3人はあれからしばらく歩き、山岳地帯の中腹に差しあったっていた。日は既に傾いていて、夕焼けで赤く染まった空が綺麗だ。
襲いかかってきたモンスターは全て3人であっという間に始末した。とはいっても、ほとんど前のボス戦で温存されていたマテリアルが倒したのだが
「マテリアル、他のプレイヤーが出てきたらどうする?」
サリーがマテリアルに聞く。
「相手の出方次第です。攻撃してきそうなら倒す。敵意がないなら無視、場合によっては共闘でもしましょうかね。」
「ふーん、やっぱりお人好しなだけかな?」
サリーは小声で言ったのでマテリアルは聞き取れなかった。まだ完全な信用が得たわけではないようだ。
「2人とも、待ってー」
メイプルが少し離れたところから叫ぶ。
「「あ、」」
メイプルのステータスの振り方は防御特化なのでAGIは0だ。その分、歩くペースにも差が出てしまうようで気をつけないと2人は置いていってしまうほどだ。
「うーん、何か良い策はないものでしょうか。」
「メイプルを背負って進むとか?」
そんなことを話しながらようやく山頂に着く。日はすっかり落ちて夜空には星が輝いている。しかし、残念ながらゆっくりと見ている暇などない。
山頂には転移ができる魔法陣があった。既に何度も見ているためすぐにわかった。
3人がその魔法陣に近づこうとしたその時。
3人が登って来た方とは逆側から、プレイヤーが4人登って来た。
大剣、大盾、魔法使い二人のパーティーだ。
向こうもメイプル達に気付いたようで3人の方を見る。PvPを覚悟したサリーとマテリアルだったが、そうはならなかった。
「あっ!…クロムさん!」
「おっ?……メイプルか…ここで会うとは思わなかったな……ああ、俺達に戦闘の意思は無い。勝てるとも思わないしな」
そう言ってクロム達が武器をしまって、両手を上げてみせる。
メイプルの知り合いのようで、敵意はないようだ。
それに呼応するようにマテリアルも武器をしまう。しかし、警戒は怠らないようだ。
「私も戦いたく無いです。……いいよね、サリー?」
「まあ、そうだね。私達も浪費はしたくないし…警戒しておくに越したことは無いけど…多分大丈夫…かな?」
「問題ないかと、最悪人数差も大きくないので」
この後に続く言葉は問題なく始末できるかと、だ。敵意が無くて助かった。
【探知】によって相手のステータスを伺うマテリアル、レベルはメイプルよりも上だが問題ないと判断したようだ。
「それで…ここはどうするの?どっちかしか報酬は貰えないんじゃない?」
サリーの言うことはもっともで、クロムかメイプルのどちらかが先に入ることになり、もし攻略に成功した場合はダンジョンの報酬はなくなってしまうかもしれない。
メイプルはしばらく思案し話し出した。
「ごめん、2人とも。今回はクロムさん達に譲ってもいい?」
「私はメイプルが言うならいいけど、マテリアルは」
「構いませんよ、まだ時間は山程ありますし。」
マテリアルの計画では順調のようで余裕があるらしい。
「うん……分かった!……じゃあ、どうぞ先に行って下さい!」
メイプルはクロム達に向かって言う。
「い、いいのか?こういうのは普通早い者勝ちだと思うが…」
「いいんです!私の気が変わらないうちに行った方がいいですよ。」
メイプルがそう言うとクロムは礼を言って魔法陣に乗って消えていった。
クロムたちが行ってからマテリアルが口を開く。
「さて、どうします?移動でもしますか」
「うーん、戦ってるなら負けるかもしれないし…スキルも温存したんだから待ってみる?」
「サリーさん、失礼ですよ。仮にも10位以内の方なのですから。」
自分が11位であるがために一応自分よりも強いと考えているようだ。クロムをみくびるというのはすなわちマテリアルもみくびっていることとなる。
そんな考えとは裏腹に魔法陣が再び輝きを取り戻した。再侵入可能の印だ。
「「「えっ!?」」」
3人が驚く。クロム達が入ってからまだ一分程しか経っていない。予想外の速さだ。
「入場したと同時に即死レベルの攻撃が来たか、それともボスモンスターのステータスが異常だったか…もしくはその両方」
マテリアルの推察と共にそのまま沈黙が続く。
「で、どうするの?行く?」
重い空気からサリーが口を開く。
「私は、行きたい。この先に何があったのか確認したい。」
