暗黒大陸?グルメ界の間違いだろう……   作:クロアブースト

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お待たせしました。今回で一章最終話となります。二章に関しては少し時間を下さい。勉強サボって執筆してたからそろそろ真面目に勉強を再会しないとヤバいので……


前回
WARNING:馬王襲来!

馬王「来ちゃった♥」
ジン「帰れ!」


食王エア

「空気が…重い…た、戦う気すらしねぇ……」

 

目の前に王者の如く佇む巨大な馬にジンは圧倒されていた。

 

ジンは慢心してたのだと自覚する。

決して自分が最強だと自惚れていたわけじゃない。

イストより強い人間は確かに存在しているのかもしれない。

だが、イストですら格下と感じる程に次元の違う化け物が目の前に現れたのである。

 

馬王ヘラクレス、八王と呼ばれる一角であり、この暗黒大陸において頂点の一匹と言って良いだろう。

つまり、馬王のさじ加減一つで暗黒大陸中の生物は絶滅の危機を迎えるということである。

 

5年前から雨の大陸になったのは勿論、馬王のせいである。

暗黒大陸の各地で発生した豪雨地帯のせいで、新大陸紀行を元に探検計画を立てていた連中は一匹の馬というイレギュラーによって計画の抜本的見直しが求められる。何せ文字通り豪雨地帯は未知の領域になってしまったからである。

 

そして悲しいことに、他の各地が豪雨地帯に変わらない保証も無いのである。

ジンが明らかに気圧されている中でもイストは平然としていた。

 

「よぉ、ヘラクレス久し振り」

「ブルル」

「え、もうそんな時期なのか……ていうかまた出産ってちょっと盛り過ぎじゃないか」

「ブルルル」

「いや元気に産めるようになって嬉しいのは分かったけど……」

 

イストはヘラクレスと会話しているようだった。ジンは良いハンターは動物に好かれるというのが持論なのだが、こんな王者級となってくると話が変わってくる。

何せ目の前の生物は格下に侮られるのを嫌う気高き生物なのだ。

 

「イスト、言葉が分かるのか?」

「ああ、彼らの言葉はきちんと伝わっているさ」

「そうか…」

「というわけで乗るよ」

「は?」

 

まさか遥か格上の生物に乗るということにジンは一瞬思考が停止した……

 

 

 

 

 

 

ヘラクレスの背に乗りながら移動するイストとジン。物凄いスピードで大陸を駆け抜けているのだが、イストが気圧ドームをヘラクレスの背に発動することで背中に向かってくる向かい風を防いでいる。

というか加減しているらしいが、移動速度が凄まじ過ぎて気圧ドームへソニックブームが激突する音が鳴り止まないのである。

 

「一体どういう関係なんだ?」

「彼女は八王ヘラクレスだ」

「お前の言っていたパートナーアニマルか?」

「いやパートナーアニマルは別。こっちはどちらかと言うと現在組んでるコンビだな」

「コンビ?」

「そう。今の俺は八王の料理人ってわけさ」

 

イストからジンに説明される。八王とはこの世界で最も強い八匹の獣の王を指すこと。そして馬王ヘラクレスはその一匹なのであると。

 

「これだけの威厳があれば強いのは分かるが、他に七匹もいるのか……」

「ヘラクレスとは出産の為にエアを調理する約束をしているからな」

「出産?」

「ヘラクレスはエアから放出される膨大な空気を吸わないと元気な子供を産めないんだ。だから俺が協力しているってわけだ」

 

空気を食べる大気食で、一回に吸う空気量はおよそ3600億トン。

体積に換算すると大西洋の海水量とほぼ同じ量であり、その話を聞いたジンが顔を真っ青にするのも無理はない。

それだけの空気を食べるということは危険度もジンには予想が着いたからである。

 

「吸った空気の10%しか吐き出さないから、大陸の気圧は低く、吐き出した毒素が上昇気流となって様々な豪雨として降り注ぐんだ。

雨の大陸で降ってる豪雨もヘラクレスの影響だな」

「マジかよ……」

「一応ヘラクレスも加減はしているんだぜ。呼吸は基本的に年に一度だからそれで済んでるしな」

 

