無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#13「誰が為の真相」

 警察署の取調室。

 狭く殺風景なその場所に、越月翼の姿はあった。

 対面には実の妹―越月夢羽が居る。俯いている為その表情は読み取れないが、きっと絶望に染まった顔になっているのだろう。

 翼は夢羽に顔を近付け、ニヤリと笑う。

 

「お前の無駄な命を、有効活用する時が来た」

 

 夢羽は俯いたまま、身体を震わせる。

 

「石化事件の犯人は俺だ。だけど俺は越月の跡継ぎ…この事が明るみに出たらまずいことになる。だからこそ、役立たずのお前をスケープゴートにしたんだよ」

 

 越月一族は「異能主義」の一族である。その一族に生まれて、異能を持たない夢羽は忌むべき存在であった。姓を変えたとしても、この世に存在するべきでは無い―それが越月の総意であった。

 

「最後くらい兄さんの役に立てよ、なぁ?」

 

 翼は夢羽の顔を無理やり上げ、厭な目で彼女を見る。

 

「はい…」

 

 夢羽は生気の無い声で返事をした。

 翼は笑みを浮かべる。後は警察側に賄賂を渡し、圧力を掛ければいい。

 役立たずは消え、自分の罪は帳消しになる…そう、思っていた。

 

「それが真相ね」

 

 突然、女の声が聞こえた。

 翼は声のした方を見るが、誰も居ない。ただ、壁にてんとう虫が一匹張り付いているだけだ。

 

「またてんとう虫か…」

 

 翼は立ち上がり、今度こそてんとう虫を潰す為に近付いた。

 瞬間、てんとう虫が一人の少女に変化した。

 

「うおっ!」

 

 翼は驚いて飛び退く。後ろで、夢羽が立ち上がるのが見えた。

 

「ちとせさん!」

「夢羽さん、助けに来ました」

 

 そう言って、少女―高凪ちとせは微笑んだ。

 

   *   *   *

 

 時を僅かに遡る。

 亮一達が越月邸に入る直前、逆浪が三人を呼び止めた。

 

「どうしたんだ?」

「保険を掛けておきたいんだ」

「保険?」

 

 どういう事だと無銘がきいた。

 

「これから越月邸で情報収集をしますが、相手が嘘を言う可能性もある。師匠なら嘘くらい見破れるだろうし、亮一やつばめの異能でもそれは可能だろうけど…亮一の異能は消費が激しいしつばめはまだ制御出来ていない。だから、保険として高凪に同行してもらいます」

 

 高凪ちとせの異能は「獣使い(ビーストテイマー)」といい、イメージした動物に変身できる異能である。獣だけではなく、動物ならなんでも変身できるらしい。

 逆浪が言った保険とは、ちとせに虫に変身してもらい、亮一達とは別に情報収集をしてもらうという事だった。

 

「お前、用心深いな」

 

 赤坂が呆れた様に言った。逆浪は「心配性なだけっすよ」と言うと、ちとせの方を向いた。

 

「高凪、やってくれるよな?」

「ええ、構わないわ」

 

 ちとせは頷いた。

 

 その後、ちとせは無事に役目を果たし、事件の真相や翼の行き先を皆に伝えた。

 当主の背中に付いていたてんとう虫は、ちとせだったのである。

 

   *   *   *

 

「貴様…!」

 

 翼は歯軋りをしながらちとせを見る。

 ちとせは携帯端末を取り出して翼に見せた。そこには「録音中」という表記があり、それを見た瞬間、翼の顔色が変わった。

 

「それは…!」

「夢羽さんに何かしたらコレをマスコミに渡すわよ。それは困るんじゃない?」

「…なら、奪えばいいだけだ!」

 

 翼は異能を発動して、ちとせの目を見る。これで彼女は固まる…筈だった。

 

「ダメっ!」

 

 突然、腰に衝撃。夢羽が翼に飛び付いたせいで翼はバランスを崩し、床に倒れ込んだ。

 

「何するんだてめぇ!」

 

 翼は感情のままに夢羽を殴り付ける。夢羽はただそれに耐えていた。

 ちとせは翼を睨みつけた後、携帯端末に向かって叫ぶ。

 

「亮一君!」 

 

 瞬間、取調室のドアが勢い良く開けられ、亮一と逆浪が飛び込んで来た。

 

「すまん、警官を抑えるのに手こずった!」

「今は皆が止めてくれている!」

 

 二人は翼に近寄ると、喚きながら夢羽を殴り付ける彼を荒々しく蹴り飛ばした。

 

「な、何を…!」

「夢羽をスケープゴートにしようとしたんだ。これくらいされて当然だろう」

 

 逆浪が吐き捨てる様に言う。

 

「お、俺は越月家の次期当主だぞ!こんな事していいと…ぐあっ!」

 

 翼の言葉は、亮一が鳩尾を殴った事により中断された。

 

「腐った権力なんてクソ喰らえだ」

 亮一もまた、不愉快そうな声色でそう言った。

 

「大丈夫ですか?」

 

 ちとせが夢羽を抱き起こす。夢羽は状況が分からないというふうに目を白黒させていた。

 

「な、なんで…」

 

 やっとの事で、それだけを絞り出す。

 

「そりゃあお前、アレだよ…」

 

 逆浪が言いかけた瞬間、開けっ放しのドアから無銘達がなだれ込んで来た。夢羽を見つけると、安堵したように笑顔を見せる。

 逆浪は台詞が中断された事に頬を膨らませながら、もみくちゃにされている夢羽を見て、呟く様に言った。

 

「…夢羽は俺達の友達だからな」

 

 

   *   *   *

 

 その後、ちとせが録音した音声が証拠となり、警察の上層部は渋々といった形で翼の罪を認めた。この件については賄賂の問題もある為、警察のダメージも大きいだろう。

 越月家はこの件が致命傷となり、いつしか姿を消した。彼らが表舞台に立つ事は、もう二度と無いだろうと思われる。

 そして―夢羽は潔白が証明された事により、無事に釈放された。

 

 これで、事件は解決した。

 その、筈だった。

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