無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#63「天の花、地の月」

 小鳥と天花の戦いは、開始してすぐに膠着状態へと陥った。

 元々、小鳥も天花も超人的な身体能力の持ち主である。なので相手の僅かな動きなどから次に来る攻撃を予測し、対処する事ができていた。故に、攻撃しては防がれるという流れを延々と繰り返す事になっていた。

 

(しかし、以前より動きが良くなっているな)

 

 戦闘の最中、天花は小鳥の攻撃を防ぎながらそんな事を考えた。

 恐らく、まだ力を十分に解放していない状態。それにも関わらず、以前より攻撃が激しく、一撃が重い。

 強化でも掛けたのか、精神面で好調なのか、あるいはその両方か。

 いずれにせよ、以前よりも厄介な存在になったといえる。ここで排除しなければ、当主の命を脅かす存在になりかねない。

 天花は重さとスピードが乗った連打で小鳥の防御を削り、そこに生じた隙に一撃を打ち込まんとする。 

 しかし、小鳥はその全てを防ぎ切ってみせた。

 

「少しはやるようだな」

「ここで負けるわけにはいかないからね」

 

 言葉を交わし、拳を躱す。

 小鳥の攻撃を最小限の動きで回避し、カウンターを入れる。

 それを防がれる。

 小鳥は距離を取り、身を屈めて突撃する。

 マウントポジションを取るつもりか。

 天花も姿勢を低くし、それを迎え撃つ。

 しかし、小鳥はぶつかる直前で跳躍し、勢いに任せて踵を振り下ろした。

 咄嗟に左腕を上げ、それを防ぐ。

 激痛が走ったが、折れてはいない。

 本命は力を溜めた右腕。

 小鳥は空中で無防備。

 しかし、恐らく防いでくる。

 だから、それを上回る速さで。

 無能力者である自分が、異能力者である小鳥に勝つのは難しい。

 それは分かっている。

 だが、それがなんだというのだ。

 異能力者といえども所詮は人間。ヒトの範疇を超える事はない。

 ならば、人間が撃てる限界の一撃で沈ませればよい。

 普段の拳よりも、より早く、より硬い拳で。

 音を置き去りにし、鉄をも砕く一撃を放つ──。

 

 

 ──無能力者の一撃(キャノンボール)

 

 

 大砲から放たれた砲弾のように小鳥が吹き飛ばされ、壁を突き破って見えなくなる。

 一瞬にして跡形もなくなると思われた小鳥の躰は、しかし原型を留めていた。

 風読家どころか近隣の建物を数件ほどぶち抜いて吹き飛ばされ、何度も意識が飛んだが、死んではいなかった。最も、それは自身の異能と真中の異能を組み合わせた結果であり、普通の人間なら即死間違いなしの一撃であった事は間違いない。

 

「っ……たぁ……」

 

 自分の躰の頑丈さに軽く驚きつつも立ち上がり、地を蹴って風読家を目指そうとする。

 しかし、もうすぐで自分が開けた穴に到達するというところで、天花がそれを妨害してきた。

 

「まだ生きてたか!」

「言ったでしょ。生きて帰るって!」

 

 天花は跳躍し、踵落としで小鳥を地面に叩きつけようとする。

 しかし、小鳥は躰を捻ってそれを回避し、自分が開けた穴から風読家の邸内へと転がり込んだ。

 天花は地面に着地したが、すぐさま二階まで跳躍し、小鳥を追いかける。

 

「ここ二階だよ!? 空中ジャンプでも使えるの!?」

「今更だろう!」

 

 そんなどこかズレた会話をしながらも、ふたりは再び拳を交える。

 しかし、小鳥の動きは先程までと比べて明らかに鈍くなっていた。額には脂汗をかき、表情も苦しげだ。

 死んでもおかしくない傷を負っているのだから、無理もない。むしろ、動けるのが異常であるといえる。

 そして、天花はその隙を見逃さなかった。

 

「グッ……」

 

 アッパーを喰らい、小鳥の脳が揺れたところに、右ストレートを叩き込む。

 それは腹に直撃し、小鳥は躰をくの字に曲げて後ずさった。

 

「少しは善戦したようだが、ここまでのようだな」

「まだ……だよ、まだ、まけてない……」

 

 呻くようにそう言う小鳥に、天花は哀れむような目を向け、

 

「その躰で言う事ではないだろう。息をするのも苦しいはずだが」

 

 そう言って半身に構えた。

 

「まぁいい。いまその苦痛から解放してやろう」

 

 滑らかな動きで小鳥の懐に入り込んだ天花は、身を低くして攻撃態勢をとる。

 予備動作が見えず、対応できなかった──小鳥は咄嗟に後退しようとしたが、それより早く、躰がふわりと浮き上がった。

 

「……え」

 

 異能力?

 いや、違う。

 鮮やかな動きで、投げ飛ばされた。

 それを知覚した時には、既に遅かった。

 

 

 ──天花月地

 

 腹部に衝撃。

 天井には絨毯と割れた花瓶。

 自分の横には月が見える。

 上下が反転しているのだ、と気づいた時には、小鳥の意識は飛んでいた。

 

 

 天井にめり込んだまま落ちてこない小鳥を見て、天花は自分の役割が終わった事を悟った。

 

「さらばだ、赤坂小鳥。異能力に頼るだけの、弱い人間」

 

 勝ちはしたが、傷がないわけではない。

 躰の痛みに顔を顰めながらも、天花は振り返る事なく歩き出す。

 当主を守護するという、自分の役目を果たすために──。

 

   *   *   *

 

 気づくと、白一色の世界にいた。

 上下左右、全てが白い世界。そこには何もなく、ただ虚空だけが拡がっていた。

 異物と言えるものは、自分の躰と、目の前にいるひとりの少女だけ。

 雪のように白く、長い髪を持つ少女。自分よりも幼い見た目をした少女。

 なぜか、彼女の事を知っている気がした。

 

「あなたは……?」

 

 自分の疑問に、少女は答えた。

 

 

「わたしはアリス。久しぶりだね、赤坂小鳥ちゃん」

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