無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#18「ネゴシエーション」

 暁月はぼんやりとしていた。

 ショックで頭が上手く働かなかった。

 イアが居なくなってしまうかもしれないなんて…耐えられない。

 今朝、普通に出ていったのに。

 連絡を受けて病院に駆けつけた時には、彼女はもう生者と死者の間をさまよっていた。

 なんで。

 どうして、こんな事に…。

 半ば放心したまま、フラフラと歩く。

 と、後ろから声を掛けられた。

 

「暁月夜桜だな」

 

 振り向くと、暗緑色の髪に青い瞳の、端正な顔立ちをした男が居た。

 

「…誰だ」

「螺鈿會と言ったら分かるか?」

「…何の用だ」

 

 暁月が覇気の無い声できくと、

 

「貴様の想い人を救う方法を知っている…と言ったら?」

 

 男がそう言った瞬間、暁月の瞳に光が戻った。

 

「教えろ。今すぐに!さもないと―」

 

 先程とは打って変わって覇気のある声で言う暁月に対し、男は冷静な口調でそれを遮った。

 

「貴様がある条件を呑んでくれたなら教えてやる。が、此処で話したくはない。場所を変えよう」

 

 暁月は素直に頷く。

 それを見ると、男は歩き出した。

 

   *   *   *

 

 病院から少し離れた空き地で、男は立ち止まった。

 

「まず…暁月夜桜。貴様は想い人に何が起きたかを把握しているのか?」

「随分と唐突だな。今話題になっている変死事件に巻き込まれたんじゃないのか?」

「その真相を知っているのかと聞いているんだ」

「…知らないよ。それがどうしたんだ?」

 

 暁月が言うと、男は頷いて、

 

「では、まずはそこからだな…あの事件を引き起こしたのは和奏心春という少女だ。既に故人だがな」

「故人?」

 

 死者が起こした事件だとでもいうのか。訝しむ暁月に、男は淡々と事実を事実を述べていく。

 

「そうだ。数年前に起きた旅客機爆発事件に巻き込まれ、その際に異能を得た。『恨みを現実に変える』という異能をな」

「………」

「そして和奏はその力を使って無差別に人を殺し始めた。肉体は死んだが異能は残っている。それで人に『空から落ちる』という幻を見せ、ショック死させた」

「それが、真相か」

 

 犯人が見つかるはずがない訳だ。死人に気を配る余裕など、警察には無いだろう。

 

「だが、その話と螺鈿會がどう繋がるんだ?」

「我々は和奏の異能を補足し、度々利用していた。今回の事件も我々が引き起こしたものだ。…そして当然、異能の解除法も把握している」

「だからそれを教えろと…」

「ただで教える訳が無いだろう」

 

 男は軽蔑した様に暁月を見て、それから言った。

 

「想い人を救いたくば…我々の同士となれ」

「……分からないな。どうして僕なんだ?」

「特に理由は無い。逆浪光でも良かったが…アレは使い勝手が悪過ぎるからな」

「巧未とかじゃいけないのかよ?」

 

 暁月がきくと、男は「ダメだ」と断言した。

 

「赤坂蜥蜴と茨羽巧未、そして源夜月…彼らは我々の同士とはなり得ないからだ」

「どうして」

「…それも含めて、今から教えよう」

「いいのか?僕に話せば、巧未達に知られる事になるぞ?」

「貴様が気にする事は無い。それに…話せば想い人が死ぬだけだ」

 

 暁月は黙り込む。それを見た男は、パチンと指を鳴らした。

 すると、空中から青づくめの男と黒いローブを羽織った人影が二人現れた。

 

「コイツが暁月夜桜か。弱そうなガキじゃねぇか」

 

 青づくめがニヤニヤしながら言う。暁月はそれを無視して男にきいた。

 

「コイツらはアンタの仲間か?」

「ああ、そこの青い男は神知戦という」

 

 神知という名前には聞き覚えがあった。確か茨羽がうんざりした様子で話していた記憶がある。

 

「よろしくなー」

 

 神知はニヤニヤと笑いながら暁月に顔を近付けた。酒臭い呼気が顔にかかり、暁月は顔を顰めて後ずさる。

 

「…そこのローブは誰だ」

 

 顔を顰めながらきいた暁月に、男は口角を少し吊り上げて答えた。

 

「彼らは我々の新たな同士だ」

 

 その言葉と共に、ローブの二人はフードを上げる。

 現れた顔を見て、暁月はあっと声を上げた。

 

「な、なんで…」

「ハッ、驚いてらぁ」

 

 神知が愉快そうに言う。

 驚くのも無理は無い。だってその二人は―暁月達が探していた人物なのだから。

 

「なんで、あなた達が…」

 

 フードの下から現れた顔。

 それは紛れも無く、泊亮一と高凪ちとせのものだった。

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