無題奇譚〜Untitled tale〜 作:惰眠
近道をしようとして通った路地裏。そこに、赤ら顔の男が倒れていた。単なる酔っ払いかと思い、とりあえず起こそうとして近付いてみる。然し、そこで違和感に気付いた。
男は、目を開けたまま倒れていた。何かを見て驚いたかの様に目を見開き、そのまま固まっている。口元に手を当てると息はあるし、心臓も動いている。ただ、それ以外の行動は全て停止していた。
妥当な言葉が見つからないが―例えるならば、
常識を超えた出来事に亮一は固まったが、異常事態が起こっている事は理解出来た。なので直ぐ警察と救急車を呼んだ。
そして、知る事になる。
この「石化現象」が、町のあちこちで起こっているという事を―。
* * *
越月夢羽は皿洗いを終え、カウンターに座ってうつらうつらとしていた。
つい先程客入りのピークは超えた。暫くは客も来ないだろうと判断して、普段は見せない疲れを見せているという訳だ。窓際には黒猫が一匹居て、こちらも日向ぼっこをしながら目を閉じている。
適度な疲労感が心地好い。このまま寝てしまおうか―そう思った矢先、
「光!居るか!」
ドアが開き、少しはね気味の黒髪と右目に付けた白い眼帯が特徴的な少年―泊亮一が入って来た。
「きゃっ!」
夢羽はビクリと跳ねてカウンターから顔をあげる。
「ど、どうしたの亮一さん…」
「あ、マスター…寝てたところ悪いんだが、光が来てないか?」
「光さん?来てないけど…」
「ここにも居ないのかよ…携帯鳴らしても出ねぇし…」
亮一はいらただしげに頭を掻き毟る。その時、窓際から新たな声がした。
「逆浪くんは多忙なのよ。聞いた事無いの?『自己犠牲の英雄』や茨羽巧未、それに有名な不良の源夜月とつるんでいるって話」
その声に亮一は嫌そうな顔をして、窓際を見た。
「…居たのかよ、ちとせ」
「さっきから居たわよ?」
先程まで猫が居た所に、一人の少女が座っていた。彼女は亮一のクラスメートで、名前は
「まぁ、噂は聞いているが、アイツがそんな有名人と居るわけ…」
亮一が言いかけた瞬間、またドアが開き、逆浪達いつものメンバーが入って来た。
「あれ、亮一じゃねぇか」
「ひ、光…その人達は…」
亮一は開いた口が塞がらないといった様子だった。
「ほらね、本当でしょう?」
ちとせの言葉に、亮一はため息をついた。それから逆浪達を見て深々と頭を下げた。
「…お願いです、力を貸して下さい」
『……は?』
…いきなりの事に全員が困惑したのは言うまでもない。
* * *
「…つまり、君は今世間を騒がしている『人間石化事件』に行き遭ったと…」
「…はい」
亮一の説明を聞いた一同は顔を見合せ、コイツになら話しても問題無いという結論に至った。
代表して茨羽が言う。
「実は俺達もその事件を調べていたんだ。君が事件に巻き込まれていて、なおかつ光の友人だというなら…協力は惜しまないよ」
「あ、ありがとうございます!」
亮一はまた深々と頭を下げた。茨羽は逆浪に「説明してやってくれ」と言うと注文していた珈琲を一口飲んだ。
「分かりました。まず、ここに居る茨羽先輩は警察にちょっとした影響力があるらしい。だから今から言う事は警察の操作状況って事になるな」
「わかった」
「被害者の状態についてはお前が知っている通りだ。石みたいに固まってるが最低限の生命活動はしている。で、被害者はこれまでに六人出ている。共通点は特に見つかっていない…らしい。被疑者も未だ不明。どっかの異能力者の仕業だろうけどな」
「なるほど…」
亮一は腕組みをした。状況を聞いただけでは何も分からない。
その時、破砕音がした。見ると夢羽がグラスを取り落としている。その顔は真っ青だった。
「夢羽ちゃん?」
「どうした、大丈夫か?」
「は、はい…」
夢羽は弱々しく頷いた。一体どうしたというのだろうと全員が不安になった。
…その答えは、すぐに分かる事となる。
いきなりドアが荒々しく開いたかと思うと、スーツを着こなした男が二人、店内に入ってきた。全員が緊張感を装着し、身構える。
「あー、越月夢羽さんですか?」
男のうちの片方―年配の男が夢羽を見てきく。
「そ、そうですが…」
「私達、こういうものなんですけどねぇ…」
そう言って二人が取り出したのは―警察手帳。全員の緊張感がさらに高まる。
「警察がこんな所に何の用だ?」
夜月が鋭い目をしながら低い声で問う。それに年配の刑事―
「単刀直入に言いましょう…越月夢羽さん。あなたを殺人未遂の疑いで逮捕します」