ありふれない青年が世界最悪   作:幻想者

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遅くなりスミマセン。更新します


出向く

 

 

 

 

 夜。飲み屋街の明かりが灯り、冒険者依頼終わりの達が飲み屋に流れていく。

 

 そんなホルアドの夜の町を京楽はふらふらと彷徨うように歩いていた。

 

 誘ってくる風俗嬢の誘いを断りながら、前遠征に来たときの宿へと向かう。二度目の遠征であり、メルドは王国が直営してる上に、騎士団が訓練で使うと言うこともあり安くすむんだそうだ。

 

 それならば、今回も使われるのではないかと考えたわけだ。

 

 ちなみに、アリスとエルは宿に置いてきた。いや、正確に言えば追い出された。なんでも、二人だけで大切な話があるらしい。京楽は空気を読んで出ていった。

 

 宿の一階は食事処となっており、京楽が入るなり視線が集まってきた。おそらく、京楽の今の格好が原因だろう。時期外れなロングコートに長めのマフラー。そして、なにも書かれていない。顔すらも書かれていない、右目にあわせて開けられた穴の空いた白い仮面をつけている。まぁ、仮面をつけているのは身バレを防ぐためだ。

 

 傭兵をやっているならば顔に大きな傷を負い、それを隠すために仮面を着けたりする人間も少なくはない。だが、なんのデザイン性もない仮面を着ける者は中々いないだろう。

 

 受付には食事目的で来たことを伝え、空いてる場所に座るよう言われた。

 

 ざっと席を探していると、訓練に来ているであろうクラスメイト達が、メルドや騎士団員達と食事をしていた。そして、メルドの隣が丁度空いていたのだ。メルドの隣まで行き、机を軽く指先で叩く。

 

「……隣、よろしいか?」

「あ? ああ、構わないぞ」

「では、失礼させてもらおう」

 

 食事中であるメルドの隣に腰をおろし、店員に食事を注文する。メルドは夕食とビールを飲みながら京楽に目をやる。やはり、少しばかり怪しく見えるのだろう。

 

「そんなに怪しむように見ないでほしい」

「いや、すまない。だが、お前さんも怪しまれるような服装をしているというのは、理解してくれよ」

「……」

 

 京楽は仮面をずらして水を呷る。顔が見えない角度でずらし、水を飲んで仮面をただす。まぁ、万が一見られたとしても認識はほぼ不可能と言える。

 

 京楽は入っていた際に宿屋全体に認識阻害の幻術をかけてある。仮面が取れて顔が見えたとしても京楽の顔を上手く認識することができず、知り合いでも気が付かれないだろう。仮面はあくまでも保険だ。仮面はアーティファクトでも魔道具でもなんでもないただの仮面だ。着けていなければ顔は隠せない。

 

 しばらくすると、京楽の頼んだ料理とメルドの酒が運ばれてきた。

 

 メルドの隣で、運ばれてきた料理を黙々と食べる。仮面をずらし、その顔をメルドが注意深く見ていた。

 

「……なにか、私の顔についてるのか?」

「いや。食事の時ぐらい仮面をとったらどうだ? 食べづらいだろう」

「………それもそうだな」

 

 仮面を外して見たが、メルドは特に反応せず、近くにいた騎士団員やクラスメイト達も特に反応を見せない。どうやら、上手く幻術にかかってはいるようだ。まぁ、仮にかかっていなかったとしても結界魔法で認識をずらしてあるため問題はない。

 

「うむー、どっかで見たことあるような顔だな」

「……気のせいだろう。顔の似た人物はよくいると言われている」

「それもそうだな」

 

 メルドが酒を飲むのを再開し、クラスメイト達も会話を楽しみながら食事を再開させる。

 

「いやー、すまないな。疑って」

「別に構わない。自分の身を案じるのであれば、奇妙な相手を疑う方が正しい」

 

 京楽は怪しむことを肯定し、料理を食べる。メルドは笑いながら酒を飲み、京楽に酒を勧める。しかし、京楽は禁酒中と言うことにして酒を断った。

 

「ほぉ、お前さん。魔法が得意なのか」

「魔法以外も出来るがな。体術に剣術、弓や槍、色々出来て損はない」

「か~、凄いな。内の宮廷魔法使い達も見習ってほしいものだ」

「魔法が撃てるだけでは、動く砲台と何らかわりない。いや、魔力が尽きれば砲台よりも価値がないかもな」

「言い過ぎじゃないか?」

「立っていることしか出来ない奴は、戦場に行ってもお荷物だ。邪魔だろう?」

 

 京楽の言葉に、メルドは苦笑しながらも同意した。魔法が撃てるだけではただの砲台と変わらない。普通の砲台よりは仕事をしてくれるだろうが、高威力の魔法を射つとなれば、必然的に長い詠唱と、膨大な魔力を要する。魔法を詠唱する時間よりも、砲台に砲弾をいれて撃った方が早い場合もある。

 

 際どいところではあるが、魔法しか使えない兵士など使い勝手が悪い。メルドもそれは十分理解している。特に宮廷魔法使いは魔法以外はあまり出来ないのだ。魔法を撃って逃げるため、騎士達に魔法を教え込ませた方が早い。そして戦力になる。

 

 だが、後方支援と考えるならばありがたい。それゆえに、あまりバカには出来ないものだ。

 

 二人が話をしていると、近くにいた光輝が二人の元にやって来た。話に混ざりたいのだろうか?

