ありふれない青年が世界最悪 作:幻想者
京楽が王都から出ていく一日前の朝。
京楽は檜山大介の部屋に居た。
「で、話ってなんだよ」
「……そうカッカするな。なにもしていないなら、私もなにもしない。何も恐れることなどない、だろう?」
檜山に与えられた部屋のテーブルを向かい合うようにして座り、檜山は不機嫌そうに席に着き、自分の侍女が淹れた紅茶を飲み始めた。
「常識の成ってない者だな。客人に茶も出せんのか?」
「ああ?」
「いや、失礼。私個人の感想だ。気にしないでくれ」
侍女が紅茶を淹れようとしたが、京楽は断った。残念なことに、京楽は檜山やその侍女。檜山のテリトリー内にいる人間殆どを信用していない。
それ故、紅茶を出されても飲むことはそもそもない。
「調子はどうだ? クラスメイトの死を間近で見た感想は」
「どういうことだよ」
「どういうことも何も、クラスメイトとその妹が目の前で死んだのは事実だろう? クラスメイトのハジメは恋敵であり、誰かの魔法の流れ弾で命を落としている。思うと頃ぐらいはあるだろう?」
「お前こそどうなんだよ。アイツと仲良かっただろ」
檜山は内心焦っている。一番目を付けられてはいけない人間に目をつけられたことに、かなり焦っている。
ハジメに向かって魔法を打ち込んだのは檜山自身だ。それをバレたのではないか? 復讐しに来たのか? 額からは冷や汗がながれ、それがバレないように、京楽に自分の内心が悟られないように視界からできるだけ外す。
「……そうだな、私は悲しい以外になんとも思わない。誤爆なんだ。あの状況では仕方がないことだろう」
「だよな。あんな状況で好きで当てるやつなんかいるわけないもんな」
檜山がここぞとばかりに京楽の言葉に便乗した。
それから、自分が無害であることを言いくるめる為に京楽にあれこれ話始めた。京楽も「確かに」、「そうだな」など納得するように頷いている。
「そうだな。好きで風属性の魔法を当てる者などいないだろうな」
「風属性? 何言ってんだ? アイツに飛んでいったのは火属性の魔法だぜ? 見間違えたのかよ」
「……そうか。それはすまない(……黒だな)」
「まぁ、当たりに行った南雲達が無能だっただけだろ。魔法も見間違えるなんざ、お前も無能だな。いや、無能だっただな?」
檜山が京楽のステータスと魔法の属性を間違えたことをバカにするように笑いだした。自分が犯人じゃないと京楽が考えているのを知って強く出ても問題ないとでも考えたのだろう。
残念なことに、京楽は魔法の属性が火属性であることは知っていたし、クラスメイトは魔法の属性など見ていない。見ていたとしてもメルド率いる引率の騎士団員だけだろう。
それを檜山が知っているのはかなり可笑しい。知っている理由となると、見ていたか、自分で射ったかの二択だ。魔法が打ち込まれたのはかなり緊迫した状況だ。冷静さがかけている状態の者が多かった。現に檜山は、「あんな状況で好きで当てるやつはいない」と言っていた。京楽の解釈違いでなければ、檜山も手元が狂っても仕方がない状態だと主張している。
人間は、自分が信じられるもの、自分と共感出来るものを中心に生きる生き物だ。同じ危機的状況内だと、解決後に他の人はどんな心境だったかを聞けば、自分と同じ心境を答える傾向にある。
ここで食い違いが出てくるのだ。
檜山は最初に、手元が狂っても仕方がない状況だ。と主張している。しかし、そんな緊張状態で他人に構うなど特殊な訓練、鍛練を行わない限り不可能だ。命が危険な状態となると尚更のこと。
京楽はそれなりに修羅場を潜り抜けてきており、命が危険に晒されても辺りを瞬時に見渡して状況を把握し、ある程度は冷静に判断ができる。
あの時は緊張した状態から光輝達とメルドの加勢により、少しは落ち着いた状態にはなったが、緊張していることに変わりはない。だが、少しでも変に余裕が出来れば別のことを考えるのが人間と言う生物だ。あの状況で挙げられるのは自分のこれからの事について、そして、視界に必ず入ってくるハジメやユカリ。それを追うベヒモスに絞られる。
殺害を重きにおいているならば、ユカリとベヒモスは除外される。
ユカリはあまりクラスメイト達と関わりがなく、殺害されなければいけない理由が特になく。ハジメを狙った一撃であったため、ユカリは自然的に除外される。ベヒモスは論外だ。
ハジメの場合は殺害理由もかなり上げられる。
まずは香織との関係だ。
