無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#48「更なる惨劇」

 小鳥はがむしゃらに走り続け、村の入口付近でようやく足を止めた。

 それに追いついた紗由たちは息を整えながら、小鳥がなぜ足を止めたのかを確かめる。

 小鳥のまえにはひとりの少女がいた。三つ編みにした白髪に青い目、躰のあちこちに包帯を巻いた少女──御刀祈は虚ろな目で小鳥を見て、「また、誰かが亡くなったのですか」ときいた。

 

「うん。村と山のなかで……」

 

 それをきいた祈はため息をつき、「……そうですか」と呟く。

 

「祈さんは、いままでどこにいたんですか?」

 

 爽介が尋ねるが、祈は彼に視線を向けただけでその問いに答える事はなかった。

 その代わり、呟くような声でこうきいた。

 

「……叶ちゃんは、みなさんと一緒にいたんですよね」

「うん、そうだよ」

「そのとき、叶ちゃんは笑っていましたか?」

 

 淡々とした様子を装ってはいたが、その裏に縋るような響きがあった。

 叶がどんな気持ちで自分たちといたのか、いまとなっては分からない。

 だけど、それでも叶は……

 

 全員が躊躇いなく頷いたのを見ると、祈は目を伏せ、「よかった」と呟いた。

 そして顔を上げたときには、その目に微かなひかりが宿っていた。

 

「……私は、事件の犯人を知っています」

「本当!?」

 

 全員が声をあげる。祈は頷き、その名を口にしようとした。

 

「犯人は」

「そんなもの、御剣叶に決まってんだろ」

 

 祈の声は、小鳥たちの背後からきこえてきたぶっきらぼうな声に遮られた。

 振り向くと、昨夜出会った青年──平柄段が立っていた。その手には鞘に納められた刀を持っており、こちらを睨みつける目には剣呑なひかりが宿っている。

 

「六年まえの事件も、今回の事件も、全部アイツの仕業だ。じゃなきゃこんなタイミングで事件が起こるわけねぇし、()(かり)さんたちが襲われるわけねぇ」

 

 猪狩は山で殺されていた被害者の名前だった。

 祈が眩暈を起こしたようによろめく。小鳥が慌ててその躰を支えると、祈はそれを振り払って「違うんです、私が……」となにかを言いかけた。

 しかし最後まで言い終わるまえに、意識に空白ができたようにぼんやりとした表情を浮かべ、ふらふらと歩き出した。

 

「祈ちゃん……」

 

 ほまれが呼び止めようとするが、祈はその声が耳に入らなかったかのように歩いていく。

 

「とにかく、オレは御剣叶を疑ってる。仲間だかなんだか知らねぇが、アイツは人殺しだ。アイツを庇うってなら容赦しねぇぞ」

 

 それだけ言うと、段は村を出ていく。

 すれ違ったとき、先程とは打って変わって哀しみを内包した表情を浮かべているのに小鳥は気づいた。

 

 

 その後、村の外を探し回ったが、叶は見つからなかった。

 小鳥たちが村に戻ってきたのは二時間後の事で、ちょうどお昼時だった。お腹が空いたので、一度戻って対策を話し合おうという事に決まったのだ。

 しかし、村に戻ったときに一同を待っていたのは、更なる惨劇だった。

 

   *   *   *

 

 村に戻った一同を出迎えたのは()(なまぐさ)さと村人の死体だった。

 

「なにこれ……どうしてこんな……」

 

 紗由が呆然と呟く。考えるよりもさきに躰が動き、一同は村の中心に向かった。

 最初に死体が発見された場所には相変わらず規制線が張られていたが、その内側にいた警察たちは全員規制線の外に移動し、倒れた仲間を庇いながら拳銃を構えている。

 銃口のさきにいたのは、ひとりの少女。白い髪と滑らかな肌を紅く汚し、手には血が滴る刀を持っている。

 警察官の後ろには、車椅子から転げ落ちた村長と、その傍らに跪く真中がいた。村長は驚きを顔に浮かべ、真中は深々と傷を負った右腕を抑えている。

 

「村長! 真中さん!」

 

 爽介が叫ぶと、真中がこちらを向いて「無事だったか」と安堵の表情を見せた。

 

「俺たち、山のほうにいたんです。それで、これは……」

 

 翔一が手から血の刃を生成しながら尋ねる。真中は「見ての通りだよ」と警察官に囲まれている少女──祈に視線を向けた。

 

「事件の犯人はあの子だ。二時間まえにふらっと現れたと思ったら、次々に人を斬っていった。雰囲気が虚ろだから、本人の意思があるかどうかは分からないけどな」

「祈さんが犯人? だとしたら、なぜ六年まえの再現を……」

 

 爽介の言葉に、真中は「分からない」と首を横に振る。

 

