無題奇譚〜Untitled tale〜 作:惰眠
一週間後、逆浪達はとある喫茶店に居た。
メンバーは逆浪と美雪、夜月に茨羽、無銘に加え、無銘が助けた少女―春風つばめといったものである。
木目調の落ち着いた店内には彼らの他に客は居らず、だからこそ堂々と話が出来るのだった。
カウンターには一人の少女が居る。彼女は若くしてこの喫茶店を経営している、言わばマスターだ。
名前は
彼女の家は名家なのだが、異能を持たない夢羽は厄介者扱いされていた。そこで喫茶店を経営していた祖父母の元に身を寄せる事になり、手伝いをしているうちに才能が開花。祖父母の死後、店を継いで今に至るという訳だ。
彼女は逆浪達と茨羽達共通の知り合いで、異能についても理解が深い。実質メンバーのひとりといっても過言ではないだろう。
そんな夢羽の喫茶店で、逆浪達はつばめの事について話し合っていた。
無銘がつばめを連れて現れた時、逆浪達はとても驚いた。まあ知り合いがボロボロになりながら血塗れの少女を連れて来たとなれば妥当な反応だといえる。
それから全員でふたりの話を聞いた。青づくめの男―神知戦の事を聞いた際には茨羽が苦いものを食べたかのような顔をしていた。どうやら知り合いらしい。
そして、なぜつばめが黒服達に追われていたのかも聞こうとしたのだが―彼女は沈黙して、何も答えてはくれなかった。つばめの眼に関係があるらしい事は無銘から聞いたが、それだけでは何も分からない。
ただ、ここにはつばめのオッドアイを気にする人間はいなかったので、それは良かった事なのだが。
今日はまたつばめの話を聞く為に集まったのだが、相変わらず彼女は何も話さない。或いは、話せない理由があるのかもしれないが…兎に角、お手上げだった。
そして話が次第に雑談に及び、一時間程話した所で不意に喫茶店のドアが開き、ふたつの人影が入ってきた。
ひとりは少年で、柔らかな茶髪を背中まで伸ばしている。ともすれば女と見間違う程の童顔美男子だった。
もうひとりは少女で、こちらは長い白髪に白い肌という美少女だった。
逆浪が思わず見惚れていると、少年は茨羽に声を掛けた。
「巧未、こんなところにいたのかよ」
「
茨羽は軽い調子で返す。少年は逆浪と美雪、そしてつばめを見ると、「彼らは?」ときいた。
「コイツは逆浪光。俺達の新しい仲間だ。で、逆浪の隣の子は日向美雪。光の彼女だ。で、そこの眼帯をしている子が春風つばめ。無銘が連れて来た子だ」
「美雪は彼女じゃなくて幼馴染な」
逆浪は茨羽を睨みつける。少年はなるほどと頷いてから自己紹介をした。
「僕は暁月
「よろしくお願いします!」
少年―暁月と少女―イアは礼儀正しくお辞儀をした。
「どうもね。先輩、この人も先輩の仲間っすか?」
「ああ」
「…リア充爆ぜろ」
「落ち着け夜月、アレはオレたちとは違う生き物だ」
夜月が暁月を睨み付け、無銘がそれを宥めている横で女性陣は既に仲良くなっていた。
「イアさん、綺麗だね〜!」
「あ、ありがとうございます…」
イアは頬を染める。つばめや夢羽も彼女の美しさに見惚れているようだった。
「あ、イアさん。それは?」
夢羽が何かに気付いた様にイアを見る。その視線はイアの胸元にぶら下がる十字架のペンダントに注がれていた。白を基調とする服に身を包んでいるからか、その十字架は良く目立った。
「これは
「螺鈿?」
「簡単に言えば貝細工です」
「へぇ〜…綺麗ですね!」
夢羽は螺鈿のペンダントをうっとりと眺める。と、隣に居たつばめの様子がおかしい事に気付いた。
彼女は虚ろな目で、螺鈿を見つめている。そしていきなり仰け反ったかと思うと、金切り声を上げ始めた。
「あ…ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
その声に驚き、全員がつばめの方を向く。
「どうしたの!?」
「つばめちゃん!しっかりしろ!」
美雪と無銘が呼び掛けるが、つばめはそれに答えない。喉が擦り切れるのではないかと思う程叫んでいた。
軈て―彼女は意識を失った。
「つばめちゃん…」
美雪は頭痛を覚えた様に頭を抑える。
「美雪?どうしたんだ?」
「つばめちゃんの目と螺鈿…何か、引っかかる気がする…」
それを聞いて、逆浪も何か引っかかりを覚えた。
螺鈿と目…どこかで聞いた気がしたのだ。
兎に角、つばめが倒れては意味が無い。その日はそれで解散する事にした。
螺鈿を見せた事を悔いるイアと彼女を慰める暁月を見ながら、美雪は相変わらず頭を抑えていた。
* * *
次の日、つばめが回復したとの事でまた集まる事にした。今回はイアは螺鈿を身に付けていない。
前回の様に話をしている途中、つばめがちいさな声で言った。
「螺鈿…」
「今日は螺鈿は無いよ」
イアが安心させるように言う。然しつばめはそれに反応しない。ただ「螺鈿…」と呟くだけだ。
そのうちに彼女の目が妖しく光り始めた。目の錯覚という訳では無い。現に無銘達もいきなりの事に身動きが取れない様子だったからだ。
軈て、つばめの目が見開かれた。
「
その言葉を聞いて、逆浪と美雪の記憶の扉が軋み、開く。
ふたりは驚いた様に目を見開いた。
「まさか…」
「つばめちゃんもなの…?」
「な、なんだ?どうしたんだ?」
無題が怪訝そうにきく。逆浪は暗い顔をしてそれに答えた。
「螺鈿會は…異能研究組織です」
「昔、私達が捕まっていた所…」
全員が驚きの声を出した。
「光くん…つばめちゃんの目は…」
「ああ、間違いない」
つばめの左右で色が違う目。それを、ふたりは知っていた。
「…あの目は過去を視る目…ロストアイだ」