無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#2「茨羽巧未と源夜月」

 翌日の放課後、逆浪と美雪がいつも通りに帰ろうとすると、廊下で声を掛けられた。

 

「そこの二人、ちょっといいか?」

 

 振り向くと、そこには二つの人影があった。黒髪の青年と、紫色の髪の青年―二人はこの学校の有名人だった。

 

茨羽(いばらは)先輩に…アンタ誰だっけ」

「ちょっと光くん!この人は…」

 

 相変わらずの逆浪に美雪が慌てる。それを見て紫髪の青年がややムッとした様子で言った。

 

「茨羽、コイツ生意気だなぁ…」

「そういうヤツなんだ。許してくれ」

「はあ…まあいいけどさ」

 

 紫髪の青年はため息をついた。

 

「俺は源夜月(みなもとよつき)。お前は?」

「逆浪光。コイツは日向美雪です」

「よ、よろしくお願いします」

 

 美雪がやや緊張した様子で言う。その反応は妥当なものと言えるだろう…源夜月と言ったら、この学校で有名な不良なのだから。

 

「ん、よろしくな。茨羽の説明は…いらないか」

「おい」

 

 黒髪の青年がツッコんだ。夜月は「だって知り合いみたいだし」と言って口笛など吹いている。黒髪の青年は呆れた様な表情を見せてから、自己紹介した。

 

「知っているだろうが…茨羽巧未(たくみ)だ。今日は光達に依頼があって来た」

「茨羽先輩が俺に?」

 

 逆浪は驚いた様な顔をした。茨羽巧未と言えば夜月とはまた違う意味での有名人だ。人助けを生業とし、高校生でありながら裏の世界にも顔が広い男…そんな彼が、逆浪の様な高校生に依頼とは珍しいを通り越して疑問を覚える程だった。

 

「ああ…お前、無銘の弟子になったんだろ?」

 

 相変わらず情報の早い男だ。

 

「そうっすけど…それがどうしたんですか?」

「本来なら今日、無銘と一緒に一つ仕事を片付けるつもりだったんだが、さっき連絡があって、事情があって行けないと言われたんだ。で、代わりにお前を使えと」

「誰が?」

「無銘が」

「…マジか」

 

 いやまあ、弟子入りしたのはこちらの方なのだ。当然と言えば当然である。

 逆浪は(しばら)く考え込んだが、(やが)て茨羽にきいた。

 

「どんな依頼なんですか?」

「ここ最近、学校の近くで不審者が目撃されているんだ。ソイツに話を聞いて、怪しい様だったらぶっ飛ばせと」

「へぇ…依頼主は?」

「校長だ」

 

 生徒にそんな事を頼むのは如何(いかが)なものかと逆浪は思ったが口にせず。

 と、そこで美雪が口を開いた。

 

「その不審者…黒服の男じゃないですか?」

「そうだよ。どうして知っているんだ?」

 

 夜月がきくと、美雪は鞄から一枚のプリントを取り出した。

 

「学校側から注意喚起があって、お知らせをもらったんです。皆さんも持ってる筈では…?」

『あー、捨てたわそんなもん』

 

 逆浪と夜月の声が綺麗に重なった。美雪と茨羽は内心「ダメだコイツら」と思ったがやはり口にせず。

 

「…まあ、そんな訳だ。メン・イン・ブラック的な格好をしてるからすぐ分かるだろうし、受けてくれれば校長にも言うが…どうだ?」

「…分かりました。やりましょう」

 

 逆浪は頷いた。

 

「美雪はどうする?」

「私も行くよ。光くんだけに任せておけないしね」

「いい彼女じゃねえか」

 

 夜月がニヤニヤと笑いながら言った。美雪はちょっと顔を赤くし、逆浪は「揶揄(からか)うなよ…」と夜月を睨み付ける。

 

「そんじゃまあ…行きますか」

 

 一同は夕陽が射し込む廊下を歩き始めた。

 

   *  *  *

 

 校門を出ると、()ぐにその人影は目に入った。

 黒いスーツに黒いサングラス。スパイ映画の主人公の様な出で立ちの男が学校の前で佇んでいた。

 早速、茨羽が笑顔で声を掛ける。

 

「こんにちはー。ちょっといいですか?」

「…誰だ」 

 

 男の表情は読めない。淡々とした口調の彼に対し、茨羽は笑顔を保ったまま言った。

 

「実はかくかくしかじかで、なんでこんな所に居るのかを聞きたいんですよ。構いませんか?」

 

 茨羽が言うと、男は僅かに口角を釣り上げ、スーツの胸ポケットから一葉の写真を取り出した。

 

「これに写っている人物に心当たりは?」

 

 写真は、何処か薄暗い部屋の中で撮られたものの様だ。緑色の紙にオッドアイの、華奢な少女が写っている。

 茨羽達は顔を見合わせた。全員に心当たりが無い事を確認すると、茨羽は首を横に振った。

 

「そうか」

 

 男は特に落胆した様子も無く頷くと、無言で立ち去ろうとした。その背中に夜月が声を掛ける。

 

「…なんでその子を探している?」

「答える必要は無い」

 

 素っ気なく言うと、男は立ち去っていった。

 

「あの男、不気味だな…」

 

 逆浪が呟いた。

 

「……何なんだ、アイツは…」

 

 茨羽が鋭い目をして言った。

 結局それ以上は何もせず、一同はそのまま帰宅する事にした。

 

 

 後に無銘が血塗れの少女を連れて現れた時、一同は「あの時何故男を追わなかったのか」と後悔する事になる。

 …何故なら、無銘が連れてきた少女の眼は左右で色が異なっていたのだから。

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