ありふれない青年が世界最悪   作:幻想者

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一章終了のお知らせと共に閑話といたします。


閑話 侍少女と探偵青年(上)

 

 

 

 

 春。それは、別れ出会いの季節。

 

 八重樫雫は、幼馴染み達と同じ高校に進学した。親友でもある香織。手のかかる弟のような龍太郎や光輝達はそれぞれ別々のクラスになり、お昼休みや放課後以外での関わりが自然と薄まっていた。

 

 そんなある日のことだ。高校生活が始まって一ヶ月近くが経とうとした時。ある男子生徒がクラスにやって来た。季節の外れてしまっている長い水色のマフラーに、マスク。そして、右腕に薄く包帯を巻いた真っ白な髪の毛に、真紅と金色の目を持つ男子生徒。

 

 この男子生徒は家庭の事情で教室入りが遅れてしまい。今日が初登校になるらしい。常に空いていた自分の隣の席の生徒に何処か違和感を覚えながら雫は自己紹介をした。しかし、帰ってきたのは、「そうか、よろしく」の二言だった。

 

「えっと、八雲君だったかしら? 少しいい?」

「…………あぁ、構わない」

「この問題の解き方なんだけど、わかったかしら?」

「…………………この式なら、ここにある式に置き換えて考えた方がわかりやすい。わざわざ回りくどく考えなくとも、解は見える……」

「そ、そう」

 

 わからない問題があれば聞き、聞いてみればパパッと教えて会話を打ち切る。暇があれば常に窓の外を眺めている隣の席の青年。八雲京楽は、何物にも興味を示さず、まるで人形のようだ。少なくとも、雫はそう感じた。

 

 目に見える感情の起伏も薄く、何をやってもつまらなさそうな彼に、同情すら覚えた。

 

 そう、彼は天才だった。何をやっても成功し、何をやっても皆の、自分の上を行く。そんな、存在だった。

 

「八雲君、今日も相変わらず、つまらなさそうね」

「ああ、つまらない。知っていることを教わるのも、なんでもすぐに出来るようになってしまう………つまらんよ。ここは、退屈でしょうがない」

「なにか熱中してることとか、趣味とかないの?」

「趣味か……色々ある。人間観察に読書。裁縫や料理、家事全般。編物や武術、色々ある。だが、深く熱中していることは特にない……強いて言うならば、アニメや漫画だな」

「八雲君も、漫画とか読むのね。少し、意外だわ」

 

 話していく内に段々と仲良くもなり、京楽も口数も次第に増えていった。しかし、知らないこと、意外なところは中々に多い。少なくとも、雫は京楽が漫画やアニメなどの創作物を視ているイメージはなかった。

 

「…………まぁ、自分から進んで読むことはなかっただろうな」

「てことは、誰かから進められたの?」

「ああ、中学の頃からの友人と、その家族からな……」

 

 京楽はそう言いながら、鞄を漁り、一冊の本を取り出して見せた。本の表紙には、『やっぱり、私の社内ラブコメは間違っている気がする』と、ラノベ特有の長い題名の本が書かれてあり、雫も知っているメジャータイトルだった。

 

「読んでみると、中々面白かったのよね。それ」

「ほぉ、読んだことがあるのか?」

「えぇ、幼馴染みの勉強の付き合いでね」

 

 雫は苦笑いを浮かべる。とある男子生徒に恋した幼馴染み、香織が仲良くなりたい一心で、その男子生徒の趣味であるアニメや漫画、俗に言うオタク文化を学び、雫もそれに付き合っていた。

 

 そのため、周りよりは少し……と思いたくなるほどには知っている。まぁ、それは香織がドはまりしてしまい。今でもそれに付き合っているからだが……

 

「サブカルチャーの勉強か。珍しいな」

「言うのもなんだけど、新しい友達を作るための勉強なんだそうよ」

 

 実際は、好きになった男子生徒の趣味を知り、仲良くなりたいからであるが、幼馴染みである親友の恋事情を軽く語るわけにはいかない。間違ったことは言っていないのだ。

 

