無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#28「少女のゆりかご」

「わ、わたしの力って……」

 

 夜宵は目に涙を浮かべ、震える声で呟く。

 鴨野は「おや?」と言わんばかりの表情を浮かべたあと、「もしかして、気づいていないのかい?」と訊ねた。

 

「キミが持つ力はこの世界を滅ぼせるものだと、ボクはきいていたんだけどなぁ。無自覚ならしかたない」

 

 言って、鴨野はパチンと左手の指を鳴らす。

 瞬間、彼の傍らにヤマノケが現れた。そのニタニタとした笑みを見て、夜宵は「ひっ……」と引き攣るような声をあげる。

 

「ボクの異能で無理矢理引き出してもよかったんだけど……キミみたいなかわいい子は嬲ったほうが楽しいからね。絶望の表情をボクに見せてくれ」

 

 ヤマノケは夜宵に近づいてくる。

 夜宵は反射的に腰のホルスターに手を伸ばし、「リコリス」を取り出す。安全装置を解除してハンマーを上げ、ヤマノケに向かって発砲する。

 当たり所がよかったのか、ヤマノケは崩れ落ちて消滅した。それを見た鴨野が「意外と抵抗するんだね」と口笛を吹く。

 

「だが、お楽しみはここからだ」

 

 鴨野が再び左手の指を鳴らす。彼はゆったりした服を着ていたが、指を鳴らした瞬間、左の袖から微かに光が漏れたのに夜宵は気付いた。

 それを気にする間もなく、再びヤマノケが現れる。今度は十体がいちどに呼び出され、夜宵に迫った。

 足元の草がさわさわと揺れる。形を成した絶望が、夜宵を呑み込まんとする。

 

「いや……」

 

 自分のものとは思えないほど、引き攣った声。

 味方はいない。ひとりぼっちだ。

 孤独はいやだ、死ぬのはいやだ。

 心臓が早鐘を打つ。視界が明滅する。

 自分から排出された液体が、腿を伝って流れ落ちる。地面を濡らすそれを恥じる余裕すらなく、かぼそい悲鳴を漏らしながらその時を待つしかない。

 そして、恐怖の振れ幅が最大限に達した瞬間──夜宵はその場に崩れ落ちた。

 

「気絶したのか。あーあ、つまんない」

 

 鴨野は口を尖らせ、舌打ちをする。

 そしてヤマノケたちに「もういいよ、やっちゃって」と一切の慈悲なく命令した。

 それに従い、ヤマノケは夜宵に取り憑こうとし──その寸前、動きを止めた。

 突如、夜宵を中心として黒い闇が拡がった。それは地面を覆い尽くし、鴨野の足元にも拡がっていく。

 

「なんだ、これ……」

 

 鴨野は足元の闇を気味悪そうに見た。闇に呑み込まれるということはなく、ただ拡がっているだけ。だが、明らかに異常事態だった。

 闇はある程度拡がるとその動きを止めた。だが、真の驚きはここからだった。

 闇の中から、何かが這い上がってくる。

 それは人型ではあったが、影のように黒く塗りつぶされている。闇が形を成したようにも見えた。

 影はどんどん這い上がっていき、ヤマノケに襲いかかる。ヤマノケは意志など持たないため無感情にそれを迎撃しようとするが、影に触れた瞬間、最初からいなかったかのように消滅した。

 影は鴨野にも襲いかかってきた。鴨野の異能は直接的な攻撃にはならないし、そもそも影に異能が効くのかどうかも怪しかったので、撤退を選ぶ事にする。

 懐から転移の携帯型異能を取りだし、発動しようとする。

 しかし、

 

「なんだ? どうして発動しない?」

 

 異能は反応せず、鴨野は影の大群に飲み込まれた。

 影は冷たかった。まるで死者のように体温を感じない。

 否、これは比喩表現ではない。

 この影は──

 

(これは、やはり……)

 