 

「おう、どうした光輝」

「仲が良さそうだなっと思って」

「あぁ? このぐらい普通だろ? なっ?」

「……まぁ、そうだな。誰とでも世間話ぐらいはするものだろう。それにだ。今知り合ったからな。お互い、知人同士と言うわけではない」

「そうなんですか? 俺、てっきり団長が仲良さそうに話しているので知り合いなのかと」

 

 単純に、仲良く話しているように見える京楽とメルドが気になっただけのようだ。京楽もメルドも仲良く話しているつもりはない。お互いに世間話をしているぐらいの感覚だ。

 

「……団長、か。何かやっているのか?」

「ん? ああ、そういえば名乗っていなかったな。私はメルド・ロギンスだ。王国騎士団の団長をしている。今は新兵の訓練に来ているんだ」

「ほぉ、騎士団の団長か。……私はアンリだ。家名は無い」

「どうしてです?」

「…………スラム出身だからな」

 

 京楽はそう告げると、光輝は首をかしげた。そして、京楽は呆れた視線を光輝にやり、メルドも溜息をついた。

 

「あー、すまんな。コイツ、箱入りでな。あまり常識がないんだよ」

「……気にするな」

 

 京楽は気にしていない。あくまでも、スラム出身は設定だ。特に気にすることはない。メルドが光輝の変わりに謝るのを諌めて、店員を呼び酒とジュースを頼む。

 

「むっ、禁酒中じゃないのか?」

「私の酒ではない。メルド、一杯奢ってやる」

「おっ、いいのか?」

「手のかかる者を育てるのは楽じゃない。それは、よく知っているからな」

 

 京楽は今までの弟子達を思い起こしていた。

 

 アンリ・マユであった頃は、かなり弟子がいた。竜人族の者や、人間族、魔人族、海人族、吸血鬼族。この世界における全種族に弟子はいる。まぁ、アリスはだいたい300年振りぐらいに弟子だ。300年前は一人の吸血鬼族の少女に魔法を教えたぐらいだ。その少女は中々の才能を持っており、自分までとはいかなくとも、成長次第ではアンリの仮初めの姿と同等の力を有していた。現に、仮初めの自分は少女に敗北し、死滅している。

 

「そうか、ありがたく貰わせていただこう」

「ああ、そうしてくれ」

 

 それから京楽とメルドはかなりの時間を話し込んだ。

 

 京楽の歩兵学や戦闘学。メルドの新人教育論を話し合い。お互いに共感しあっていた。

 

「……ほぉ、新人の教育が上手いようだな」

「まあな。これは俺自身が誇れるモノだからな。まぁ、新兵からすれば取っ付きやすい上司なんだろうがな」

「距離が近いことは良いことだ。弟子や教え子の悩みを聴きやすくなる………ただ、不利点と言われれば、情が入りすぎる所ではあるが」

 

 京楽の言葉に、メルドは苦笑を浮かべる。

 

 〝情が入りすぎる〟。今のメルドは正にそれだ。

 

 騎士団長として、戦いの教育者として教えるべき事を教えられていない。教えるべき事、それは人を殺す覚悟だ。

 

 戦争である以上、殺し合いは必至であり避けては通れないものだ。例え、それが魔人族の兵であっても、人殺しなのだ。

 

 メルドは根っからの戦士だ。護りたい、愛する祖国を護りたい。給料が良いとか、手っ取り早い就職先が騎士だったなどもある。しかし、メルドは自分の産まれ育った国、ハイリヒ王国を愛していることに変わりはない。民を守るために剣を王に捧げ、それらを振るい。民を守るために、国を脅かす者を斬る。

 

 メルドは戦地に赴いたこともあり、魔人族と戦ったこともある。教会は魔人族を、魔物の上位種のように教えたが、魔人族もまた、誰かを愛し、守り。誰かに愛され、守られている人間だった。

 

 今の光輝や生徒達に殺しを教えて良いものか? 教えるべきか、否かで常に自問自答を繰り返している。

 

「〝情が入りすぎる〟か。よく刺さる言葉だ」

「……あまり私情を挟むな。取り返しのつかないことになるぞ」

「そう言うわりには、すすめないんだな」

「……慣れてほしいモノではないからな。争いの絶えない世だよ、全く」

 

 京楽もアンリ・マユとしても人殺しを慣れてほしいとは思えない。

 

 人殺しに慣れたせいで人間性が壊れる者もいる。そして、かなりの無駄な血が流れることになるのだ。すすめようとは思わない。

 