「……その者と話していけば、知識も増えるだろうに……勉強はその後からでも出来るだろう」

「そうなのだけどね」

 

 言えない。さすがに人に自分の親友が無自覚ストーカーになり、その男子生徒の家や趣味を特定したなんて口が滑っても言えない。そんな雫が苦笑いを浮かべると、京楽は何かを察したようで同情するような視線を向けてきた。

 

「……八重樫、深くは問わないが君も苦労しているんだな」

「言わないでくれるかしら」

 

 二人がそんな会話をしていれば、SHRが終わり、クラスメイト達それぞれが帰路に着く。京楽は何時ものように席に座ったまま読書をするわけでもなく、鞄を持ち席をたった。

 

 いつもは、静かになった教室で一人読書をして帰っている京楽が、荷物を持っていることに雫が不思議そうに見た。すると、何時ものように、京楽は何でもないように話始める。

 

「最近、友人が帰宅中、何処かから視線を感じると訴えられていてな。一緒に帰ることにしたんだ」

「ストーカーかしら? 物騒ね」

「ああ、気のせいだといいんだがな。念のためだ。帰りは気を付けろよ」

「何かあったら、私も頼もうかしら」

「言ってはおくが、私は何でも屋ではないからな」

 

 京楽はそう言って教室から出ていき、雫は部活に向かった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 雫は家に帰り就寝前、親友の香織と電話をしていた。

 

 クラスが別れてしまってからは何時もだ。香織が雫に今日どんなことがあったのかを楽しそうに話、雫はそれを聞いて、自分もどんなことがあったのかを話す。寝る前にも関わらず、ついつい長話をしてしまうこともしばしばあるが、お父さんもお母さんも目を瞑ってくれている。

 

『雫ちゃん。今日どうだった?』

「いつも通りよ。授業受けて、部活に行って、鍛練してってかんじよ。香織、そっちはどうだったの?」

『今日はね、南雲くんと少しだけお話しできたんだよ。それが嬉しくてね、いっぱい勉強して良かったよ』

「ふふ、よかったわね。香織」

『うん! 雫ちゃん、これからも勉強付き合ってくれる?』

「勿論よ。いくらでも付き合ってあげるわ」

 

 雫と香織はこんな他愛もない会話をしながら、お互いに予定を立て、忙しい雫に予定を合わせるように香織が予定を組む。今度は二人で何処に行くか、何をしに行くかを話して盛り上がっていた。

 

 しかし、香織が思い出したかのように口にした一言で、雫は疑念が生じた。

 

『あっ、そう言えば雫ちゃん。今日ね、南雲くんを帰り誘おうと思ったら南雲くん、今日はお友達と帰ってたの。南雲くん、ずっとクラスで一人だったから友達居ないのかと思ったけど、やっぱり友達いたみたい。それに、南雲くん、最近誰かにつけられてるみたいで、怖くなっちゃったんだって。男の子でも、ストーカーにあっちゃうんだね』

 

 雫は帰り際の京楽の言葉が一瞬だけ頭をよぎる。「友人が帰宅中に視線を感じているらしいから、しばらくは一緒に帰る」。京楽はそう言っていた。

 

(まさか、南雲君の友達が八雲君なの? でも、八雲君は別の中学…………いいえ、同じ中学校出身だったわね……と言うことは……でも……。って言うか、香織。また南雲君をストーカーしてたの。あれほど後をつけないように言ったのに)

「……香織、南雲君の友達の特徴覚えてるかしら?」

『うん。珍しかったし、不思議な服装だったからよく覚えてるよ。水色のマフラーを着けてて、白髪にすごく白い綺麗な肌だったよ』

 

 かなりの高確率で京楽だった。白髪に白い肌。彼特有の真紅と金色のオッドアイは恐らく遠目に見たから見えづらかったのだろう。

 

「香織、それから何か変なこととかはなかったかしら?」

『ん~、特にはなかったけど……なんか、今日は南雲くんを途中で見失っちゃってさ。あーあ、南雲くんとお話したかったな~』

 

 どう考えても京楽に勘づかれたんだろう。

 

