無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#36「疑惑の種が芽吹く時」

 ──八月五日、二時五十五分

 

 薄暗いリビングの中、朝倉紗由はテレビの画面を凝視していた。

 テレビは眠りについたように暗くなっているが、それを見る紗由は神経が昂り、眠気は微塵もなかった。

 リビングにいるのは紗由だけで、美幸と亜美は自室で眠りについている。零導は寝ているのか起きているのか判然としないが自室に篭っているし、夜月は異能対に詰めているため不在だった。

 深夜にも関わらず紗由が起きているのは眠れないからというだけであり、特別な理由はない。ただ、その要因を作ったのは小鳥たちが淹れたスタミナコーヒーなので、そこだけは特異かもしれない。

 寝床に入っても眠れなかった紗由がきいたところによると、あのコーヒーは一杯飲めば三日間は寝ずに活動できるらしい。その分後々の反動が凄まじいとの事だったが、眠りにつきたくない人にとっては最適なドリンクであるといえる。

 しかし、それを知らずに飲んだ身としては迷惑な事この上ない。仕方なく武器の調整をしていたが、それも済んでしまい退屈していたところ、臨時放送の事を思い出してこうして監視しているというわけだ。

 緊張しながら待つ事五分。三時になった瞬間に、今まで死に絶えていたテレビが点灯した。

 ハッとして、近くのダイニングテーブルに置かれていたリモコンに目をやる。自分は指一本触れていないし、誰かが電源を付けたという事もない。更に言うと、テレビの電源が自動で点くという機能も備えていない。

 テレビの画面にはゴミ処理場が映っていた。BGMには物悲しい、どこか不快感を増長させるようなクラシックが流れている。

 そのまま待っていると、下から人の名前がせりあがってきた。少し掠れたようなフォントで、映画のエンドロールのような雰囲気があった。

 名前が中段あたりまで来ると、ナレーターがそれを読み上げた。声質からして人間、それも幼い少女の声だったが、感情が篭っておらず無機質だった。

 それが続いていき、十人目の名前が読み上げられたところで「明日の犠牲者はこの方々です、おやすみなさい」というナレーションが流れ、テレビの画面が死んだ。

 すべては滞りなく行われ、付け入る隙はなかった。いつの間にか止めていた息をゆっくりと吐き出すと一気に汗が流れ、止まったように錯覚していた時間が正常に戻った。

 しばし呆然としてから、痺れた頭のまま携帯端末を掴み、夜月に電話を掛ける。彼もこの放送を見ていたはずなので、すぐに繋がるはずだった。

 実際、すぐに夜月が出た。

 

『どうした』

「あ、お父さん、ごめんねこんな時間に。今、例の臨時放送が流れたんだけど、見た?」

『ああ。これから現場に向かうところだ』

「私にできる事ってある?」

『そういえばお前も眠れないんだったな。だが、今はない。今日の午後も会議を行うから、朝になったらみんなに伝達しておいてくれればそれでいい』

「……分かった。気をつけてね」

『ああ』

 

 通話を終えると、紗由は窓から空を見上げる。

 黒く塗りつぶされており、月も星も見えなかった。

 なんとなく不吉な予感を覚え、紗由はリビングの電気を消すと自分の部屋に駆け込み、ベッドに飛び込んで枕に顔をうずめた。

 眠る事によってこの世界から離脱できない事を心細く思いながら、紗由の夜はゆっくりと更けていったのだった。

 

   *   *   *

 

 ──三十分後、冬天市内

 

 朝倉夜月は車を運転し、目的の場所へと辿り着いた。

 寂れたアパートの電気は消えており、しんと静まり返っている。来訪するには迷惑な時間なので一瞬だけ躊躇ったが、すぐに思い直し、目的の部屋──一階の角部屋の呼び鈴を押した。

 反応はなし。寝ているのならばそれでいいのだが、ここに住む男は携帯型異能力を渡された時に酷く狼狽し、無事だったら絶対に応対すると言っていたので、出ないのは少しおかしい。