 影がまとわりつき、躰のいたるところを掴んでくる。

 その弾みで、左袖に仕込んでいたヤマノケの携帯型異能が落ちた。

 影は鴨野を闇の中に引きずり込まんとしてくる。言いようのない不快感が躰を震わせる。

 このまま引きずり込まれたら、もう元の世界には戻れない──そう思った。

 もがけばもがくほど引きずり込まれていく。気づけば、すでに腰まで沈んでいる。

 先程まで浮かべていた余裕の笑みが完全に崩れ、焦燥が顔に出かけた、その時──

 

「え」

 

 思わず惚けた声が漏れる。

 いつの間にか自分は地面に倒れており、影と闇は消えている。ヤマノケも全て消滅し、元となった携帯型異能力は破壊されていた。

 何が起きたか分からないまま、身を起こす。夜宵はまだ意識を失っていたため、そちらに近づこうとするが──自分の中に生まれた微かな恐怖が、それをさせなかった。

 

「……なるほどね」

 

 汗が一筋、頬を伝う。それを拭おうともせず、鴨野は面白そうに呟いた。

 

「やはり、鍵はこの子か。苛内くんの監視カメラの範囲外に移動したのは正解だったよ」

 

 苛内が監視カメラを仕掛けていたのは知っているし、自分としてはその範囲外に夜宵を連れ込む必要があった。

 話をきいたときは、まさかこんな女の子がと疑問を抱いたが、結果的には正解だったようだ。

 このまま夜宵を連れ帰れば、自分の目的は達成される。

 しかし、鴨野はあえてそうしなかった。

 そちらの方が楽しいと思ったからだ。

 

「またね、世界を終わらせる鍵」

 

 転移の携帯型異能は無事だったので、それを用いて離脱する。

 後には、夜宵だけが残された。

 あたりがシンと静まり返る。夜宵が目覚めるまで(あるいは小鳥たちが来るまで)維持されると思われたそれは、ひとつの足音によって打ち砕かれた。

 

「……」

 

 足音の主──サカナミは、意識を失った夜宵を見下ろす。その瞳には驚きと哀しみが込められていた。

 先程見た光景が瞼に焼き付いて離れない。木の陰に隠れていたため、鴨野に気取られる事はなかったが、危うく闇に引きずり込まれるところだった。サカナミはあの現象がどういったものなのか理解していたため、感じた恐怖は鴨野のそれより大きなものだった。

 

(まさか、この子が……)

 

 闇の中から出現した影を思い出す。

 夜宵は、あの影がこの世界と繋がるための門であると同時に、揺らし慰めるためのゆりかごなのだと、分かってしまった。

 ここが苛内の監視カメラの範囲外でよかった、とサカナミは思う。実際には、苛内が監視カメラを仕掛けたという情報は知らなかったが、あの男ならそのくらいはやるだろうなと予想できた。

 苛内が知れば確実に夜宵を狙ってくるだろうし、そうなるとどんな目に遭うか分からない。最も、これは小鳥たちに知られても同じ事なのだが……。

 生きてはいけない人間──そういった言葉が思い浮かぶ。夜宵がこの力の事を認知しているのかは分からないが、力のせいで苦しみ続ける事になるのは想像に難くない。特に、街の平和を護る事を目的としている“HELLO WORLD”から見たら、世界を終わらせるほどの力を持つ夜宵は敵といえる存在だ。

 夜宵は動かない。顔を近づけてみると、単なる気絶というよりは眠っている状態に近いことが分かった。

 自然と手が伸び、夜宵の首を掴む。僅かに身動(みじろ)ぎしたが、意識は眠りの衣に包まれている。

 このまま力を入れて絞め殺せば、これ以上苦しまずに済む。夜宵まで、自分のような存在になる必要はないのだから。

 額に汗が滲む。いまここで殺さないと、夜宵は苦しみ続ける事になる。

 

 このまま力を込めろ。

 そしてこの子を解放しろ。

 早く!

