ありふれない青年が世界最悪 作:幻想者
長い間が空きましたが、失踪はしていません。急ぎで書いたので文章がいつも以上にぐだぐだかも知れませんが、よろしくお願いします
京楽は噴水の縁に座っていた。コートについているフードを被り、仮面を着けたまま星空を眺めている。
「……こんな時間に、ここに来てよかったのか?」
「あなたが呼んだんじゃない」
「そうだったな」
京楽が声をかけてきた人物に目をやる。そこには、いつものようなポニーテールではなく、髪の毛を垂らした雫がいた。
確かに呼んだのは京楽だ。自分でここに来るように言ったのだから。しかし、心配がない訳ではない。安全性を見通せて居たからこそ呼んだのはあるが……
「仮面はとらないの? 顔が見えないのだけど」
「取った方がいいか?」
「ええ、友達と話をするのに仮面越しなのは少し失礼じゃないかしら?」
「……それもそうだな」
京楽は仮面を外し、顔をさらけ出す。顔は特に変わっていないし、変わったのも前髪のワンポイントだ。口元の傷痕は薄くなっているため、あまり隠さなくても大丈夫になったので、マスクで隠すことはない。ただ、首の傷痕は薄くなることはなかった。そのため、今はコートの襟と袖で隠している。
京楽の顔を見るなり、雫は安堵の息を吐いた。別人だったら……とでも考えていたのだろう。
「元気そうでよかったわ」
「ああ、そっちも無事で何よりだ」
「あら、元気そうでじゃないのね」
「……私には八重樫が元気そうには見えないからな」
京楽には雫が何か抱えているように見えた。また誰にも頼らずに一人で抱えているのだろう。呆れ混じりの溜息を吐き、一つの石を雫に投げ渡し、雫がそれを受けとる。
「何かしら? 綺麗な石」
「……魔宝石だ。リラックス効果のある術式を刻んである。持っておくといい」
京楽は渋々と受け取る雫に溜息を吐きそうになるが、何とか止めた。流石に、いくら友人同士だからだと言って何度も溜息を吐くのは失礼だ。呆れ気味に雫を眺めている。だが、雫の不満やストレスの捌け口が中々少ないのも知っているので、なんとも言えない気分だ。
「で、私は約束通り顔を出しに来たわけだが……モノのついでだ。愚痴でも不満でも溢していけ。聴いてやる」
「愚痴はそこまでないわよ。不満もあんまりないわ。ただ、香織達の世話が焼けるぐらいよ」
「いつものこと、か」
「そうね」
溜息を吐き、結界魔法で一瞬で距離を詰め、雫にデコピンする。一瞬顔を仰け反らせて痛みに額を軽く押さえ京楽を睨むが、京楽は呆れ顔で雫を見ている。
「いつものことなら、尚更ダメだろう。いつも幼馴染みの世話を焼いて、悩んで唸って………はぁ、本当に禿げる気か? 眉間に皺が寄ってるぞ」
「あんまり言わないでもらえるかしら? 気にしてるのよ?」
「なら話せ、愚痴っていけ。迷惑でも何でもないから遠慮などするな。遠慮された方が迷惑だ」
そう言われて雫も折れ、「強引ね」と呟いて噴水の縁に腰掛け、京楽も座り直す。
「色々立て込んじゃって、大変なのよ」
「……色々、とは」
「そうね……ヘルシャー帝国は知ってるわよね」
「ああ」
ヘルシャー帝国。そこは、三百年前にとある名を馳せた傭兵が建国した国であり、冒険者や傭兵の聖地とも言うべき完全実力主義の国だ。
大多数の民が傭兵か傭兵業からの成り上がり者で占められていることから、この世界では珍しく、信仰よりも実益を取りたがる者が多い。まぁ、あくまでどちらかといえばという話であり、熱心な信者であることに変わりはない。
だが、実力主義と言うのもあり、急に召喚されてやって来た勇者達を認めなかった。
突然現れ、人間族を率いる勇者と言われても納得はできない。聖教教会は帝国にもあり、帝国民も例外なく信徒であるが、王国民に比べれば信仰度は低い。そのため、挨拶に来ることもなかったらしい。
しかし、つい一ヶ月程前にやって来たんだそうだ。それも皇帝陛下直々にだ。
光輝と手合わせをして帰ったそうだが、手合わせをしたはずの光輝ではなく、何故か雫を気に入り、口説かれたらしい。光輝は鼻で笑い、雫には軟派。それが原因でちょっとしたいざこざがあったそうだ。
「他にはいつも通りよ。香織は南雲君を必死に探しながら鍛練を続けて、光輝がそれをズレて捉えて会話がおかしくなる。そこに龍太郎が入ってこんがらがる。それをいさめてって感じかしら」
「……いつも思うが、人が好きだな」
