ありふれない青年が世界最悪 作:幻想者
キャラ紹介の方を書き換えました(更新)。よければどうぞ
アリスが京楽の肩に頭を預けて寝てから二十分ほど経った頃にアリスが目覚めて謝り倒し、京楽が気にしないように言って探索に戻った。
それからだいたい一時間後。二人は階段を発見し、階段を登っていた。
「……いつになれば頂きに着くんだろうな」
「だいぶ登ってきた感じはするんですけどね……」
二人はそんな会話をしながら階段を登る。そして、目の前にお馴染みのパズル、謎解きがやっていた。
京楽が壁に触れ、仕掛けを起動させてから問題に取りかかる。今回出てきたのはスライドパズルだ。スライドパズルも難なくクリアして先に進む。が、
「壁、だと?」
二枚目の壁があった。
二枚目の壁には魔法陣が彫られており、一応トラップの確認をしておく。安否を確認して魔法陣の解読を始める。
「……かなり古い魔法陣だな。解読に時間がかかりそうだ」
京楽は魔法陣にかかれた古代文字を解読し始めた。現代の文字と比べ、魔法式の解読を急ぐ。文字の形、共通点から意味を読み解いていく。言葉はわかる。文字も読める。ならば、解読は可能だ。
文字を撫で、音を口に出し、持てる知識。解読法のすべてを屈指して意味を解読する。
気が付けば没頭し、アリスが休憩しないのかと声をかけても反応がない。ただブツブツと独り言を呟きながら解読に徹している。
石壁には異界庫にしまっていたインクの切れない万年筆の文字がびっしりと書かれている。何度も解読を間違え、何度も解読をやり直したのが見て取れるほどの壁に、アリスは最早なにも言わない。京楽が集中状態にあるからと言うのもあるが、解読している時の京楽が楽しそうに見えたからと言うのもある。
「……始まりは闇。それは、無からの創造」
京楽が石壁に手を置いてそう呟くと、石壁に亀裂が走り、砕け落ちた。どうやら、魔法式の解読は成功したようだ。
京楽が息を吐くと同時にその場に倒れた。アリスが慌てて容態を見るが、単に寝ただけだった。
「はぁ。師匠様は手がかかる人ですね。心配して損した気分ですよ、まったく」
アリスは溜息を吐いて京楽を寝かせたままにする。
実は言うと、京楽は何日も寝ていなかったりする。
解読に夢中になり、ずっと起きていたのだ。ちなみに、アリスはその待ち時間の間、寝るかルービックキューブでただひたすら暇を潰していた。
京楽の近くに座り、体を小さくする。
「師匠様、あんまり無茶しないでください……もう、一人になりたくないんです」
アリスはそう呟いて京楽の隣で眠り始めた。
◇◆◇
二人が眠りから覚めて探索に戻ってからだいたい数日が経過した。
それからも相変わらず何十階も上がり魔法陣の解読をしたり、パズルやら謎解きやらをひたすらしていた。
そして現在。京楽とアリスは大きな扉の前に立っていた。
扉には彫刻が施されており、森林、湖畔、花吹雪、山。それらの中心に巨大な大樹。そして、その大樹の幹に大きな雫が一つあり、その中には見開かれた本が彫られている。
「ここが、頂上への扉。か?」
「はい、……たぶんですけど」
アリスがそう言って頷き、京楽は扉に手を触れる。硬く金属質で、重たさを感じる扉を押し開くように手を押し付ける。その瞬間、頭に電流が流れたような錯覚を覚え、ふらついて頭を押さえる。アリスが心配そうに京楽を見るが、京楽は頭を軽く振って扉に手を置く。
「硬く閉ざされた門よ、我は真理の戸を叩く者。万象に触れし悪。蝕み、巣食う者。我、賢者へと至りて悲願を待ちわびる。我が霊の名はアンリ・マユ。世の悪全ての体現者」
京楽がそう告げると、重厚な扉が重たい音と共に開いていく。
中に導かれるように扉の中へと二人は足を進めるが、アリスは扉の前にある見えない壁に阻まれて扉の中に行くことが出来ないようだ。京楽がアリスに向き直り、声をかけようとしたとき、
「お前、本っ当に人間が好きだよな」
後ろからそう声をかけられて、京楽は振り返り、解体用ナイフを逆手に持って戦闘体制をとる。
振り返った先に居たのは、黒髪黒目になった京楽だった。
京楽を見ながらも、その口は三日月のように弧を描き笑い、ニタァと擬音が付きそうなほどだ。
「八雲京楽、人間が嫌いなわりには拒絶するような態度はあまり見せないが、何でだ?」
「……」