 試しにノブを捻ってみると、あっさりと開いた。蒸した空気が溢れ出し、その中に死の気配を感じ取った夜月は躊躇う事なく中に入る。

 室内は暗く、状況は分からない。しかし電気をつけた瞬間、可能性は収束し、そこにあった惨状を教えてくれた。

 男がひとり、うつ伏せになって倒れている。その傍には粉々になった携帯型異能力があり、手遅れである事を示していた。

 やり切れない気持ちが湧き上がるのを感じながら、夜月は携帯端末を取り出す。

 するとタイミングよく、真中から電話が掛かってきた。通話ボタンをタップして、静かな声で「どうだった」と尋ねる。

 

『こっちはダメだ。近場だったんで二軒回ったが、両方やられてた』

「そうか」

『そっちは?』

「手遅れだった」

『……とりあえず、病院に搬送してくれ。俺はもう一軒回ってみる』

「大丈夫なのか?」

『元々宿直の予定だったし、体力はまだ余ってるからな。そのうち室長たちからも連絡が来るはずだから、状況が分かったら教えてくれ』

「分かった。無理はするな」

 

 通話を終え、救急車を呼ぶ。

 待つ間、不意に何者かの視線を感じた。観察しているような、そんな視線だった。

 周りを見てみるが、人影はない。注意深く探してみるが、そのうちに救急車がやってきたのでうやむやになってしまった。

 救急車を見送ったあと、亮一から連絡があり、状況をまとめるために異能対に戻る事になった。

 スタミナコーヒーを飲んだので眠気はない。しかし、シートに座った瞬間疲れがやってきて、夜月は僅かに息をつく。

 そんな憂鬱とは裏腹に、車は異能研に向かってゆっくりと発進していった。

 

   *   *   *

 

 ──四時三十分、異能対策室

 

 異能対に集まったのは職員のほかに夜月、茨羽、無銘といった面々だった。事件が起きる前に予め増援を頼んでいたのだ。

 

「……それで、全滅と」

 

 亮一が重々しい口調で言うと、全員が頷いた。

 

「携帯型とはいえ、無効化の異能を貫通するほどの威力か……」

「実質、迎撃方法がないな」

 

 茨羽が眉間に皺を寄せながら呟く。それをきいた無銘が「オレの異能で相殺すれば可能かもしれないが、異能が発動するタイミングが分からないんじゃな……」と腕組みをした。

 

「でも、無銘さんの異能の範囲は狭いんじゃ……」

「確かにそうなんだが、“掴んで離すな(スタンド・バイ・ミー)”なら可能だ。ただ、五秒間しか持続しないからタイミングを見極める必要はあるが」

「それに、仮にその方法で防げたとしても、毎日やるわけにもいかない。やっぱり、元を断つのが賢明だろう」

 

 亮一はそう言ってから、「だけど、その元すら分からないからな……」と溜息をついた。

 

「検証するにも、犠牲者を出す訳にはいかないからな。せめて俺を犠牲にしてくれればいいんだが……」

「……室長、自己犠牲は尊い行いでもなんでもないですよ」

 

 真中は呆れたように言って、「でも、どうしたもんかねー」と眉間を揉んだ。

 

「でも、死に至らしめたのが電波じゃないのは確実なんだよな。泊くんの“天帝眼(エンペラーアイ)”にも痕跡はなかったみたいだし」

「だとしたらなんだ? 呪いとか?」

 

 何気ない真中の呟きに、亮一が「呪い?」と反応する。

 

「いや、冗談っつーか、んな事ねーよくらいの気持ちで言ったつもりなんですけど」

「いや、有り得るかもしれない」

『は?』

 