香織の一方的な好意でハジメはクラスメイト達から嫉妬され、反感を買っていた。嫉妬による殺害も少なくはない。夫が浮気したから包丁で刺したと言う話は京楽も良く耳にしている。
次に気に食わなかったから、と言うのも上げられる。
ハジメは授業態度や学校での様子を気に食わないと思う人物は多くいる。しかし、それが犯行理由になることはあまりない。そして、状況的にそれが原因で犯行に及んだ可能性は低い。
一応、変に考える余裕はあったのだ。〝気にくわないから〟だけで殺せる程の人物がクラスメイト内にいたとしても、候補として一人だ。しかし、その候補である人物は、ハジメを本心から嫌っているわけではないし、その辺にいるその他程度にしか思っていないだろう。
となると、二択は自然と一本の道になる。
ハジメの殺害理由が嫉妬だとするならば、白崎香織に好意、恋心を持っている人物に絞られる。
京楽が知る中で、香織に好意を寄せているのは二人。両方ともハジメを嫌っており、嫉妬を向けている。しかし、この二人は性質が違う。
一人は無自覚で、一人は自覚がある。そして、前者は自覚がないゆえに〝恋敵を殺す〟と言う考えには至らず、後者は自覚があるから〝恋敵を殺す〟と言う考えに至れる。
ちなみに前者は全ての属性に適性があるが、後者は火属性に適性はない。前者が犯人である可能性はかなり高くなるが、相手はどさくさ紛れで仲間を殺す卑怯者。裏を返せば、時と場合を咄嗟に選べる知能犯だ。わざわざ自分の適性の魔法を射って犯人が割れるようなことはしないはずだ。自分の適性から外れ、適性は無いが、完璧に無いわけではない属性を使うはずだ。現に後者の者は風属性に一番適性があり、火属性はそこそこだ。適性が完全に無いわけではないので、ギリギリ実戦で使うことができるレベルだ。
そうなると、犯行に及んだ可能性は上がっていく。
檜山が京楽をバカにしたように笑うなか、京楽は檜山の様子を観察していた。
檜山は自分の手を軽く机の上で握りながら京楽を笑っている。
手のひらを握る。隠すと言う行為は、やましいことがある、何か隠したいことがある人物に多く見られるのだ。
京楽が京から学んだ心理学。行動心理学に基づくものだ。
行動心理学とは、アメリカの心理学者ワトソンが提唱した行動主義の心理学であり、心理学を行動の科学とみなし、客観的観察の立場に立つ心理学の総称だ。
使い用によっては、相手の言葉の真偽を見抜くことができる。京楽は常日頃からそれに基づいて行動し、相手を読み取っているわけではない。あくまでも、行動心理を持ち出すのは仕事の時だけだ。
「……そうだな。私が色々間違っていたようだな」
「はっ! 天才の八雲さまも間違うんですね~」
檜山はここぞとばかりに京楽を煽り散らすが、残念なことに幼稚な煽りが聞くほど頭は単純ではないし、プライドも然程高くない。そして、自分の勘は全く外れていないので傷つけられることもない。
それから檜山と何言か交わし、京楽は部屋を出ていく。出ていく前に、京楽は立ち止まり、檜山に訊ねた。
「なぁ、檜山。汚れた手は綺麗になることはない。人は罪を着て生きる生き物だ。…………染まったその手、一生悔いていろ」
「な、なんのことだよ」
「さあな。私の仕事はここまでだ。じゃあな、檜山大介」
京楽は檜山の部屋から出ていく。京楽が出て少しすると、京楽を追うように檜山が部屋から飛び出してきた。
「ちっ! どこにいきやがったんだ」
京楽は近くにいるが、檜山は京楽に気が付いていないようで、辺りを見渡す。
京楽は檜山に会話の中で幻術をかけていたのだ。
幻術も一種の魔法であるため、詠唱と魔法陣が必要だが、魔法陣は京楽のマスクに施してあるし、ちゃんと詠唱もしていた。
トータスの魔法は、明確なイメージと魔法陣、起動するための魔力で魔法を使うことが可能となる。京楽は檜山との会話中に詠唱していた。イメージは〝並列思考〟で複数の幻術を同時にイメージしてその分の魔力を使った。そのため、きっちり起動したようで、その証拠に檜山は京楽を認識できていない。
京楽が檜山にかけた幻術は、一週間の間自分を対象から認知しづらくするもの。常に誰かから見張られているような視線を感じる。の二つだ。
檜山は光輝の前でクラスメイトの目の前で土下座して許しを請い、本人の目論み通り、檜山は光輝から「反省してるから」と言うだけで、何の罰も無しに許されてしまった。人類のリーダーになるであろう光輝の発言力は強く、光輝が檜山を許すと言ったのだから許されてしまったのだ。そのため、いくら京楽が何か行動を起こそうとも、光輝は聞く耳を持たないだろう。