「沈黙はお求めじゃねぇんだよ!」
黒い京楽が京楽の懐に物凄い速さで飛び込み、ナイフを振るった。
「師匠様!」
アリスが京楽に向かってそう叫ぶが、当の本人はそのナイフを振るう手を掴んで押さえ込む。がしかし、京楽よりも遥かに力が強い。そして、京楽のように拘束を解くための知識もあるようで、簡単に拘束を解かれてしまう。
「厄介なヤツが相手だな。まさか、反転化した私が相手とはな」
「厄介だろ? なんせ、それがここのコンセプトだからな」
黒京楽はケラケラ笑う。アリスは意味が分からないと言いたげに首をかしげるが、京楽は顔を引き締めた。
「大方、〝知力を身に付け、自らを知り、認める〟が、コンセプトなのだろう?」
「ああ、そうさ。わかってるなら、俺がどんな存在か、解るよなぁ?」
「……負の私。ではないな、私の深層思考の塊か?」
「わかってるじゃねぇか」
黒京楽が笑いながら京楽を見ている。京楽は何がおかしいのかさっぱりだが、これも自分の知らない顔なのだと割り切った。
自分に黒い部分があるのは知っている。なので、あまり驚きはしないが、ここまで態度が悪いのは初めて知ったが……
「でだ、俺。何で他人なんか気にするだ? 何で他人なんかに気を使うんだ? 人間が嫌いで、関わりを拒んだお前が何で今さら人間と接触しようとしてるんだ? 恐怖症も治らない、それでも何で他人なんかを思うんだ?」
黒京楽の問いに、京楽は目を伏せた。
答えなどわかっている。だが、認めたくない。そろそろ認めなければ行けない頃合いなのだろうか? 京楽がそう考えていると、黒京楽はナイフを片手に襲い掛かってくる。
京楽の思考を圧迫するように、荒々しくナイフを振るい、体術を織り混ぜながら襲いかかる。だが、京楽には〝並列思考〟と言う技能がある。この技能は、頭の処理速度を常にあげることができ、物事を同時に考えることができると言う技能だ。複数の人の話を処理しきり、それを個別で理解することが出来るようになる技能で、利便性の高い技能だ。
京楽は黒京楽の動きを見ながら攻撃を避け続け、黒京楽の動きに隙が生まれると同時に弾き飛ばした。が、黒京楽の体が霧散し、ナイフで腹を刺され、京楽から反撃を貰うまえに後退する。京楽も咄嗟に体を逸らしたこともあり致命傷は避けたが、痛手であることはかわりない。
「師匠様ッ!」
「おいおい、誰も技能が使えないなんざ言ってないぜ?」
「幻術か」
「大正解! 卑怯なんて言わせないぜ? 殺し合いに卑怯も卑怯じゃないもないだろ? 死んじゃもともこもねぇんだから」
「同感だ」
京楽は痛みを幻術で誤魔化して立ち上がる。アリスが京楽に休むように叫ぶが、京楽は休む素振りも見せずに黒京楽と対峙した。
「……私。……私はそろそろ認めるべきだったんだろう。私は人間が死ぬほど嫌いだ」
「認めるどころか、自分で知ってることじゃないか」
黒京楽が呆れたように返すが、京楽は言葉を続けた。しかも、その京楽の言い分は内心自分も驚くようなモノだった。
「だが、私は人間が好きだ。いや、愛している」
京楽はそう言うと、黒京楽も呆気に取られた。アリスに至っては背筋に寒気が走った。あまりの恐怖に、得体の知れない恐怖に身をすくませる。
「愛している。言葉じゃ足りないほど、私は人間を、生命を愛している。自分が罪に汚れていく様を憂う人間も、自分を呪う愚かな人間も、無駄だとわかりながらも足掻き続ける無様な人間も、私は愛している! だからこそ私は人間が憎たらしい。罪に汚れていく様を憂う人間が、自分を呪う愚かな人間が、無駄だとわかりながらも足掻き続ける無様な人間が、私は嫌いだ。自然を破壊していく人類を、私が愛する全てを否定する人類が私は嫌いだ」
人類悪。人類を愛するがゆえに、その愛が強すぎるゆえに人類を嫌い、破滅させる者。京楽は正にそれだ。
京楽は人間が、世界に溢れる人類が好きだ。だからこそ関わりを持つ。だが、それと同時に人類が嫌いだ。矛盾しているが、一般的な親が自分の子供に向ける感覚と似たようなものだろう。
親は自分の子を愛している。愛しているが故に時には怒り、時には恐怖を与えるだろう。だが、根本は愛しているからであり、嫌になったり、嫌いになったりもするだろうが離れることはない。
