無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#31「神を知る者」

「……ッ!」

 

 噴き出した血が地面を染める。

 日向の首はゴロゴロと転がり、倒れている霧風にぶつかり止まった。

 神知は頬に付いた血を舐め取り、してやったという顔で茨羽を見る。

 

「コイツ、やたらと色々な技使ってきて厄介だったんだよ。まあ仕方ねぇよな。死ぬヤツが悪いんだ」

 

 見れば、神知も無事では無いようだった。大きなダメージこそ負ってないものの、それなりに疲弊し、傷も多かった。

 だが目だけは爛々(らんらん)と輝いている。獲物を捉えた肉食獣の目だ。

 身勝手な理屈に茨羽が声を上げようとした、その時…。

 

「でもまあ、折角だし頂くか」

 

 神知がそう言い、自らの異能を発動する。

 すると日向の身体がズブズブと神知の腕に呑み込まれていった。

 

「と、取り込まれてる…」

 

 陽香が掠れた声で呟く。茨羽も、そして外に出てきた暁月達もその光景に言葉を失った。

 神知がしている事は単純。死体と融合してその死体の能力、記憶、身体能力などを得ているのだ。

 本来、神知の異能は「無機物操作」だった。然し本人に合わせてなのかは不明だがどんどん異能が強化されていき、今では得体のしれないモノと化している。―それこそ、神知ひとりで地球を破壊出来る程に。

 持ち合わせた冷徹さも手伝い、その実力は間違いなく人類最強クラスではあったが―それでも、足りなかった。ヒトの頂点には立てていても、神にはまだ足りなかった。

 だが…日向と融合した事で、神知は上り詰めてしまった。

 文字通り、神を知る者(・・・・・)に成ってしまった。

 

「…こいつぁ」

 

 融合を終えた神知は、日向の記憶や能力に驚いた声を漏らし…それからニヤリと笑った。

 

「ハッ、コイツは面白ぇ!」

「お前、何を…」

 

 声を上げる茨羽。神知は笑いながら彼を一瞥し…そして、呟いた。

 

「ちっとばかし試してみるか」

 

 瞬間、神知の手から黒い焔が放たれる。

 

「…!」

 

 茨羽はすぐさま自分の焔で対処した。黒い焔同士がぶつかり合う。

 間違いない、神知が使ったのは茨羽の異能だ。

 

「なんでお前が俺の異能を…!」

 

 神知はニヤニヤするばかりで答えない。瞬間、その姿が消え…次の瞬間には茨羽の背後に居た。

 神知が使ったのは暁月夜桜の異能だ。混乱する茨羽に、神知は自分の体内から取り出した金属で剣を創り、振り下ろす。

 辛うじて躱し、距離をとる。

 

「なんで神知が僕の異能を使えるんだ…」

 

 暁月が唖然として呟いた。神知は(うるさ)そうに顔を(しか)めたが、「仕方ねぇな。喚かれるのも面倒だし教えてやるよ」ととんでもない事を言った。

 

「俺が取り込んだあのガキはこの世界に於ける神みてぇな存在なんだよ。だから凡百(あらゆる)異能を使えるって訳だ」

 

「…は?」

 

 全員が固まった。

 日向咲が、この世界に於ける神だって?

 

「それ、本当なのか?」

 

 亮一が半信半疑といった様子できく。神知は「だから本当だって言ってんだろ」と面倒臭そうに呟き…(おもむろ)に右腕を横に突き出した。

 

「だからこういう事も出来るって訳だ」

 

 神知の横から迫っていた風の刃が神知の右手に触れた瞬間霧散する。攻撃を仕掛けた張本人―霧風才斗はちいさく舌打ちをした。

 いや、そんな事より―。

 

「今の…無銘の『異能殺し(イマージュブレイカー)』だよな…」

「どうやら本当らしいね」

 

 暁月が目を細めて呟く。状況は最悪に他ならなかった。

 

