ありふれない青年が世界最悪   作:幻想者

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主人公はヒロインを複数抱えることが決定しました。詳しくは活動報告にてお伝えします。


血濡れた記憶

 

 

 

 

 ある亜人族の集落。そこに住んでいた少数の兎人族。その集落で不可解な怪事件が起きた。その集落に住む兎人の夫婦の間に奇妙な子供が生まれたのだ。

 

 兎人の特有の濃紺色の髪色ではなく、限り無く白に近い薄い桜色の髪の毛に真っ赤な目に白い肌、亜人ではまずあり得ない魔力を持っている。それだけでも十分不可解なのだが、この生まれてきた兎人の赤子にはこれらのことを吹き飛ばすような特徴が、容姿にはあった。

 

 兎人の象徴とも言える兎の耳がなく、尻尾も持たない人族の容姿をした少女が産まれた。それが、全ての始まりだった。

 

 両親はこの赤子を即座に殺そうとした。が、謎の力に阻まれて殺すことが出来ず、両親はこの赤子を集落の外に捨てた。

 

 赤子は泣き出す。生存本能に任せて叫ぶ。しかし、集落の周りには魔物が住んでいるのだ。赤子の周りには段々と魔物が集まり始めた。赤子に勿論対抗手段はない。本来であれば、だ。

 

 近寄ってきた魔物達が赤子に襲い掛かるが、弾かれたように吹き飛ばされ、木に打ち付けられる。魔物達が次々と襲い掛かるが、赤子に触れることは叶わず、弾き飛ばされた。だが、そんな謎の守りも永遠には続かない。魔物が弾かれる力が弱まってきて、赤子は窮地に陥った。今度こそ赤子は魔物に殺される。筈だった。

 

 魔物は狩人をしている狐人族の老父に倒され、泣いていた赤子を抱き上げてあやす。

 

「人間族の子か? じゃが、ここは樹海の中じゃし、同胞か? いや、だが特徴がないな……」

 

 老父は偶々通り掛かり、赤子の泣き声が聴こえたから様子を見に来たのだ。その結果、赤子は魔物に襲われていた。しかし不思議な力に守られていた。魔物が弾かれ、老父は不思議に思いながらも助けたのだ。

 

 そして、老父は何かを思い出したのか、赤子をマジマジと見やる。が、

 

「……まさか、な」

 

 老父はそう言って赤子を抱いたまま自分住む集落に帰った。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 老父は赤子を集落内で隠しながら育て、赤子は大きくなっていき、十歳になった。

 

 赤子は老父に育てられた。体つきも少しずつ大人に近づいていく。老父は人族の子だと思っていたが、人間族には現れないはずの特徴である大きな犬歯が現れはじめ、赤子を拾ったときの事を思い出していた。

 

「おじいちゃん? どうかしました?」

「いや、お前を拾ったときの事を思い出しておったのだよ」

「わたしを、拾ったときのこと?」

「ああ」

 

 大きくなった少女はキョトンと首をかしげ、老父はその少女の頭を撫でる。

 

「……アリス、お前を拾う十年ほど前にな。賢者様から予言貰っていたのだよ」

「賢者様? 予言?」

「ああ、マユの森に住む賢者様に樹海で小さな特殊な赤子を拾うと、予言されておったのだ」

 

 老父、エヌマ・ヴェルカーナはそう答えた。

 

 エヌマがマユの森で狩りをしているとき、幻想郷に迷い込み、賢者様に会ったのだと。少女、アリスに教えた。

 

 今から約二十年前、エヌマはマユの森で狩りをしていた。歳のせいで疲れが溜まりやすくなっており、休憩をしていたとき。不意に強い眠気に襲われ、必死に眠気に抗ったものの、眠りに落ちてしまった。

 

 それからいくらほど経ったのかはわからない。だが、エヌマが目を覚ますと、そこは塔の頂だった。

 

「……ほぉ、ここに人が訪れるとは。珍しいこともあるものだな」

「ッ! 何奴だ」

 

 エヌマが声のする方に振り替えると、黒のメッシュの入った純白の髪色の青年が居た。エヌマは弓を構えて引き絞り、青年につがえる。

 

 青年は弓を向けられても臆することなく、エヌマに向かって言ったそうだ。

 

「すまない、三百年近く人と話していなくてな。久しく人と話をする故、名乗るのを忘れていた。私はアンリ・マユ。賢者、人類悪と言えばわかるか?」

 

 エヌマは青年の正体に驚きながらも警戒し、弓を向けながら名乗り返した。

 

 それから、エヌマはアンリに幻想郷の存在を伝えられ、アンリに頼んで幻想郷から出して貰えることになった。その出ていく間際に言われたことがある。それが……

 

「……エヌマ、十年後の今日。お前は一人の特殊な赤子を拾う。その子を大切に育てよ。その子は平和の未来を産み出す鍵となる」

「急に何を言っているのだ」

「……いまはわからなくとも時期にわかる。さらばだ、エヌマ」

 

 アンリに幻想郷から出してもらい、エヌマは集落に戻ったのだ。そして、それから十年後のその日にアリスを拾った。

 

