無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

57 / 182
#53「始まりに目を向けて」

「それで、一体何があったんだ?」

 

 夜月と茨羽は研究所で起こった事を話し終えた後、入院していたメンバーにそうきいた。

 

「…今から説明します。ふたりが研究所できいた…ドロシィとかいうヤツの目的にも関わってくる話なので」

 

 逆浪がそう言って、皆の顔を見渡す。

 二郎らの死、無銘の犠牲、攫われたつばめ…そして、ドロシィの目的。齎されたものの大きさに皆黙りこくっている。

 その中で、逆浪は話し始めた。

 夜月らが研究所で戦っている間に、何が知らされたのかを…。

 

   *   *   *

 

 喫茶店の襲撃後、病院で無銘が目を覚ました頃に遡る。

 無銘の病室のちょうど真下に位置する病室で、逆浪光はぼんやりとしていた。

 襲撃を受けた知り合いらの事が気になるが、風邪をひいてしまっているので無闇に動けない。というか軽傷だったし、家に帰ってもいいのではないかと思ったのだが、何故かそうはいかなかった。

 看護師や医者に知り合いの容態をきいても、全員が重傷だという事しか分からない。逆浪がいるのは普通の病室だが、他は個室にいるのだろう。面会も謝絶されているし、どうにもならない。とてももどかしかった。

 そんな感じでベッドの上でうごうごと蠢いていると、病室のドアが開いて霧ヶ峰勘助が入ってきた。

 

「爺…」

「体調は大丈夫か?」

 

 勘助はベッドの脇にある椅子に腰掛けながらそうきいた。

 

「俺は大丈夫だよ。だけど、皆が…」

「事情は把握している。螺鈿會にやられたらしいな」

「ああ…俺は何も出来なかったよ」

 

 逆浪は天井を見て自嘲する様に呟く。

 勘助は「そうか」と呟くだけで、フォローはしなかった。これが彼の常態なので、逆浪は特に気にしていなかった。

 

「…まさか、お前がここまで深く螺鈿會と関わるとはな」

「つばめが現れた日から、こうなる事は分かってたつもりだった。だけど、いざその時になるとこのザマだ。本当に情けねぇよ」

「…お前はそう思うかもしれないが、これはオレの責任でもある」

 

 厳しい言葉を掛けられると思っていた逆浪は、勘助のその言葉に怪訝な顔をした。

 

「どういう事だよ」

「…お前、無題奇譚を持っているんだろう。オレがもう少し早くそれを知っていれば、こんな事は起こらなかったかもしれない」

「な、なんで爺があの本の事を知っているんだ?」

 

 逆浪は驚いてそうきいた。

 勘助は無表情で、「偶然お前の部屋で見つけたんだよ」と言った。

 

「部屋の鍵くらいちゃんと掛けろ」

「そうじゃなくて…いや、そうかもしれないけどさ。なんで爺は無題奇譚の事を知っているんだよ」

「使い方までは知らないけどな。今日はその事について話す為に来たんだよ」

 

 勘助はそこで周りを見渡してから、諦めたように「本当は人が少ない所で話したかったんだがな…まあ仕方ないか」とため息混じりに言った。

 

「…光。なんでオレがお前を引き取ったのか知っているか?」

「え?それは…俺の叔父さんに頼まれたんだろ?確か、逆浪哲也とかいう…」

「その通り。哲也はオレの同僚で、何かあった時はお前を頼まれていた」

「それと無題奇譚がどう繋がるんだ?」

 

 逆浪が急かすと、勘助はそれを静止して、

 

「まあ急かすな。実はな、オレと哲也は元々公安の人間だったんだ」

「公安…って、警察!?爺、警察官だったのかよ!」

 

 声がデカいと勘助は逆浪を睨んでから、「厳密には違うが…まあそう思ってくれて構わない」と言った。

 

「オレは公安の中にある『零』という非合法組織のトップだった。今はアパートの管理人をしているがな。そしてオレ達が最後に関わった事件が、螺鈿會の殲滅…お前と美雪を救い出した時の事件だ」

 

 今から、その話をする―そう言って、勘助は椅子に座り直した。

 逆浪は唾を飲み込んでから、準備が出来た事を示す様に頷く。

 それを見た勘助は、重々しい口調で話し始めた。

 

   *   *   *

 

 九年ほど前の事だ。

 公安警察に存在する非合法組織『零』に、ふたりの協力者が加わった。

 『零』は一応公安警察の中に存在しているという事になっている。逆浪哲也巡査部長や竜堂圭一(りんどうけいいち)警部といった警察官の他、数人の協力者がいるだけの小さな組織だ。

 メンバーは全員が異能力者だが、当時はまだまだ異能への理解が浅く、まともな仕事は回ってこない為、この組織はしばしば不良警察官の島流し場所となる事が多かった。また、この組織に所属すると出世コースから外されるという噂もあり、一般の警察官からは恐れられていた。

 霧ヶ峰勘助は警察官ではないものの、協力者としてこの組織に所属していた。ある事件に巻き込まれた際に哲也に救われ、成り行きで在籍する事になったのだ。

 仕事自体はあまりないが、たまに回ってくるのは異能関係の仕事だった。それを解決しているうちに、いつの間にか勘助ありきの組織と化しており、事実上のトップとして看做されていた。一応トップは竜堂なのだが、彼はそういう事に拘りが無かったらしく、「お前がトップでいいよ」ととんでもない事を言い出す始末だった。

 変人揃いのヘンテコな組織だが、それでも勘助はこの組織を気に入っていた。

 

 ふたりの協力者が加わったのは、そんな感じで毎日を過ごしていた時だった。

 その時、『零』は螺鈿會を調査しており、今回の協力者は螺鈿會の内情を知る異能力者達だった。

 竜堂の案内で入ってきたのは、くしゃくしゃにした黒髪が特徴的な少年と、エプロンドレスを着た白髪の少女だった。ふたりとも、勘助と同じくらいの年齢の様だった。

 

「今回協力してくれるのはこのふたりだ。ふたり共、挨拶して貰っていいかな?」

 

 竜堂の言葉に、先ずは少年が名乗った。

 

「碓氷平太郎といいます。螺鈿會の調査に関わっているときいて、微力ながらお手伝いをさせていただこうと思い参上しました。よろしくお願いします」

 

 少年―平太郎がハッキリとした口調で自己紹介を終えると、次は少女が名乗った。

 

天咲繭(あまさきまゆ)です。平太郎と同じ理由で参上しました。よろしくお願いします」

 

 少女―繭が自己紹介を終えると、竜堂が「短い間になると思うけど仲良くしろよ〜」と柔らかい口調で言った。

 仲良くしろって、学校じゃあるまいし―呆れる勘助を他所に、平太郎と繭は哲也が運んできたお茶を啜っている。

 変人の巣窟に、また変な連中が入ってきたな―そんな感想を抱いた勘助は、小さくため息をついた。

 

 

 …思えば、このふたりとの出会いが、一連の出来事の端緒だった。

 逆浪光らの世代より前、勘助らの世代から物語は始まっていたのだ。

 この時点では、そんな事が分かるはずは無かったのだけれども。




当たり前ではありますが、現実の公安にはこんなヘンテコな組織は存在しません。
「この馬鹿、警察の事知らねぇ癖によくこんな組織出そうと思ったな」という冷めた目でご覧いただけると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。