「犯人が早々に見つかった事は喜ばしいが、被害が多すぎる。生き残っている人は離れたところに退避させているが、ここで止めないとまた被害者が増える」

 

 だから立ち向かったんだが、このザマだよ──真中は自嘲気味に笑うと、臨戦態勢を取っている一同に向かって言う。

 

「気をつけろ……隙を見てLv3の弱化は掛けたが、あの子かなり強いぞ」

「分かってる。あとはあたしたちに任せて、ししょーは村長さんを連れて逃げて」

 

 小鳥が言うと、真中は「すまない」と顔を曇らせ、ほまれと協力して村長を助け起こす。

 

「祈……なぜだ……」

 

 村長はまだ状況を理解できていないようで、ぶつぶつと譫言(うわごと)を言っている。その様子を横目で見ながら、翔一が素早く思考を回し、全員に言った。

 

「爽介と朝倉は真中さんと香恋と村長、あと警察の人たちを連れて退避してくれ。最悪の場合はおまえらが最終防衛線になる」

「了解」

「死んでも護ります」

 

 ふたりは頷く。

 

「……ちょっと待て、念のためだ。強化をかけておく」

 

 真中はそう言うと小鳥と翔一の肩に手を置き、Lv3の強化をかけた。“水準昇華(レベルアップ)”はレベルの段階に比例した対象の体力を消費するので、現時点ではLv3の強化が最善手だといえる。

 

「ありがとししょー! 翔一、本気で行くよ!」

 

 小鳥は自分の異能を使い、自身と翔一を強化する。小鳥の異能はそのものの潜在能力を超えた強化はできず、また人体の許容量を超えると躰が自壊していくため、単体では20%ほどの強化がギリギリだった。しかし真中の異能と組み合わせる事により、時間制限内なら常に100%以上の力を出すことができ、それで躰が壊れる事はない。

 ふたりは頷き合うと、地面を蹴って祈へと接近。拳と血の刃を振るい、祈を村の反対側へと吹き飛ばした。

 

「いまのうちです!」

 

 残された者たちは協力してその場から離れる。

 あとには死体と砂埃が残された。

 

   *   *   *

 

 吹き飛ばされた祈は辛うじて踏みとどまると、刀を構えてふたりに襲いかかる。その動きは素早く、振り下ろされる刀は的確に急所を狙っていたが、強化を施されたふたりは攻撃を捌く事ができた。

 

(しかし、一振りの刀だけでこうも的確に攻撃を捌けるとはな)  

 

 高速で血の刃を振るいながら、翔一はそう思う。こちらはふたりなのでタイミングをずらして攻撃しているのだが、祈はそれを一振りの刀で捌いている。超人的な反射神経があってこその技だといえるだろう。

 

「弱化を掛けられててこの強さって……この子異能力者じゃないはずだよね……っ!」

 

 小鳥が拳と脚を打ち込みながらそう叫ぶ。叶の“剣聖”のような異能を持っている可能性は否定できないが、現時点では己の技量のみで戦っているように見える。

 小鳥の脳裏には家村天花の顔が浮かんでいた。この子もアイツと同じなんだ、と思うと、ますます負けたくないと思う。

 “水準昇華(レベルアップ)”の時間制限は一時間。それまでに決着をつけないと劣勢に追い込まれる事になる。

 ふたりの攻撃はますます激しさを増していき、祈の動きを上回っていく。

 加えて、ふたりは防御される事をを見越して攻撃していた。なのでさきに悲鳴をあげたのは祈ではなく、彼女が振るう刀のほうだった。

 

「……!」

 

 折れた刀を見て、無表情だった祈の顔に僅かな驚きが浮かぶ。チャンスだと思い、ふたりは同時に攻撃を仕掛けるが──その攻撃は、予想打にしないものに阻まれた。

 

「え……」

 

 突如、光の速さで飛来してきた銃弾が割って入り、ふたりの攻撃の手を止める。

 銃弾の主はライフルを持った青年で、それを見たふたりの思考は停止した。

 

「なんで、ここにいるの……」

 

 意識とは無関係に、そう呟く。

 その呟きに答える事なく、青年は二発目を発射する。ふたりは横に跳んで回避したが、齎された衝撃は大きく、小鳥は呆然と青年を見た。

 

「なんで、ここにいるの……リンドウ先輩」

 

 青年は祈のまえに立ち塞がり、ふたりと対峙する。

 

「零導はもういないと言っただろう」

「そうか、あんたは……アホローカルか!」

「アポトーシスだ。二度と間違えるな」

 

 名前を間違えられたのが気に食わなかったのか、アポトーシスは憮然とした表情を浮かべる。

 

「御刀を護っているようだが、今回の事件にはおまえも絡んでいるのか?」

 

 翔一がきくと、アポトーシスは「さてどうだろうな」と笑みを浮かべ、祈を一瞥する。

 