そしてヘラクレスの出産には充分な呼吸をする必要がある為にエアの調理と出産時期を合わせるとイストは話す。

その説明の数分後に馬王ヘラクレスの背に乗ったイストとジンはエアツリーの巨木へ来ていた。

ここは本来、のろま雨の丘という密度が濃く、抵抗力の強い空気が充満しているエリアなのだが、ヘラクレスが軽く一息吸うだけで通常レベルまで下げてくれた為にジンは知る由もなかった。

 

「これが食王エアだ」

「デケェ……」

 

ジンがそう呟くしかない程にエアはデカかった。

 

食王エア

 

数百年に一度実る、全長1500メートル以上の巨大な実。

 

一つの惑星を覆い尽くせるほどの空気が凝縮されており、熟して地面に落ちた瞬間に吹き出す空気は大陸の雲を全て吹き飛ばし、百色の虹の橋を作ると言われている。

まあ今回は前回の出産から数百年の時間を置いていない為に膨大な雲や百色の虹の橋すら出ないだろうが……

 

本来なら繊細な食材のため、ヘラクレスのような圧倒的強者が近づくとすぐに腐ってしまうのだが、ヘラクレスは絶を使うことで威圧感を最小限に抑えていた。

それでも威圧感が若干漏れていたりするのだが、エアが腐るのを阻止出来るレベルまで抑えられている時点で遥か昔よりは成長している。

勿論教えたのはイストだったりする。

 

「ありがとうヘラクレス、後は俺が調理するから任せてくれ」

「ブルルル」

 

ヘラクレスはエアの巨木から立ち去った。出産の際には絶が解けてしまう為にヘラクレスは出産を行う準備を始める為である。

それはヘラクレス自身がイストを信頼している証とも言える。

何せエアから離れることは、エアから出される空気へ干渉されるリスクも生じるからだ。

だがイストは八王の料理人となってから幾度も成功させている実績を持つことと、互いの利害が一致していることが信頼関係を結んでいた。

ヘラクレスは出産の為の空気を…

イストはエアから空気を放出させた後のエアの実自体が目当てだからである。

 

 

そしてイストはエアを調理すべくグルメ細胞を活性化させる。

 

ズズズズズ

 

イストの身体から異形の怪物が現れる。それはグルメ細胞の悪魔と呼ばれる者だった。

全身真っ黒で、丸っこい体に手と足が付いている存在が現れた。

 

「何だこれは…」

「彼はドンスライム、俺とコンビを組んでいた相棒のグルメ細胞の悪魔だ。と言ってもほんの僅かな断片だけどな」

「スライム?」

「コラ!私を呼ぶ時は『ドン』を付けなさい!ドンスライムだ!ドンスラでも良いぞ」

「彼は『ドン』を気に入ってるから名前を呼ぶ時は付けてあげてくれ」

「ああ、分かった」

 

ジンは了承する。

 

「これがグルメ細胞の悪魔なのか……ん、イストのグルメ細胞がドンスライムでは無いのか?」

「そうだな。俺のグルメ細胞の悪魔は強いんだが、汎用性に欠けるから戦闘以外はドンに頼ってるな」

「全く、仮にも宇宙の災害と言われた私を雑用にこき使うのはイスト位だ」

「それくらい頼りにしてるんだよ」

「うむ、それなら良い」

 

簡単に機嫌を治すドンスライム。付き合いが長いというのもあるが、本来のドンスライムは強過ぎて一龍が有事の際以外は殆ど頼らない。

そして一龍が頼らざるを得ない程のピンチなど同じアカシアの三弟子級か八王級でも無ければあり得ないので出番はほぼない。

だからこそ頼られるのに飢えているとも言えるのは余談だったりする。

 

「ドンスライムの凄いところはあらゆる物体に細胞レベルで姿を変えられることだ。エアの破裂を抑え付ける為にネットを張ってくれ」

「うむ任された」

 

ドンスライムは手をエアを覆う程の巨大な網ネットに変化させてエアが破裂しないように包み込む。

そしてイストはエアへ向けて包丁を連続して振るう。

 

「皇帝の調理術、空切り・乱式」

 

イストはエアへ向けて斬撃の乱れ打ちを振るう。

そしてイストの斬撃はドンスライムの網ネットを避けてエアを調理するという離れ業をしながら調理を着々と進めていく。

 

エアの実の本来の噴出孔以外から空気が飛び出しそうな場所はイストが気圧のコルクを作って封をすることで対処する。

原作ならば本来複数人で行う調理をイストはドンスライムと二人だけで調理をしていた。

 

「そろそろだな。ドンスライム、もう解除して良いぞ」

 

その言葉と共にエアを縛っていた網ネットは解けてエアは地面に落下する。

 

「見ていろ、ジン。これがエアの噴出だ」

 

ズンッ!ドッブォオ!

