第二回イベントが終わったマテリアルは、しばらく第二層攻略の戦線から離脱していた。その理由は
「今行きます!」
バイトの激化であった。ようやくバイトの面接の通知が来て、一週目。週5というかなり多い部類にシフトを入れてもらったおかげで、収入は多いのだがその分、疲労も大きくなってしまっている。そのため、ここ1週間近くはログインができていない。
とあるファミレスの夕刻、しかも休日ということもあり混雑している。新人のマテリアルも、バイト経験はカンストしているくらいにあるので慣れた手付きで客の元へと向かう。何故こんなに転々としているのだろう?まあ、働きすぎでクビになるという変わった始末を受けているのが雪村である。あと、ついでにコミュ力不足も含まれている。
「ま、言われたことをやるだけなんだけれど」
そんなことを呟いていると、高校生くらいの話し声が聞こえる。
「でさー、ここのダンジョンがすごく難しくて」
「あー、あの一つ目の怪物が出るやつか。攻略法がまだアップされてないやつな」
どうやらNWOの話をしているようだ。雪村には一瞬でわかった。もう既に廃人に片足を突っ込んでいるようなものなのだから。
(ん?待てよ。良いこと思いついてしまったかもしれない。)
どうやら良いこと?を思いついてしまったようだ。
〜〜〜
「ただいま、NWO。」
実に1週間ぶりである。マテリアルの目標はただ一つ。3週間後に控えた第三回イベントだ。
「情報はまだ入ってないけど、噂だとドロップとかのイベントらしいな。」
次のイベント内容について掲示板で少し話題になっていた。バトロワ、探索ときて次はモンスターの撃破関連だろうという予想がメジャーだった。そうなるとも限らないのだが
「そんなことより、とっとと潜るか。」
周回はレベル上げの基本、マテリアルのレベルは50とトップクラスなのだが1週間も休んだおかげで少し出遅れている。
「【身体装甲】風 そよ風」
襲いかかってくるモンスターを軽く吹き飛ばす。身体装甲の使い方にも慣れてきたようで切り替えも消費MPも最短でできるようになっている。まあ、莫大な時間をかけたのだが
「うーん、レベルが上がり悩んできた。」
ボス戦を幾度か周回してもどうもレベルが上がらない。レベルが上がりにくくなったと思ってしまうのはレベルの急速な上がりすぎによるものだろう。
第二回イベントでは強敵と戦ったおかげでその分レベルが上がりやすかった。しかし、そんな敵はなかなか出てきてはくれない。
「あー、ダメだ。飽きてきた」
同じ作業をすることはあまり苦ではないマテリアルも収穫のなさに音をあげてしまう。そこで決めた。
「気分転換に散歩でもしよう」
NWOは通常通りにプレイするのも良いが景色も見所だ。思わず息を呑んでしまう風景がいくつもある。
しばらくして
「………どうしてこうなった。」
マテリアルは二層にいた。しかし、少しぼーっとしているうちに一層、しかも始まりの街にまで戻ってしまったのだ。公園のベンチでコーヒーを飲むというゲーム内では奇行に走っている。
「まあ、いいか。急いでるわけでもないし。」
と、のんびりと散策しようとしたマテリアルの近くに誰かが寄ってきた。
「すみません、パーティーに入れてもらえませんか?」
小さな女の子だった。見たところ初期装備で初心者と言ったところだろうか。
マテリアルは周りを少し眺めて、誰もいないことを確認して、自分に話しかけてくることに気づく。まさか自分に話しかけてくるプレイヤーがいるとは思ってはいなかったのだから。
「…どうかしました?」
年下の女の子にすらコミュ力不足を露呈させるほど、マテリアルのプライドは廃れてはいない。一瞬で頭をフル回転させて状況を立て直した。
「あの、パーティーに入れて欲しいんです。」
2回目、マテリアルよ、これ以上同じことを言わせるんじゃない。
そんなことは置いておいて、マテリアルはどこからどう見たってソロプレイヤーだ。パーティーのパの字も存在しない。初心者という線が濃厚になった。まあ、マテリアルも何かを待っている様子をしているのだけれど
「良いですよ、でもパーティーは組んでないので1人だけなのですが」