 エヌマはその話をアリスに聞かせた。アリスは楽しそうにその話を聞いて賢者の話を聴きたがるようになった。

 

 自分が拾い子であったことを知っても、アリスはエヌマを「おじいちゃん」と呼び、エヌマはアリスを本当の孫の様に可愛がった。いつか、二人で賢者様に会いに行こうと言う約束を胸に、二人は生活していた。

 

 しかし、幸せが終わるのは一瞬だった。

 

 集落に魔物が出現し、エヌマとアリスを襲った。エヌマは歳のせいでろくに戦えず、アリスは小さいが故に戦いを知らない。

 

 エヌマはアリスを守るために魔物を倒すと共に片足を失い、失明した。アリスは集落内の住人にバレてしまい、明らかに亜人族ではないアリスは、集落内で迫害を受けた。石を投げ付けられ、襲われた。だが、アリスを守る不思議な力に阻まれてアリスをどうすることも出来ず、アリスはただひたすら集落内で嫌がらせを受け続けた。

 

 そんなある日の事だ。アリスがいつものように嫌がらせを受けて家に帰ると、エヌマは集落の住人に殺されていた。アリスにどれだけ嫌がらせをしてもアリスは気にしなかった。それに腹を立てた若い男衆がエヌマを襲い、人質にしようとしたところ、エヌマは抵抗し、若い男の一人がエヌマを殺してしまった。

 

 アリスは、血にまみれ横たわるエヌマを抱きながら泣く。若い男衆はそんなアリスを見ながら笑ったのだ。「化物には相応の末路だ」と、「獣人の裏切り者と化物の運命だ」と、アリスと殺されたエヌマを笑った。

 

 アリスは泣き叫んだ。男達への恨みを乗せ、悲しみを、憎しみを乗せて泣き叫んだ。その時、大地が波打ち、槍のように鋭く尖ったら地面が男達を穿ち、集落が阿鼻叫喚に包まれた。

 

 あるものは大地から樹の根が身体を貫き、あるものは大地に呑まれ、あるものは男達同様に地面に貫かれる。そしてまたあるものはアリス自らが殺した。

 

 気が付けば集落は壊滅し、自分は返り血にまみれ、その場に泣き崩れた。不意に頬に着いた血を舐めると、美味しく感じた。それに吐き気を催して吐き、血生臭いが漂う集落で死んだように眠り、いるはずのない生存者を探して集落内を彷徨い歩き、血を舐め、吐き、死んだように眠る。そんな日々を送っていた。

 

 そんな生活を送っているうちに、自分が何者であるかがわからなくなった。名前はわかる。だが、自分の種族が全くわからない。亜人、獣人でもなければ人間族でも魔人族でもない。自分の存在がわからなくなった。そんな時だった。アリスは不意に、エヌマの言っていた賢者様の話を思い出した。

 

 自分がエヌマに拾われることを予言した賢者様であるならば、自分の種族を知っているかもしれない。自分を助けてくれるかもしれない。

 

 アリスはその賢者様に会うために、会って話をしたいがためにマユの森にあるとされる幻想郷を探した。

 

 そして、たどり着いた頃には若干丸くなっており、アリスを見付けて面倒を見てくれたガウルフによって、精神的にまだマシな状態になっていた。

 

 だが、先程の自分との会話で蓋をしていた記憶を抉じ開けられ、顔色も優れず、精神もうつ向き気味になった。

 

「……これが、私の話です。可笑しいですよね、私みたいなヘンテコな化物が誰かに必要とされるなんて、自分を知りたいだなんて」

 

 アリスはそう言って、段々と卑屈になっていく。

 

 京楽は何も言わずにアリスの隣に座り、溜息を吐いて額を指で小突いた。アリスは「あうっ」と小さく声を漏らす。

 

「師匠様?」

「あまり卑屈になりすぎるな。今で言っておくが、アリス。お前は化物ではない。かなり特殊な存在と言うだけで、自然の一部だ。それにだ。本当に化物であるなら、アリスは私を殺すだろう? 私だってアリスがただの化物なら殺すだろうな。そして、自分を知ろうとして何が悪い。化物だからなんだ、人間だからなんだ。自分を知る権利ぐらい誰にでもある。それを否定するな。それを否定するなら、今ここで全てを終わらせろ」

 

 京楽はアリスの足下にナイフを突き立てた。アリスはそれを見て一瞬怯えた。ナイフがアリスの姿を写し、アリスはナイフに手を伸ばした。そして、自分に刃を向ける。

 

 京楽は止めないし止める気はない。アリスが自分を殺せないのを知っているから。

 

 アリスは刃を向けただけで手は一行に自分に進まない。ナイフは震え、アリス自身も、涙を流しはじめた。死にたいのに死にたくない。消えたいのに消えたくない。京楽は本気で死ぬ人の目を知っている。だからこそわかるのだ。アリスが自分を殺せず、生きることを願っていることを。

 

「なんで……なんで私は死ねないの。なんで殺せないの」

「……お前がまだ生を望むからだ」

「いや、もういや。死にたいに……もう、おじいちゃんの所に行きたいのに、なんで死ねないの」

 