京楽は檜山を許すつもりなど更々ない。しかし、京楽は自分の仕事を履き違えるつもりはない。探偵とは、謎を暴き、真実を探し出すのが仕事である。犯罪者、犯人を捕まえて豚箱に入れて罪を裁き、更正させることが仕事ではない。だが、今までケジメはつけてもらうつもりだ。
それ故の幻術で、この二つとも一週間もあれば自動的に解除されてしまうため、罰と言う罰にはならないが、精神には来るだろう。京楽には関係のないことだ。赤の他人を気にするつもりも、犯罪者に情けをかけるつもりもない。
京楽は王宮から出て、最近良く行くようになった花屋に向かい、花を幾つか買って王宮に戻っていった。
◇◆◇
花束を片手に持ちながら扉を叩く。扉を開けて出てきたのは雫だった。少し寝不足の様で、隈が出来ている様に見える。
「ああ、八雲君。どうかしたの?」
「いや、花を変えに来た」
「こまめなのね」
「……入ってもいいだろうか?」
買ってきた花束を見せると、雫は京楽を部屋にいれてくれた。
京楽が部屋に入って真っ先に視界に入ったのは、ベッドに寝かされている香織の姿だった。精神的ストレスやショックにより気絶したままなのだそうだ。
「……」
「……」
雫が心配そうに香織の手を握り、京楽は花を差し替えている。
ただただ無言の時間。香織が寝込んでからと言うもの、京楽が花を差し替えている間、雫は話し掛けない。
「……八重樫。私はここを出ていこうと考えている」
「? 八雲君」
花を差し替えている途中、京楽はそう呟いた。雫は京楽の言葉に首をかしげた。京楽から雫に話しかけること事態あまり無いのだ。しかし、言葉を聞けば意味は簡単にわかる。
「どこか宛があるの?」
「宛など無いさ」
「知らない世界で一人旅なんて、大丈夫なの? 宛も無いんでしょ?」
「大丈夫なわけがないだろう。行く宛も無く、自分の身を守る保護もなく知らない世界を旅するなど、危険行為でしかない」
危険だとわかっていても、京楽は旅に出なければいけないのだ。旅に出なければ自分の天職を知ることができない。
京楽の旅の目的は、自分の天職を知る事。そして、この世界の現状を知るためだ。もちろん、戦争に参加するに当たって相手の情報を仕入れるためにではなく、自分が知りたいからそれを知るために動くだけだ。
「じゃあ、なんで……」
「愚問だな、八重樫。必要以上に縛りを課せてくる教皇と、その相槌人形の国王。人の悪性を見ず、自分の都合が良いように全てを解釈する愚かな勇者。それを見てみぬ振りをするクラスメイトと、恩を仇で返す本当の裏切り者。そんな者達といるぐらいなら、危険を覚悟で外の世界を回る方が遥かにマシだ」
京楽は旅に出ることを辞めるつもりはない。何せ、王宮の中は窮屈なのだ。世界が狭い、見える幅が狭い。神に盲信する狂信者達、勇者を祭り上げる胡麻すり貴族達。窮地を脱した仲間の死を考えないクラスメイト達。京楽はこの中で過ごす方が、自分のメンタル的に危険だったのだ。
雫は京楽を留めておこうとしたが、京楽は留まるつもりはない。
雫は京楽が居なくなってしまうことに不安を覚えた。京楽には影でわりと世話になっていたのだ。
苦労人である雫は、京楽に愚痴を聞いてもらったり。隠している趣味を京楽と共有したり、京楽が家で飼っている猫を愛でたり。色々と溜め込んでしまいがちな自分のストレスの吐き出し口になってくれていたのだ。
香織よりは友好があり、隠れてハジメと香織をくっ付けようと京楽、雫、ユカリの三人で予定を作ってはドタキャンしたりしていたのだ。それなりに話すし、仲はいい? まぁ、京楽から話すことは中々ないのだが……
「八雲君。君が居なくなると禿げるわよ? 私が」
「……私にデメリットは無いが?」
「ええ、そうね。あなたにはメリットもデメリットもないわ。だって、私が苦労しているのは、私のお節介だし。それは重々承知よ」
そう、京楽には特に関係ない。雫が禿げようが、禿げなかろうが京楽の話ではないのだ。しかし、雫は京楽の弱いところをつつく。
「あ~あ、禿げちゃったらどうしようかしら? 私の友達が行方不明になって、私の話所が消えて、私のストレスと疲れは溜まる一方よね~」
「……」
「禿げたくないわ~、何処かの誰かさんが行方不明になって、居なくなっちゃうんだもの。どうしようかしらね、この際あきらめて桂でも」
