ありふれない青年が世界最悪   作:幻想者

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雑かもですが、ハジメ&ユカリsideになります。お楽しみいただけると幸いです。


閑話 奈落の底から

 

 

 

 ドパンッ!

 

 オルクス大迷宮の奥深く、最深層と言われる場所よりも深い奈落の底。そんな奈落の底に乾いた銃声が木霊する。

 

 銃声の音元には、弾丸に頭蓋を穿たれ、内部を蹂躙され死に絶えた白い毛並みを持つ熊型の魔物と、その熊に銃口を向ける白髪隻腕の少年。そして、その傍らで血の滴る刃渡り二十センチのサバイバルナイフを逆手に握る白髪の少女がいる。

 

「勝ったな」

「うん。私達、勝てたね」

 

 少年は銃口を下ろし、熊型の魔物を眺めていた。少年はこの魔物に腕を食われた。少女は精神を砕かれた。しかし、これは復讐でも、報復でもない。

 

──生きたい。己の望みの為に生きたい。その過程で、この魔物を倒さなければいけなかった。ただそれだけだ。

 

 己の覚悟を確認するための儀式であり、二人が乗り越えなければいけない最初の壁。

 

「生きて故郷に帰る──」

「先輩と一緒に帰る──」

「「立ち塞がるなら敵だ。敵は──殺す!」」

 

 二人は決意を再度固め、強い意思の宿った瞳を見開いた。

 

 

 

 

 ……そんな事のあった日からいくらか経過した。

 

 二人、隻腕の少年。南雲ハジメと少女、南雲ユカリは深層に潜っていきながら探索を行っていた。

 

 二人がいるのはオルクス大迷宮の深層。二人の予想では百階層よりも下だと見ている。実際に、いた場所はオルクス大迷宮の深層。オルクス大迷宮の本階層とも言える、大迷宮としての顔を表す階層の始め、百一階だ。

 

 そして現在。二人は、百五十階層に来ていた。

 

 脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座している。

 

 二人はこの階層に足を入れた瞬間全身に悪寒が走るのを感じ、これはヤバイと一旦引いたのだ。もちろん装備を整えるためで避けるつもりは毛頭ない。

 

 期待と嫌な予感を両方同時に感じている。あの扉を開けば確実になんらかの厄災と相対することになる。だがしかし、同時に終わりの見えない迷宮攻略に新たな風が吹くような気もしていた。

 

「さながらパンドラの箱だな。……さて、どんな希望が入っているんだろうな?」

「どうだろうね? もしかしたら蟲毒の壺てきな物の可能性もあるんだけどね」

 

 自分の今持てる武技と武器、そして技能。それらを一つ一つ確認し、コンディションを万全に整えていく。全ての準備を整え、ハジメはゆっくりドンナーを抜き、ユカリはサバイバルナイフを抜く。

 

 そして、そっと額に押し当て目を閉じる。覚悟ならとっくに決めている。重ねることに無駄はない。二人は、己の内へと潜り願いを口に出して宣誓する。

 

「俺は、生き延びて故郷に帰る。日本に、家に……帰る。邪魔するものは敵。敵は……殺す!」

「私は、先輩と一緒に帰る。日本に、京楽先輩と一緒にまた日常を……送るんだ。障害物は壊す、立ちはだかる敵は……殺す!」

 

 目を開けた二人の口元にはいつも通りニヤリと不敵な笑みが浮かんでいた。

 

 

 扉の部屋にやってきたハジメとユカリは油断なく歩みを進める。特に何事もなく扉の前にまでやって来た。近くで見れば益々、見事な装飾が施されているとわかる。そして、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのがわかった。

 

「? わかんねぇな。結構勉強したつもりだが……こんな式見たことねぇぞ」

「兄さんがわからないなら、私に解読は無理かな……先輩ならいけたかもね」

 

 ハジメやユカリは無能と呼ばれていた頃、自らの能力の低さを補うために座学に力を入れていた。もちろん、全ての学習を終えたわけではないが、それでも、魔法陣の式を全く読み取れないというのは些かおかしい。

 

「勉強不足か、相当古いなら兄さんがわからなくても当然なんだけどね」

 

 ハジメとユカリは推測しながら扉を調べるが特に何かがわかるということもなかった。いかにも曰くありげなので、トラップを警戒して調べてみたのだが、どうやら今のハジメ程度の知識では解読できるものではなさそうだ。

 

「仕方ない、いつも通り錬成で行くか。ユカリ、周囲の警戒頼む」

「りょーかい」

 

 一応、扉に手をかけて押したり引いたりしたがビクともしない。なので、いつもの如く錬成で強制的に道を作る。ハジメは右手を扉に触れさせ錬成を開始し、ユカリが周囲の警戒を始める。

 

 しかし、ハジメが錬成を開始した途端、

 

バチィイ!

