無題奇譚〜Untitled tale〜 作:惰眠
時系列は陽香編と亜美編の間となっています。
ある日、俺―逆浪光は師匠に呼び出された。
俺の師匠―無銘こと赤坂蜥蜴は高校生ながら探偵をやっており、俺も偶に手伝っている。今回もそれかと思ったのだが、どうやら違ったらしい。
「なんで竹刀があるんすか」
「決まってるだろ。お前に技を教えてやろうと思ってな」
そんな事を宣いながら竹刀を投げて来る。慌ててキャッチして、どういう事だと訊くと師匠は平然とした顔で言った。
「オレが使っている剣術―口伝抜刀術をお前に伝授する」
「いきなりですね…」
「一応お前の師匠だからな」
「そりゃ、偶に稽古はつけてもらってますけど…」
「あんなのままごとみたいなものだろ。今回は本気の本気だ」
アレがままごと…?俺は普段の稽古でもヘトヘトになるくらいだったぞ?
しかも今日は本気の本気?…死なない事を祈ろう。
いい運動にはなるかもしれないけど。
「それにお前、カウンターフェイクは使えるんだろ?」
カウンターフェイクというのは、師匠が開発した技術の事だ。
自身が受けたダメージを右腕に蓄積し、数倍にして放つ技―ただ、ダメージが大き過ぎると右腕が消し飛ぶ危険がある。諸刃の剣だ。
俺も使えるが、正直に言うと使いたくはない。
「まあ…模倣すれば一応使えますよ。腕無くなるの嫌だからあんまし使いたくはありませんが」
「なら、そろそろ教えてもいい頃だ。師匠らしいことなんてあんまりしてなかったしな」
「はぁ…まあ、いいですけど」
俺は溜息をついてそう言った。
その反応を見た師匠は喜々として技の手解きを始めた。
* * *
口伝抜刀術。
文字通り口伝で伝えられる抜刀術であり、型はあれど技の質は扱う人によって違う…らしい。
第一番「桜波」
第二番「蝉轟」
第三番「紅染」
第四番「雪止」
終番「空景色」
口伝抜刀術はこれらの型から成る抜刀術である。
桜波は一番使い勝手がよく、スピード重視の横斬り。蝉轟は人外を相手とすることを想定されているもので、パワー重視の縦斬り。紅染は確実に殺す為のもので、斜めからの斬り捨て。雪止はテクニック重視で、回転技の入った抜刀術。空景色は桜波で抜刀し、雪止までつなげた後、縦から切り捨てる、というものである。
抜刀術とはまた違うが、口伝反撃術「渡鳥」という技も師匠は伝授してくれた。反射神経を数倍に上げ、刀を構え反撃の機会を待ち、相手が攻撃してきたものにカウンターを入れるというものだ。ただし体に負荷がかかる為連発は不可能で、実際に一回やっただけで身体はまともに動かなくなった。
三時間程の修練を経て、俺は大体の技を使える様にはなった。
口伝で伝えられるため模倣が出来ず、最初は苦労したが何度も型を繰り出すうちに上達してきた。
技を使っていて面白いのが、俺の使うものと師匠の使うものの差異だ。師匠は筋力のバランスが取れているためどの技も威力が高いが、俺は筋力があまりなく、その分スピードに特化している(らしい)。よって、「桜波」は師匠を上回る程のスピードで繰り出せるが続く「蝉轟」は過去最低の威力だと散々言われた。まあ人外を相手するなんてそうそう無いだろうけどな。
* * *
「…んじゃ、最後に空景色をやってみろ。オレが受けて、その出来で合格か否かを判断するから」
「分かりました」
疲れを振り払って竹刀を構え、師匠と向き合う。
そして、俺は技を放つ。
先ずは、第一番「桜波」。スピードを乗せた横斬りは今日一番の出来だった。師匠がニヤリと笑う。
次いで、第二番「蝉轟」。パワー重視の縦切りだが俺はあえてパワーに傾かず、スピードも加えた。勢いで押し切るというやつだ。
そして、第三番「紅染」。必ず殺す為、スピードに全振りした。斜めからの斬り捨てを師匠は危なげなく回避する。
直ぐに、第四番「雪止」。回転技を加えた抜刀術だ。今までの中では最大のパワーで打ち込めたと思う。
最後に縦から斬り捨てて、結とした。
「―終番『空景色』」
「―合格だ。良くやった」
にっこり笑って振り返った俺は…。
「スーパー赤蜥蜴ナックル!」
―師匠の拳を打ち込まれ、ぶっ飛ばされた。
* * *
「殴るこたァないでしょうに…ってかなんですかあの技名」
「いや、なんとなくさ。『渡鳥』はああいう時に使うんだぜ?」
「…………」
俺は師匠に恨みの篭った視線を向けて、それから言った。
「にしても、なんで急にこんな事を?」
「特に意味はねぇよ。オレは師匠だからな、伝授するのは当然の事だろ」
「……さいで」
多分、他にも意図はあるだろうけど…まあそういう事にしておこう。
「まあ、ありがとうございました」
「おう。じゃあお祝いも兼ねて飯でも食いに行くか」
「奢りですか?」
「割り勘だよ」
「…………」
師匠は歩き出した。
これからもずっと、その背中を追うのだろうと思いながら―俺は師匠の後について歩きだしたのだった。
その後、ラーメン屋に向かったのだが、殴られたお返しとして師匠のラーメンに胡椒をたっぷり入れたらそれを読んでいたらしく、笑顔でラーメンに酢を入れられた。やっぱり師匠の方が一枚上手だったらしい。
しかも、その現場をたまたまラーメン屋にいたつばめに見られ、その日の日記にこの醜い争いの事を書かれた。
不幸だ…。