京楽は人類を愛している。人類の持つ悪性も善性も、京楽はどちらも愛している。それ故に人類全てを嫌悪し、潔癖になる。愛しくて、狂おしいほど愛しくて、それ故に憎たらしい。
京楽は狂っているのかもしれない。だが、悪に使っていた時間が長かった京楽は狂っていて当たり前だ。サイコパスとは違う、背徳感の欲しい犯罪者達とも違う。京楽は生まれながらにしても悪性。罪意識も自覚し、背徳感を求めず、だが邪な感情は全く無い。しかし、産まれながらにして悪性でありる京楽は純粋な悪になる。愛するがゆえに許せない。愛しているからこそ許容できない。今存在する人類が、見えない頂上に操られる愚かで、どうしようもない人類を滅ぼしたい。
「どうしようもない悪であり、救いの無い狂気。それが私だ」
「で? ハジメとユカリはどう思っているんだ?」
「もちろん愛しているとも。ハジメもユカリも、私は愛している。……さぁ、これが私の答えだ。戦争の続きと行こうか、私!」
「おおさ!」
狂気と悪がぶつかり合う。愛するがゆえに全てを嫌悪する狂気と、悪であり続けることを選んだ罪人の衝突。
京楽は〝反転化〟でステータスを底上げし、黒京楽と殴り合う。お互いに武器など持たず、ただただ己の肉体一つで殴り合う。
アリスはその様子をただただ見ていた。
アリスは本能的に京楽の持つ狂気には気付いていた。だが、京楽の狂気に危険はない。それ故に行動を共にした。自分を認めた、自分を受け入れた京楽を見て、アリスは羨ましいと思った。
京楽の持つ闇が、狂気が、アリスは羨ましく感じた。自分には出来ないことをやり遂げる師を尊敬した。
アリスは自分を認めることなどできない。自分を知りたいが、自分を知るのが怖い。
「怖がることはありません。あなたは、私を知ってもあなたであることに変わりは無いのですから」
「ッ! だ、誰!」
アリスが振り替えると、そこには黒京楽と同様に、黒髪黒目になったアリスがいた。
「恐れなくとも、私はあなたなのですよ?」
「ッ!」
アリスは自分の深層思考の塊。黒アリスと目が合う。黒アリスからは京楽の様な狂気は感じられない。だが、その手、頬には鮮血が着いており、恐怖に襲われる。
「怖いですか? 怖くて当然です。あなたは臆病で強制されなければ何も出来ないのですから」
黒アリスがアリスを見下ろす。アリスは震えながらも黒アリスから目を離さない。
アリスは自分の存在を知りたくてここまで来た。確かに、京楽に任せっきりで特になにもしていないが、京楽はやりたいと言えば任せてくれたし、助けを求めれば助けてもくれた。そんな京楽の後ろを着いてきて、アリスはここで下がるわけには行かなかった。
京楽はアリスに何も強要してこなかった。だから、アリスは京楽を信用できた。アリスは自分の真実を知りたい。なら、臆病でもその真実を得るために目をそらしてはいけない。必死に自分を受け入れようとする。
「怖くても、その目をそらさない。探求心だけは旺盛ですね」
「ッ! それの何がいけないんですか! 私は! 自分が何者であるかを知りたいんです!」
「……なら教えてあげましょう。あなたはただの殺人鬼。そうでしょう? 半端者の兎さん」
アリスはその言葉を聞いて、黒アリスに反論しようとしたが、出来ない。自分が認めたくないだけで、事実は何も変わらない。だから……
「……そうかもしれない。だから……私はみんなが怖いんです」
受け入れるのではなく、受け止めた。黒アリスは気がつけば消滅しており、アリスは無気力にその場にへたれこんでいる。
「……アリス、終わったか?」
「………………はい」
「そうか」
京楽の方も終わったようで、京楽は全身傷だらけだ。戦闘が激しかったんだろう。随分と激しい殴り合いでもしたんだろう。体はボロボロだった。
アリスの様子を見て、京楽は何も言わずに手を差し出す。
「……立てるか? それとも、しばらく座っておくか?」
「……」
アリスは答えない。
しばらく、そっとしておいた方がいいと判断した京楽はアリスの隣に座り、休憩する。水筒から水を飲み、アリスの隣で一息つく。
「……師匠様」
「なんだ」
「私の話、聞いてくれますか?」
アリスの申し出に、京楽は「ああ」と返して、アリスは膝を抱えて小さくなる。
「……私、化物なんです」
アリスは自分の身の内を話始めた。
最近、文字数が減ってきたような気がする……