 

「うわっ!?」

「っ! 大丈夫?」

 

 扉から赤い放電が走りハジメの手を弾き飛ばした。ハジメの手からは煙が吹き上がっている。悪態を吐きながら神水を飲み回復するハジメ。ユカリはハジメに何かあったのを感知してハジメに駆け寄る。その直後に異変が起きた。

 

──オォォオオオオオオ!!

 

 突然、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡ったのだ。

 

 二人はバックステップで扉から距離をとり、腰を落として手をホルスターのすぐ横に触れさせいつでも抜き撃ち出来るようにスタンバイ。ユカリはサバイバルナイフを抜き、体勢を低くしながら構えた。

 

 雄叫びが響く中、遂に声の正体が動き出した。

 

「まぁ、ベタと言えばベタだな」

「何とも、王道だね」

 

 苦笑いしながら呟くハジメとユカリの前で、扉の両側に彫られていた二体の一つ目巨人が周囲の壁をバラバラと砕きつつ現れた。いつの間にか壁と同化していた灰色の肌は暗緑色に変色している。

 

 一つ目巨人の容貌はまるっきりファンタジー常連のサイクロプスだ。手にはどこから出したのか四メートルはありそうな大剣を持っている。未だ埋まっている半身を強引に抜き出し無粋な侵入者を排除しようとハジメの方に視線を向けた。

 

 その瞬間、

 

ドパンッ!

 

 凄まじい発砲音と共に電磁加速されたタウル鉱石の弾丸が右のサイクロプスのたった一つの目に突き刺さり、そのまま脳をグチャグチャにかき混ぜた挙句、後頭部を爆ぜさせて貫通し、後ろの壁を粉砕した。

 

 左のサイクロプスがキョトンとした様子で隣のサイクロプスを見る。撃たれたサイクロプスはビクンビクンと痙攣したあと、前のめりに倒れ伏した。巨体が倒れた衝撃が部屋全体を揺るがし、埃がもうもうと舞う。

 

「悪いが、空気を読んで待っていてやれるほど出来た敵役じゃあないんだ」

 

 いろんな意味で酷い攻撃だった。ハジメの経験してきた修羅場を考えれば当然の行いなのだろうが、あまりに……あまりにサイクロプス(右)が哀れだった。

 

 おそらく、この扉を守るガーディアンとして封印か何かされていたのだろう。こんな奈落の底の更に底のような場所に訪れる者など皆無と言っていいはずだ。

 

 ようやく来た役目を果たすとき。もしかしたら彼(?)の胸中は歓喜で満たされていたのかもしれない。満を持しての登場だったのに相手を見るまでもなく大事な一つ目ごと頭を吹き飛ばされる。これを哀れと言わずしてなんと言うのか。

 

 サイクロプス(左)が戦慄の表情を浮かべハジメに視線を転じる。その目は「コイツなんてことしやがる!」と言っているような気がしないこともない。

 

 ハジメとユカリは、動かずサイクロプス(左)を睥睨する。ハジメの武器、銃というものを知らないサイクロプスは警戒したように腰を低くしいつでも動けるようにしてハジメを睨む。

 

 十秒、二十秒……

 

 いつまで経っても動かないハジメに業を煮やしたのかサイクロプス(左)が雄叫びを上げ踏み込んだ。

 

 直後、顔面から地面にダイブした。

 

 足を踏み出した瞬間、ガクッと勢いそのままに転倒したのだ。サイクロプス(左)は、わけがわからないといった様子で立ち上がろうと暴れるがモゾモゾと動くだけで一向に力が入らない。

 

 低く唸り声を上げもがくサイクロプス(左)に、ユカリがゆっくり近寄っていく。コツコツという足音が、まるでカウントダウンのようだ。ユカリは、サイクロプス(左)の眼前までやってくる。

 