「え、良いんですか」
ダメ元で聞いてみたようだった。マテリアルの暇人そうな行動が彼女の勇気を奮い立たせたのだ。
「はい、ちょうど気分転換してたところだったので」
「あの、すみません。妹を呼んでくるので」
「はい、お好きにどうぞ」
初心者が1人増えようと大した差ではない。と、ここでマテリアルの脳裏によぎったのはいつも現れる嫌な予感だ。
「もしかして、妹が3人くらいいるパターンだったり…」
と、呟いたマテリアル。偉いぞ、これでフラグは壊された。
まあ、驚くのは変わんないけど
「ほんと!?お姉ちゃん、パーティーに入れてもらったの」
「うん、だから一緒に行こう」
「すみません、お待たせしました」
二人は背の高さと顔と武器が完全に一致していた。誰もが双子という第一印象を持つだろう姿だった。
「双子、ですか。」
「はい、もしかして嫌ですか?」
いや、双子だったら嫌って何だよ。超極度の集合体恐怖症か何かですか。
「いえ、お構いなく。では、そこらのダンジョンにでも潜りましょうか。」
マテリアルには一層に来たのはただぼーっとしていたからではない。ちゃんと目的もあった。ただそれが少し速くなっただけである。
「え、いきなりダンジョンなんて…足を引っ張っちゃうかもしれませんけど」
「まずは簡単なクエストから始めさせてもらってもいいですか?」
「んー、まあいいですよ。」
と言いつつ、思いっきりダンジョンに潜っていくマテリアルであった。初心者の二人には流石に気付かれていない。
「ステータスの振り方はどんな感じです?」
「私もお姉ちゃんもSTR極振りです」
極振りが流行ったのは他の誰でもない、メイプルが原因だ。ゲーム初心者にも関わらず、第一回イベントでは第3位という輝かしい成績を上げた彼女は大きな注目を集めた。そして、その大きな特徴の極振りというのが急激に流行ってしまったのだ。
まあ、大体のプレイヤーは途中で諦めてしまう。バランスが悪すぎるのだ。ステータスというのはどれも重要で、何かに偏らせてしまうと確実に何かが圧倒的に足りなくなってしまう。それをなんとかする実力やスキルがあれば話は別になるのだが。それができたのがメイプルというわけでみんなができたわけではない。
とにかく、極振りにしただけで勝てるほど簡単なゲームではないということだ。運営もきっちり仕事をしていることがはっきりわかる。
「了解しました、ではサポートは任せてください。」
正直、レベル1だったとしても極振りであればマテリアルのステータスは超えることができる。参考に、レベル1のときのメイプルのVITは100で、現在のレベル50のマテリアルは装備込みで100に満たない。HPを含めればマテリアルの方が硬いかも知れないがSTRでは話は別だ。
「え…でも」
「大丈夫です、サポートはしますから。」
軽く微笑むマテリアルを信じてくれたのか、二人は前に出る。襲ってくるモンスターに勇猛果敢に突撃するも避けられてしまった。
モンスターのお返しの攻撃が二人を襲うが
「【結界】」
マテリアルの発動させた結界によっていとも容易く防がれる。
「二撃目、お願いします」
合図と共に二人は同時にモンスターへ攻撃を再開する。またもや避けられるかと思われたが
「【結界】」
結界に閉じ込められたモンスターは結界ごと破った二人の攻撃によって倒される。
結界は一撃なら攻撃を耐え切れるので敵を閉じ込めることにも満足できるほどの万能スキルである。マテリアルが気づいたのはついさっきではあったのだが…。
「やったー、倒せた」
二人は声をあげて喜んでいるうちに
「っと、次行きますよ」
既に山のようにモンスターを片付けたマテリアルの姿が、その奥にあった。
「は、はい」
若干、いやかなり引かれている。
〈しばらくして〉
「ふぅ、やっとここまで来れた。」
初心者の連れのカバーということで、いつもよりも時間がかかってしまうマテリアルだがこれはこれで新鮮で二人が喜ぶところを見ると少し嬉しかったようだ。
というか、何故かボス部屋の前に来ても違和感に気づかないようだ。本人ですらいつもの流れとして感覚が麻痺してしまっている様子
