ありふれない青年が世界最悪   作:幻想者

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新キャラ出現。この子はだれかな?


広がる幻想郷と外来者

 

 

 

 

 アリスをあやし終えてからしばらく経ち、京楽は宝物庫の奥へ行き、一冊の大きな本を手に取る。当時、京楽を賢者、〝魔法最強〟足らしめた京楽が京楽たる故に生み出した京楽が扱うなかで最も万能で優れたアーティファクト。

 

 この本でやるべき事があるのだ。幻想郷から出て行く前に必ずやらなければいけない下準備のひとつ。

 

「師匠様? 何をするつもりで?」

「幻想郷を広げるだけだ」

 

 京楽が本を開くと、本の中身は全て空白だった。本の中は何も書かれておらず、京楽はその本のページを流し見てから満足そうに頷いた。

 

「あの時のままでよかった……。始めるか」

 

 京楽が本を片手に広げて持つと、眼を閉じて詠唱を始めた。

 

「詠う、我、幻想の主。霞む世界、我は取り込まん──」

 

 京楽の詠唱と共に本が光を放ち、アリスは手で目を庇うように覆う。京楽の体から魔力が洪水のように溢れだし、宝物庫内に留まらず屋敷を、塔の中を、幻想郷全域を京楽の白銀色の魔力に充たされる。

 

「ここに我は願う、静謐の自然を。ここに我は願う、時を行く命を。ここに我は願う、万物の調和を──」

 

 賢者、アンリ・マユの願った全て。自然と生命の調和。その理想郷がここ、幻想郷だ。自然を愛し、生命を愛し、強い願いを持った者だけが辿り着ける場所。

 

 そして、広げるのにも意味はある。この世界のバランスを守るために、幻想郷の中で世界の法則から外れた存在を偽神の手から守れるようになるのだ。幻想郷はアンリ・マユ、京楽以外の何者からも直接的干渉が出来ない場所。神、エヒトですら幻想郷に無理矢理入ってくることは出来ない。

 

「──我は世界の観測者、新たな神話を描く者。我が権能により隔ての壁を高くし、境を押し広げる──〝界造〟」

 

 京楽が魔法のトリガーを引くと同時に、強い光が京楽達、幻想郷を包む。

 

 京楽やアリスが目を開ければ、

 

「ここは……大きな湖?」

 

 海が広がっていた。足元は白い砂浜が横に広がっており、海は異界化している幻想郷の端まで続いている。幻想郷を拡大したからか、新しいエリアが出現したようだ。

 

 京楽が千里眼の派生、〝世界視〟で幻想郷を眺める。〝世界視〟は、自分のいる世界の状態を見ると言う技能だ。しかし、あくまでも見ることしかできず、干渉はできない。ざっと見たところ、海以外にも砂漠や湿地帯が出現していた。そして、新しくそのエリアの支配者も現れている。どうやら、エリア支配者はエリアの顕現と同時に生まれる絶対強者のようだ。

 

「大きな湖と言うのは語弊があるな。正確に言うと海だ。成分も海と大差無い様だしな」

「こ、これが海……大きいんですね」

「……星の大半を占めるモノだからな。当たり前だと言えるだろうが……内陸育ちのアリスは、見るのが初めてだったか?」

「はい。おじいちゃんから話はいくらか聞いたことはあったんですけど……見るのは初めてですね」

 

 アリスが海を眺めながらそう答える。どうやら海を初めて見たらしい。

 

 京楽達が海を眺めていると、何かがプカプカと浮き漂っていた。うつ伏せになりながら幻想郷の海をプカプカと浮き漂っている。

 

「し、師匠様。あれ、人ですよね?」

「……だろうな」

 

 京楽はそうとだけ答えて千里眼で生きていることを確認して、海の上を走り始めた。いや、正確には風を身体に纏って飛翔しているのだが……

 

 プカプカ浮いている半死体を引き上げる。気を失っているのかぐったりしており、動く様子はない。呼吸は出来ていないようで、陸地に急ぎで戻り、砂浜に寝かせて心肺蘇生を試みる。千里眼には生命反応があった。生きてはいるのだろうが、かなり危うい。

 

 心臓マッサージ、人工呼吸を繰り返し、自発呼吸が出来るようになるまでひたすら繰り返す。そんな京楽の行動に、アリスがなんとも言えないような表情をしているが気にしない。救助活動だ。下心はない。

 

「けほっ」

 

 半死体だった彼が咳き込み、水を吐き出す。自発呼吸が出来るようにはなったようだ。無限湧きの水筒以外で身体の回復を促すアーティファクトが無いか自分の記憶を漁る。一応、液体以外で一つ二つあった覚えはあるのだ。

 

「あ、あの~師匠様?」

「なんだ?」

「今のは一体……」

 

 アリスの何とも言えないような微妙な表情に京楽が首をかしげたが、納得したように頷いた。

 

 〝今の〟と言うのは、人工呼吸や心臓マッサージのことだろう。知識がなければ気絶している人間に口付けして、胸部をただただ押しているようにしか見えない。見え方、捉え方によってはただの変質者だ。

 

