暗黒大陸?グルメ界の間違いだろう……   作:クロアブースト

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理想と現実

理想の草食動物「ぷるぷる、ぼくたち悪い動物じゃないよ」

尚現実の草食動物は後書きに記載。




おいでよ、草食の森

「草食の森、名前だけなら可愛らしく思えるが違うんだろう?」

「まさか暗黒大陸にそんな穏やかな場所があるわけないさ。この森は肉食動物が一匹も残らず絶滅した危険地帯さ」

 

イストはジンの疑問に答える。

 

「絶滅した?」

「そうだ。だからこの森は危険地帯なのさ」

 

そうして歩いていくと人間界と同じサイズである一匹の兎が出てきた。

 

「まさか暗黒大陸で小兎が出てくるとはな」

「警戒しろよ」

 

その言葉と共に兎から大きなオーラを纏ってジンへと向かって高速で突っ込んでくる。

 

「うぉ!?」

 

ジンは慌てて避ける。

 

ズドォン!

 

避けられた兎は進行方向上の木々を貫通しながら突っ込んでいった。

 

「あれはロケット兎だな。頭で硬をしてロケットのように突っ込んで来る危険生物だ。群れで行動するのが特徴だ」

 

その言葉と共に森から20~30程の兎達が出現する。そして兎達は一斉にジンとイストへ向かって跳躍してロケットのように突っ込んできた。

 

「硬しながら受け流せ。受け止めると次々と襲ってくるからな」

「簡単に言ってくれるな」

 

ジンは次々と迫りくるロケット兎達を硬と流をしながら受け流す。

もし仮に凝や練で受け流そうとしたら攻防力不足で被弾箇所が吹き飛ぶ。

そして受け止めれば集中狙いされて手足を抉られてしまうのは容易に思い当たるのだ。

文字通り防御に全霊をかけなければ命を落とす危険生物である。

対してイストは軽々と素手で弾いている。オーラ量や潜在能力がロケット兎とは次元が違うレベルだから出来る芸当である。

 

「何時まで受け流せば良い?」

「こいつらは群れ単位で通じないと判断したら集まり出す。その隙をやる」

 

そうして数分ロケット兎達の突進を受け流していると通じないと判断したのか、単発で駄目なら一つの大きな弾丸になろうと集まり出した。そしてくっつき合うとオーラが増大していく。

 

「相互協力型(ジョイントタイプ)だ。威力と速度が跳ね上がるから念弾で出来る限り削れ」

 

ジンとイストは念弾を撃って削っていく。

そして十匹が念弾で撃ち落とされながらもロケット兎達は一つの砲弾のように突っ込んでくる。ジンとイストは容易く避けるが、後ろにあった大きな岩石を容易く貫通する。

 

そうして避けながらも念弾で削っていくとロケット兎達は分が悪いと判断した為、引いていった。

 

「ったく、最初から恐ろしい奴らだ」

「ジンがまともにやりあう気があったなら問題ないさ」

「まあな。だがここは通り抜けるだけなんだろう?」

「そうだ。草食の森はこの後立ち寄る狼人(ウルフロイド)達の狩場だからな。下手に乱獲すると問題になる」

「それ人間界から来る連中は知らないよな」

「そもそも手加減出来るかも怪しいな」

 

ジンとイストは会話しながら森の中を歩いていく。

 

歩いていくと落ち葉が地面を埋め尽くした広場が出てきた。明らかに不自然な場所な為にジンは凝を使う。

 

すると陰で隠された鋭利な木材が罠として仕掛けられていた。

 

「これを自然の動物が作ってるのか、随分知恵が回るな」

 

ジンは警戒しながら罠を避けて進もうとするが…

 

「待て」

「どうしたんだ」

「凝じゃなくて円を使ってみろ。周囲じゃなくて地面にだ」

「分かった」

 

ジンは地面へ向けて円を広げる。

 

「なっ!?」

 

円で感知した先には落とし穴があった。落とし穴の先にも同じく鋭利な木材が仕掛けられており、串刺しにされるだろう。

 

「朧狸だな。凝を欺く幻術を見せてくる」

「文字通り初見殺しな能力だな」

 

朧狸とは隠の罠を見破らせ、本命の凝を欺く幻術による落とし穴で仕留める狡猾な狸である。

 

「他にも幻狐という円を欺く幻術を見せる奴もいる」

「つまりこの森では凝と円を使い分けないといけないわけだな……」

 

洗礼とも言える初見殺し。この森では狐と狸の化かし合いが行われている。但し被害者に関してはこの森への侵入者なのが酷い話である。

 

「だが種が分かれば怖くないな」

「そうだな」

 

二人は無事に広場を超えた先の草原に出てくると顔が殺意にまみれた一匹の羊がこちらに向かってくる。

 

「メェー」

 

可愛らしい鳴き声とは裏腹に体毛で巨大な拳を作ってこちらに放ってきたのでジンとイストは避ける。

 

ズドン!

