無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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本編が中々進まないので番外編です。少し短め。
時系列は陽香編と亜美編の間となっています。


#EX4「口伝抜刀術」

 ある日、俺―逆浪光は師匠に呼び出された。

 俺の師匠―無銘こと赤坂蜥蜴は高校生ながら探偵をやっており、俺も偶に手伝っている。今回もそれかと思ったのだが、どうやら違ったらしい。

 

「なんで竹刀があるんすか」

「決まってるだろ。お前に技を教えてやろうと思ってな」

 

 そんな事を宣いながら竹刀を投げて来る。慌ててキャッチして、どういう事だと訊くと師匠は平然とした顔で言った。

 

「オレが使っている剣術―口伝抜刀術をお前に伝授する」

「いきなりですね…」

「一応お前の師匠だからな」

「そりゃ、偶に稽古はつけてもらってますけど…」

「あんなのままごとみたいなものだろ。今回は本気の本気だ」

 

 アレがままごと…?俺は普段の稽古でもヘトヘトになるくらいだったぞ?

 しかも今日は本気の本気?…死なない事を祈ろう。

 いい運動にはなるかもしれないけど。

 

「それにお前、カウンターフェイクは使えるんだろ?」

 

 カウンターフェイクというのは、師匠が開発した技術の事だ。

 自身が受けたダメージを右腕に蓄積し、数倍にして放つ技―ただ、ダメージが大き過ぎると右腕が消し飛ぶ危険がある。諸刃の剣だ。

 俺も使えるが、正直に言うと使いたくはない。

 

「まあ…模倣すれば一応使えますよ。腕無くなるの嫌だからあんまし使いたくはありませんが」

「なら、そろそろ教えてもいい頃だ。師匠らしいことなんてあんまりしてなかったしな」

「はぁ…まあ、いいですけど」

 

 俺は溜息をついてそう言った。

 その反応を見た師匠は喜々として技の手解きを始めた。

 

   *   *   *

 

 口伝抜刀術。

 文字通り口伝で伝えられる抜刀術であり、型はあれど技の質は扱う人によって違う…らしい。

 

 第一番「桜波」

 

 第二番「蝉轟」

 

 第三番「紅染」

 

 第四番「雪止」

 

 終番「空景色」

 

 口伝抜刀術はこれらの型から成る抜刀術である。

 桜波は一番使い勝手がよく、スピード重視の横斬り。蝉轟は人外を相手とすることを想定されているもので、パワー重視の縦斬り。紅染は確実に殺す為のもので、斜めからの斬り捨て。雪止はテクニック重視で、回転技の入った抜刀術。空景色は桜波で抜刀し、雪止までつなげた後、縦から切り捨てる、というものである。

 

 抜刀術とはまた違うが、口伝反撃術「渡鳥」という技も師匠は伝授してくれた。反射神経を数倍に上げ、刀を構え反撃の機会を待ち、相手が攻撃してきたものにカウンターを入れるというものだ。ただし体に負荷がかかる為連発は不可能で、実際に一回やっただけで身体はまともに動かなくなった。

 

 三時間程の修練を経て、俺は大体の技を使える様にはなった。

 口伝で伝えられるため模倣が出来ず、最初は苦労したが何度も型を繰り出すうちに上達してきた。

 技を使っていて面白いのが、俺の使うものと師匠の使うものの差異だ。師匠は筋力のバランスが取れているためどの技も威力が高いが、俺は筋力があまりなく、その分スピードに特化している(らしい)。よって、「桜波」は師匠を上回る程のスピードで繰り出せるが続く「蝉轟」は過去最低の威力だと散々言われた。まあ人外を相手するなんてそうそう無いだろうけどな。

 

   *   *   *

 

「…んじゃ、最後に空景色をやってみろ。オレが受けて、その出来で合格か否かを判断するから」

「分かりました」

 

 疲れを振り払って竹刀を構え、師匠と向き合う。

 そして、俺は技を放つ。

 

 先ずは、第一番「桜波」。スピードを乗せた横斬りは今日一番の出来だった。師匠がニヤリと笑う。

 次いで、第二番「蝉轟」。パワー重視の縦切りだが俺はあえてパワーに傾かず、スピードも加えた。勢いで押し切るというやつだ。

 そして、第三番「紅染」。必ず殺す為、スピードに全振りした。斜めからの斬り捨てを師匠は危なげなく回避する。

 直ぐに、第四番「雪止」。回転技を加えた抜刀術だ。今までの中では最大のパワーで打ち込めたと思う。

 最後に縦から斬り捨てて、結とした。

 

「―終番『空景色』」

 

「―合格だ。良くやった」

 

 にっこり笑って振り返った俺は…。

 

「スーパー赤蜥蜴ナックル!」

 

 ―師匠の拳を打ち込まれ、ぶっ飛ばされた。

 

   *   *   *

 

「殴るこたァないでしょうに…ってかなんですかあの技名」

「いや、なんとなくさ。『渡鳥』はああいう時に使うんだぜ?」

「…………」

 

 俺は師匠に恨みの篭った視線を向けて、それから言った。

 

「にしても、なんで急にこんな事を?」

「特に意味はねぇよ。オレは師匠だからな、伝授するのは当然の事だろ」

「……さいで」

 

 多分、他にも意図はあるだろうけど…まあそういう事にしておこう。

 

「まあ、ありがとうございました」

「おう。じゃあお祝いも兼ねて飯でも食いに行くか」

「奢りですか?」

「割り勘だよ」

「…………」

 

 師匠は歩き出した。

 これからもずっと、その背中を追うのだろうと思いながら―俺は師匠の後について歩きだしたのだった。

 

 

 その後、ラーメン屋に向かったのだが、殴られたお返しとして師匠のラーメンに胡椒をたっぷり入れたらそれを読んでいたらしく、笑顔でラーメンに酢を入れられた。やっぱり師匠の方が一枚上手だったらしい。

 しかも、その現場をたまたまラーメン屋にいたつばめに見られ、その日の日記にこの醜い争いの事を書かれた。

 不幸だ…。

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