無題奇譚〜Untitled tale〜 作:惰眠
全員にお茶が行き渡ったところで、繭が口火を切った。
「これから、わたし達が知っている事を全て話します。その前に、そちらが掴んでいる情報を教えて欲しいのですが…」
「ああ、無駄を省きたいという意図ね。分かった、話すよ」
竜堂は勘助と哲也に目を向ける。
ふたりが頷くと、竜堂は手元に置かれた資料を見ながら話し始めた。
「螺鈿會…異能省の長官である春風郭公が秘密裏に設立した組織で、異能持ちの子供を多数保有。異能に関する研究を行っている…噂によれば日本政府に内通者が居るからある程度の事件はもみ消せるって話だ」
異能省というのは、最近設立された行政機関で、異能関係の事柄に携わっている。
日本の異能力者のリストアップや監視、携帯型異能の管理などを行っているが、異能省には異能嫌いの人が何故か多い為、ただの無能組織と化している…というのが実情である。時の首相が異能に対して否定的な為、この様な人事になったと言われているが本当の事は分からない。
そんな異能省のトップ…春風郭公が秘密裏に異能の研究を行っているのが螺鈿會であるというのが竜堂らが掴んだ情報だった。そもそも今回の件は異能省の幹部から持ち込まれたものであり、上記の情報は全てその幹部から齎されたものである。
話をきき終わると、平太郎が事実を簡潔に訂正した。
「殆ど正解ですが、一点だけ…螺鈿會は春風郭公ではなく、天咲一族が設立した組織です」
「天咲…というと、携帯型異能を生み出した一族か?」
「ええ。五大名家の後ろ盾を得て、研究を続けています」
平太郎の言葉に、勘助は驚いた。
まさか、ここまで大きな事だったとは。
五大名家はこの国を裏から支配している権力者達だ。そんなものが関わっているとしたら、事態の大きさは自分達で何とか出来るものでは無い。
「…と言っても、五大名家は資金援助が主で、成功するか分からない研究に投資しているという感覚なのでしょう。だけど…螺鈿會は他にも同盟を結んでいる組織があります」
「他にもあるのか…」
哲也がげんなりした顔で呟く。
「神色の螺旋という宗教団体を知っていますか?」
「かみいろのねじ…?ああ、あの宗教団体の事か」
太古の昔に存在していた「魔神」の復活を目的とする宗教団体…神色の螺旋。
一見すると普通の宗教団体なのだが、幹部は全員が凄腕の異能力者であり、危険視されていた。
『零』にも幾度かこの団体に関する依頼が回って来た事があったが、どうにも掴めない組織だというのが皆の認識だった。
「あの組織と関わりがあるとか…ますますヤバそうだな」
「そういえば、哲也の親族もあの組織の幹部だったよな?」
竜堂の言葉に、哲也が顔を顰めた。
「そうですけど。俺はアイツを家族だとは思ってません」
哲也はその事についてあまり触れて欲しくないようだったので、その話はそれで終わりになった。
繭が「そちらが持つ情報は把握しました」と言って、持っていた鞄から紙の束を取り出す。
「では、こちらが持つ情報を提供します。まずこれ、螺鈿會にいる子供のリストです」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。こんなもの、何処から手に入れた?」
「…その話は後ほど。まずはご覧下さい」
繭が出したリストを、勘助達は眺めていく。
子供達は全員で五十名ほどだった。
*
『被験者リスト』
「天咲葉月」
「屑屋憂」
「
「逆浪光」
「
「春風つばめ」
「日向美雪」
「
「
「和奏
(一部抜粋)
*
リストの中には見覚えのある名前がいくつかあり、それを見る度に竜堂と哲也は顔を顰めていた。
「哲也、この逆浪って…」
「俺の…兄貴の子だ。まさか、螺鈿會にいたとは…」
勘助がきくと、哲也は深刻な表情で呟いた。
「この日向って、