「…まあそんな訳だ。とりあえず全員死ね」

 

 神知は軽い口調でそう言った後、異能を発動。瞬間、再び隕石が落ちてきた。小型ではあるが螺鈿會周辺を覆うほどの大きさだ。

 

「バケモノすぎるにも程があるっての…」

 

 茨羽は忌々しげに呟く。神知とは何回かやり合った事があったが、どうやら全然本気を出していなかったらしい。

 

「俺達まで殺す気か!」

 

 亮一が叫ぶ。神知は「あたりめーだろ」と軽くそれを受け流した。

 

「もう螺鈿會とかどうでもいいんだわ。ってか元からどうでもいいんだけどな」

「なっ…」

 

 逃げようにも逃げ場所が無い。

 このまま全滅か―そう思われたが、

 

「…ふざけるな」

 

 暁月が呟き、異能を発動。

 空間を掌握し、凝縮し、単一の斬撃として撃ち出す―

 

「…虚刃」

 

 暁月がブレードを振ると、見えない斬撃が発射された。

 

 この斬撃は触れた物を(ことごと)く吹き飛ばす不可視の斬撃だ。実際、かなりのスピードで迫っていた隕石を僅かではあるが後退させる事に成功した。

 それでも隕石は止まらない。だが…暁月にはそれで充分だった。

 

「空間把握」

 

 街全体を把握する。言うなれば、街全体を自分の領域に変えたという事だ。持続時間は短いが、これでいい。

 そして、

 

「反転」

 

 既に範囲内に入っていた隕石の進行方向を強引に捻じ曲げ、宇宙に送り返した。

 

「螺鈿會にはイアがいるんだ。彼女には指一本触れさせないよ」

 

 暁月は冷たい声で言うと、異能で神知の背後に回り込む。即座に対応した神知は剣を用いてそれを迎撃した。

 

「…っと、ハハハ!そのくらいの気概がなくっちゃなぁ!」

 

 愉しげに笑う神知。

 暁月の刃を躱し、いなし、受ける。その間も笑みを崩さない。

 暁月は刃を振るいながら神知の腹を蹴り、距離をとる。神知は後退し、直ぐに体勢を立て直す。が、その後ろから巨大な影が飛びかかった。

 一匹の虎が神知に襲い掛かる。ちとせが異能を用いて変身したものだった。

 神知が振り向いた時には、既に虎の口内が目の前に。

 然し、

 

「バーン!」 

 

 神知は足元の石ころを拾い、まるで銃でも撃つかのようにぶっ放す。勢いよく飛んだそれは虎の口内に入り、その身体を易々と貫いた。

 虎が崩れ落ちる。神知はその首に向かって剣を振り下ろす―寸前、亮一が彼に飛び蹴りを喰らわせた。

 

「あ?んだよガキ、邪魔すんな!」

 

 神知は亮一に剣を振り下ろす。亮一はそれを掻い潜り、神知に殴り掛かった。

 その側面から暁月が襲い掛かる。神知はもうひとつ剣を創り、二刀で亮一の拳と、暁月のブレードを尽く受け止めた。

 

「あーもうウゼェな!」

 

 神知は体内の無機物を使って足にバネを生成。高く飛び上がった…が、そこは暁月の領域だ。神知の頭上に瞬間移動し、踵落としを喰らわせる。神知は地面に叩き付けられたが直ぐに体勢を整え、近くに居た亮一に襲いかかった。

 神知をふたりが抑える形になり、逃走経路も確保出来た。茨羽は霧風に「一先(ひとま)ず逃げるぞ!」と叫び、陽香を連れて撤退する。霧風と生き残った裏の世界の連中もそれに続いた。

 神知が気付いた時には…茨羽達の姿はどこにも無かった。

 彼は舌打ちし、尚も襲い掛かってくる暁月と亮一を忌々しげに見る。

 そして―

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