「じゃ、行きましょう」
勢いのままにボス部屋に入る。
「私達、足手纏いになりませんか?」
「はい、火力はお二人の方が出ますからね。逆にここのボスだったら少し楽ですよ。」
怒号と共に現れたのは、マテリアルが初めて戦ったボス、鎧竜の登場である。
「えぇ、こんな強そうな相手」
「大丈夫、指示通りに動いてくれたらすぐに終わりますから。」
「は、はい!わかりました」
速やかに作戦を伝えると、鎧竜が攻撃を始める。鱗を飛ばしてくるあの攻撃だ。
「今ならもう余裕で防げるよ」
結界を鎧竜の周りに張って攻撃を無力化する。それに続いて、マテリアルの攻撃も始まる。やけになったのか、鎧竜は飛ばす量を増やすも減るのは自身のHPと VITのみ。すぐに輝き始めた。
「じゃ、ここからはお願い。」
「「はい!!」」
二人の元気の良い返事と同時に鎧竜は動き出す。しかし、どこかにぶつかっているのだろうか、動きが不自然だ。
「既にフィールドはこっちのもの。部屋中に【結界】を張ったから動く場所は制限されてる。」
仮に結界を破かれたとしても、マテリアルが結界を張り直す方が鎧竜が攻撃する速度よりも上回るため、どうしようも無く作られた道を走り続ける。
しかし、一向にマテリアルに近づかない。鎧竜もそれに気づいたようで遠距離攻撃を始めようと、その場に立ち止まり構えて魔力を貯める。
「今だ!」
マテリアルが叫んだ。それと同時に二人は鎧竜の左右から攻撃を始める。マテリアルのみに集中してしまったいたせいだろうか、鎧竜に攻撃がもろに届く。
当然耐えられるわけもなく、鎧竜は消えていった。
「では、また会いましょう」
こうして、マテリアルの原点回帰は終わったのであった。
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ここまではおまけ、本編に入ろう。
「【結界】 【身体装甲】風 風刃」
第三回イベントの内容をざっくり説明すると牛を倒すだけのイベントだ。
そして、このイベントはかなりマテリアルに有利であった。理由は大まかに2点ほどあるのだがそれは追々説明するとしよう。
「もらったー」
プレイヤーが牛に斬りかかる。何かを斬った感触があった。しかし、牛は倒れていない。
「すみません、ここら一帯はもらったので」
「え?」
プレイヤーはマテリアルが何を言っているのか理解できずに、マテリアルは飛び去ってしまった。
プレイヤーが攻撃したのは結界だった。これは、牛が逃走しないようにするための檻というのが主目的だったが他プレイヤーの横取り(場合によってはマテリアル側もそっちに含まれるのだが)を防ぐことにも役立たれた。
結界は並のプレイヤーじゃ破壊できるものではない。
「【結界】は強度関連はMP消費するけど、大きさは決まってないんだよね」
ここぞとばかりに裏技を発揮させて圧倒するマテリアル。次のメンテナンスが来るまで結界の仕様が変わることはないだろう。開始数時間で成果は既に5桁を回っている。
良かったな、マテリアル。これでトッププレイヤーの仲間入りだ。
「【探知】」
フィールドで牛の多い区画を確認する。
「いや、そこは無理か。」
誰かはわからないがレベルがかなり高いプレイヤーが密集している。密集といっても、1平方キロメールに何人かみたいな感じなのだが
「こっちが空いてるかな」
牛の数とプレイヤーの数が少ないところに行けばほぼ確実にうまくいく。マテリアルの邪魔をされない限り数は訳も分からないくらいのペースで増えていく。
探索型やバトロワ以上に【探知】が役に立つ。
「風刃」
同じ技になってしまうがかなり凄まじい威力となった風刃が更に牛を貫く。ドロップ数はどんどん上がる。理論上、マテリアルの成果は鰻登りになる…しかし、そんなにうまくはいかない。MP切れだ。
「まだまだ、この日のためにいくつMPポーション手に入れたと思っているんだ」
半端ない数の周回を繰り返したマテリアルにMP切れを狙うのはほぼ不可能だ。少なくとも、一対一の時にMP切れで勝つというのはないだろう。
「この分なら……イベント終了まで保つ。」