竜堂がリストを見ながら呟く。
日向白亜は現職の警察官で、信也はその夫だ。更に、竜堂と信也は旧知の仲であり、彼らの娘が行方不明になっていたという話はきいていた。担当では無いため、調べるにも限度があったが…まさか、ここで繋がってくるとは。
その時、リストを見ていて気になった名前を見つけた勘助は声を上げた。
「この天咲と春風というのは?」
「天咲葉月は、螺鈿會によって『永遠に生き続ける』異能を投与された子です。今はネジに引き渡されて、防衛課の幹部…特銘幾望と名乗っているとききました」
ネジというのは神色の螺旋の通称である。
この組織には幾つかの課が存在し、殆どの課に在籍している人物は把握されているのだが、唯一、防衛課(組織の防衛に携わる課)の幹部だけはあまり表に出てこない事もあり、詳細不明のままだった。
また新しい繋がりが見つかったよと竜堂が呟く。あまり嬉しそうな顔では無かった。
「更に付け加えて言うなら…裏の世界に霧風才斗という少年が居るのを知っていますか?」
「ああ、最近頭角を現したチンピラか…彼がどうかしたのか?」
「天咲葉月は、彼の義妹にあたるようです」
「へぇ…義妹って事は、霧風は天咲の血を引いていないのか」
「そういう事になりますね」
繭は頷き、話を続ける。
「次に、春風つばめの事ですが…彼女は春風郭公の娘です。適合者が限りなく少ない『ロストアイ』という異能に適合した、唯一の存在とされています」
「実の娘にまでそんな事をしたのか…」
狂ってるなと哲也が呟いた。
「いずれにせよ、即急に何とかした方がいいだろう。子供達に実験して何が目的なのかは知らんが、知り合いの子供まで囚われてるとなれば放ってはおけん」
竜堂が腕組みしながら言う。
「螺鈿會の本部は何処にあるんだ?」
「○○県の澪標市です」
「○○県か…てっきり都内にあるのかと思っていたよ」
「秘密裏に設立した組織っていうくらいだから田舎にあるものなんじゃないか?」
哲也の言葉に、竜堂は納得した様に頷いた。
それでいいのかと勘助は思ったが口にせず。代わりに平太郎に向かってこうきいた。
「そもそも、なんでお前らはそんなに螺鈿會に詳しいんだ?」
平太郎は繭と顔を見合わせてから、勘助の方に向き直って口を開いた。
「僕も繭も、元々は螺鈿會にいました。ただ、それだけの理由ですよ」
嘘だな、と何となく感じたがやはり口にせず。勘助は「そうか」と頷いた。
「それで、どう攻める?捜査令状は…通るか怪しいし」
「螺鈿會の事を知っている人間がいるといってもこの人数ではキツイだろう。勘助はバックアップと決まっているし、俺と哲也だけでは流石に無理がある」
竜堂は難しい顔になったが、そのうち「仕方ないか」と呟いて哲也と勘助に言った。
「
「神永刑事は兎も角、蝋坂にまで協力を要請するのか?」
勘助は
蝋坂
「猫の手も借りたいって状況だ、仕方ないだろ」
「…勝手にしろ」
そう言いつつも、勘助の頭は計算を始めている。
実力が未知数である繭と平太郎をどの程度まで信頼するかという事や、蝋坂が来た場合と来なかった場合…そういった事をごちゃ混ぜにして作戦を考えている。
当然だが、もう少し情報が欲しいな、というのが感想だった。
「螺鈿會の構成員や彼らの実力について情報をくれ」
勘助が短く要求すると、繭が頷いた。
「分かりました…ただ、ひとつお願いしたい事があります」
「なんだ?」
「わたしに先陣を切らせて欲しいのです。あそこには決着をつけなければいけない相手がいるし、平太郎よりわたしの方が螺鈿會に詳しいので」
「…私情は持ち込んで欲しくないんだがな。分かった、それはアンタらの実力を見てから判断させてくれ」
「分かりました」
熱かったお茶はすっかり冷め切っている。
それとは対照的に、作戦会議はますます白熱していった。