「あの、ちょっと良いですか?」

「ん? どうしたんだ、光輝」

「やっぱり、この人怪しいんですよね」

 

 光輝は京楽に目をやり、軽く睨む。それを京楽は気にせずにジュースを呷る。

 

「なんか、嘘ついてる感じがして──」

「光輝、それ以上は流石に失礼よ」

 

 光輝が京楽を咎めるように言うが、近くに来ていた雫に止められた。光輝は止めに来た雫になにか言いたげだが、追い討ちをかけるようにメルドにも相手に失礼だと言われて引き下がった。

 

「ごめんなさい。悪気があったわけではないのよ」

「……気にするな。初対面の者を疑うのは当然だ」

 

 京楽は手をひらひらと振り、ジュースを飲み終えてから席を立つ。

 

「私はそろそろ宿に戻るとしよう。じゃあな、また縁があれば会おう」

「そうだな。縁があれば、な」

「死ぬなよ。……まぁ、そこはお互い様だが」

 

 メルドとそんな冗談を言い合って雫の横を通り抜けるように宿から出ていく。雫に幻術を一瞬だけかけて。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 宿から出ていく青年を眺めながら、雫は不意に聞こえた声に戸惑っていた。

 

『…………今から数刻後、噴水のある広場まで来てくれ。少し、話がある』

 

 雫の耳にはそう聞こえた。聞き覚えのある声で、そう聞こえたのだ。

 

(まさか、今のは八雲君なの? でも、顔も姿も違かったような……あれ? よく思い出せない)

 

 ついさっきまでメルドと話をしていた青年の顔や声、背格好を全く思い出せない。そして、青年と思っているが、性別がどうだったかさえわからなくなってくる。

 

(彼は一体何者なの? 何で私を)

「雫、どうかしたのか?」

「何でもないわ。少し疲れているだけよ」

 

 雫は一度考えることを打ち切った。わからないことをグルグル考えたところで、わからないものはわからないのだ。

 

 彼に会うにしても、今は流石に行けない。今自分が外に出れば、光輝が確実に着いてくるだろう。そうなると、彼にも迷惑になる。

 

「部屋に戻るわ。おやみなさい」

「ああ、おやすみ。雫」

 

 光輝やメルドに見送られて、雫は香織と一緒に割り当てられた部屋に戻る。部屋の中では香織が治療魔法の指南書を読み、少し悩ましげに唸っていた。今も勉強中のようだ。

 

「香織、帰ったわよ」

「あ、おかえり雫ちゃん」

「頑張ってるわね」

「うん。早く強くなって、南雲くんをすぐにでも見付けたいからね」

 

 香織は目覚めてからと言うもの、かなり訓練に励み、個人での勉強量を増やしている。奈落の底に落ちていったクラスメイトを助けるために。大好きな人を助けるために一生懸命頑張っているのだ。

 

 雫はそれに協力している。一度決めたことを曲げない幼馴染みを、大事な親友を守るために側に居続ける。

 

 二人がしばらく話していると、香織はふと思い出したように呟いた。

 

「八雲くん、元気かな~。飛び出して行っちゃったけど、大丈夫なのかな」

「どうかしらね。わからないわ」

 

 雫はついさっきまで会っていた人物を軽く思い起こす。しかし、少し霧がかってしまい、うまく思い出せない。

 

「……ねぇ、香織。八雲君が近くに来てるかも知れないの」

「? 何でわかるの?」

「さっきの彼。ほら、食事中に団長に相席した人。たぶん、彼が八雲君よ」

「そうなの? でも、八雲くんはあんな顔……あれ? 上手く思い出せない」

「そう。私も上手く思い出せないの。八雲君は、幻術にかなり特化しているから、認識阻害とかも使えるはずよ。たぶん、私達全員にかけていた可能性もあるわ」

 

 京楽がかなり強力な幻術が使えることは知っている。この世界に置ける幻術は、幻覚や幻聴、幻視以外にも、闇属性魔法の半面を持っている。そのため、幻覚や幻聴を応用して術者の顔や姿を認識しにくくしたり、声を変えることができる。京楽のレベルになると、かなりの規模に幻術をかけることができるだろう。

 

「香織。私、八雲君に会いに行こうと思うの」

 

 雫の言葉に、香織は頷いた。そして雫の手を取る。

 

「私は待ってるから、雫ちゃん。八雲くんに会って、ちゃんと話してきてね」

「もちろんよ」

 

 雫は自衛用に武器を腰にさして広場に向かった。香織は雫を見送り、本に目を落とした。

 

「……雫ちゃん。ちゃんと、八雲くんに話してね」

 

 そう呟いた香織は微かに笑っていた。しかし、その笑みを見たものは誰もいない。

 

 

 






まだ忙しい日が続くと思われるので、更新頻度はこのままです。ご理解ください

原作死亡キャラを生存させるか否か

  • 生存させる
  • 原作通り死亡
  • どちらでも構わない
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