。公園みたいな場所が見つかるかもですね、はい」
互いに頷き合うと、手を繋いで出発だ。ごく自然と手を繋ぐ光景は姉弟その物と言えよう。
元気に走り回ってる子供たちをテクテクと追いかていくと、様々な裏路地や通り、そして地下道を抜けて一つの場所へと辿り着いた。
そこは、小さな秘密基地のような場所であった。廃工場の敷地内にあるらしく、秘密基地に備え付けられた窓からはそれなりに大きな建物が見える。
「わあ、これって秘密基地だよね?」
「すごい……色んな物が置いてあります。望遠鏡にマンガに。あ、これはハンモックですね」
「この秘密基地って手作りかな? だとしたら相当すごいね。ほら、こっちには囲炉裏みたいな物があるよ」
無造作に置かれた木の長机の上には宿題らしきノート。その辺に転がっている鉛筆やクレヨン。立て掛けられたギター。使用してるのは小学生低学年ぐらいの児童だろうが、秘密基地自体の出来が良いことに二人はとにかく驚いた。
木の枝をそのまま使う帽子掛けや、丸太を椅子にしてたりと皆が想像できるような物もしっかり置いてあるところが評価ポイントだ。
暫くの間は秘密基地を探索し、一通り終わったら二人は丸太に腰を下ろした。それなりに広かったので、探索するだけでも楽しかったようだ。二人とも笑顔である。
「すごいねえ。お風呂やご飯を工夫したら家としても住めるんじゃない?」
「ちょっと憧れます、はい……♪」
「あ、春雨ちゃん。やっと笑ったね!」
「え、ああっ。そんなほっぺをツンツンしないでください~!」
幸せそうな笑い声が響き渡る。ほっぺをツンツンするカービィにやり返すために春雨も身を乗り出して。その拍子に春雨がバランスを崩し、その勢いでカービィも蹌踉めいて。そのまま地面に二人とも倒れて。何だかおかしくて笑い合って。
艦娘は兵器だと考えるのが一般的なこの世界で、艦娘の春雨と人外のカービィは……誰よりも人間らしく笑顔を浮かべていた。
「あれ? あなたたち、だれ?」
それだけ夢中だったから、二人は新しい声がすぐ近くで聞こえてビクビクゥ! と仲良く反応した。
そんな反応を見て、声の主はクスクスと笑う。二人が声のした方向を振り向くと、そこには一人の女の子が立っていた。
背丈はカービィと同じぐらい。あどけなさ全開の表情と見た目。どう見ても小学生低学年だ。
「アタシ、ヒナっていうの。あなたは?」
カービィと似た、純真無垢な笑顔を二人に向ける少女。
一橋ヒナ。改めて、少女はそう名乗った。
秘密基地、私は大好きです。軍の所持するような要塞ではなく、小さい子供が頑張って作った秘密基地なんかは特に好きです。皆さんはどうでしょう?
*春雨を選択した理由
→髪色がカービィと似ている。大人しめな性格がカービィと対極的。あとは単に私が好きなキャラクター。こんな所です。
*誰よりも人間らしく笑顔を浮かべている二人
→兵器として見られる艦娘や、単純に人間ではない星の戦士よりも心から笑えず愛想笑いしか浮かべられない人間は……というメッセージ。