メイプルは強い決意を抱いて言う。
「じゃ、行きましょうか。準備をしましょう。」
マテリアルも賛成したようで装備の確認をし始める。
全員、装備に異常はないようだ。
「取り敢えず、入ったらすぐに私が大盾を構えるから後ろに隠れて」
「了解。それでその後は私が斬りかかる。さっきみたいに【カバームーブ】で援護をお願い。マテリアルは後衛でサポートを。」
「はい、了解しました。」
3人はその後も二十分程話し合うと、立ち上がり魔法陣に向かった。
「よし!いこう」
「うん!」
そして、転移と共に3人の姿は光となって消えていった。
3人がたどり着いた場所は広い、円形の部屋だった。予想していた先制攻撃はなく、ひとまず胸を撫で下ろす。
空からは雪が降り始めた。奥には鳥の巣があり、遠いためよくは見えないが何かがおいてある。宝箱か何かだろうか。
「おっけー……分かった。絶対鳥型のボスが来る。【大海】は使えないかも」
「どうする?鳥の巣に近づいてみる?」
「警戒を怠らずに、落ち着いて。」
2人は鳥の巣に近づき、マテリアルは戦う準備がてら周囲を【探知】で確認し始める。
「二人とも!伏せて」
その時上空から轟音と共に、何かが高速で広間に撃ち込まれた。
「【結界】!」
3人を襲ったのは鋭い氷の礫、それに続いて雪のような白の翼を持った怪鳥が急降下してくる。
ギラついた目に鋭い嘴と爪、強者の持つ風格をその身に纏い怪鳥は広間に降り立った。
「では、作戦通り。【身体装甲】光 光の爆発」
怪鳥が動くごとに光の攻撃が続くがそのダメージは微々たるものだった。
「ま、ダメージ目的じゃないからいいんですが」
部屋のサイドが崩れて瓦礫が怪鳥の両翼を抑える。
「ナイス、マテリアル。【ウィンドカッター】」
サリーは【超加速】で駆け出し、怪鳥に一撃を喰らわせる。
「嘘、」
確かに、サリーの攻撃は見事に怪鳥に直撃した。しかし、やはりダメージが通らない。そして、怪鳥はようやく動き出し、魔法陣を展開する。
「【カバームーブ】!」
「ありがと、メイプル。」
「うん、でもこれじゃ」
「いてて、どうしたものか、」
氷の攻撃の余波がマテリアルまで届いており、ダメージがひびく。
「マテリアル、プランβで」
サリーがそう叫ぶと
「了解! 【身体装甲】炎 火炎の斧 猛撃の豪炎」
マテリアルは静かに頷いた。そして、斧を振りかざし怪鳥に炎が降り掛かる。
プランβは当初の作戦とは違いマテリアルが前衛に出て負荷をかけ、メイプルが守り、サリーがその補佐をするというものだ。しかし、これはかなり短期決戦を目指した形となる。マテリアルのMPは有限だ。
当然、怪鳥が一方的にやられるわけなく反撃をし始める。
「【カバームーブ】!」
間一髪のところでメイプルが【悪食】で一撃を防ぐ。
「ありがとうございます、助かりました。」
強力な一撃を放ったことにより、少しの間が生まれる。その隙をサリーは見逃さなかった。
「【大海】!」
怪鳥の背中を起点にして水が広がる。
それは一瞬にして怪鳥に染み込んだ。
怪鳥が怒りの声と共に暴れ始めた時にはサリーはもう飛び退いていた。
怪鳥の速度が落ちる。
「【毒竜】!」
速度の落ちた怪鳥が至近距離のその攻撃を交わすことが出来るはずも無く、HPバーがさらに減少する。
「【ダブルスラッシュ】!【ファイアボール】!」
メイプルがインファイトで怪鳥を削る。
サリーがヒットアンドアウェイで麻痺毒を入れつつチャンスを伺う。
「【ゴブリンキングサーベル】に切り替え。炎属性を付与、熱光斬!」
マテリアルも連続で攻撃をしかける。その一撃は、2人が作ったチャンスを生かしたものだった。熱と光で辺りが眩しく輝く。
怪鳥のHPバーが7割を切った。
その時。
怪鳥が3人から距離を取り、地面にその爪を深く差し込む。
その嘴が大きく開かれ、メイプル達の倍ほどはありそうな魔法陣が広がる。
全員が本能でこの後の危険を察知した。
「【カバームーブ】!【カバー】!」
メイプルが叫んだ直後。
3人の視界全てを白銀のレーザーが埋め尽くした。
「はぁ、はぁ。」
メイプルが悪食を使ってなんとか一撃を凌いだ。が、
「メイプル、【悪食】は残り2回だよ」
「うん、わかってる。」
もうあと2回この攻撃が続けば攻撃を防ぎきれずにやられる。それは、半分以上HPを残した怪鳥を目の前にしたメイプル達にはかなり苦しいことであった。
