無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#61「焦がれていたもの」

「つばめが何処にいるのかは分かるのか?」

 

 移動しながら、逆浪は暁月にそうきいた。

 

「把握はしていない。けど見当はついている」

 

 暁月は素っ気なく答える。

 じゃあ付いていけばいいやと思い、逆浪は移動に集中した。

 

   *   *   *

 

 暁月の案内で辿り着いたのは、地下に広がる牢屋だった。長い廊下の両脇に牢屋がズラリと並ぶという形になっている。

 螺鈿會にもこんなのあったなと逆浪は思い、顔を顰める。暁月はお構い無しに牢屋を覗いていき…そのうちのひとつの前で足を止めた。

 

「見つけたのか?」

 

 逆浪はその牢屋に近付き…そして、驚いて声をあげた。

 

「師匠!?」

 

 牢屋には無銘が囚われていた。逆浪の声に薄く目を開け、「光か…」と掠れた声で呟く。

 

「無事だったんですね…暁月くん、この鉄格子を破壊出来るか?」

「…そんな事より春風を探すのが先だろう」

「戦力が増えるのはいい事だぞ?」

 

 逆浪の言葉に暁月は溜息をつき、ブレードで鉄格子と無銘を拘束する鎖を斬った。

 

「助かった。それより、どうしてここに?」

「説明は後です。つばめが何処にいるのか知ってますか?」

「分からない。だけど、ここにいる筈だ」

 

 無銘は立ち上がり、牢屋から出る。

 三人は長い廊下を進みながらつばめを探した。

 

 

 数分後、逆浪が廊下の端に人影を見つけた。

 その人影は逆浪たちの方を向くと、にっこりと笑った。

 

「やっぱりここに来たんだね」

 

 その人影―ドロシィを前に、暁月と無銘が身構える。

 逆浪は初対面だったが、目の前の少女からただならぬ雰囲気を感じ取り、警戒のレベルを引き上げながらきいた。

 

「アンタがドロシィってヤツか」

「そうだよ。逆浪光くん…初めましてになるのかな?」

「そうなるな。ま、俺の人生が狂ったのはアンタのせいみたいだし、面識はなくとも因縁はあるんだよ」

「そうだね…その因縁も、今日で終わりだけど」

 

 ドロシィは自分の左にあった牢屋を見る。

 

「つばめちゃんはここにいるよ。ま、その前にあたしと戦ってもらうけど…」

 

 ドロシィがそう言った瞬間にはもう、暁月が動いていた。

 懐に入り込み、ブレードで首を跳ね飛ばそうとする。

 しかし、それは寸前で静止した。不可視の壁による防御だ。

 暁月は舌打ちをして、距離をとる。空間転移による入れ替わりも試みたが、拒絶の異能を使用しているドロシィの前では無意味な話だった。

 次いで無銘がドロシィに接近し、右手で拒絶の壁を無効化しようとする。

 だが、拒絶の出力が上回った為、これも無意味に終わった。

 しかし、無銘は諦めない。

 

「光!」

 

 逆浪は無銘の意図を察し、ドロシィに接近。左腕を振りかぶり、無銘と共にドロシィに殴り掛かった。

 拒絶の壁が僅かに揺らぐ。

 

(異能無効化を模倣したんだ。でも、意味ないよね)

 

 ドロシィは更に出力を上げ、防御を崩さない。

 クソッタレと逆浪は呟く。目の前にいる花車な少女がバケモノである事を実感しながら、それでも拳をぶつけていく。

 その時、暁月が低い声で呟いた。

 

「……な」

「なに?もっと大きな声で言わないときこえな―」

 

「邪魔を、するな…!」

 

 瞬間。

 その場にあった全ての異能が強制的に無効化された。

 

「おっと…痛った」

 

 逆浪と無銘の拳を咄嗟に腕でガードし、ドロシィは痛みに顔を顰めた。

 

(これ、暁月くんの能力?こんなに強力な無効化も使えるんだ)

 

 厄介だなぁとドロシィは呟く。作者権限が使えないのであれば自分はただの少女に過ぎない。

 すぐさま暁月はドロシィの脇をすり抜け、つばめの牢の前まで至った。

 つばめは気を失っている。無銘とは違い、拘束はされていないようだった。

 暁月は鉄格子を切断し、つばめを肩に担いで牢屋から出た。

 暁月自身は現実改変の事は把握していなかったが、この状態がどのくらい続くかを無意識に把握していた。

 