「それはあなたもでしょう?」
「……そう、だな。人間は嫌いだがな」
京楽の答えに雫は苦笑いをする。京楽は他人を嫌うが、嫌う原因がよくわかっていない。確かに、潔癖症に接触恐怖症を患ってこそいるが、ハジメとは接触可能で、その妹のユカリも問題ない。信頼度や好感度の違いなのだろうが、興味の無い人間を無意味に嫌うなどと言うことはしない。八雲京楽と言う人物を一年と少しの間関わってきた雫は、それを知っている。
「ふふ、そう」
だから微笑む。たぶん、京楽が素直じゃないだけだ。人間が好きだが、嫌いと言わせるほど嫌な姿も見てきた。だから「人間が嫌いだ」と発言しているのだろう。自分が人間をこれ以上嫌いにならないために。
それからも雫は京楽に愚痴、近況報告をした。
「……私はこんなものかしら。そっちは何かあった?」
「………………そうだな……色々有りすぎて困ったものだ」
京楽は苦笑いを浮かべながら、新たに得た情報を雫に共有する。自分がこの世界を色々と知っていること。魔法を修得したこと。弟子が出来たことを雫に話した。
雫は、京楽の話を聞いて少し微笑む。前に比べて態度は軟化しているようだし、少し楽しそうだ。クラスメイト達と居るよりも気張らなくても良い人達に出会えたのだろう。
「……まぁ、二人とも別の意味で手がかかって大変だが」
ただ、前よりも愚痴が心なしか多くなっている。それなりに苦労はしているのだろう。弟子が二人もできたのだから当たり前だ。
「ふふ、少し変わったのね。八雲君」
「そうか?」
「ええ、変わったわよ。少し、堅そうな雰囲気が和らいでいるわ」
以前よりも本当に少しではあるが表情が動くようになっている。人形の方が愛想が良かった頃と比べれば、かなり変わった印象を受ける。京楽は微笑む雫を見て苦笑いを浮かべ、雫はそんな京楽に「そう言うところよ」と、指摘する。
二人は仲がいい。相手にあまり遠慮せずに話しやすいのだ。まぁ、京楽がズバズバ切り込むので、その分雫に無理矢理吐かせているだけかもしれないが……
「ねぇ、八雲君。本当に戻ってくるつもりはないの?」
「あぁ、戻る必要性を感じない。訓練を受けて強くなるよりも、常に実戦に身を置いた方が鍛えられる。それに、ハジメとユカリとも合流したいからな」
「合流したい?」
雫は、京楽の言葉に違和感を覚えたようだ。ハジメやユカリは、現在行方不明、死亡扱いを受けている。そんな彼らを見つけ出したいならわかるが、合流したいとなると、意味が違ってくる。まさかと思いながらも、京楽に聞こうとすると……「師匠様~♪」と声と共に、上空から一人の少女が京楽目掛けて飛んできた。京楽は溜息を吐きながら少女に軽く受け止め、飛んできた力をいなすように少しその場で回った。
「どうした、アリス。何故ここに……酒の臭いな」
「師匠様~♪」
ご機嫌そうに頬を緩ませながら京楽に抱き着く少女に驚くも、雫は少女に声をかけたが……聞かれていないようだ。
「八雲君、この子は?」
「……私の弟子だ」
「随分なつかれたのね、驚いたわ」
「成り行きでな……色々あったんだ」
甘えるように抱き着くアリスの頭を撫でながら、京楽は溜息を吐いた。
アリスは酒にそこまで強くはない。平均よりも酒には強くないのだ。アリス自身、それは自覚しているためお酒は飲まないのだが……何故か今日は飲んでいる。
「アリス、大丈夫か? 私がわかるか?」
「はい~、師匠様れふ~」
「……呂律も回らないか………明日の朝は少しキツそうだな」
頬をペチペチと軽く叩きながら声をかけるが、アリスは「ふへぇ~」と、京楽に抱き着いて離れない。その光景を見ながら、雫はなにやってんだかと言いたげな視線を向ける。
しばらく京楽がアリスを正気に戻そうとしていると、少し駆け足でエルもやって来た。
「…………居た」
「エル、アリスを剥がすのを手伝ってくれ」
「………………アリス…………おいで」
「エルさぁん♪」
京楽から離れてエルに抱き着いて行くアリス。京楽は一息吐き、雫は京楽に説明を求めるように目をやる。それに気付いて京楽はアリスとエルに自己紹介をさせることにした。
「……………エル=ケーニッヒ・フェレライ………………この子……アリス・ヴェルカーナ」
「エルさん♪」
「八重樫雫よ。よろしくね、二人とも」
「……………ん………ヨロシク………アリス……も」
「よろしくれふ~」
「癖の強い二人だが、一応弟子だ」