雫が何かを悟ったように語り始め、京楽の様子を伺う。京楽は顔を背けてはいるものの、反応はある。京楽はお人好しだ。他人には物凄く冷たいが、友人には優しいのだ。人間を嫌うわりには何かと誰かの世話を焼くことが好きなようで、誰かに甘えられたりすると嬉しそうにしている。雫はその様子を……京楽にベッタリ甘えるユカリの様子を見て知っているし、からかい感覚で試してみると意外と手応えがあったのだ。
京楽は現実主義者だ。自分に出来ないことは出来ないとバッサリ切り捨てるが、可能ならばそれをやり遂げる。そんな人物だ。
雫が頭に手をやると、京楽が大きな溜息を吐いた。
「……一段落もすれば、顔をだそう。その時に、いくらでも溢してくれ」
「そう。それでいいのよ」
雫は内心少し謝る。これはただの我が儘だ。京楽もそれを知りながら相手をしてくれているので、大概ではあるのだが……
花の差し替えが終わり、京楽は花束を包み直す。これから部屋に戻るなり、何なりするのだろう。
京楽が花束を持ち、香織に目をやった。香織の呼吸は安定しており、特に異常は見られない。本来なら語る気がなかったが、幸い近くに物音も人の気配もない。ならば語ってもいいだろう。
「……八重樫、今から私が語るのはあくまでも推理だ。真実である可能性は低いと理解した上で聞いてくれ」
「? ええ、わかったわ」
雫が頷くと、京楽は語り始めた。これから語るのはあくまでも推理。真実ではない。
「……八重樫。本来、教えるつもりはなかったが被害者がいるからな。一応犯人について教えておいてやる」
「犯人……」
「ああ、犯人だ。魔法の件のな」
「! わかったの!」
雫は京楽に詰め寄るが、京楽は雫を宥めて首を振る。わかりはしたが、あくまでも推測だ。京楽はそれをもう一度伝えた上で話す。
「犯人の犯行動機は嫉妬だ。恐らく、アイツで良いなら自分でも良いじゃないかとでも思ってるんだろう。そして目的だが、恋敵の排除だろうな。どさくさに紛れて人を殺すような卑怯者だ。八重樫にも被害が出る可能性は充分にあり得る。注意してくれ。…………そして狙いだが、考えなくてもわかる通り白崎だ。白崎が恋したっていたハジメを排除し、自分のモノにしようと企んでいるんだろうな。……犯人は以前からもハジメに対して何かのアクションを起こしていた可能性は高い。これは推測に過ぎないが、魔法は自分だとバレないために自分の適性のない魔法を射った可能性が非常に高い。そんな卑怯者が犯人だ………私が何か頼める立場ではないが、八重樫。白崎を守ってやってくれ……いや、側にいてやってほしい。最悪守れなくてもいい。犯人が白崎を追い詰める前に、その切っ掛けを作らせないために白崎の側で牽制してくれ……」
「言われなくてもそうするわよ。香織は私の親友だもの」
雫がそういうと、京楽は花束を雫に渡した。雫は不思議そうな顔をするが、京楽は続ける。
「この花束はエゴアモーテと言う花でな。花言葉は、〝誓い〟だそうだ」
「どういう意味かしら?」
「私は、八重樫に誓いを渡そう。私は約束は守る。だから、一段落すれば、必ず顔は出してやる……押しつぶれるなよ」
「あ、ありがとう」
雫は京楽から花束を受け取り、京楽に一本だけ差し引いて手渡した。京楽は首をかしげたが、雫は続ける。
「なら私もあなたに約束するわ。私も頑張るわよ。八雲君、だからあなたも頑張りなさい」
「……ああ、約束しよう」
京楽はエゴアモーテの花を受け取って、部屋に帰っていった。
後日、雫の部屋には京楽の渡した花が枯れるまで飾られていたそうだ。京楽から貰ったのだと雫が自分の専属侍女ニアに話したところ、花言葉のもう一つの意味と、二人のやり取りの意味を知らされて顔を真っ赤にしたとか、しなかったのだとか……
いかがだったでしょうか?
花は原作には出てきませんので、オリジナルの物となっています。ちなみに、とある言語の意味をそのまま花の名前にしただけなので、意味のわかる人はわかるかもしれませんね。
では、次回話も引き続きお楽しみください。
追記8/4 花の名前を変えました
ハジメ&ユカリsideの話を書くべきか否か
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書いてほしい
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別に書かなくてもいい
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どちらでも構わない