二層進出
二層が解放された当日、もちろんマテリアルはログインしていた。
「確かここ、だな。」
マテリアルは二層へとつながるダンジョンの目の前に立っていた。運営の地図にしか頼っていないため、若干の方向音痴であるマテリアルは不安だったが予告で発表されていた見た目と一緒だったので迷わず入ることに決めたようだ。
「ボスを倒せばいいらしいね。成長した具合を見るチャンスだ。周回やってると感覚が麻痺して良くわからなくなるからなぁ。」
イベントが終わってから今日まではかなり集中してレベル上げをしていた。だが、マテリアルの辺りからレベルが上がりにくくなる。そのため、一層の敵では満足できないように思えてきたのでマテリアルは真っ先にこの場所に来た。
次から次へと現れるモンスターたちを剣の一撃で仕留めていく辺り、マテリアル自身もかなり力がついていることに気がつく。
「良い調子、【探知】で敵の居場所がわかるのが本当に便利。奇襲受けないだけでダメージが通らないし。ん?」
曲がり角を曲がると目の前に現れたのは熊である。
「中ボスかな?」
マテリアルが構えを取り、一旦様子を見る。始めたばかりの頃は驚いて挙動不審になってしまっていたのだがかなり慣れてきたようだ。
熊がその太い腕をブンッと振ると、爪の形の白いエフェクトが飛んでくる。
「【身体装甲】鋼」
マテリアルは瞬く間に装備を切り替え、熊の攻撃を受け切る。
「これくらいならノーダメージ。では、こちらの番」
【結界】と併用しているがためにダメージを完璧に抑えることができたのである。攻めの方はというと、熊の反応する間も与えず目の前の懐に潜り込む。そして剣が熊を貫き、見事に四等分していく。
「よし、この姿もなかなかに動きやすくなってきた。経験が物を言うかも。」
そして、すぐ奥にボス部屋へと続くであろう大扉があった。マテリアルは迷わずにその大扉を開けて中に入る。
天井の高い広い部屋で奥行きがあり、一番奥には大樹がそびえ立っている。
「天井がかなり高い、これなら上からの攻撃もできるかな。」
大樹がメキメキと音を立てて変形し、巨大な鹿になってゆく。
樹木が変形して出来た角には青々とした木の葉が茂り、赤く煌めく林檎が実っている。
樹木で出来た体を一度震わせると大地を踏みしめ、睨みつける。
「さて、ボスのお出ましか。中ボスは熊だったのにボスは草食動物の鹿でいいのか。いや、関係ないか。見たところ大樹だっただけに燃やせばいいと思うのは普通かな?」
そういうと、イベント後に手に入れた炎の姿になる。
現在のステータス
Lv.40
HP 238/240
MP 192/212
STR 70
VIT 35
AGI 35
DEX 35
INT 35
装備
【右手】火炎の斧
鹿が地面を踏み鳴らすと魔法陣が輝き、何本もの巨大な蔓が次々に地面を突き破って現れ、マテリアルを襲う。
「燃え上がれ!」
マテリアルが叫ぶとかざした斧から炎が湧き上がり、
蔓を燃やし、そのまま鹿に襲いかかる。現れた炎の勢いは止まることを知らず、部屋中に広がる。
「ちょっと暑い。でも、終わったようだ。」
火が鹿に燃え移り、あっという間に灰色のエフェクトに変化してしまった。
「なんか、あっけなかったなぁ。」
開始数分でボス戦を終わらせてしまったマテリアル、しかし、力試しはしっかりできたようであった。
かくして、マテリアルの二層への入場権を手に入れたのであった。
「よし、早速行かせてもらおうか。」
二層が解放されてすぐにログインしたため、まだまだ気力の残っているマテリアル、勢いのまま二層を探索することに決めたようである。
「やっぱり、一層よりかはモンスターの強さも上がるか。ボスモンスターがどれほどの強さか楽しみだなぁ。でも、やっぱりしばらく潜ってると装備もかなりボロボロになっちゃうか。」
トップクラスのプレイヤーは、大体ユニーク装備で、それはほとんどボス戦後にドロップされる。数多くのダンジョンを回っていたマテリアルであったが、何故か一つもユニーク装備や有用そうなアイテムはドロップできずにいた。
マテリアルの装備は市販で安く売っているものでそのため一日に一回ほど買い替えなくてはならない強度だった。これを辞めるとなると、生産職の人から買うことくらいしか方法は残っていない。
ボロボロの装備を見てマテリアルはとある決心をしたようだ。
「そろそろ装備、買ってみようかな。」
何度にもよる破壊と交換の末、決意したことであった。しかし、これはマテリアルにとっての大きな壁となるのである。
「えっと、どこで買えるんだろう?」
マテリアルはログイン中はほとんどダンジョンにおり、街にいるときはほぼないに等しい。あるとしてもログインやログアウトするときくらいだ。
まずここでどの店に行けば良いか迷ってしまう。
「テキトーにおすすめに出たところにでも行くか。」
マテリアルはマップを取り出し、一番近い店に行くことに決めたようだ。
「一番近いのは、イズ工房?」