「あははは、おバカな番人さん。足もないのに、なんで踏み出して歩こうとしたのかな? ねぇ?」

 

 ユカリはそう言うと手を大きく動かし、サイクロプス(左)の目の前で踊り出し、華麗にターンを決め、腕を閉じる。それはまるで引き絞るように、見えない糸の用なモノを無理矢理引っ張るようにも見える。

 

 その次の瞬間、サイクロプス(左)の四肢が、肉体が引き裂かれ、バラバラにされた。ユカリは一瞬だけクスッと笑った。

 

「いつ見てもえげつない攻撃だよな……」

 

 ユカリのやったことに、ハジメはそう漏らした。

 

 バラバラ死体の作り方だが、ユカリが自分の魔力で細く、頑強な糸を産み出し、それをサイクロプス(左)に絡み付ければ、それを引いて肉や骨ごと糸で切り飛ばすのだ。乱雑に絡めて切り飛ばすため、大きさは均等ではなく、切り口も不規則だ。

 

「え~、兄さんの出会い頭ドパンッよりはマシだと思うけど?」

「殺し合いだぞ? 卑怯もなにもないだろ。油断したやつが悪い」

 

 ハジメはそう言うと初撃でユカリが切断したサイクロプスの足を見やる。断面は綺麗で、すっぱりと切られている。それをすっぱり切ったのはただ頑丈な糸なのだが、その断面は鋭い刃物で切り裂かれたように切られている。

 

「まぁ、いいか。肉は後で取るとして……」

 

 ハジメは、チラリと扉を見て少し思案する。

 

 そして、〝風爪〟でサイクロプスを切り裂き体内から魔石を取り出した。ユカリも何となく察して、自分で倒したサイクロプスから魔石を取り出す。血濡れを気にするでもなく二つの拳大の魔石を扉まで持って行き、それを窪みに合わせてみる。

 

 ピッタリとはまり込んだ。直後、魔石から赤黒い魔力光が迸ほとばしり魔法陣に魔力が注ぎ込まれていく。そして、パキャンという何かが割れるような音が響き、光が収まった。同時に部屋全体に魔力が行き渡っているのか周囲の壁が発光し、久しく見なかった程の明かりに満たされる。

 

 二人は少し目を瞬かせ、警戒しながら、そっと扉を開いた。

 

 扉の奥は光一つなく真っ暗闇で、大きな空間が広がっているようだ。ハジメとユカリの獲得した新たな技能〝夜目〟と手前の部屋の明りに照らされて少しずつ全容がわかってくる。

 

 中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

 

 その立方体を注視していたハジメは、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がつき、ユカリも見付けたようで、注視する。

 

 近くで確認しようと扉を大きく開け固定しようとする。いざと言う時、ホラー映画のように、入った途端バタンと閉められたら困るからだ。

 

 しかし、ハジメが扉を開けっ放しで固定する前に、それは動いた。

 

「……だれ?」

 

 かすれた、弱々しい女の子の声だ。ビクリッとして二人が慌てて部屋の中央を凝視する。すると、先程の〝生えている何か〟がユラユラと動き出した。差し込んだ光がその正体を暴く。

 

「人……なのか?」

「女……の子?」

 

 〝生えていた何か〟は人だった。

 

 上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗のぞいている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

 流石に予想外だったハジメは硬直し、ユカリは辺りを警戒し始めた。紅の瞳の女の子はハジメやユカリをジッと見つめていた。やがて、ハジメはゆっくり深呼吸し決然とした表情で告げた。

 

「すみません。間違えました」

「いや、待ちなよ。兄さん」

 

 二人は、奈落の底でも仲良くやっているようだった。その明かしに、ユカリが「ちょっ、待てよ」と言いたげにハジメを引き止めた。

 

「兄さん、間違えたなんて言っちゃダメだよ。お相手さんに気付かれたらどうするのさ。それに、お相手さんも好きでやってる訳じゃない事だってあるんだからさ……〝ごゆっくりどうぞ〟が正解だと思うんだ」

 

 ハジメにケチ着けたが、ユカリも更々助けるつもりはないらしい。意見の一致した二人が出ていこうとし、それを封印されてるっぽい少女が必死に呼び止め、助け出すことになるのだ。

 

 助け出したのち、トラブルに巻き込まれることになるわけだが、京楽は知るよしもない。





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