ありふれない青年が世界最悪 作:幻想者
京楽は馬車に揺られながら王都から離れて行っていた。王都にはもう用はない。調べたいことも、知りたいことも知れたのだ。居座る理由もなにもない。ちなみに、雫以外に出ていく事は言っていないので行方不明と言うことになっている。
王都を出て一週間と三日が過ぎている。現在、賢者の伝承の眠っているであろう地に向かっていた。
京楽は王都の都立図書館で賢者の伝承を探しており、司書に聞いてみたところ、蔵書庫の中にそれらしきモノが一つだけあり、かなり年期の入った本なので昔からあるものなのだと言う。
その本には、裏切りの賢者と七人の反逆者についてかかれていた。冒頭にはこう書かれていた。
『太古。彼の者が至り、彼の者が成った。叡知を持ち、自然、平和を愛する彼の者を人は〝賢者〟と呼んだ。彼の賢者は勇者と仲が悪かった。全てを救うために苦悩する勇者を賢者は〝愚者〟と呼び、全てを救うために全てを捨てる賢者を勇者は〝悪人〟と呼んだ。勇者は神より受けた神威により絶大な力を、賢者は叡知より生み出した絶大な魔法を持つ。彼の二人は交わることはなく、己を突き通す。勇者と賢者は交わることはない。それは未来永劫、彼らが彼らであるかぎりそれはあり得ない』
どうやら、先代の賢者は先代の勇者と知り合いのようだ。それもかなり仲は悪い様子。そしてやはりと言うべきか、先代の賢者は魔法が使えたらしい。
『ある日、賢者は神を知る。賢者は神を憎み、神に反旗を翻す。それと同時期に反旗を翻した七人の反逆者と手を組み、神を討とうとした。しかし、賢者と七人の反逆者は神の巧みな策略により七人の反逆者を地の果てに追いやる。賢者は人を嫌った。傲慢な人を、嫌い、やがて彷徨える森に至る。その森に塔を建て、頂きに座る。賢者は世界を眺めている。それは、永き眠りに着くときも変わらず』
〝彷徨える森〟を京楽は目指していた。彷徨える森とは、ハルツィナ樹海近郊にある大きな森の事だ。そこの森は、樹海同様に霧が掛かっているが、亜人族ですら方向感覚を見失ってしまうと言われる森だ。
そこに塔は建っていないが、方向感覚を失う場所自体がかなり限られており、さらに森に限定される。樹海には亜人族の国、フェアベルゲンがあるため搭は存在するだろうが、樹海ではなく森だ。となると、その樹海付近にある森以外に無かったのだ。
王都からかなり離れており、それなりに時間がかかる。王都を出ていくと言うのは雫にしか言っていない。そして、その雫にはあまり他言しないように口止めしているため行方不明扱いされていることだろう。捜索するかは不明だが……
京楽が馬車の中で、王都でのことを思い出しながら瞑想していると馬車が止まった。
「嬢ちゃん、着いたぞ」
「ありがとうございます。ごめんなさいね、無理言ってしまって」
「別にいいんだよ。嬢ちゃん見たいな研究者がここを調査するのは珍しいからな。頑張ってこいよ」
京楽はバックパックを背負い直して馬車から降り、馬車運転手のオッチャンは豪快に笑い、京楽を送り出した。
京楽の乗っていた馬車が走り去り、見えなくなるまで手を振り、見えなくなった距離になると体を纏っていた魔力が霧散した。京楽は馬車に乗ってから常に幻術を使い続けていた。幻術は燃費が良いし、魔力高速回復と併用し続ければ二週間は持つことが出来る。
京楽が使っていたのは〝幻惑〟と言い、容姿や声を相手に誤認させる初歩的なモノだ。長く持ったのは使った幻術がそれだったからと言うのもあるのかもしれない。
バックパックを背負い直して森に目をやる。
