無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#14「誰が為の結末」―越月夢羽の章 終幕―

「越月が落ちたか」

 

 何処ともつかない路地裏で、白衣の男がそう呟いた。

 

「ありゃただの自爆だろ。馬鹿らしい」

 

 壁に寄りかかり、眠そうな目をしていた神知が目と同じくらい眠そうな声で言う。

 

「だが、ロストアイの有用性は証明された」

 

 白衣の男はそう言うと、手に持っていた携帯端末を眺める。そこには何かのリストらしきものが表示されていた。

 

「然し…厄介な異能力者が二人居るな。泊亮一と、高凪ちとせ…特に泊は危険だ」

 

 リストには、泊亮一と高凪ちとせの名の他に、様々な人物の名前があった。これは―異能力者のリストだ。

 

「神知」

「んあ?」

「依頼だ。泊亮一と高凪ちとせを捕獲しろ」

 

 男の言葉に、神知は面倒臭そうな顔をした。

 

「捕獲ぅ?殺しちゃいけねぇのかよ」

「興味深い異能を持っているからな」

「…チッ、報酬は弾むんだろうな」

「ああ、一人につき五百万でどうだ」

「…ちと少ねぇが、まあいいだろう。馬券も当たったしな」

 

 神知はニヤリと笑みを浮かべ、壁から離れる。

 

「最終的に生きてりゃいいんだろ?」

「ああ、プロセスは問わん。好きにやれ」

「りょーかい」

 

 神知は歩き出す。

 

 狭い街だ。対象人物はすぐに見つかるだろう。

 去っていく神知を眺めながら、男は口を開いた。

 

「さて、次の一手は……」

 

   *   *   *

 

 泊亮一と高凪ちとせは夜道を歩いていた。

 あの後、夢羽を救出したお祝いという名目でバカ騒ぎした為、かなり疲れている。

 思えば長い一日だったなぁと亮一は思った。

 

「疲れたね」

 

 不意に、ちとせが口を開く。

 

「ああ。でも、楽しかった」

「探偵らしい事が出来たから?」

「まあそれもあるな」

 

 でもそれ以上に、あの連中と居れたのが楽しかった。

 異能力者だらけの、変わった集団…逆浪や美雪も馴染んでいたようだし、実際居心地は良かった。

 

「…もうちょっと早く出会えていれば、俺も自分の異能をもっと好きになれたかな」

「…そうね。あの人達なら、受け入れてくれたかもしれない」

 

 今回の事件の裏には異能主義があった。異能は万能な力では無く、人生を狂わせるものでもあるのだ―その事を、改めて感じた。

 

 夜道を歩いている途中、前方から人影が見えた。

 青いマントに青いジーンズ、青い帽子…青づくめの格好をした奇抜な男だった。唯一、マントの下に着ているベストだけが、血のように赤い。

 彼は亮一達を見つけると、笑みを浮かべて言った。

 

「泊亮一と高凪ちとせだな?」

「はい、そうですけど…」

 

 亮一は何か薄気味悪いものを感じた。殺気というか、何かピリピリした独特の雰囲気が男にはあった。

 亮一の返答を聞いた彼はニヤリと口角を吊り上げた。

 

「俺は神知戦という。いきなりで悪ぃが、お前ら…大人しく捕まってくれ」

 

 二人の顔が驚きに染まる。

 それを愉快そうに眺めた青い獣は、腰を落として身構え―瞬間、亮一の懐に居た。

 

「え」

 

 反応する暇さえない。

 亮一の顔に焦燥が浮かんだ瞬間には、もう神知は攻撃を終えていた。

 

 夜空に、血飛沫が舞う。

 黒と赤が混ざり合い―儚く消える。

 後には、何も残らなかった。




夢羽編はこれでおしまいです。
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