「ここから先は任せてください。」
「「え?」」
マテリアルは【結界】を何度も重ねて2人を閉じ込める。
「ちょっと、どういうこと」
サリーがマテリアルに尋ねる、声には力がこもっている。
「言った通りですよ、ここから先は一人でやるのでそこで待っててください。」
「一人でなんて、無理だよ。みんなで戦おう」
マテリアルはメイプルの言葉を無視して怪鳥の方へ歩く。
「さて、お待たせしましたね。お遊びはお終い。本気で相手しましょう」
と、同時にマテリアルの身体が光出す。
「これは」
「発動 【天邪鬼】」
スキル
【天邪鬼】
効果
自身のステータスの変化を逆にする。装備によるステータスの変化は含まれない。
Lv.49
HP 224/480〈+150〉
MP 198/424〈+150〉
STR 117〈+150〉
VIT 19〈+25〉
AGI 117〈+150〉
DEX 117〈+150〉
INT 117〈+150〉
「【身体装甲】鋼 鉄針」
怪鳥の両翼に巨大な鉄の一線が貫通し、怪鳥の動きを抑える。
マテリアルは手に持つゴブリンキングサーベルを変化させた。
「鋼鉄の剣 鋼の一斬」
ただでさえ大きかった剣がさらに大きくなり、怪鳥と同じくらいの大きさの剣となる。そして、剣が怪鳥の身体に直撃し、鋼鉄の剣、もとい、ゴブリンキングサーベルは反動で壊れてしまった。
「まだ、ダメか。」
「あんな強力な一撃を耐えるなんて、」
「私達にもまだできることが…」
怪鳥が叫び、その波動によって部屋の氷が崩れ落ち、マテリアルに降りかかる。
「【結界】」
いとも容易く防いだマテリアルだったが
「!? まずい」
氷によって視界が狭まり、怪鳥がその隙を逃さずに足でマテリアルを掴む。
「【身体装甲】毒 ヴェノムカプセル」
「あれって、」
「私の」
マテリアルの周囲に毒を閉じ込めた球が出来上がり、毒が怪鳥の足を溶かす。
「危なかった、メイプルさんの技見ておいて助かった。」
しかし、怪鳥は暴風と礫での弾幕攻撃を繰り出す。暴風が竜巻のようにマテリアルの周りに乱立する。
マテリアルはなんとか避け切るものの、
「まずい、風の流れで移動を制限されてる。」
暴風に巻き込まれないように礫を避けるには風の流れをよく見る必要があるのだが、それによって気づいたのは、少しずつ怪鳥が近づいていると言うことだ。
これ以上、近づくと怪鳥の間合いに入ってしまう。
「どうする、このまま行くのはまずい。いや、逆か」
何かを閃いたマテリアルは風の吹くままに移動する。
「【身体装甲】水 渦潮」
マテリアルの周りに水が発生し、暴風にまとわりつき渦巻きに変わる。そして、礫を吸収し怪鳥へ攻撃する。
「どう、だ。」
マテリアルの心境とは裏腹に、まだ怪鳥のHPは3割残っている。そして
「タイム、オーバーか」
マテリアルの身体が消耗し始める。天邪鬼が切れかかっているのだ。
「マテリアル!」
叫んだのはメイプルだった。【結界】を破壊して中から出てきたようである。
「どうして」
「私に全力の一撃をお願い」
「?」
一瞬、意味がわからなかったマテリアルであったがメイプルに何か考えがあると信じて
「全力でいきます、【身体装甲】炎 爆裂炎」
マテリアルの手から高密度の魔力が込められた炎の塊が勢いよく発射される。
「【悪食】」
メイプルは悪食でマテリアルの攻撃を受け切り
「【毒竜】!」
吸収した分を2倍にして強力な【毒竜】を作り出す。
「ダメ、まだ足りない」
サリーはこのままでは怪鳥を倒しきれないと言う。それが聞こえたのか、【毒竜】の前にマテリアルが光の姿で待っていた。
「なら、更に2倍にさせてもらう。全MPを消費、反射」
【毒竜】の目の前に2枚の反射板ができ、勢いが増して怪鳥を飲み込む。
怪鳥は眩い光に包まれ、消えていった。
作 「今回はやったかって言ってないからやったな」
マ 「言う気力すらなかったんですけど。あれはひどくないですか?」
作 「運営に言ってくれ。そういや、【天邪鬼】使い道あったんだな。元々違うスキル用意してたのに」
マ 「仕方ないでしょ、【天邪鬼】の使い道がこれくらいしかないんですから。だったら初めから作らないでください。」
作 「ごもっともです、申し訳ない。」