無題奇譚〜Untitled tale〜   作:惰眠

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今回からヒロインのひとりである夢羽に焦点を当てた話となります。


#9「誰が為の事件」―越月夢羽の章― 

 泊亮一(とまりりょういち)が「それ」を目撃したのは、路地裏での事だった。

 近道をしようとして通った路地裏。そこに、赤ら顔の男が倒れていた。単なる酔っ払いかと思い、とりあえず起こそうとして近付いてみる。然し、そこで違和感に気付いた。

 男は、目を開けたまま倒れていた。何かを見て驚いたかの様に目を見開き、そのまま固まっている。口元に手を当てると息はあるし、心臓も動いている。ただ、それ以外の行動は全て停止していた。

 妥当な言葉が見つからないが―例えるならば、()()()()()というところだろうか。

 常識を超えた出来事に亮一は固まったが、異常事態が起こっている事は理解出来た。なので直ぐ警察と救急車を呼んだ。

 そして、知る事になる。

 

 この「石化現象」が、町のあちこちで起こっているという事を―。

 

   *   *   *

 

 越月夢羽は皿洗いを終え、カウンターに座ってうつらうつらとしていた。

 つい先程客入りのピークは超えた。暫くは客も来ないだろうと判断して、普段は見せない疲れを見せているという訳だ。窓際には黒猫が一匹居て、こちらも日向ぼっこをしながら目を閉じている。

 適度な疲労感が心地好い。このまま寝てしまおうか―そう思った矢先、

 

「光!居るか!」

 

 ドアが開き、少しはね気味の黒髪と右目に付けた白い眼帯が特徴的な少年―泊亮一が入って来た。

 

「きゃっ!」

 

 夢羽はビクリと跳ねてカウンターから顔をあげる。

 

「ど、どうしたの亮一さん…」

「あ、マスター…寝てたところ悪いんだが、光が来てないか?」

「光さん?来てないけど…」

「ここにも居ないのかよ…携帯鳴らしても出ねぇし…」

 

 亮一はいらただしげに頭を掻き毟る。その時、窓際から新たな声がした。

 

「逆浪くんは多忙なのよ。聞いた事無いの?『自己犠牲の英雄』や茨羽巧未、それに有名な不良の源夜月とつるんでいるって話」

 

 その声に亮一は嫌そうな顔をして、窓際を見た。

 

「…居たのかよ、ちとせ」

「さっきから居たわよ?」

 

 先程まで猫が居た所に、一人の少女が座っていた。彼女は亮一のクラスメートで、名前は高凪(たかなぎ)ちとせ。逆浪の名前が出た事から推測出来る事ではあるが、二人共彼の友人であり、異能力者でもあった。

 

「まぁ、噂は聞いているが、アイツがそんな有名人と居るわけ…」

 

 亮一が言いかけた瞬間、またドアが開き、逆浪達いつものメンバーが入って来た。

 

「あれ、亮一じゃねぇか」

「ひ、光…その人達は…」

 

 亮一は開いた口が塞がらないといった様子だった。

 

「ほらね、本当でしょう?」

 

 ちとせの言葉に、亮一はため息をついた。それから逆浪達を見て深々と頭を下げた。

 

「…お願いです、力を貸して下さい」

『……は?』

 

 …いきなりの事に全員が困惑したのは言うまでもない。

 

   *   *   *

 

「…つまり、君は今世間を騒がしている『人間石化事件』に行き遭ったと…」

「…はい」

 

 亮一の説明を聞いた一同は顔を見合せ、コイツになら話しても問題無いという結論に至った。

 代表して茨羽が言う。

 

「実は俺達もその事件を調べていたんだ。君が事件に巻き込まれていて、なおかつ光の友人だというなら…協力は惜しまないよ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 亮一はまた深々と頭を下げた。茨羽は逆浪に「説明してやってくれ」と言うと注文していた珈琲を一口飲んだ。

 

「分かりました。まず、ここに居る茨羽先輩は警察にちょっとした影響力があるらしい。だから今から言う事は警察の操作状況って事になるな」

「わかった」

「被害者の状態についてはお前が知っている通りだ。石みたいに固まってるが最低限の生命活動はしている。で、被害者はこれまでに六人出ている。共通点は特に見つかっていない…らしい。被疑者も未だ不明。どっかの異能力者の仕業だろうけどな」

「なるほど…」

 

 亮一は腕組みをした。状況を聞いただけでは何も分からない。

 その時、破砕音がした。見ると夢羽がグラスを取り落としている。その顔は真っ青だった。

 

「夢羽ちゃん?」

「どうした、大丈夫か?」

「は、はい…」

 

 夢羽は弱々しく頷いた。一体どうしたというのだろうと全員が不安になった。

 …その答えは、すぐに分かる事となる。

 

 いきなりドアが荒々しく開いたかと思うと、スーツを着こなした男が二人、店内に入ってきた。全員が緊張感を装着し、身構える。

 

「あー、越月夢羽さんですか?」

 

 男のうちの片方―年配の男が夢羽を見てきく。

 

「そ、そうですが…」

「私達、こういうものなんですけどねぇ…」

 

 そう言って二人が取り出したのは―警察手帳。全員の緊張感がさらに高まる。

 

「警察がこんな所に何の用だ?」

 夜月が鋭い目をしながら低い声で問う。それに年配の刑事― 榎田(えのきだ)が薄らと笑みを浮かべ、答えた。

 

「単刀直入に言いましょう…越月夢羽さん。あなたを殺人未遂の疑いで逮捕します」

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