森の周りには霧が掛かっており、中は調査がされていないため、まだわからないことだらけの森。帰って来られるものの方が少なく、帰って来られたものは道に迷い、彷徨い歩いてたら偶々外に出られたと言った者達だけの大迷宮程ではなくとも、十分な危険地帯。探索に入った者達が口にするのは決まって「なにも見えなかった」だ。そして、知らない間に記憶の中からその森の存在が消される不可思議で不気味な森を、人はこう呼ぶ。
【マユ森林】と……
報告によれば魔物の出現率は低く、辺りに霧が立ち込めて周りが全く見えないらしい。
京楽はバックパックを背負って森に入っていく。落ちている木の枝を通ってきた地面に突き立てて進んでいく。
中は確かに霧が濃くて一メートル先も見えないが、方向がわからなくなると言うことはなかった。何故か方向がわかるのだ。
何かに誘われるように奥へと進んでいく。確かに報告にある通りに魔物の襲撃に遭わない。本当に数は少ないのだろう。干し肉を噛りながら奥へと進んでいくと、霧が晴れてきた。さらに奥へと進むと、霧は完全に晴れて、辺りを見渡せるようになった。まぁ、辺りを見渡してもあるのは木々だけだが。
霧が晴れたのはありがたく、後ろを見てみると、霧が立ち込めている。どうやら、霧が晴れた場所とそうでない場所の境界にいるようだ。
霧が晴れたので近くの木に背を預けて休息を取る。水筒から水を飲み、干し肉を食べる。自然が好きな京楽からしてみれば、自分が休まるには丁度良い環境だった。緑豊かで静か。京楽は体のダルさを取るために仮眠を取ることにした。京楽が仮眠を取るために目を閉じ眠りに着いた。
◇◆◇
京楽が目を覚ますと、平原に眠っていた。
体を起こして辺りを見回すが森はない。自分の身の回りには花が咲き乱れているだけだ。バックパックは隣に置かれてあり、何か漁られた形跡はない。
「……ここは、一体」
京楽がバックパックを持って立ち上がり、自分の周りにあった花を眺める。見たことのない花だ。
取り合えず、自分が道の場所に居ることだけはわかった。情報を集めるために歩き出す。しかし、
《──人間。ここに何のようだ》
京楽が歩き出すと同時に花弁が舞い上がり、京楽の目を覆う。次の瞬間には、一匹の龍が居た。緑色の鱗に、五メートル程の体を持つ龍。翼はなく、金色の一角を頭に持つ龍だった。
「〝賢者〟の伝承を調べ、ここに辿り着いた者だ」
《賢者、だと? ……ああ、お前はアンリの転生体か。まさか、本当にここに来るとはな》
「アンリだと? 誰だ?」
《忘れてしまっているか……まぁ、いい。お前がなぜここに来たのか、なぜここに来られたのかは過ごしていればわかることだ。ゆっくりしていくと良い》
緑龍が去ろうとするのを京楽が呼び止め、緑龍は京楽に目をやる。
「ここが何処かだけ教えてほしい」
《……ここは、賢者アンリ・マユの作った表世界の狭間にある忘れ去られた者達の都、〝幻想郷〟。自然との調和、自然を愛する者が行き着くこともある場所だ》
緑龍はそう言って花吹雪と共に消えた。緑龍の居たとおぼしき場所には花が咲き乱れていた。
「……アンリ・マユ。か」
京楽は聞き覚えのある、その名前を呟く。だが、覚えは全くないのだ。聞き覚えはある。しかし、身に覚えはない。
京楽はそんなモヤモヤした気持ちを胸に一先ずその場を離れることにした。京楽は賢者の建てたとされる搭を探しているのだ。緑龍曰く、忘れ去られた存在が多くいると言っていた。色んな存在がここにはいるんだろう。
緑龍の居た場所の奥へと、京楽は足を進めた。
しばらく進むと、森林地帯にやって来た。
マユ森林と似た感じの森だが、霧はかかっていない。そして、生き物の気配もいくつか感じる。
気配のする方に歩いていると、水音が聞こえ始めた。何かが水のなかで動いている音だ。
