無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#19「アンチ・ヒーロー」―イア・ループの章 終幕―

 泊亮一と高凪ちとせは、無表情に暁月を見ている。まるでそこに居るのが当たり前だという様に、この状況に馴染んでいた。

 

「なんでこの人達がお前らと居るんだ!」

 

 暁月は男に詰め寄る。彼は冷たい瞳で暁月を見ると、何を言っているんだと言わんばかりの口調で言った。

 

「我々の理念に同調したからに決まっているだろう」

「理念…?」

「今から話す。聞けば、納得する筈だ」

 男はそう前置きすると、螺鈿會の目的を話し始めた。

 

   *   *   *

 

「それが…お前らの目的なのか…?」

 

 話をきき終わった暁月は、怪訝そうな口調で言った。

 

()()()()の為に…お前らはこの事件を起こしたというのか?」

「貴様はそんな事と言うが…我々にとっては、この世界そのものが異常なのだ」

 

 考えてもみろ、と言って、男は亮一とちとせの方を見た。

 

「この二人も…そして、貴様の想い人も…言ってしまえば、世界の機構(システム)の所為で苦しんでいるのだぞ?」

「それは…」

 

 暁月は黙り込む。

 男の言葉を、否定する事が出来なかった。

 

「我々の目的を達成出来れば、そういった事も無くなる。これは、革命なのだよ…暁月夜桜君」

「で、でも…春風さんを犠牲にする必要はないはずだ!だってその方法をとったら…間違いなく彼女は犠牲になるじゃないか!それは悪い事じゃないのか?」

「些細な事だ。革命には犠牲は付き物だろう?江戸城の無血開城じゃあるまいし…そもそも、この世の全てには必ず何らかの犠牲が伴う。我々はその数を減らそうとしているのだ」

「……」

「最早、善悪の問題では無いのだよ。そもそもこの世界を善悪という物差しで測る事が間違っているのだ」

 

 混沌(カオス)の中に秩序(コスモス)があり、秩序の中に混沌が有るだけだ―そう男は言った。

 

「善悪などというものは、その一部…人間にとって都合の良いものを切り取っただけのものだ」

「ま、コイツの言う事は正しいわな」

 

 神知が眠そうな声で言った。

 

「どっちにしろ、目的を聞いた以上テメエはこっちに来るしかねぇよ」

「仲間を裏切れというのか?」

「ああ。だってお前の優先事項は仲間よりあの女なんだろ?」

 

 図星だった。

 暁月は言い返す言葉が見つからず、沈黙する。

 

「貴様の想い人を助けるには、我々に加担するしか無い。裏を返せば、我々に加担すれば、貴様の想い人は助かるという事だ」

「僕は…」

「こちら側へ来い、暁月夜桜…」

 

「全てを失う、その前にな」

 

 その言葉は。

 暁月を、深く侵した。

 僕は。

 僕は、イアの事を失いたくない。

 それに、決めていたじゃないか…。

 彼女の為ならば、どんな事でもすると…。

 

 暫く無言が続き、軈て暁月は呟いた。

 

「…何をすればいい」

「つまり?」

「お前らの仲間になる。イアを救うには…どうすればいい?」

 

 暁月の言葉に、男は笑みを浮かべた。

 

「…追って指示する。今は、その言葉だけで充分だ」

「分かった…それから、アンタの名前は?」

 暁月がきくと、男は「そういえば名乗っていなかったな」と呟いた後、

 

「私の名は春風郭公(かっこう)。春風つばめの、父親だ」

 

 

 …この日、暁月夜桜は螺鈿會の理念に同調し、行動を共にする事になった。

 この出来事が何を齎すのかは…今はまだ、誰も分からない。




イア編はこれでおしまいです。
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