「走れ!」

 

 逆浪と無銘にそう叫び、暁月はドロシィの横をすり抜けて廊下を疾走する。

 ドロシィは去っていく三人を追わなかったが、その口元には笑みが浮かんでいた。

 

   *   *   *

 

 つばめを救出した三人は、暁月が自室としていた部屋に入った。

 机とベッド、そして部屋の中央に棺桶があるだけで、白い壁紙だけの殺風景な部屋に、逆浪が顔を顰める。

 

「俺、こんな所で過ごしたら発狂しそう」

「お前の部屋も似たようなものだろ」

 

 無銘のツッコミに、「流石にこんなんじゃないっすよ」と反論する逆浪。

 暁月はふたりの会話を意に介さず、棺桶の蓋を開けた。

 中には、イアが眠っていた。暁月は彼女を愛おしそうに見ると、肩に担いでいたつばめを下ろし、躰を揺すって起こした。

 つばめがぼんやりと目を開け、「ここは…?」と呟く。

 

「つばめちゃん、大丈夫か?」

「無銘さん…逆浪さんも、どうしてここに…」

「説明は後だ。いきなりで悪いが、能力を使ってくれないか?」

 

 逆浪が手短に事情を説明する。

 きいているうちに意識がはっきりしてきたのか、つばめは「わかりました」と頷いた。

 

「イアさんをロストアイで見て、その光景を思い浮かべればいいんですね?」

「ああ。その後に『こういう風に改変したい』って思えば大丈夫な筈だ」

 

 つばめは頷き、無題奇譚を受け取ってからイアを見て、能力を発動する。

 瞬間、つばめの脳内にある光景が映し出された。

 永遠に空から落ち続けている、イアの姿だった。

 つばめはそれを見て思わず叫びそうになったが、それを堪え、脳内で強く思った。

 

『イアさんがこうなった事を、無かった事にしたい』

 

 本につばめの願いが書き込まれる。

 無題奇譚は光り出し、そして……。

 

   *   *   *

 

 暁月夜桜は閉じていた目を開ける。

 目の前には、ずっと焦がれていた存在がいた。

 

「…暁月くん」

「…イア」

 

 暁月はイアに近付き、その頬に触れる。

 あたたかい。本物のイアだ。

 

「ごめん…遅くなって、本当にごめん…」

「大丈夫だよ…私は大丈夫」

 

 抱き合うふたりを他所に、逆浪が「あれ?」と声を上げる。

 

「無かった事になってるのに、記憶があるのか」

「はい…何だか変な気分です」

 

 イアは涙を零す暁月を、優しく抱きしめる。

 

「イアさん…オレたちからも謝らせてくれ。すまなかった」

 

 無銘が頭を下げる。イアは「気にしないで下さい…」と優しく微笑み、それからきいた。

 

「ところで、ここは…?」

「ああ、その事なんだが…」

 

 逆浪が言いかけた、その瞬間の事だった。

 

 

 ―風切り音と共に、逆浪の首が切断された。

 

 

「……え?」

 

 信じられないという表情を浮かべたまま、逆浪の首が転がる。次いで、躰が血溜まりの中に崩れ落ちた。

 それを見たつばめとイアが悲鳴を上げた。

 

「逆浪さん!」

「光…って、まさか!」

 

 無銘が部屋の入口に目を向けると、そこにはドロシィとあとふたり…屑屋憂と木野葉月が立っていた。ドロシィは作者権限により霧風才斗の能力を使用し、逆浪の首を風の刃で切り落としたのだ。

 

「完全に気配消してたから気付かなかったでしょ。これでおあいこだね」

 

 ドロシィはつばめに目を向ける。空間把握と転移により、つばめと無題奇譚を回収しようとしたのだ。

 しかし、それと同時に暁月も能力を発動。つばめは暁月の元に移動し、無題奇譚はドロシィの手に渡っていた。

 

「ありゃ。まあいいか…ここで全員殺すし」

 

 ドロシィの目が妖しく光る。

 それを見て、無銘と暁月が身構えた。

 

「…さあ、第二ラウンドの始まりだよ?」

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