 全員の声が重なる。亮一は「この街で変死事件が起きるのは初めてじゃないんだ。あれは、二十一年前の──」と自分の考えを話そうとした。

 その時、桜井の肩が跳ね、「誰か来ます!」と叫んだので、亮一の話は中断された。

 全員が耳をそばだてるが、足音はきこえてこない。しかし、誰もが確信を持って身構えた。

 桜井恵の異能力──「資格取得者(プロフェッショナル)」は、特定の手順を踏む事で他者の異能力を限定的に使用できるという能力である。

 使用するためには対象から出された試験を受ける必要があり、合格するとその人の異能力を使用できるようになる。今回は「探知(サーチ)」の異能を用いて状況を把握していた。

 通路はひとつだけなので、接触は避けられない。全員が緊張感を纏い、その時を待つ。

 異能対のドアが荒々しく開けられ、そして──

 

   *   *   *

 

 ──九時三十分、朝倉家

 

 日が昇り、朝のひかりが満ち溢れる頃、朝倉家のリビングに紗由と零導、亜美と美幸の姿があった。

 ダイニングテーブルの上には朝食の準備がしてあるが、誰もそれに手をつけようとはしない。一同の視線はテレビに釘付けになっており、その表情は個人差こそあるものの一様に唖然としたものだった。

 テレビの画面に映し出されているのはニュース番組で、アナウンサーが冷静な声で原稿を読み上げていた。

 

『次のニュースです。本日深夜四時四十五分頃、吾河県澪標市に所在する異能力研究所にて、同施設の職員ら五名が殺人の疑いで逮捕されました。逮捕されたのは異能研究所の職員である泊亮一容疑者、桜井恵容疑者、並びに探偵である赤坂蜥蜴容疑者、茨羽巧未容疑者、朝倉夜月容疑者となっています。また、容疑者のうち、異能研究所職員の真中真生容疑者は依然逃走を続けており、警察が行方を追っています』

 

 画面が切り替わり、異能研を上空から映し出した映像となる。

 

『冬天市警によりますと、泊容疑者らは深夜三時三十分頃、被害者宅に忍び込み、携帯型異能力を用いて犯行を行ったとの事です。この事件による被害者は十人にものぼり、市警は“人々の日常を護るはずの異能研がこのような犯罪に手を染めた事は誠に遺憾であり、赦される行為ではない”とコメントを出しています。なお、異能研究所は以前にも子供たちに麻薬を服用させた上で実験に利用した疑いがあり、捜査関係者は“今回の事件をきっかけに異能研究所の闇を暴き出し、子供たちを救いたい”とコメントを出しています。それでは次のニュースです──』

 

 ニュースが切り替わり、芸能人の話題となる。

 誰も何も言えず、ただ絶句する事しかできなかった。

 しかし、思考の空白は玄関のドアが荒々しく叩かれる音で霧散し、全員が立ち上がり後ずさる。

 

「朝倉さ〜ん、警察ですが、ちょっとききたいことがありまして〜」

 

 まずい、と紗由は思う。麻薬の件は異能省や異能研が働きかけ、デマである事を証明したはずだが、その職員が逮捕されたとなると話は変わってくる。

 今や異能研は犯罪者の巣窟だ。その補助組織である“HELLO WORLD”に罪を着せるなど、容易な事だろう。

 逮捕される、という恐怖よりも先に、自分たちが捕まればこの街は終わるという焦燥が(まさ)った。ニュースを見る限り、警察は変死事件について真面目に捜査する気はないようだ。このままだと、真相が解明できないまま人が死ぬ事になる。

 同じ事を全員が思っていたようで、零導は自室に飛び込むと得物である超大型ライフル──“轟天”を持ってきた。紗由も自室から大太刀──“碎地”を持ってくると、準備を整える。普段は自室に置いていないのだが、事件が始まってからはすぐに出動できるように携帯していた。

 

「紗由、零導……逃げなさい」

 

 静かな声で、亜美が言った。

 