 アリスからナイフを取り上げ、ホルダーにしまい、アリスの頭に手をやり、優しく撫でた。

 

「生きろ。生を望むなら、エヌマよりも長く生きろ、アリス。生きることが困難であるなら、生きる意味がわからないなら見出だせ。それが無理と言うなら、私の為に生きろ」

「師匠……様」

「泣きたいなら泣け、辛くて叫びたいなら好きなだけ叫べ。誰かの許しなんぞ不要だ。誰かからの許可が欲しいなら、私が全部承諾してやる。だから、生きろアリス。お前もまた自然の一部だ。勝手に死んで蕾のまま花を散らすな、散るならば綺麗に咲き誇ってから散れ」

 

 かなり一方的な押し付けだが、悲しみを、憂いを抑え込んでいるなら、無理矢理にでも爆発させた方が相手のためになることもある。アリスの場合はそれが正解だったようで、京楽を絞め殺す勢いで抱き着いて泣き始めた。

 

 アリスがどれだけ抑え込んでいたかはわからないが、かなり抑え込んでいたのは確かだ。アリスの体験した悲しいこと、辛いこと、嫌なこと全てを吐き出すように、その勢いは激流の様に激しくしばらくの間は止まりそうにない。

 

 綺麗な、可愛らしい顔も涙やら鼻水やらでぐちゃぐちゃにして京楽に抱き着きながら泣きわめく。一瞬、アリスとユカリが重なって見えた。泣き方が似ている。と言うよりは、泣きながら相手に甘えるのがそっくりなのだ。

 

 ユカリも表情や感情表現こそ豊かだが、抑圧されて爆発させることもある。決まってそんなユカリの相手をするのは京楽かユカリの実母の菫だ。胸に顔を埋めながら泣き、相手に癒しを、慰めてくれと言うように頭を擦り付ける。ユカリはそのあとにかなり顔を真っ赤にして謝ってくるのだが、京楽は別に迷惑には感じていない。無駄に溜め込まれては後が大変なのだ。発散出来る内にしてくれるのは大変ありがたい。

 

 アリスを抱きしめ、慰めながら頭を優しく撫で、アリスの辛かったこと、苦しかったこと、悲しかったこと、嫌だったこと。全てを京楽は受け止める。勿論、不快感はあるし嫌悪感もある。それに、今すぐアリスを引き剥がしてペイッしたいが、逆効果だろうし、京楽もするつもりはない。

 

「辛かったな。今は抑えなくていい。好きなだけ私に吐き出していけ」

 

 優しく京楽が囁き、アリスはそのまま数時間もの間泣き続けた。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「落ち着いたか?」

「ひゃ、ひゃい」

 

 アリスは耳まで顔を真っ赤に染め上げながらうつ向き、そう答えた。

 

 アリスが京楽に抱き着いて泣き終わったあと。アリスが冷静になり、羞恥心で京楽から離れて顔をそらし、今に至る。

 

 京楽はアリスの涙やら鼻水でベタベタになった服を脱いぎ、マフラーとマスクも汚れたので外している。それ故に、アリスが恥ずかしくて目を逸らしていると言うのもあるかもしれない。細く引き締まった肉体に綺麗な白い肌。しかし、それらよりも目を引くような大きな右腕、首、口元の傷跡。そして、横腹に出来た治りかけの傷。

 

 それらが気になるからか、チラチラと京楽を見ている。

 

「……進むとしようか」

 

 京楽はそう言って歩いていく。アリスも少し慌て気味に後ろに着いていった。

 

 今度はアリスも問題なく通ることが出来、黒京楽との戦闘のせいであまり意識していなかったが、地面には巨大な魔法陣が描かれている。

 

 頂上ではなく、薄暗い巨大な部屋だ。

 

 二人が中心の方まで足を運ぶと、魔法陣は起動して輝きはじめた。

 

 空気が変わったのを感じ取り、塔の中とは違った清涼な風を感じる。光が次第に収まり、目を開けると、空には満天の星が広がり、月明かりが京楽とアリスの二人を照らしていた。

 

「ここが、塔の頂上か」

「み、みたいですね……」

 

 塔の頂上はいたってシンプルで、天に延びる柱が何十本かある程度の場所で、中央は台座になっており、祭壇のようにも見える。

 

「塔の頂上と言うわりには、神殿跡地の方がしっくり来るな」

 

 京楽はそう言って柱に触れる。柱はまだ新しく、砕け崩れている様に見えるのはそう言うコンセプトで建造したからだろう。年季はあまり感じさせない。経っていても二十年とちょっとぐらいだろう。

 

 京楽が台座の方に足を踏み出すと、魔法陣が出現し、台座の方にふわりと人影が現れ、地面に降り立つ。

 

 赤い眼鏡に白いロングコートを羽織り、首にマフラーを巻いた女顔の白髪黒メッシュ。白い肌に真紅と金色のオッドアイと言う不思議な青年。その青年は京楽とアリスを見下ろすように台座から見ていた。

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