無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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#73「罪と罰」

「……な、なんでつばめちゃんが」

 

 無銘は驚いて、掠れた声で呟いた。

 つばめは亜美たちと一緒に転移した筈。それなのにつばめだけがこの場所にいて、しかも意識を失った状態で神知に抱えられているという状況は異様だった。

 

「あ?たまたま転移したのが見えたから追い付いて攫ってきただけだ」

 

 神知はぶっきらぼうに答えたが、やっている事は並大抵の事ではない。亜美の転移と行き先を察知し、追い付いてつばめを攫うとは……。

 いや、そんな事よりも……

 

「……なら、亜美たちはどうなったんだ!」

「知らねぇよそんな事。適当にぶん殴ったから気絶してんじゃねぇの?」

「……っ、テメェ……!」

 

 無銘は立ち上がろうと藻掻くが、躰は動かなかった。

 その様子を見ていたドロシィは微笑み、神知と春風に言った。

 

「お疲れ様、ふたりとも。早速だけど、その子を渡してもらってもいいかな?」

 

 ドロシィは神知がすんなりとつばめを渡すと思っていた。

 だが、神知は思いもよらない行動をとった。

 

「嫌だね」

 

 瞬間、空間掌握が発動される気配を覚え……気付くと、無題奇譚が神知の手元にあった。

 予想とは大幅に異なる展開に、ドロシィの頭が真っ白になる。

 

「え……ちょっと、どういうつもり?」

 

 辛うじてそれだけを絞り出したドロシィに、神知は何言ってんだコイツという表情を向けた。

 

「見て分からねぇのか?お前がこの本とロストアイを使う必要はねぇって事だよ」

「神知、貴様、何を……」

 

 驚いた様子の春風が神知から無題奇譚を奪い取ろうとする。しかしその時には神知の姿はなく、無銘の近くに転移していた。

 

「よぉ赤坂。いきなりで悪いが、テメェの異能無効化をこの本に使え。じゃねぇとこのガキぶっ殺すぞ」

「お前……どういうつもりだ……?」

「この本ぶっ壊すんだよ。いいから出力上げまくれ」

 

 いきなりの展開に、無銘や茨羽も困惑していた。

 神知の意図は分からない。だが、つばめを人質に取られている以上、従わざるを得ない。

 無銘は無題奇譚に右手を乗せ、出力を最大まで上げる。

 同時に神知も異能無効化を発動し、出力を限界まで上げた。

 その光景を見て、ドロシィが慌てた様子で叫んだ。

 

「ま、待って!なんであなたがそんな事するの!?」

「気が変わったんだよ。いいからそこで見てろ」

 

 神知がドロシィと春風に手を翳すと、ふたりの躰が動かなくなった。予想と異なる展開になった事で、ドロシィも対応出来なかったようだった。

 そうしているうちに、無題奇譚の本が白い光を放ち始めた。

 異能無効化……言葉にすれば単純な力だが、それは異能ならば、神が創り上げた機構(システム)だとしても殺す事が出来る力である。そんな力を高出力でぶつけられた事により、無題奇譚の本はあっという間に崩壊し……そして、消滅した。

 

「あ……ああ……」

 

 ドロシィは絶句した。

 自分が作り上げた、世界をハリボテにして思いのままに操れる力が……あっけなく消え去った。

 感情が荒れ狂い、暴走しそうになる。しかし何とか制御する事が出来た。

 まだ、まだ終わりじゃない。時間こそ掛かるが、無題奇譚は何度だって創り出す事が出来る。重要なのは、ロストアイの器……春風つばめだ。

 

「その子を渡して!」

 

 やっとの事で拘束を振り解き、ドロシィは神知に襲い掛かる。

 持てる力全てを駆使して神知を終わらせようと試みたが……神知も全く同じ力を持っており、しかも戦闘は自分より手馴れている。勝ち目は薄かった。

 

「そう来なくっちゃ面白くねぇよな!」

 

 神知は嬉々としてドロシィを迎撃した。

 様々な異能が飛び交う。最初は互角かのように思われたが、次第に神知が押し始めた。

 ドロシィは作者権限がなければただの子供に過ぎない。対して神知は様々な修羅場を潜り、最強の異能力者ともいえる存在となった男だ。当然、異能の使い方はドロシィより知っている。ドロシィは防戦一方になっていき、そして……