「ただ、この小娘に協力する理由はある。なにせ、無能力者だからな」

「じゃあ、純粋な実力で戦ってたんだ……」

 

 小鳥の声が少しだけ震える。仲間内で最も剣の腕が立つのは叶だが、祈の実力はそれを遥かに超えたものだった。

 

「そういうわけで、おまえらはここでゲームオーバーだ」

 

 アポトーシスが右腕を突き出すと、そこから不可視の力が放たれる。

 

「させないよ!」

 

 小鳥は翔一のまえに飛び出し、左腕を突き出す。出力調整の力を以て、アポトーシスに対抗しようとしたのだ。

 しかし、力に触れた途端、小鳥の異能は弱体化し、霧散した。その後ろにいた翔一も力に触れたため、異能が使えなくなる。

 

「バカめ。勝てるわけがないだろう」

 

 アポトーシスは鼻を鳴らすと、ライフルを構える。そして躊躇う事なく引鉄を引いた。

 

「くっ!」

 

 辛うじて避けるが、異能が使えない状態では勝つすべがない。

 

「それでもぉっ!」

 

 ふたりは飛び出し、アポトーシスに立ち向かっていく。それを無意味な足掻きと捉えたのか、アポトーシスは侮蔑の笑みを浮かべ、再び引鉄に手を掛けた。

 “轟天”の名に恥じぬ爆音とともに、死を纏った弾丸が迫る。発射された瞬間、ほとんど反射的に床に転がったので大事には至らなかったが、背筋が冷えた。

 体勢を整えた小鳥の手に握られていたのは紫色のナイフ。普段はステゴロで戦うため、紗由に作ってもらった割にはほとんど使っていない“アネモネ”が、ここにきて活躍の場を与えられたのだった。

 

「おっと……」

 

 アポトーシスはナイフの一撃を銃身で受け止める。そのまま銃身を振り回し、小鳥を吹き飛ばした。

 だが、それこそが小鳥の作戦だった。

 

(ん……?)

 

 腰の辺りが軽くなった事に気付き、後ろを振り返る。

 腰に提げていたブレード──“粒子加速型高周波振動刀”を翔一が奪取し、斬りかからんとしていた。

 これも受け止めるが、高周波により生じた振動により、少しずつ銃身が削られているのが分かった。

 

「チッ……」

 

 舌打ちをして背後に飛びのき、距離をとる。前方には翔一、後方には小鳥がおり、挟まれた形となる。

 

「なるほど、少しは成長しているみたいだな」

 

 だが、後ろに気をつけたほうがいいんじゃないか──アポトーシスは翔一に視線を向けてそう言った。

 翔一がハッとした表情を浮かべて振り向くと、後ろから祈が迫ってきていた。武器は持っていないが、視線は翔一が握るブレードに注がれている。

 

「奪い取るつもりか!」

 

 翔一は祈の攻撃を躱すが、彼女は執念深くブレードを狙ってくる。事件の犯人とはいえ、むやみに傷つけるわけにもいかないので、翔一はそれをいなす事しかできなかった。

 

「それに、俺にばかり構っていてもいいのか?」

 

 アポトーシスの言葉に、小鳥は悪い予感を覚え、「まさか……」と後ろを振り向く。

 そのさきにあるのは、生き延びた村人たちが集まる最終防衛線。

 そしていま、最終防衛線ではもうひとつの戦闘が始まろうとしていた。

 

   *   *   *

 

 同時刻。爽介と紗由は村人たちを庇いながら、ひとりの男と対峙していた。

 

「やぁやぁキミたち、こんなところで奇遇だねぇ」

 

 細身で長身、深緑色の長髪と紫色の瞳を持つ男は気味の悪い笑顔を浮かべ、全員の顔をひとしきり見回す。

 

「あなたはたしか……並貴多刑事を撃った……」

「鴨野空昼。覚えなくていいよぉ。どうせここで全員殺すからサ」

「そんな事、させると思う?」

 

 紗由が大太刀──“碎地”を構えながら言う。それを見た鴨野は「おお、こわいこわい……」と肩を竦めると、懐からひとつの結晶を取り出した。

 

「もうちょっとお話したかったけれど、僕やる事があるんだよねぇ。だからここでおさらばさようならぁ〜」

 

 瞬間、結晶がひかりを放ち、全員がその眩さに目を閉じる。

 そして目を開けると、鴨野の姿は消えており、周りを取り囲むように白いモヤのようなものが現れていた。

 背後は川で、逃げ場はない。ここでやるしかないと思い、くねくね動くそのモヤを見た瞬間、紗由の脳裏にとある記憶が閃き、喉が破れるほどの勢いで絶叫していた。

 

「見ちゃダメ!」

 

 しかし時すでに遅く、爽介や真中、数人の村人がその姿をはっきりと見てしまっていた。

 そして、それがなにであるかを理解してしまった。

 そうしたら、あたまのなかになにかがひろがって、それで

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