 

拳が振り下ろされた地面は陥没していた。

 

「コイツはスケープゴート、体毛を自在に操り対象を殺そうとしてくる羊だ」

「スケープゴートの由来は?」

「名付けた奴曰く見殺しにされまくって復讐に目覚めたってバックストーリーがあるんじゃないかなぁと言ってた」

「適当だなぁっと!」

 

ジンはスケープゴートの側面に近付き、右拳に硬を纏わせて殴るが、体毛が瞬時に緩衝材になって威力が削がれる。

そして拳が触れていない体毛部分が針となって襲いかかるのでジンは瞬時に離れる。

 

「奴に物理攻撃はほぼ効かない。まずは体毛を削ぎ落とさないとまともにダメージが入らないぞ」

「つまり切裂けば良いんだな」

 

ジンは右手のオーラの形状を変化させて手の周り無数の刃を作り出す。

 

キュイイイインン

 

オーラが高速回転することで刃も回転する。その光景は電動ノコギリであり、イストはジンをジト目で見る。

 

「やっぱお前のオーラ技術、変態だわ」

「お前が言うな」

 

ジンはそうしてスケープゴートへ電動ノコギリと化したオーラで毛刈りを行うのだった。

 

 

 

草原を超えた先でまた森に入って数分、イストとジンは歩みを止める。

 

「囲まれてるな」

 

周囲の木々から現れたのは軍服を着たリス、アーミーリス達だった。その数は50を超えていた。

 

「チュチュチュチュ」

 

一匹のアーミーリスの号令で五十を超えるアーミーリス達が一斉にマシンガンを具現化し全方位からの弾幕を作ってくる。

 

「ドングリの弾丸、周で銃並みの威力を持ってるのか……」

 

だが先程のロケット兎と違って練で全方位から放たれる弾丸を防ぎきれる程度の威力しかない。だがこのアーミーリスの恐ろしさは軍隊レベルの練度を持つことである。

 

半分のアーミーリス達が弾幕で牽制する間にもう半分のアーミーリス達は松ぼっくりを投擲する。

 

ブシュゥゥゥゥゥ

 

松ぼっくりから煙が吹き出し周囲が煙で見えなくなる。

 

「煙幕……」

 

ガクンッ

 

ジンの身体から力が抜けていく。

 

「眠りスギの花粉か……」

 

イストから聞かされていた睡眠作用のある眠りスギの花粉が撒き散らされる。木の上から見下ろすアーミーリスがチュチュと鳴くと空から赤い鳥が現れ、羽根から焔が巻き上がる。

 

「キー」

 

その雄叫びと共に熱風が煙に当たった瞬間、

 

ズドォォォォン

 

粉塵爆発が発生した。

 

 

周囲が吹き飛ぶ中で一つの氷のドームが出来ていた。そのドームがひび割れると無傷のイストと朦朧としたジンが出てくる。イストがジンの頬を軽くペチンと叩くとジンの意識が覚醒する。

 

「すまねぇ……油断していた……」

「火の鳥を使っての粉塵爆発は奴等が用意周到だったってだけさ。ところで………もう茶番は良いか」

「ああ、現時点で俺だけの力じゃ通用しないってことは分かった……」

 

ジンがそういうとイストは殺気を撒き散らす。その瞬間、周囲の動物達は一斉に身の毛もよだつ恐怖に晒される。

そして周囲の草食動物達は一斉に撤退していった。

 

 

 

 

パチパチパチパチ

 

焚き火をして先程捉えたロケット兎の蒲焼きをしながら休憩するジンとイスト。

 

「これが暗黒大陸の野生か……恐ろしいな」

 

ジンは先程までのやり取りを思い出しながら呟く。暗黒大陸の動物達は念能力を扱うと言われていたが、彼らは間違いなく念能力を使いこなしていた。

タイマンならばジンも容易に対処出来るレベルだが、向こうの草食動物達がああも待ち構えられていてはジンでも対応しきれなかったのである。

 

「まだ入口だから獣にしては弱い方さ」

 