「でも、お母さんたちは……」

「私たちはここに残るよ。家の中に誰もいないと不自然だし、私たちは罪を犯した訳じゃないから痛手にもならないだろうし」

「……逃走幇助に該当する」

「今更だよ。それに、異能研が陥落した今、この街を護れるのは“HELLO WORLD”しかいない……ここは大人に任せて、ふたりはこの事件を終わらせるんだ」

「夜月さんたちは絶対に口を割らないから、少しは時間が稼げると思う。大変だと思うけど、この街を、よろしくね」

 

 亜美は慈しむように兄妹を抱きしめる。短い時間だったけれど、その中には無限の愛情が内包されていた。

 やがて、躰を離した亜美は、内なる悪魔に呼びかける。

 

(……始めるよ)

(やれやれ、悪魔使いの荒い御主人様だ)

 

 ラプラスの悪魔は呆れながらも、異能を発動し、兄妹を転移させる。

 貧血のような、頭がぼんやりするような感覚がやってくる。最後にきいたのは、ドアが蹴破られる音と、美幸の「頼んだよ、新時代の防人!」という声だった。

 

   *   *   *

 

 ──同時刻、異能研究所

 

「ちょっとどういう事よ!」

 

 規制線の結界に閉じ込められた異能研。その中で野太い怒号が響き渡った。

 怒号をあげたのは姐御で、その後ろには職員が集まっている。彼らの視線には怒りが篭っていたが、その先にいる人物──スーツを着こなした背の高い男は動じず、むしろ微かな笑みを浮かべてみせた。

 

「どうと言われても、私は犯罪者を逮捕しただけですが」

「誰が犯罪者だってのよ! 明らかに冤罪でしょうが!」

「しかし、犯行の瞬間を捉えた映像もあるのですよ。冤罪だと庇うのは苦しいと思いますが」

「大体、現場に残っていた携帯型が無効化の異能だって事くらいすぐに分かるでしょ!」

「そうは言われましても、携帯型である確率は低いとの調査結果が出ていますが」

「……それでも、無銘ちゃんたちまで逮捕する必要はなかったはずよ!」

「彼らも犯罪に加担していたのは事実です。それに“ここで罪を認めないと家族にまで危害が及びますよ”といった説得(・・)を行いましたら納得してくれましたしね」

「アンタ……それでも警察官なの!?」

「ええ。国の穢れを徹底的に排除し、市民を護る……紛う事なき警察官ですよ」

 

 姐御の怒りをするりと躱す男は「邪魔をするようでしたら、公務執行妨害で逮捕しますよ?」と笑顔のまま脅しをかける。

 しかし姐御は動じる事なく、「アタシを逮捕しても、冬天市警の評判が落ちるだけよ」と鼻で笑ってみせた。

 

「とにかく、この件は(えのき)()署長と()(すい)さんに厳重抗議するからね!」

 

 榎田は冬天市警の署長で、治水はその相棒だった刑事だ。ふたりは過去の事件──人間石化事件の際に泊亮一とその仲間たちの実力を目の当たりにし、以後は彼らと友好的な関係を築いていた。異能研の所長である神永が冬天市警にいた事もあり、ふたつの組織は良好な関係を築いていたのである。

 故に、姐御の脅しは絶大な効果を発揮するはずだった。しかし男は目を細めて笑い、

 

「……今朝のニュースを見ていないのですか? 榎田署長も治水刑事も、昨日殉職しましたよ」

「……は? 何言ってんの? そんな事あるわけないじゃない! アタシは昨日、ふたりと会っているのよ!?」

「本日二時頃、警察署の近くで死亡しているのを私が見つけました。救助しようと思いましたが、首を切断されており、私が来た時にはもう手遅れでした」

「手遅れって……そもそもアンタはなんでそんな時間に警察署の近くにいたのよ。まさかアンタが殺したんじゃないでしょうね!」

「彼らは“殉職”したのですよ? 私が殺したなど、失礼極まりない」

 