 変に誤解をされるのは嫌なので何をやっていたのか、やっていたことの意味を軽く説明しておく。救命活動でお縄には着きたくない。

 

 ちなみに、何故お縄に着くことになるかと言うのにもきちんと理由がある。救助した彼は、千里眼で確認したところ女性だった。アリスは始めから気付いていたようで、白い目を京楽に向けている。京楽は千里眼で確認した際にわかってはいたが、自分の嫌悪感や羞恥心よりも人命救助が優先だ。

 

 アリスに粗方説明して、京楽は自分の腕に鱗を纏う。すると、そこから白いオーラが漏れだし、少女を包み込んだ。京楽が竜化した際に纏っているモノで、自然治癒力や生命力を活性化させる作用があるらしい。青白かった肌も、血色を取り戻していく。

 

 少女を抱えて日影に移動し、自分の周りに風を纏わせて少女の体を乾かす。服が濡れて身体に張り付いているのだ。少し目のやり場に困る。

 

「私と同じ、外来者でしょうか?」

「だろうな。コレまた厄介な力を持った者が来たものだ」

 

 京楽はそう呟いて少女を見やる。少女もアリス同様に固有魔法を所持していた。

 

 しばらくすると、少女が目を覚まし、体を起こした。近くに居たアリスが少女に声をかける。

 

「あっ、起きました」

「ここ……どこ?」

「えっと、幻想郷って場所なんでけど……」

「……」

 

 少女はポーっとした目でアリスを眺め、アリスは少女と目があってしまい顔を真っ赤に染め上げた。恥ずかしいようだ。

 

「……げんそう、きょう?」

「え、ええと……、その」

「……幻想郷。生命の在り方を求め、彷徨う者が行き着くことのある場所。まぁ、そうた伝えられているだけで、自然に対しての敵対心や害意がなく。平穏を求める者が行き着く自然の楽園のことだ」

 

 京楽は少女にそう返す。ちなみに、京楽は少し離れた場所でエリア支配者と交信をしていたのだ。それ故、少し席を外していた。ここの支配者も龍のようで、知識だけが存在している状態なんだとか。

 

 少女が京楽に目を向ける。その目は暗い紫色で、京楽をボーっと見つめている。

 

「……あなた、美味しそう」

「……そうか。腹が減っているなら少し待て、何か取ってこよう」

「………あなた、食べたい」

「……食人主義か? あまり薦められないな。体を壊すぞ。アリス、少し見ていてくれ」

「はい。わかりました」

 

 京楽は森の方へと歩いていった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 京楽は、果実類を木から回収しながら少女の事を思い出していた。

 

 暗い紫の髪に、垂れた紫の目。体つきは日本で言う平均ぐらいで、可愛い系の顔付きではあるだろう。ただ、その瞳に光は薄い。

 

「……〝暴食〟か」

 

 京楽はそう呟いた。〝暴食〟、どんなものでも食べられるようになる。食べたモノの性質を一定確率で獲得する。その代わりに強い空腹感に襲われ続ける。そう言う固有魔法だ。言ってしまえば、食べれば食べるほど強くなる固有魔法。ただ、代償として強い空腹感に襲われ続ける。そう言った固有魔法だ。この固有魔法を持った魔物が出現することも稀で、人類の中でも発現例はあまりない極稀な固有魔法でもある。

 

 そして、固有魔法の特性上色んなモノを食べ、それらを無駄無く吸収するため、良く育った体付きになる。筈なのだが、あの少女は痩せ気味だった。長い間あまり食べていないか、後天的に発現したのかのどちらかだろう。

 

 まぁ、どちらにせよ。空腹の少女を放置するつもりはない。どの様な経緯であれ幻想郷にやって来たのだ。京楽は、幻想郷にやって来た目的が幻想郷の破壊でない限り敵対はしない。木の実や果物等を回収できるだけ回収してアリスと少女の待つ砂浜に向かう。

 

 砂浜に戻ると、少女がボケーっと波打ち際に座り、海を眺めていた。その近くでアリスも海を眺めている。耳を澄ませば波が押し寄せ、引き返す音が聴こえる。不思議と心の安らぐ音だ。京楽も久し振りに聴いたのだ、思わず聞き入ってしまう。だが、アリスが京楽に気が付いたため、意識を戻す。いつまでも聞いていたいが、少女やアリスに何か食べさせるのが先だ。 

 

「取ってきたぞ、食べるか?」

「あ、もらいます」

「………たべる」

 

 京楽から果物、アフルを受け取ってアリスと共に少女が食べ始める。少女はアフルを気に入ったようで凄い勢いで食べ、あっという間に一つを食べきった。

 

「……もっと、ほしい」

「沢山食べるといい」

「……感謝」

 

 少女が京楽から追加でアフルを貰い、ムシャムシャと食べる。アリスが一つを食べきる頃には八つを食べきっている。

 

「……もっと、ほしい」

「欲しいときは何て言うんだ」

「……お腹すいた。それ、食べたい。ちょうだい」

「よし、良いだろう」

「……感謝」

 

 京楽から追加でいくつも貰い、アリスはそんな少女を不思議そうに眺めていた。

 

