無題奇譚〜Untitled tale〜 作:惰眠
泊亮一と高凪ちとせが失踪してから、一ヶ月が経った。
逆浪光は今日も二人を探し続けている。だが、いつもの様に成果は全く無い。そもそも二人の捜索に割ける時間が無い。
越月夢羽が巻き込まれた石化事件を解決したのが逆浪達だという事は、既に知れ渡っていた。彼らが警察署に乗り込んだ事を目撃した人々が発信源となり、狭い街という事もあり瞬く間に噂が広まってしまったのだ。
結果、逆浪達は「そういった事件」を解決する専門家として認知される事になった。元々有名だった茨羽巧未と赤坂蜥蜴(無銘)の影響も大きいのだが、まあそういう事になってしまったのである。
すると彼らの元にそういった依頼が殺到する様になった。…誤解しない様に付記しておくが、彼らは学生、しかも高校生である。本来なら学業優先なのだが、余りの忙しさに学業まで手が回らなくなりつつあった。最も大半の連中は成績を維持しており、格段に落ち込んだのは逆浪くらいのものである。
で、そのクソ忙しい合間に亮一とちとせの情報を集めてはいるのだが…これが難航しまくっているのだ。手掛かりのての字も浮かんでこない。
そもそも逆浪が二人の失踪を知ったのは、石化事件が解決した三日後の事であった。亮一の母親から彼の行方をきかれ、知らないと答えてからちとせに電話したものの、繋がらない。慌てて彼らの足取りを追える範囲で追った所、行方不明になっているという事が分かったのだ。
ちとせはともかく、亮一はかなりの実力者だ。トラブルを
勿論他のメンバーも探してくれてはいたが、成果はゼロ。無銘と茨羽の人脈を駆使しても見つからなかったのだから相当だと言える。
皆で話し合った中で、「螺鈿會が絡んでいるのでは」という意見も出たが、その証拠はどこにも無い。
二人の捜索は、暗礁に乗り上げたといってもいい状態であった。
* * *
依頼を全て片付け、フラフラになりながら自宅に帰ったのは深夜だった。もう三日程学校に行ってないので、明日は行かないとまずい。朝起きられるかは不明だが、最悪遅刻していけばいいだろう。
とりあえず早く寝たい。身体は飯や風呂より睡眠を求めている。高校生なのになんでこんな社畜じみた生活をしなくちゃいけないんだとぼんやり思う。まあ依頼料はかなり貰っているので文句は言えないのだが。
自宅のドアの前に辿り着き、無意識に郵便受けを覗く。中には四角い包みが一つだけ入っていた。
特に深く考えずに取り出し、鍵を開けて部屋に入る。電気を付けて包みの差出人名を見た瞬間―眠気が一瞬にして吹っ飛んだ。
「亮一」
思わず声に出してしまう。失踪した筈の友人が、自分に包みを送ってくるとは思わなかった。それはつまり、彼はまだ何処かで生きているという事になる。
最も、奇妙な点がないでもない。差出人の住所は亮一の自宅のものだった。だが彼が帰って来ているなら連絡くらい寄越す筈だ。…それとも、そう出来ない事情があるのか。
とりあえず包みを開けると、中からは革表紙の本が出てきた。大きさはハードカバーの本くらいで、タイトルは無い。
本を開くと、そこにはこんな文章があった。
『記せ。それが鍵となる』
どういう事だと思っているうちに、文章は消えてしまった。どうやらこれは異能的なものらしい。
「記せって何をだよ…」
記す事が無い。というか記したら何が起きるんだ。二人を探す手掛かりが見つかるのか?
そんな事を思った瞬間、また本に文字が現れた。
『見聞きした事象を、記憶として展開せよ』
なんで本に指図されなきゃならんのだとイラつきながらも、言う通りにしてみた。といっても記したい事も無かったので、今日の出来事を思い出してみた。
『依頼を全て片付け、フラフラになりながら自宅に帰ったのは深夜だった。もう三日程学校に行ってないので、明日は行かないとまずい。朝起きられるかは不明だが、最悪遅刻していけばいいだろう。………』
すると、本に文字が浮かび上がるではないか。しかも何故か小説調である。
面白かったので更に試してみた。今度は別の事―無銘と出会った時の事を思い出してみる。ページがめくれ、一番最初のページにこんな事が書き込まれた。
『夕暮れの教室で、逆浪光は目を覚ました。
何だか長い夢を見ていた様な気がする。内容は全く思い出せないが、とてつもなく長い物語だった。…………』
間違いない。
この本は、自分が見聞きした事を記録するのだ。
だが、それがなんの役に経つのかは分からない。
だけど面白くなってきたので、最近の出来事を片っ端から記述していると…。
『泊亮一と高凪ちとせは夜道を歩いていた。
あの後、夢羽を救出したお祝いという名目でバカ騒ぎした為、かなり疲れている。
思えば長い一日だったなぁと亮一は思った。…………』
「な、なんだこれは…」
自分が知らない出来事が本に書き込まれていくではないか。
しかもこれは…二人が失踪した日にちだ。
そう思っている間にも、本には文字が書き込まれていく。
『……二人の顔が驚きに染まる。それを愉快そうに眺めた青い獣は、腰を落として身構え―瞬間、亮一の懐に居た。
「え」
反応する暇さえない。亮一の顔に焦燥が浮かんだ瞬間には、もう神知は攻撃を終えていた。
夜空に、血飛沫が舞う。
黒と赤が混ざり合い―儚く消える。
後には、何も残らなかった。』
「マジかよ…」
この本に書き込まれている事が真実なら、二人は螺鈿會に誘拐された事になる。
逆浪は本を放り投げ、深夜にも関わらず全員に電話を掛けた。
投げ出された本の表紙には、先程までは無かった文字が浮かんでいた。
『無題奇譚』
…それが、この不思議な本のタイトルだった。
* * *
「…本当に良かったの?アリス」
「ん?何が?」
「あの本を送ったの、君なんだろ?」
「そうだよ。
「…最悪の場合は、世界を改変しろと」
「そういう事。わたし達にはもう何も出来ない…螺鈿會とドロシィがやってる事を打ち砕くにはこうでもしないとだからね」
「出来るのかな、彼らに…」
「
「どうしてそう言い切れるの?」
「…だって、この物語の主人公は彼らだからね」