物陰から覗いてみると、三メートル以上ありそうな巨狼と、少女が水辺で戯れていた。
少女は水の中に足を浸けてぱしゃぱしゃとばた足をしていた。巨狼は水辺の草原に体を休めており、見守るように少女を眺めている。しかし、京楽の視線に気が付いたようで、スッと視線をこちらに向け、小さく唸った。まるで、隠れてないで姿を見せろと言わんばかりに。
京楽は物陰から出て、姿を見せると、少女が素早く巨狼の後ろに隠れ、顔を覗かせた。
「……脅かせたようで、すまなかったな。保証は出来ないが、敵ではない」
物陰から出てステータスプレートを巨狼の前に投げる。信用させるなら、その方が早い。両手をホールドアップする。初対面で敵意が無いのをアピールするのは意外と難しい。そのため、個人情報を渡した方が相手も安心できる。なのでステータスプレートを渡したのだが……
「……一応、私のステータスプレート、身分証の様なものだ。信用はならないだろうが、こちらに敵意はない」
「…………ほんと、ですか?」
「ああ、敵意があるならわざわざ身分証を渡して、手の内を明かすわけがないだろう。それでも不安だと言うなら、私の荷物の中に縄がある。それで縛ってからでも確認するか?」
泉を挟んでの会話なので流石にバックパックを反対岸に投げるのは無理だ。なのでバックパックを出来るだけ草原の方に投げて取れるようにする。武器はそもそも持っていない。一応魔物の解体用ナイフはある。仮に相手が敵対してきたならば、応戦しなければいけない。それ用で解体用ナイフは所持している。こればかりは目を瞑ってもらおう。
少女が京楽のステータスプレートを広い、京楽のステータスを見る。そして、驚いたように京楽を見ている。
「賢者、なんですか?」
「ああ、天職は賢者だ。だが、これと言った魔法は使えない。一応自分の天職について調べていたが、手がかりが全くなくてな。唯一見つけた手がかりが賢者の伝承だ。その伝承を追っていたらここに居たわけだが……何か知らないか?」
「ほ、ほんとのほんとに賢者なんですか?」
「……一応賢者だ」
京楽は賢者だ。魔法は全く使えず、前衛特化だが賢者だ。幻術を使うよりも、体術で黙らせた方が早く感じているが、賢者だ。
少女が反対岸から京楽を見ると同時に目があった。そして、顔を真っ赤にして背けられた。恥ずかしがり屋なのだろうか?
少女が京楽の所に回ってきた。
薄桃色のふんわりとした髪の毛を赤のリボンで結んでサイドテールにしており、長めの前髪にキリッとした赤茶色の瞳の少女。首には黒く真ん中に赤いラインの入ったマフラーを巻き、タイトなシャツと水色の大きめのジャケットを来ている。身長はそこまで高くなく、百五十九センチぐらいで顔には幼さが残っている。
しかし、そんな容姿に反して体はよく育っており、胸も大きめで腰も括れ、安産型の臀部。顔付きも良いので、かなりの美少女だろう。
京楽を見るなり顔を赤くし、巨狼が後ろで呆れたように少女を見ている。
「あ、あの! わ、わわわ、私を、弟子にしてくだしゃい!」
「……はあ?」
京楽は首をかしげ、少女は京楽に物凄い勢いで頭を下げる。耳まで真っ赤になっている。噛んでいたのが恥ずかしかったんだろう。
唐突な申し出に、京楽は不思議なものを見る目で少女を眺めていた。
新キャラ登場ですよ~。キャラ紹介の所に追記致します。良ければそちらもどうぞ。
ハジメ&ユカリsideの話を書くべきか否か
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書いてほしい
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どちらでも構わない