当然、知っているわけもなく軽くマップを見ながら目的地へと向かう。
「…あった。ここかな?」
そしてここでも問題が起こる。マテリアルのコミュ力は異常なまでに乏しい。バイトやゲーム内での戦闘時には普通に話せるようだが、こういった必要不可欠でないことでの会話は何故か弱いのだ。
「いや、装備は必要なものだ。」
そう自分に言い聞かせて、ドアを開き中へ入る。
「失礼します。」
「いらっしゃい。初めまして、よね?」
中には女の人が一人カウンター越しに作業をしていた。
「はい、そうですね。初めまして。」
お店には現在誰も来店客はいなかったようでマテリアルに店主はマテリアルに集中する。
マテリアルはゆっくり、整理しながら一つずつ話していく。
「私の名前はイズ。見ての通り生産職で、その中でも鍛冶を専門にしてるわ。」
「マテリアルって言います。よろしくお願いします。」
「見たところ、武器は持っていないみたいだけど」
側から見ればマテリアルは武器のない、しかも戦闘時ではない時はほとんど初期装備のままでただの初心者である。
「あ、そ、その武器は要らなくて」
ゲーム内で人と話していないことがかなり響く。また、自分のことを客観的に見てくれる人がいなかったがために気にしていなかったことを指摘される。
咄嗟に口に出すが、イズは不思議そうに、それでいて何かを察したかのように話を進める。
「わかったわ、だったらどんな装備が欲しいか教えてもらえるかしら?」
マテリアルは持っていた装備を取り出し、
「これよりも良い装備って作れませんか?」
「ちょっと待ってて、ふむふむ、この装備はどこで手に入れたの?」
「えっと、市販です」
「そう、これよりいい装備くらいなら何だって作れるわ。」
確かにこれは専門店に行って100均グッズよりも良い製品をくださいと言っているようなものだ。
「じゃあ、これで作れるものをお願いします。」
所持金から適当に出すと
「!? これ、本当に使って良いの?」
出した額はなんと五千万ゴールドであった。
「もしかして、足りないですか?」
マテリアルはこの界隈の相場がわからないがために、少し多めに出したつもりだったのだがと疑問に思う。
「そんなことないわ、これなら大体の装備は作れるわよ。でも、こんなに出していいの、困らない?」
「はい、どうせ使う宛てなんてないでしょうし。」
と、遠い目でマテリアルは言うと
「良いわよ、これで私の最高傑作作らせてもらうわ。期限はいつまでが良いかしら?」
自信ありげなイズの姿に少し安心したマテリアル。
「だったら、第二回イベントの前日にお願いします。それで大丈夫ですか?」
「前日で本当にいいの?もっと早くできないわけでもないわよ?」
「はい、お忙しいでしょうし。当日にでも間に合えばいいですよ。たとえ気に入らない装備だったとしても今までよりかは絶対に使えますから。」
と、安心させようと言ったのだが
「満足させる装備、期待してて」
かえって火をつけてしまったのかもしれないマテリアルであった。さすが、言っていいことと悪いことの区別が微妙すぎる。
〈イベント直前緊急メンテナンス〉
「まさか、イベント2週間前に緊急メンテナンスが入るだなんて。思いもしなかったな。」
自室のパソコンからメンテナンス内容を確認する。
貧乏生活なのにパソコンを持ってるのは親の形見ということにしてある。そのため、少々古い。
ログイン中だったマテリアルの元に突然現れた通知が届いたときは本当に驚いていた。
「えっと、メンテ内容を軽く要約すると一部スキルの弱体化とフィールドモンスターのAI強化か。他には、
防御力貫通攻撃スキルの実装と、それに伴い痛みの軽減…少し確認してみるか。」
次に開いたのは自分のページだ。そこにはステータスやスキルに関する情報が載っている。
マテリアルが持っているスキルのうち、弱体化したものは
なかった。
そもそも、マテリアルがイベント前までに保有していたスキルを並べてみよう。
【探知】 【結界】 【天邪鬼】 【身体装甲】
【探知】は確かに優秀なスキルだ。しかし、それは敵やプレイヤーの居場所や動きを大まかに見れるだけでゲームバランスが壊れるほどの問題はない。そもそも戦闘専用スキルですらない。そのため、便利だが弱体化はされなかった。
次に【結界】だ。このスキルはこのゲーム内で使えるのがマテリアルだけのオリジナルスキルだ。そして、ゲーム内で【結界】を見たことがあるプレイヤーはマテリアル以外存在しない。そのため、どれほどの強さは未知数だ。そもそも、わざわざ運営と話し合って決めたのだから易々と変えられてもらっては困るのだ。
【天邪鬼】は使ったことすらないのでどうしようも無い。むしろ、自身のステータスすら弱体化させてしまうかもしれないので変える必要性が見当たらない。
【身体装甲】はマテリアルが最も多く使ったスキルだ。この中で一番活躍したスキルでもある。マテリアルの生命線であり、有用それでいて使いやすい。何故弱体化されなかったのだろう?