イストは何ともないように言う。事実イストはこの草食動物達が襲いかかっても威圧だけで容易く撤退させた。それだけの実力差があるのである。

 

「まだ工夫次第でどうとでもなるレベルだ。個人でどうにもないレベルだと……」

 

ズシン、ズシン

 

地面が大きく揺れる音がする。遥か遠くから聞こえるのに振動が地震のように揺らしてくるのだ。

 

「この感じだと焚き火に釣られて向かって来てるな。その木に登って見てみろ」

「分かった」

 

ジンは木の天辺まで登って前方を見て迫ってくるものに唖然とする。

人間界でいう一つの要塞を背負う上半身が金属のような光沢を持つ鎧で覆われている巨大サイズのサイがいた。

 

「コイツは要犀だな。コイツレベルになるとネテロの百式観音位ではまともにダメージを与えられなくなる。まあ他にもいくつかいるが"狼人の村"まではもう少し先だ」

 

イストの言葉にジンは木の天辺から飛び降りて何事もなく着地する。

 

「こんな獣達を狩るとか狼人ってのは強いんだな」

「そうだな。草食の森以外でも狩りをしてるが、少なくとも人間界の念能力者達よりは強いさ」

「因みにイストはあの要犀には?」

「余裕で倒せるな」

 

イストは上空へ向けて包丁を振るう。

 

シュァ!スパパパパ

 

包丁から斬撃が放たれ、数キロ先の要犀がさいの目切りで細かいブロック状にされる。

 

「あのサイズなら狼人の村でも良い土産になる。回収に行くよ、ジン」

 

そしてジンはイストへジト目を向ける。

 

「数キロ先まで届く"さいの目切り"とかお前の包丁術は変態だな……」

「お前が言うな」

 

先程とは異なりイストがジンに変態だと言われた後、二人はさいの目サイズに分解された要犀を回収する為に向かった。




現実の草食動物「(肉食動物を)駆逐してやる…!」

他にも草食動物だけでなく人食い植物の群れとかもあったけど、草食の森での道中が長引くのでカット。
スターダスト・ヒルにはイストのフルコースの一つがあり、一章のメインがそちらになるので、それ以外は基本サクサク行きます。


【草食の森の生物や用語】
草食の森
…肉食動物を駆逐した殺意にまみれた草食動物達が住まう魔境。森に入れば純粋な殺意のこもった攻撃で温かく出迎えてくれるフレンドリーな草食動物達で溢れている。またの名を殺し合いともいう……
草食動物達はいずれも熟練の念能力者達であり、念能力者であっても単独で入るのは自殺行為。

草食の誓い
…本編で明かされなかった設定。とある草食動物の死者の念でこの森にいる草食動物達が対象。効果は草食動物限定だが種族を超えてアイコンタクトで意思疎通と連携を取れるという能力。
そのせいで草食動物達が徒党を組んで侵入者達を撃退してくる。
外敵は主に迷い込んでくる肉食動物やここを狩場としている狼人(ウルフロイド)が該当する。

ロケット兎
…硬で頭部を強化してロケット頭突きをしてくる。しかも20〜30近くの群れで襲ってくる。単発が効かないと判断すると相互協力型(ジョイントタイプ)で集まり出して一つの砲弾となって火力と弾速を上げて突っ込んでくる。

朧狸
…凝で見破れない幻術の罠を仕掛けてくる。
幻狐
…円で見破れない罠を仕掛けてくる。

スケープゴート
…殺意にまみれた羊。体毛を自在に操り攻撃してくる。しかも防御時には体毛を緩衝材として打撃ダメージを防いでくる。

アーミーリス
…軍服を来たリス達。マシンガンからドングリの弾丸を放ち、松ぼっくりから眠りスギという睡眠ガスを放ってくる。

眠りスギ
…草食の森にある睡眠作用のある花粉。可燃性があるので火を放つと粉塵爆発を起こす。

火の鳥
…炎を纏って熱風を放ってくる鳥。本編ではイストの殺気ですぐ撤退したが、もしあのまま続けてたら全身で炎を纏って突っ込んでくる予定だった。

要犀
…詳しくはトリコのグルメモンスターを調べると分かります。基本的には要塞サイズの巨大なサイ。しかも上半身が金属のような光沢を持つ鎧で覆われているので頑丈。百式観音の打撃とか普通に効かない。
というかグルメモンスターは捕獲レベルが百を超えてくると国家レベルの軍事兵器で傷一つ付かないレベルのモンスターがいるのでネテロでもモンスター次第で普通に詰みます。
けどイストの前では大して関係なかった……

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