 

イストの言葉通り、エアが落下した途端に一斉に空気が噴き出した。

 

 

 

 

 

エアの実から噴き出した空気、その量は実に5000兆トン。体積にしておよそ250億立方キロメートル。

それが僅か数十秒の間にすべて放出されるのだ。

 

その空気は暗黒大陸だけでなく、海を超えて広がっていった。

 

火山の大噴火を超える空気の奔流にジンは驚愕していた。

 

「言っただろう?星全体に行き渡るって」

 

イストはジンを見ながら言う。ジンはエアの空気が暗黒大陸を超えて広がっていくことにある疑問を抱く。

星全体へ行き渡るとされている空気は何処へ向かうのかと……

そして以前話した真実について話し出す。

 

「真実について話したな。恐らくドンは渡航記を書く位に冒険好きなのだろう。彼は西を渡り歩いて一度は絶望したはずだ。大陸を渡り歩いてしまい次の目的を失ったが故に……」

「ん?私は渡航紀など書いておらんぞ」

「あ、ドンスライムすまない……君じゃなくてドン=フリークスのことなんだ……混乱させてすまないな」

「いや私と同じくドンを名乗るのだから、そやつも凄いのだろうな……」

 

ドンスライムとイストが茶番を行う。ジンが早く話の続きを話せとジト目で見てきたのでイストはンンッと咳払いをしてから話を戻した。

 

「ドン=フリークスは知ってしまったんだ。東側と西側を渡り歩いて、次の冒険を探した際に見落としていた事実……どうして一つだけなのかと誤認していたのかを……」

「まさか……」

 

ジンは驚愕する。

それは根本的な見落とし。

メビウス湖を超えた先に、人の一生分の人生では渡り歩く事が出来ない程の大きな大陸があったせいだろう。

一つの大陸という視野が狭まっていたのである。

もし仮にメビウス湖にいた住人なら世界旅行をしたいと行ったらどうするか?

それは簡単である……

 

大陸を超えれば良い。

 

一つの大陸を制覇したなら……と、ドン・フリークスは西側の本を書くのを忘れる位の新たな冒険の扉を見つけたのだろうと……

 

「暗黒大陸は一つじゃないってことさ」




これにて一章は終わりです。

次からは二章に入ります。


因みにドン=フリークスが新大陸紀行西を書かなくなったのは2番の挫折して出版されてないからでした。
まあ凄いこじつけだけど、某美食の神みたいに東と西を制覇したら一度は挫折という名の絶望位はしそうかなって。

ドンスライムの何が凄いって、細胞レベルで変化させられるので、イストとドンスライムが力を合わせれば食材をグルメ食材に変化させることすら出来たりします。
まあその代わりに食材をグルメ食材に変化させるには差分のカロリーを消耗するので事前に食没でチャージしないといけない上に、自分で食べるのには、ほぼ役に立たないことを除けばですが。
ぶっちゃけ富裕層向けの料理とかではドンスライムの能力使って金稼ぎをやってるんですが、そんなバックストーリー見せても面白くないと思うんで本編ではカットしてます。

『2章のニュースレポート』
「次のニュースです。287期ハンター試験が開始されました。
今期のハンター試験は、試験内容が情報漏洩しているのかと疑われるレベルでスクーターやバイク、ハンググライダー、乗馬、登山装備や探検リュックといった事前準備を行う受験者が大多数いるという前代未聞の受験者で溢れております。
試験内容が発表される度に準備をしていた者達に有利になる内容からか、正々堂々試験に挑む受験者達からは不満の声が多発しております。
あちらでトランプタワーを作っている男性やお腹の空いた受験者の為に料理を振る舞う女性のようにスポーツマンシップを持って望んでもらいたいものですね。
不正行為を行うハンター達が大多数の為、専門家達は今期のハンター試験は過去最悪になると見込んでいるようです。
以上、ニュースでした」

ドン=フリークスが新大陸紀行の西を出版しなかった理由は?

  • まだ見つかっていない
  • 志半ばに挫折して本になっていない
  • 今も書き続けている

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