アリスは自己紹介が終わると同時に。ゆらりと揺れ、エルに倒れかかった。
エルは慣れているからか何もなかったかのように受け止め、京楽に引き渡す。その行動に京楽は呆れ顔だが………
「エル、なぜアリスに酒を与えた」
「………………羞恥………悶えすぎて可哀想…………飲んで忘れさせる」
「はぁ………善意であることはわかるが、他に手段を選べ………二日酔いの治療をするのは私なんだぞ」
「…………………今回…………私、やる…………アンリ……やらなくていい」
「じゃあ、なぜ私に預ける」
「………………私……持ってたら違和感……ある………」
エル曰く、宿でもアリスは自分の服装で恥ずかしがり、羞恥に悶えており、流石に可哀想になって『酒を飲んで記憶を飛ばそう!』という考えに至る。そして、アリスに酒を与えて酔わすことに成功したが、京楽を探しに外へ飛び出してしまい追い掛けてきたんだそうだ。
アリスはコップ一杯の酒で酔い始め、それから誰かが止めに入るまで飲み続けるので、アリスに酒を与えるのはあまりよろしくない。
それにだ。アリスは微酔い状態から記憶の欠落が起こり始める。それ故、自分が何をしたのか思い出せず、男性から暴行されても気がつかないと言う最悪な事件になりかねない。それの対策でもあるのだ。
エルに悪意はなく、善意百パーセントでやったんだろうが、京楽は内心ひやひやしている。
「次からは、私がいるときにそうしてくれ。何かあったらとか、余計なことを考えたくない」
「………………りょ」
エルからアリスを受け取って背負う。京楽としては、あまりアリスを背負いたくはない。何処がとは明確に言わないが、アリスのが背中で潰れるのだ。体躯に合わないモノが……
精神が急成長し、物事を達観していても、一応は思春期。嫌でも意識は向けてしまうのだ
「……………………はぁ」
「私が変わりに持つ?」
「……いや、別にいい。弟子の面倒ぐらい自分で見れる。それに、女子に力仕事を手伝わせるわけにはいかんだろ」
背中に向けてしまう意識を自分に幻術をかけて引き戻す。幻術は使い勝手がいいものだ。嫌なものから無理矢理意識を外せる。
思考を即座に平常に戻し、夜空を見やり、すぐ近くにいる雫にも視線をやる。
「宿まで送ってやる………ほら、行くぞ」
「まだ話したりないのだけど…………今日はこの辺にしましょうか。お互いまだ疲れているわけだし」
「明日の夕方までは滞在する予定だ。また会えれば、いつでも話は聞いてやる……エル、ついてこい」
アリスを背負い、エルを引き連れながら京楽は雫の隣を歩く。雫は、隣を歩く彼の顔を見た。
白い綺麗な髪に、金色の瞳。まるで人形のようななにも感じさせない表情。しかし、前とは違い、人を寄せ付けたがらない気配は纏っておらず、どこが優しさすらも感じさせる。
(変わったのね、八雲君。前よりも優しく、強くなったのね)
雫の隣を歩く京楽は、義務感ではなく、ただただ友人が心配だから送り届けてくれている。初対面の頃とは大違いだ。
「着いたぞ、八重樫」
「お見送りありがとう」
「気にするな。ただのお節介だ」
「そうね。あなたならそう言うでしょうね」
「……何かあったら嫌だからな」
雫を宿まで送り届け、京楽達は来た道を返っていく。が、京楽が足を止め。隣を歩いていたエルが、そんな京楽に首をかしげる。
「………なぁ、八重樫……また、顔を出しに来るが……いいか?」
「ええ、いつでも構わないわよ。じゃあ、またね………八雲君」
「……あぁ、じゃあな」
そう言って京楽は去っていき、雫は京楽達が夜の闇に紛れ込んでいくまで、その背中を眺めていた。
「また、会いましょうね」
そう小さく呟いて、雫は部屋に戻っていった。
部屋に戻ってから、偶々起きてしまった香織に何処に行っていたのか質問攻めに会うのは、別の話だ。
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原作死亡キャラを生存させるか否か
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生存させる
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原作通り死亡
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どちらでも構わない