 男は冷笑を浮かべながらそう応じる。

 警察というのは仲間意識が強い組織だ。身内が被害に遭ったなら総力を以て対象し、犯人を捕える──それが警察という組織のはずだった。

 しかし、男は仲間の死をなんでもないように口にし、動揺を見せない。その姿に姐御は薄ら寒いものを覚え、思わず一歩後ずさった。

 その時、後ろからドスドスという足音がきこえ、異能研から熊のような大男が姿を現した。その姿を見て、姐御が驚いたように目を丸くする。

 

「所長、なんでここに……」

「職員を護るのは所長の役目だろ。……あー、所長の神永だ。ウチに用があるなら俺が話をきく」

 

 男──神永はそう言ってから、「並貴多か、ちったぁ出世したみてぇだな」とスーツの男を見る。

 

「これはこれは神永さん、お久しぶりです」

「んで、何しに来た。亮一と恵だけじゃ飽き足らず、ウチを本格的に潰す気にでもなったか?」

「酷い言いようですね。泊容疑者と桜井容疑者は殺人を犯したのですよ?」

 

 スーツの男──並貴多はそう言って神永を見る。口調は丁寧だが、目は笑っていなかった。

 

「アイツらがんな事するとは思えねぇがな。ま、風読の差し金だろうが……変死事件については真面目に捜査しねぇと犠牲者が増えるぞ」

「真実とは人の手で創られるものですよ。異能研が変死事件の黒幕であるというシナリオはできあがっている……この先犠牲者が増えたとしても、我々にはなんのダメージもありません」

「警察官が言う事かよ……。亮一が逮捕されたくらいなら(おお)(ごと)にはしないつもりだったが、人命が掛かってるんでな。妨害するつもりなら容赦はしねぇぞ」

 

 神永の目が剣呑なひかりを帯びる。それに対して並貴多は「何の事ですか?」と余裕を崩さずにきいた。

 

「子供たちにも手を出そうとしてるだろ。異能対が行動不能になった今、動けるのはアイツらしかいねぇんだ。それに……未来ある若人(わこうど)を潰そうなんて真似、させる訳ねぇだろ」

「いいのですか? 元警察官とはいえ、貴方を逮捕するのは造作もない事ですが」

「まー、楓に迷惑はかけちまうわな。だが、俺のクビを飛ばす事でお前らがおとなしくしてくれるなら、いくらでもくれてやるよ」

「……やれやれ、躊躇いなく警察に楯突くとは、困った方々だ」

 

 並貴多が呆れたようにそう言ったとき、彼の携帯端末が鳴り響いた。

 それを耳に当て、短いやりとりを交わしたあとに通話を終えた並貴多は、異能研の職員たちを見据えて、

 

「捜索班から連絡がありました。“HELLO WORLD”の一部メンバーを捕捉、追跡しているようです。貴方がたからも降伏を勧めてあげてください。そうすれば、悪いようにはしないので」

 

 そう言ったあと、では失礼と付け加え、その場から姿を消した。携帯型異能力(インスタント)による転移である。

 残された神永は職員たちの方を向くと、

 

「まあ、そういう訳だ。警察は止まらないだろうし事件を解決する気もねぇ。頼みの綱は“HELLO WORLD”だけだ」

 

 そこで表情を引き締め、真剣な声で続ける。

 

「“HELLO WORLD”をサポートしたいと思うヤツだけ、ここに残れ。他は有給でもなんでも使って休んでいい。どうせ仕事もできねぇだろうしな。十数えるからその間に決めろ」

 

 そう言って、神永はカウントを始める。

 あっという間に十秒が経過したが、誰もその場を動こうとはしなかった。

 神永はニヤリと笑い、「んじゃ、役割を割り振る」と説明を始める。

 それをききながら、姐御は小さな声で呟いた。

 

「……どうか、無事でいて」

 

 

 

 ……こうして、異能研究所は陥落し、この街の英雄たちは囚われの身となった。

 そして、新時代の防人たちは──

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