「一杯食べますね……」

「………ん。美味しい」

「お気に召したようで何よりだ」

 

 少女は食べるのを再開し、ムシャムシャと食べる。京楽は動物園の動物に餌をあげてる気分になっていた。両手でアフルを持ち、ムシャムシャと夢中になって食べる。

 

 しばらくして少女が食べるのを終えると、京楽とアリスに目を向けた。

 

「……ありがとう、美味しかった」

「そうか、気が済むまでここでゆっくりしていくといい」

 

 京楽はそう言って立ち上がると、少女が京楽を見上げ、

 

「……名前、なに?」

「……今の私は、アンリ。アンリ・マユだ」

「? ……そう。私、エル=ケーニッヒ・フェレライ」

「アリスです」

 

 京楽はアンリ・マユの名前を名乗ることにした。ちなみに、きちんと理由はある。

 

 今の京楽には二つの顔がある。賢者であるアンリ・マユとしての顔。そして、17歳の異世界から来た人間である八雲京楽としての顔が存在する。人格が乖離した訳ではない、ただのペルソナ。京楽の別の側面と言うだけだ。アンリ・マユと八雲京楽は、切っても離せない。

 

 アンリ・マユが居なければ、今ここに八雲京楽と言う存在はなく、八雲京楽が居なければ、今ここにアンリ・マユと言う存在はない。

 

 今は幻想郷を支配し、治める者。その幻想郷を造り、治めているのは八雲京楽と言う側面ではなく、アンリ・マユと言う賢者としての側面だ。今は八雲京楽を名乗るべきではない。そう感じただけだ。下心はない。

 

 少女、エルは、京楽とアリスの名前を反芻しながら交互に見る。

 

「………アリス」

「うん」

「………アンリ」

「ああ」

「……ん。覚えた」

 

 エルがそう言うと、お腹からキュ~っと可愛い音が鳴り、少し黙る。そして、少しして京楽を見た。

 

「……アンリ、お腹すいた」

「空腹になるのも早いのか……」

「……すぐお腹すく。ご飯、ほしい。ちょうだい?」

「はぁ……アリス、少し手伝え。空腹娘の腹の虫を黙らせるぞ」

「あ、はい」

「……ご飯」

 

 京楽は白紙の本を開くと、

 

「〝帰還〟」

 

 と、そう呟く。すると、三人の視界が光に白く塗りつぶされる。

 

 光が鎮まり、辺りが見えるようになった頃にはアンリ・マユの洋館の前に立っていた。

 

「えっ、移動してる」

「……お~」

 

 アリスは驚きを隠せず、エルは気の抜けたような声でそう言った。この世界で転移系の魔法は神代以降から廃れていき、その魔法の使い手は現代ではいないとされている。なので、驚かれるのが普通だ。

 

 しかし、アリスが驚いているのは、単純に一瞬で色んな場所に移動してるからだろう。アリスは魔法にかんする知識があまりない。精々亜人族以外は魔法が使える、程度の知識ぐらいだろう。京楽はお構いなしに洋館に入っていく。

 

「アリス、間取りは覚えているか?」

「えっ、あっ。……一緒に廻ったところならある程度は」

「なら充分だ。エルをリビングに連れていってくれ。私は少しやることがあるからな」

「やること、ですか?」

「ああ、なに。そこまで時間は取らない。楽しみに待っているといい」

 

 京楽はそう言って中に入り、食料庫とキッチンに向かう。空腹の者が居るのだ。久し振りに料理を作ることにした。

 

「料理、か。何時振りだろうな。腕が鈍っていなければ良いんだが」

 

 キッチン内に置かれている調理器具をさらっと流し見て、見付けた三徳包丁を片手で遊ばせる。ペン回しの要領で回したり、持ち方、握り方を流れるように変える様子は、京楽が何れだけ扱い慣れているかが見て取れる。

 

 京楽は包丁を軽く洗って握り直し、食材を切る。食料庫には大量に食材が眠っているし、今ここで豪華に作っても問題ないだろう。

 

 魔力を流すだけで火の着くコンロや、魔力を流すと水が出てくる水道。慣れない分、少し時間はかかるだろうが、どれも使い勝手は良かった。

 

「~♪」

 

 京楽はご機嫌だった。

 

 包丁は使いやすいし、自分の扱いやすい位置に色々なモノが設置されてあるのだ。調理がしやすく、機嫌が良い。

 

 何やら視線を感じて、隣を見ると、オートマタの一体が京楽を見ている。

 

「今出来た料理をリビングに持って行ってくれ」

 

 京楽から指示を受けると、コクりと頷いて料理を運んでいった。ただ指示を待っていただけだったようだ。料理に夢中になって気が付かなかったが、一体だけではなく、五体ほど並んでいる。ここのオートマタは働き者らしい。

 

「今から出来たものも運んで貰いたい。頼めるか」

 

 京楽の言葉にオートマタ達が頷き、それから後、リビングに大量の料理が運び込まれることになった。その量にアリスが呆れたように京楽を眺め、エルは料理に目をキラキラ光らせていたと言う。

 

 






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