 

 自分の内から湧き上がるそんな声に突き動かされ、サカナミは力を込めていく。

 夜宵の喉から空気とも声ともつかない音が漏れる。

 そして──

 

   ・   ・   ・

 

「……ちゃん、夜宵ちゃん!」

 

 女の子の声と共に躰を揺さぶられ、わたしは目を覚ました。

 視界に映るのは見覚えのある天井。それを半分隠すように、女の子の顔がこちらを見ている。わたしが目覚めたのを確認すると、その表情は少しばかり呆れたものになった。

 

「やっと起きた……もうご飯できてるよ?」

「ん……おきる……」

 

 目を擦り、上体を起こす。そこでようやく、わたしは女の子の姿をはっきりと認識した。

 くすんだ赤色の髪は短く、少しはねている。大きな瞳は紫色で、それが活発な印象を与えている。

 女の子はわたしより年下で、この家に住む研究者夫婦の娘だった。名前は──

 

「ごめんね花恋ちゃん。支度したらすぐに行くよ」

「早く来ないとごはん冷めちゃうからね!」

 

 女の子──皐月日花恋ちゃんはそう言い残して部屋を出ていった。わたしも軽く身支度を済ませると部屋を出てリビングに行く。部屋を出る前に時計を確認すると、針は十九時を指していた。

 リビングにあるダイニングテーブルには花恋ちゃんの他にも三人座っていた。そのうちのひとり──花恋ちゃんの隣に座っていた女の子が無表情でこちらを見て「……夜宵ちゃん、おそい」と呟く。

 

「ご、ごめんね月乃ちゃん。ちょっと眠くて……」

 

 わたしが慌ててそう言うと、女の子──皐月日月乃ちゃんはふいっとそっぽを向いた。怒っている風には見えなかったので、少しほっとする。

 

「それじゃあ、夜宵ちゃんも来た事だし食べようか」

 

 月乃ちゃんの対面に座っていた男性がそう言うと、その隣に座っていた女性が「そうだね。夜宵ちゃん、手は洗った?」とわたしにきいた。

 

「あ……すいません、洗ってきます」

「ゆっくりでいいからね」

 

 女性の笑顔に見送られ、わたしは洗面所に向かう。そこで手を洗ってからダイニングテーブルにつき、「いただきます」の声とともに夕食を食べ始めた。

 食べながら、みんなの顔を伺う。ここに来て一週間ほど経つが、未だに慣れない。それでも、この家族がどういったものなのかという事は分かってきた。

 月乃ちゃんは花恋ちゃんの双子の妹で、男性──皐月日(だい)()さんと女性──皐月日()()さんはふたりの両親。皐月日夫妻は高名な研究者で、異能薬学の第一人者としてその名を知られている……これがわたしが知っている情報だ。

 記憶がなく、身よりもないわたしを拾ってくれた優しい人たちだが、自分が重荷になってしまっている事に負い目を感じているのも事実だ。顔には出さないようにしているつもりだけど、みんなにはバレているようだった。

 現に今も、大知さんがわたしを見て「……まだ、慣れないかい?」ときいてきた。

 

「は、はい……」

「無理もないよ。記憶がないんだし、いきなり知らない人の家に連れてこられても困るもんね」

 

 青空さんが同情するようにそう言う。そんな事を言わせたい訳じゃなかったので、わたしは慌てて反論した。

 

「そ、そんな事ないです……! 助けてくれて感謝してるし、でも、わたしがいる事でみなさんに迷惑をかけてしまっているんじゃないかと思って……!」

 

 吐き出すまいとしていた感情が、口をついて出た。最低だ、と自分でも思ったが……みんなは優しくそれを受け止めてくれた。

 

「迷惑だなんて、とんでもない。家族が増えたのは嬉しい事だし、花恋と月乃も夜宵ちゃんが来てくれて喜んでいる。きみさえよければ、ずっといてもいいんだよ」

 