 

「うあっ!」

 

 一瞬の隙を突かれ、ドロシィの躰が両断された。

 治癒の異能により直ぐに再生するが、その時間すら命とりとなる。神知は様々な拘束系の異能を駆使し、ドロシィを完全に固定する事に成功した。

 

「お前はそこで見てろ。まあ、まだ死なれちゃ困るから殺さねぇけど」

 

 言って、神知は後ろから攻撃してきた春風の攻撃を見ずに躱した。

 

鈍臭(どんくせ)ぇな……んな攻撃が当たるわけねぇだろ」

 

 神知は斬鉄の異能を使用し、振り向きざまに春風の腹部を貫く。

 春風がガクリと崩れ落ちるのを見てから、抱えていたつばめの頬を叩いた。

 

「起きろクソガキ」

 

 その痛みで、つばめは目を薄く開いた。直ぐに状況を把握したらしく、目を見開いてじたばたと暴れる。

 

「暴れても無駄だっての。それよりほら、見てみろよコレ」

 

 神知はつばめの頭を掴み、周りを見せた。

 倒れた仲間たちを見て、つばめの顔が驚愕と絶望に染まる。

 

「分かるか?コレ全部、お前がいたからこそ起きた事なんだよ」

「……!よせ神知!やめろ!」

 

 意識をギリギリの所で保っていた茨羽が叫んだ。しかし神知は意に介する様子も無く、愉快そうに続けた。

 

「今回の事だけじゃねぇ。これまでにお前らが関わってきた事件は、お前がいたから起きたんだよ。つまりお前はこの世界に存在しちゃいけねぇ人間だって事だ」

「そんな…私のせいで、みんなが…」

 

 つばめは目を見開き、躰を震わせる。

 神知の言葉が毒のように染み渡り、つばめを侵していった。

 

「自覚したか?お前は罪人なんだよ。んでもって罪人には……罰が必要だよな?」

「やめろって言ってんだろうが!」

 

 怒りが新たなエネルギーを生み出す。

 無銘と茨羽は何とか身を起こし、神知に突進した。

 しかし、手負いの状態で敵う相手ではない。神知はめんどくさそうに顔を顰めると、無数の銃を召喚して一斉に発砲した。

 絶望的な数の銃弾が襲い掛かる。茨羽の焔や無銘の無効化でも相殺出来ない程の数だった。ふたりは躰中を貫かれ、血を撒き散らしながら地面に崩れ落ちた。

 

「無銘さん!茨羽さん!」

 

 つばめが悲鳴を上げ、激しく暴れる。

 それを抑えながら、神知は忌々しそうに言った。

 

「そこで見てろ。もうすぐで終わるからよ」

 

 神知は再びつばめに話し掛けた。

 

「ま、こんな感じでテメェがいるだけで他人が不幸になっていく訳だが……別に俺はテメェを断罪しようとか思っている訳じゃねぇ。どうでもいい事だしな」

 

 決めるのは、アイツだよ―そう言って、神知は森の方へと視線を移した。

 誰かがこちらへと歩いてくる。生気を失った、フラフラとした歩き方だった。

 その人物は、つばめがよく見慣れた人物だった。

 

「逆浪さん……」

 

 逆浪光は濁った目をこちらに向けた。心無しか、その目の奥に何か禍々しい輝きがあるように思えて、つばめは小さな悲鳴を上げた。

 

「どうするか決めたか?逆浪」

「………」

 

 逆浪は何も言わず、神知の横までやってくる。

 そして、

 

「きゃっ!」

 

 つばめを神知から奪い取り、彼女にのしかかって動きを制限した。

 

「光……お前……!」

「まさか……よせ!つばめちゃんは何も悪くないだろうが!」

 

 明らかに正気でない逆浪の行動を見て、無銘と茨羽がハッとなる。躰に力を入れ、無理矢理にでも立ち上がろうとしたが、躰は言う事をきかなかった。

 逆浪の手には、いつの間にか二本のナイフが握られている。銀色の輝きが、つばめの網膜に焼き付いた。

 逆浪はつばめの耳に顔を寄せると、何かを囁く。

 それをきいたつばめは目を見開き……絶望の表情を浮かべた。

 すかさず逆浪はナイフを振り上げ……

 

「…………すまない、つばめ」

 

 一切の躊躇なく、つばめの両目を抉り取った。

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