「その理由は一つ、大した功績を挙げていないからだ。」
このことはマテリアル自身が最も良く分かっていた。
そう、功績を挙げていないのだ‼︎‼︎‼︎‼︎
第一回イベントの順位は11位、運営から報酬をもらえて、プレイヤー達から注目されたのは10位までであり1位のマテリアルはほとんど見向きもされなかった。
さて、日本一大きな山は富士山だ。2番目に大きい山は北岳で3番目は奥穂高岳と間ノ岳が並ぶ。ここまでなら知っていたとしてもそこまで可笑しくはない。さて、11番目に高い山はどこだ?
前穂高岳、飛騨山脈にある山の一つだ。さて、この山を一般アンケートで聞いてみたら何人が答えられるだろう?地元の人や山マニアくらいしか知らないだろう。
というわけで、マテリアルの評価はゼロ。あったとしても、最後のメイプル戦くらいでマニアックな人なら見るだろう。しかも、レベル差と【身体装甲】でなんとかしていたくらいでほかに目を見張るものもない。ここまで何も言われないと逆に悲しくなってくる。現に、マテリアルは重傷だ。まあ、かといって注目されたとて緊張で倒れるだろうけれど。
「はっはっはー、これ以上取るものなんてないもんな。」
このまま小一時間が経過した。やはり重傷である。
「さて、気も済んだしイベントも近いんだ。さっさとログインをしよう。あれ、おかしいな。目が霞んでよく見えないな。」
軽く目から汗でも出ていたのだろう。このままではいたずらに時間を無駄にしてしまうだけなのでさっきの情報について考え直すことにした。
「確か、フィールドモンスターの強化と防御貫通スキルも実装されるんだったっけ?フィールドモンスターってことはボスは強くならないのかな?良くわからないや。で、問題があるのは防御貫通スキルだ。」
防御貫通スキル、すなわちいくらVITが高くても少なからずダメージが通るかもしれないのだ。
「ってことはメイプルさんにも攻撃が通るってことか。敵なときはいいんだけど味方の時に少し惜しいかな。一長一短かな。」
もちろん、マテリアルもそれを習得するであろう。対メイプルのときだけでなくとも、防御の高いモンスターが出てくることは目に見える。習得することに損はしないだろう。マテリアルはオールラウンドなプレイヤーなのでいまいち火力が足りないことだってある。現在対策をしている最中なのだが、それは置いておいて。
「よしっ、行くか。」
気持ちを切り替えて、フィールドへ向かうマテリアルであった。
〈約2週間後 第2回イベント前日〉
イズ工房にて
店の看板にOpenの標識があることを確認して中へ入る。
「こんにちは」
「あら、いらっしゃい。お待ちかねの装備はできているわよ。」
イズはマテリアルが来たことを確認すると店の奥から装備を持ってくる。
【魔人の鎧】
全ステータス30上昇(HP,MPも含む)
【魔人の籠手】
全ステータス10上昇(HP,MPも含む)
【魔人の脚甲】
全ステータス10上昇(HP,MPも含む)
「あら、似合ってるじゃない」
黒と紫を基調としたその鎧は不気味な雰囲気を醸し出している。至る所に棘のような凸凹がありもう内外ともに近付き難いと言えよう。
「それって褒め言葉ですか?」
「ええ、もちろん褒めてるわよ。」
それはそれでと複雑な心境になるマテリアルなのだが
「見た目はともかく、性能はいいから」
気持ちを汲み取ったのか話題を変えようとするイズ。マテリアルも試してみたくなったようで
「では、少し試させていただきます。【身体装甲】鋼」
鎧の上からさらに鋼が重なってもう一段階ゴツくなる。
「…重そうね」
「そんなことないですよ。とても動きやすいです。」
嘘である。社会経験を通したマテリアルの判断としては社交辞令が身体に染み付いているがために無意識に言ってしまうようである。
「そう、なら良かったわ。次のイベントも頑張ってね」
「はい、ありがとうございます。」
返事をするとそそくさと店を出る。
「もう少しSTRあげるべきかな…」
再びステータスに思い悩むマテリアルであった。
Lv.40
HP 290/290
MP 262/262
STR 35+50
VIT 35+50
AGI 35+50
DEX 35+50
INT 35+50
装備
頭 【空欄】
体 【魔人の鎧】
右手 【魔人の籠手】
左手 【魔人の籠手】
足 【魔人の脚甲】
靴 【頑丈な長靴】 破壊不能
装飾品 【魔除けの指輪】
スキル
【探知】【結界】【身体装甲】【天邪鬼】【絶対防御】
作 「はい、次回は第二回イベント。マテリアルは満足の行く結果を出せるのでしょうか?」
マ 「多分大丈夫です、何せメイプルさんがついてますから。それに、そのお友達さんもいますし。」
作 (その友達お前の首狙うかもなんだが)
マ 「きっとご期待に添える結果を出せるでしょう」
作 「ああ、そう願ってるよ。」
(本当に大丈夫か?コミュ力なしでトラブルとか起こさないよな?)
マ 「そういえば待ち合わせ決めてなかった。」
作 「マジで大丈夫?どこか抜けてる二人が組んでも結局抜けてると思うんだが。」