しっかりとMP管理をしつつ、一心不乱に狩り続ける。
しばらくして
「こんなもんか、今日は打ち切ろう」
個人で断トツで一位にのし上がったマテリアル、イベント終了までには6桁後半が見えてくる結果だ。
〈イベント最終日〉
「光剣」
輝く小さな刃が牛の集団に突き刺さる。
「こんな感じかな。」
二位とは倍近く差をつけたマテリアルは胸を撫で下ろす。イベント終了まであと3時間だ。
「もう少し、あと少しで何かが掴める気がする。」
イベントの1週間を通して、マテリアルは何かの勘を掴み始めていた。それが何なのかまだ何もわからないけれど。
「まだ、まだ」
そのとき、マテリアルの装備にヒビが割れ砕け落ちる。
「痛て、どうなって」
マテリアルは自身の装備を確認するも、見えるのは半分くらい、いやそれ以上に壊れてしまった鎧だっだ。
「……どうしたものか。」
マテリアルは装備ができてから身体装甲を装備に付与していた。そのため
「まずい。この状況からどう脱しよう」
牛に囲まれた、いつもの借りを返そうと言わんばかりの目でこちらを睨んでくる。
1匹の突進と共に、一斉にマテリアルに走ってくる。
「【結界】」
問題はない、結界さえあればそこら辺のモンスターに負けることはない。
「うーん、防戦一方?」
攻撃は身体装甲頼りだったのでイマイチ決め手にかける。
「【結界】」
結界を剣の形に作り出し、両手に握る。
「はぁ、はぁ…なんとか倒せた。」
最近は遠距離攻撃のみだったので近距離戦闘が鈍っていた。しかし、軽い運動でしっかりと取り戻せたようだ。
「それより、どうしよう」
壊れた装備を一先ずインベントリに入れて悩んだ。
「まずは、イズさんのところに行かなきゃ」
装備を作ってくれた本人のところへ頼みに行くことにしたようだ。
「…意外と遠かった。」
探知を頼りに歩いてきたためにかなり時間がかかってしまった。
怒られるのは省いておきましょう。
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「……すみません。」
俯くマテリアルにイズも同情する。残念ながら怒られはしなかったようだ。
「まあ、しょうがない部分もあるわ。できる限りは尽くす、けどすごい時間がかかるから覚悟しておきなさい。」
「はい、直るならいつまでだって待ちます。」
「うーん、この分だと1ヶ月くらいかかるかもしれないわね」
ということは、第四回イベントには間に合わないということを意味していた。
「はい、わかりました。」
「あら、案外落ち込まないのね」
「くよくよしてたって何にも変わりませんから。三層も間近なので後ろばっかり見てても何も始まりませんし」
「でも、【身体装甲】なくて平気なの?装備に付与していたんでしょ?」
「【身体装甲】しか取り柄がないと思ってもらっては困ります。それくらい自力でなんとかしますよ。ではまた来ます。」
「気をつけてね」
イズに心配させないように言ったものの、身体装甲を失ったマテリアルはかなりの戦力が削がれてしまったことに変わりない。
「まぁ、代替手段があるだけまだ良い方か。」
マテリアルには固有スキルの結界がある。身体装甲の創生物よりかは精度は落ちるものの、戦えないわけではないくらいのポテンシャルを保有している。
「よし、やってやる」
新たに強い決意を固めたマテリアルであった。
第三回イベントはぶっちぎりの一位のマテリアル。注目度が上がりました。おめでとう
Lv.55
HP 240/240 +100
MP 212/212 +25
STR 42 +10
VIT 42
AGI 42 +15
DEX 42
INT 42 +10
スキル
【探知】【結界】【天邪鬼】【絶対防御】
作 「やれやれ、ちゃんと装備の点検しないからこんなことになるんだ。猛省しな」
マ 「はい、改めて【身体装甲】がなかったら何もできないって痛感しました。」
作 「まあいいや、どう足掻くかが楽しみだ。」
マ 「この人性格悪い」
作 「聞こえてぞ、あとよく言われる。」
マ 「わざと言ったんですよ。」
作 (次回もっと酷い目に遭わせようかな)