無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#10「誰が為の犯罪」

 どういう事だよと夜月が怒鳴った。

 

「夢羽ちゃんが何をしたっていうんだ!」

「被疑者は未だ不明のままとの事でしたが?」

 

 茨羽が問う。榎田は「彼女が被疑者足り得る証拠が見つかったんですよ」と笑みを崩さぬまま答えた。

 

「だからどういう事だよそれは!」

「落ち着けよ夜月…あくまでも被疑者だ。まだ決まった訳じゃない」

 

 無銘が落ち着いた声で言った。

 

「師匠の言う通りだ…それに、被疑者と結論付けたからには何かしらの理由がある筈。それを聞いてから考えた方がいい」

 

 逆浪が言う。それに納得したのか、夜月は乱暴に椅子に座り込み、腕組みをして刑事達を睨み付けた。

 

「構わないようでしたら、理由を聞いてもいいですか?」

 

 美雪がきくと、二人の刑事は一瞬だけ顔を見合わせてから「構いませんよ」と言った。榎田の相棒であろうもう一人の刑事― 治水(ちすい)が手帳を開き、すらすらと述べ始める。

 

「越月さんの異能は『石造りの夢(ストーン・ドリーム)』と呼称されているもので、その効果は今回の事件の手口―最低限の機能以外を停止させるというものです。越月さんはこの異能を兄である越月翼(おちつきつばさ)さんから奪いました。間違いないですね?」

「ち、ちょっと待って下さいよ。夢羽さんは異能を持っていない筈ですよ?」

 

 暁月が慌てて言う。確かに、夢羽は異能を持っていない。だから今治水が話した事はガセネタの筈だ。

 然し、治水は首を振って続けた。

 

「越月家の当主様が、そう仰いました。…そして、越月さんは兄である翼さんを殺害した上で異能を得たとも…」

 

 全員が衝撃を受けた。誰にでも優しく、慕われていた夢羽が、ひとごろしだった…それを信じられなかったのだ。

 

「む、夢羽ちゃん…嘘だよな?」

 

 夜月が愕然としながら夢羽にきく。夢羽はうつむいていたが、軈て顔を上げると治水にきいた。

 

「…お父様が、そう仰ったんですね?」

「はい。それで、その…」

 

 治水は言いにくそうに口篭る。その後を受けて、榎田が口を開いた。

 

「お前は越月家の名折れだ。せめて最後くらいは、自分の罪を認めろ―そう、仰いましたよ」

「……………」

 

 夢羽は黙り込んだ。

 長い沈黙。

 誰も言葉を発さない。否、発せない。

 時間が凍り付く様な感覚が暫く続いた。

 

 軈て、夢羽が呟く様に言った。

 

「…私が、やりました」

『夢羽ちゃん!』

 

 つばめと美雪が叫ぶ。夜月は壁を殴りつけ、無銘と茨羽は歯噛みし、暁月とイア、ちとせは俯いた。

 

『………』

 

 逆浪と亮一は釈然としないといった様子で黙り込んでいたが、軈て二人して口を開いた。

 

「刑事さん…」

「越月家に、アポイントは取れないんですか?」

「いきなりですねぇ。何をするおつもりで?」

 

 榎田が(いぶか)しげな目を二人に向ける。逆浪と亮一は顔を見合わせて、同時に言った。

 

『真相の究明です』

 

 それを聞いた榎田は笑いだした。

 

「何を言い出すかと思えば…真相なら、今暴かれたじゃないですか」

「なんとなく、納得がいかないんですよね…第一、犯行動機はあるんですか?」

「そうだ!夢羽ちゃんがやったという証拠は何処にもないだろう!」

 

 夜月が声を荒げ、榎田を睨み付ける。

 

「ああ、それはもう分かっています。被害者の共通点が見つかったんですよ」

「それは、どんな…」

「最初の被害者が見つかる三日前ですね…この喫茶店で、ちょっとしたトラブルがあったそうです。客同士が些細な事から喧嘩になって、それを止めようとした人が巻き込まれて云々…結局六人での大喧嘩になってしまいました。その時の六人というのが、今回の被害者なんですよ」

「…それだけの事で人を殺しますか?」

「殺す人もいるって事です。さ、もういいでしょう。詳しい話は署で聞きますよ」

 

 そう言って榎田が夢羽に近付き、その手に手錠をかける。

 

「被疑者に手錠をかけるのか!?」

「この子がやったと認めた以上、手錠をかけない理由がありませんよ」

 

 無銘の抗議を躱し、榎田が夢羽を連れて店から出ようとする。その途中で立ち止まり、店に居た連中に言った。

 

「そうそう、勿論の事ですが落月家にアポイントは取れませんよ。あなた達は見たところ学生のようですが…こんな事に首を突っ込む暇があったら勉強でもしなさい。その方が余程有意義ってものです」

 

 榎田は店を出ていく。治水もそれを追い掛けるようにして店を出ていった。

 夢羽は俯いたままで、何も言わなかった。

 

   *   *   *

 

 暫くの時間が経過した後、夜月が低い声で呟いた。

 

「…納得いかねぇ」

「だよな」

 

 無銘も同意する。それはこの場にいた人間の総意だった。

 

「そもそも夢羽ちゃんが異能を持っていたなら、なんでオレ達に隠していたんだ?」

「今時異能力者なんて、珍しくもないのに…」

 

 美雪が悩む様に言う。それに答えたのは茨羽だった。

 

「異能力者だから起こる差別もある。それを心配したからといえば筋は通るが…どうも納得いかないな」

「それに、夢羽さんは自分がやったと告白するまでに時間を掛けていましたよ」

「言い訳を探していたって様子じゃなかったもんね」

 

 暁月とイアも難しい顔になる。

 

「私は夢羽ちゃんがやったとは思えません…!」

「私もです。でもそれは私情ですし、それでどうにかなるとは…」

 

 つばめとちとせがそう言うと、何やら考え込んでいた逆浪が亮一の方を見た。

 

「…亮一」

「ああ…まずは現場検証からだな」

「どういう事だ?」

 

 茨羽がきくと、逆浪はすっかり冷めてしまった珈琲を飲み干してから言った。

 

「コイツの異能なら、僅かな希望を探し出せるかもしれません」

 

 その言葉を受けて、亮一が眼帯を外す。 

 その下にあったものは…。

 

「その目…」

「相変わらず綺麗な色…」

 

 逆浪、ちとせ、美雪以外の全員が亮一を凝視する。

 彼の右目は、紫色に染まっていた。

 そして全員の視線を受け、亮一は宣言する。

 

「この謎は…俺が解決する!」

 

 …場の雰囲気が、一気に白けたものに変わったのは言うまでもない。

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