 大知さんが微笑みながら言った。その言葉に青空さんと花恋ちゃんも頷く。

 月乃ちゃんは相変わらずの無表情だったが、耳が赤くなっていた。おそらく照れているのだろう。

 

「私たちは夜宵ちゃんを絶対に見捨てない。だから、夜宵ちゃんももっと気楽に接してくれると嬉しいな」

 

 晴空さんの言葉に、胸が熱くなる。あたたかい視線に囲まれ、わたしは上ずった声でお礼を言った。

 

「あ、ありがとうございます……っ」

 

 わたしにはここに来る前の記憶がないし、自分が何者なのかも分からない。

 だけど、ひとつだけ言える事がある。

 この瞬間、わたしは世界でいちばん幸せな女の子だった。

 

 

 

 

 

 ……だけど、幸せは長くは続かなかった。

 気づいた時にはわたしはまた記憶を失っていて、冬天市に辿り着いていた。

 どうして忘れていたんだろう。

 皐月家のみんなはどうなったんだろう。

 思い出そうとしてもぼんやりしていて。

 その代わり、いくつかのイメージが浮かび上がってきた。

 

 

 飛行機事故の映像を映し出すテレビ。夕焼けに染まる町、蠢く触手、割れたガラス、血溜まりの中に沈むふたりの少女。

 ああ、そうだ。

 わたしは──

 

 ……なら、どうして生きているんだろう。

 どうしてここにいるんだろう。

 どうして息をしているんだろう。

 どうして生まれてきたんだろう。

 どうして?

 どうして?

 どうして?

 

 

 声が響く。

 責めるように。

 犯すように。

 

 

 なんで生きているの? 

 なんでここにいるの?

 なんであなただけ生きているの?

 なんで死んでいないの?

 あなたがいなければみんなは生きられたのに。

 あなたのせいで死んでしまった。

 あなたも死んでよ。

 こっちに来てよ。

 ひとりだけ生きてるなんてずるい。

 あなたのせいで多くの人が苦しむんだよ?

 絶対に許さない。

 はやくいなくなってよ。

 はやく消えてよ。

 はやく。

 はやく。

 はやく。

 

 

は や く 、 死 ん で よ

 

   *   *   *

 

「いやああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

 絶叫と共に、夜宵は目を覚ました。勢いよく上体を起こし、荒い息と共に涙を流す。

 

「よいちゃん! 大丈夫!?」

 

 それを押しとどめたのは小鳥だった。優しい手つきで夜宵を寝かせた小鳥は、心配そうにその顔を見る。

 

「こっちゃん……わたし……わたし……!」

 

 夜宵は小鳥に縋り付き、思いの丈を振り絞るように泣き叫ぶ。小鳥は何もきかず、それを受け止めた。

 夜宵の声に気づいたのか、仲間たちが続々と部屋にやってきた。部屋はぎゅうぎゅうになったが、皆一様に心配そうな表情で夜宵を見ている。

 

「夜宵ちゃん……目を覚ましたんだ」

「怪我はないか?」

「もう大丈夫ですよ。ここは安全です」

 

 優しい言葉をかけられ、次第に気持ちが落ち着いてくる。そのうちに意識して感情をコントロールできるようになり、夜宵は深呼吸をして感情の昂りを抑えた。

 

「ご、ごめん……もう大丈夫」

 

 夜宵は小鳥から離れ、それから辺りを見回す。そこでようやく、自分がいるのが見知らぬ部屋で、自分はそこにあるベッドに寝かされていた事を認識した。

 

「あれ……ここは?」

 

 夜宵の疑問に答えたのは紗由だった。

 

「朝倉家だよ。みんな疲れてたし、うちがいちばん近かったから連れてきたんだ」

「朝倉家……そういえば、アリナたちとヤマノケは!?」

「アリナたちは撤退したよ。ヤマノケの携帯型異能は破壊されていたが……皐月日がやったんじゃなかったのか?」

 

