そこに立っていたのは本人(メイプル)であった。
「えっと、3位おめでとうございます。落とし物ならありませんよ?」
先程までのことは忘れて素直にメイプルの入賞を祝った。マテリアル自身はかなり順位に後悔があるようだがそれは置いておいて。ここに来るような理由は皆目検討がつかないようなのだが
「教えて欲しくて」
教えて欲しい、マテリアルは戦闘中にメイプルが驚いていた毒竜の剣のことを思い出した。
「これ、ですか?」
再度、剣を作り出す。一度作り出したものは次に作る時には更に効率良く作り出せるようになる。使えば使うほど強くなるスキル、それが【身体装甲】だ。
「わー、本当に作り出せるんだ!ってそうじゃなくって」
再度、驚きを隠せないメイプルであったがどうやらそれが主目的ではなかったようだ。マテリアルは少し考えながら
「もしかして、勝ったから何か欲しいってことですか。良いものは持ってませんよ。スキルの譲渡なんてできないでしょうし。」
マテリアルが持っている珍しいものといえば〈魔除けの指輪〉くらいである。今回は役に立たなかったもののかなり珍しい代物である。
「ぶ、物騒なこと考えるね。そうでもなくって」
「じゃあ…」
〈しばらくして〉
マテリアルが考えついたことをいくつか話してみるがことごとく違うと言われる。降参して答えを聞くと
「フレンド登録、してもらってもいいかな?」
マテリアルは、なるほど、と斜め上のことを言われたかのように納得しているが普通はもっと早く気付くものである。むしろ、なぜゲーム内で落し物をすると思ったのだろうか。これも、極貧生活の影響で周りと話す機会が少なかったことによる弊害であった。
ここで、マテリアルはもちろん
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
と言ってフレンド登録をした。普通は断る理由なんてない。しない理由があるとするのならば、マテリアルの気分が相当悪くもうトップランカーの顔なんて見たくない時なのだがそれほど酷くはなかったようだ。素直に結果を受け入れている。
「あ、少しお聞きしてもよろしいですか?」
マテリアルが珍しく口を開く。
「敬語なんて使わなくていいのに。」
メイプルが少し不満そうに言うが
「敬語を使う機会が多くて…。そのうちタメで話せるようになると思うのでお気になさらず。」
バイトによる弊害で大抵の人は年上なので必然的に敬語を使わざるを得なくなってしまう。なお、学校ではほとんど口を開かないためそれがなおさら悪化してしまった。
「うん、わかった。で、聞きたいことって?」
「言いたくないなら言わなくても良いのですけど、どうしてそんなにVITが高いんですか?最後の攻撃はかなり自信があったのですが。」
最後の攻撃はマテリアルの1番火力が出せるタイミングでしかもそれでいてメイプルの完全な隙をついた完璧な一撃だった。思わず、やったかと口に出してしまうほどに。しかし、そんな攻撃を耐え切るどころかノーダメージというショッキングな結果となった理由が知りたかったのだ。
「えっと、私のVITってスキルとか合わせて4桁超えそうなんだよね。」
「………あー、なるほど。」
マテリアルは少しフリーズしたのち、思いっきり棒読みで返事をした。
「信じてないよね。」
マテリアルの半信半疑の様子がわかったのか、自分でも信じてもらえないと思っていたのか、不満気に言う。
「バレました?」
と、取り繕うこともなく言う。そもそも、声に隠す気が伺えない。仕方のないことだろう。自分よりも2桁違う数値があると言われたのだから。
「えっと、このスキルとこのスキルでステータスが倍になってて。あと、装備でも増えるから……」
と、メイプルは何気なく自身のスキルや装備の手の内を明かす。マテリアルの方はなるほどと頷きながら聞いているのだが
「いや、ちょっと待ってください。これってそんなに気軽に喋っていいものなんですか?」
少しした後に気づくマテリアル。コミュ力はなくてもほとんどの一般常識は持ち合わせている。
メイプルは思い出した、友人が言っていたことを。そして
「あ……今のはなかったことにできないかな?」
顔にはなんとも言えない笑みが残っている。取り返しのつかないことをしてしまったようだ。
「忘れられたら良いんですけどね。」
申し訳なさそうに言うが、どうしようもないことだってある。かなり印象深い話だったので記憶から完全に削除することは難しいだろう。
しばらく沈黙が続いた中、口を開いたマテリアルは
「じゃあ、こうしましょう。次のイベント、メイプルさんのお手伝いをさせていただく。これでチャラってことになりませんか?」
一つ、提案を出す。聞いてしまった分の働きはしてあげたい親切心8割と、あわよくばメイプルのプレーを盗ませてもらおうという邪心2割の一言である。
「は、はい、もちろん。むしろ私からお願いしたいくらい」
少し変わった提案に驚くメイプルであったが、その方が楽しそうだと言い、快く了承した。そして、2人の話し合いはそのままお開きとなった。
「さて、足りないものがわかったかもしれない。あいにく、条件は既に揃っているから試してみるか。」