 和樹の言葉に、夜宵は「えっ……わたしが?」と驚きの声をあげる。

 

「俺たちが皐月日を見つけた時、そばにヤマノケの携帯型が落ちていた。てっきりお前がやったのかと思っていたが、違うのか」

「覚えてない……」

 

 アリナとスーツの女と対峙した後、いつの間にかみんなとはぐれていた。そこで深緑色の髪を持つ男と逢い、彼に襲われた──そのあとの記憶は抜け落ちている。

 ただ、揺蕩う意識の中で昔の記憶を思い出したのは事実だった。自分は皐月日家に引き取られ、そこでしばらくのあいだ暮らしていた。そこから冬天市に来るまでの事は相変わらず思い出せないが、過去の記憶は一部蘇った。

 それをみんなに伝えようと思ったところで、何人か欠けている事に気付いた。

 

「そういえば、サカナミさんと愛夜ちゃんと無銘さんたちはどこに……」

「無銘さんたちはここにいるし、愛夜ちゃんは一足先に山を下りたよ。しばらくこの街に滞在するから拠点を探すんだって」

「ここに泊まっていいって言ったんだけど、迷惑になるといけないからって言われちゃって……愛夜には助けられたし、今度お礼しないと」

 

 紗由の言葉に、一同は頷く。

 

「それで、サカナミくんの事なんだけど……いつの間にかいなくなっちゃった」

「皐月日のそばにメモが残されてたから、無事だとは思うんだが……少し心配だな」

「メモ?」

「“すまなかった”って、ただそれだけ。巻き込んだのはあたしたちなのに……」

 

 楓が首を傾げる。それに合わせるように、翔一も難しい顔になった。

 

「そういえばサカナミの名前をきいた時に大人たちが難しい顔になってたな。何か知ってるんじゃないのか?」

「……それも踏まえて、これからみんなで話をきく事になってるんだけど、よいちゃんも来る?」

「話?」

「風読家の事とか、サカナミの事とか……あたしたちが生まれる前に何があったのか、きこうと思って」

 

 それは確かに重要な事かもしれない。

 過去の因縁が今に結びついているのなら、それを知っておく事は大切な事だ。

 夜宵が頷き、ベッドから出ると、一同はリビングに向かった。

 

 

 

 リビングにあるダイニングテーブルには無銘と夜月、茨羽と陽香が座っていた。その近くにあるソファには亜美と美幸の姿もある。

 

「夜宵ちゃん、体調は大丈夫か?」

 

 リビングに入ってきた夜宵を見て、無銘がほっとした表情になる。夜宵が頷くと、大人たちは安堵したように息をついた。

 

「あれ、鬱櫛さんと易蟻さんは?」

「帰ったよ。泊くんに今日の事を報告しないといけないらしくてな」

「そっか。後で改めてお礼言わないと」

「そうだな」

 

 赤坂親子の会話がひと段落したところで、零導が「……それで、皐月日も目覚めた事だし、昔の事を話してほしいんだが」と切り出した。

 

「風読もサカナミも、過去の事に起因してるんだろう。何があったのかきいておきたい」

「……そうだな」

 

 大人たちは顔を見合わせる。その表情からは微かな苦悩の色が読み取れた。

 しばらく無言の時間が続き、やがて茨羽が「わかった、話そう」と頷いた。

 

「だが、どこから話したものかな」

「それなら、オレと光たちが出会ったところからがいいんじゃないか? あそこから全てが始まったみたいなものだし」

「そうだな。無銘、頼んでもいいか?」

「ああ」

 

 無銘が頷くと、子供たちは思い思いに座り、話をきく体勢になる。

 無銘は昔を思い出すように遠くを見つめながら、話し始めた。

 

「今から話すのは、オレたちが高校生だった頃の話だ──」

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