そう口にしたマテリアルは静かに目的地へと向かうのであった。
数日後
〈現実世界にて〉
朝
「何か良いことあったのかなっ!」
とある教室で、白峯理沙が本条楓に話しかける。
「べ、別に何でもない!」
理沙は楓についにゲームが解禁されたことを伝える。
どうやら一緒にゲームをするために楓はNWOをプレイしていたようで待ち侘びていた言葉であった。理沙とそのまま話していると楓がゲームの今までのことの経緯を話す。そして、困ったことに昨日の失敗談を思わず口に出してしまった。
「へぇ、そうなんだ。でも優しそうな人でよかったね。っていうか、そもそも楓の情報聞いても使えそうなところないでしょ。」
「ほ、ほんとだ。」
理沙に指摘されるまで、自分がさも普通のプレイヤーであると思っていた楓であったが認識を正され、納得してしまったようだ。
「その子も大盾使いとかじゃない限り真似ができないんじゃないかな。だって、なんかもう楓専用みたいになってるし」
「じゃ、じゃあ言ったのは間違いじゃなかったってことかな?協力してくれるって言ってくれたし。むしろ良かったんじゃ」
話を聞き、楽観的になる楓だったが
「いや、そういうわけでもないかな。普通だったら、その子が自分のスキルとか言えばいいと思わない?」
「た、確かに。でもどうしてそんなに回りくどいことを言ったんだろう?」
疑問に思う楓であったが、理沙はすぐに何かを思いつく。
「楓から盗めるところがないか探ろうとしてるんじゃないかな。」
「盗む!?」
聞き慣れない言葉に驚き、教室内に大声を出してしまう楓。周りからの視線を一気に集めてしまった。
「そんなに大声出さないでよ。」
理沙が少し恥ずかしそうに言う。
「うぅ、だってぇ」
涙目になりながら更に恥ずかしそうに話す。少しして落ち着いた頃
「で、さっきのはどういうことなの?」
「あー、楓が持ってる道具を奪うんじゃなくって多分だけどプレイヤースキルとか見て学ぼうとしてるんだと思う。ほら、楓プレイヤースキルとは違うけどかなり独特でしょ?だから近くにいたらその恩恵がもらえるかもしれないって思ったんじゃないかな」
筋道が立つ理沙の説明に納得する楓。続けて理沙は
「今からでもその予定なしって言える?」
「ううん、無理だよ。約束しちゃったし。善意で言ってくれてるだけかもしれないよ?」
「そうなんだよね。でも、本当にそれはないと思うんだけどなぁ」
疑い深くマテリアルを考える理沙であった。信用されずに可哀想に。まあ、会ったことないから仕方のないことなのだが。
「それより、そのイベント、私とも一緒に行動してくれるよね?」
「うん、もちろん。3人で行動しよっか。そっちの方が効率良く進められそうだし。」
「そうだね、でも怪しかったら切るからね。いい?」
「うん、わかった。」
「ハクション 誰かに噂でもされてるのかな。いや、そんなわけないか。」
少し怖い話をされていることも知らず、今日も一日頑張ろうとする雪村であった。
〈ゲームの中で〉
「『すみません、次のイベントの話なんで私の友達も一緒のパーティーに入れてもらって良いですか?』送信っと。よし、理沙まだかなぁ」
理沙が初期設定をしている最中にマテリアルにメッセージを送るメイプルであった。
〜〜〜
「よし、もう一周。」
そのマテリアルは目前に迫った二層の攻略と約束のイベントのためにレベル上げとスキル集めをしていた。
周回によってレベルを上げつつ、めぼしいスキルを探していた。
「うーん、これじゃあないかな。なかなかあたりのスキルが見当たらない。次までには間に合わないかな。念のため対策はしておきたいんだけど、逃げればいいか。」
なお、第一回イベントでメイプルに一対一で負けたと思っているのはマテリアル本人のみであり、他の誰もが引き分けと認識しているのはまた別の話。もし何かしらの影響でメイプルが敵となった時の対策をしているようだ。
「メイプルさんには申し訳ないけど、念には念を入れておかないと危険だからね。ん?メッセージだ。噂をすればってやつか。」
先程メイプルが送ったメッセージが届いたようだ。マテリアルの反応は
「『もちろん、大丈夫ですよ。』これでいいかな。別に人数が一人増えたところで困ることはないでしょう。それに、メイプルさんの友達ってだけでかなり期待しちゃう。おっと、こういうのは失礼だからやめとこう。それより、続きをやるか。」
その後、すぐに戦闘に戻るマテリアルであった。
作 「周回お疲れ様…って帰ってこないんだが。かなり長引いてるみたい。まあいいや、今回はこのままやることにしよう。」
メ 「えっと、ここはどこだろ?」
作 (え、なんでメイプルが来てるんだよ)
メ 「すみません、ここに行きたいんですけど」
作 「あ、はい。そこへは確か…」
(なんだ、ただの迷子か。とっとと案内して戻ってもらわなきゃ困る。)
メ 「ありがとうございました、こっちが二層への道でそっちがイズさんのお店へ行く方法ですね。さようなら」
作 (あ、やべ。次回の進路言われた。)
「次回は二層に行って装備揃えます。マテリアル、ちゃんと注文できるかな?」