 雫の知る八雲京楽と言う人物は、察しが良く、勘も鋭く頭も良く回る。そんな人物だ。恐らく、香織はストーキング気が付いた京楽に撒かれたんだろう。まぁ、撒かれただけならまだマシなのかもしれないが、香織のストーキング対象、もとい、初恋相手である南雲ハジメにバラされている可能性がある。

 

 そうなると、香織の初恋は無惨に散るだろう。どんな美少女であろうと、ストーカーは嫌だろう。雫だって、自分の理想の相手がストーカーだったら絶対に嫌だ。

 

「……香織。明日、一緒に学校に行かないかしら?」

『うん! 行く行く! いつもの時間に迎えに行くね』

「ええ、支度をして待ってるわ。おやすみ、香織」

『雫ちゃんもおやすみ』

 

 そうして通話終了を告げる音が鳴り、雫は静かに電話を充電器にさす。

 

「………………………はぁ」

 

 そして、大きく深い溜息を吐いた。京楽にどう説明するべきか、どう謝ろうか。その事で頭がいっぱいだ。

 

 京楽は慎重だ。一回で突き詰めてくる事はないハズだ。となると、証拠と呼べるものはまだ持っておらず、様子見状態であるハズだ。彼は、色んなモノにやる気を見せない。しかし、やらないわけではない。だが、行動は慎重に用意周到に起こす。

 

 それは、まだ付き合いが短い雫でも解る。だが、人間である以上例外はあるのだ。雫は例外に触れていないことを祈り、京楽に何と説明しようか頭を悩ませながら眠りに落ちた。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 香織のことで頭を悩ませながら眠った翌日。いつもの時間に香織が迎えに来て、一緒に登校していた。

 

「それでね、雫ちゃん。南雲くん、寝ちゃってるからさ。先生の質問に答えられなくて───」

「君、少し良いだろうか」

 

 二人が登校していると、不意に後ろから声をかけられた。香織は初めて聞くあまり聞き慣れない声であり、雫は良く聞く聞き慣れた静かな優しい声。

 

「? なんですか?」

「あら、八雲君。おはよう」

「……ああ、八重樫。おはよう、友人と仲良く登校中にすまないな。少し良いか?」

 

 京楽がそう言い、香織に目を向けると、香織が思い出したかのように京楽に言う。

 

「あっ、南雲くんの友達だ。はじめまして、白崎香織です」

「はじめまして、八雲京楽だ。……やはり君だったか……これまた」

 

 京楽が少し唸り、雫に視線をやる。コイツが君の言っていた友人か、と。雫は無言の肯定で返すと、京楽が溜息を吐いた。何かを後悔するように、深く溜息を吐いた。

 

「……白崎。率直に言うが──「京楽先輩!」むっ」

 

 香織になにか言おうと口を開いた京楽に、後ろから急な負荷がかかりバランスを崩す。が、即座に持ち直し、背中にかかった負荷を受け止めていた。

 

「……朝から激しい挨拶だな、ユカリ」

「えへへ、おはようございます。京楽先輩♪」

「ああ、おはよう……ユカリがいると言うことは、ハジメも一緒なのか?」

「流石先輩! ご名答、兄さんを叩き起こして、たまには学校まで送ってもらおうかと思いまして」

 

 ユカリが京楽の背中に抱き付いたまま、ひょっこりと顔を出す。そこには、状況を飲み込めていない二人がおり、ユカリは二人を恨めしそうに睨む。

 

「京楽先輩、この二人は「知り合いだ。それ以外には特にこれと言った関係はない」……そうですか」

 

 京楽の一言でユカリの恨めしそうな目は消え失せ、にこりと笑う。

 

 そんなユカリに雫と香織が戦慄していると、後ろから呼吸を少し乱しながらユカリの兄であり、京楽の親友である南雲ハジメが小走りでやって来た。

 

「ユカリ、ぜぇぜぇ、先に行かない、でよ。ぜぇ、朝からあんまり、走りたくないんだからさ」

「お疲れさまだな。ハジメ」

「あ、京楽。おはよう」

「兄さんは貧弱だなぁ」

「ユカリ、あまりそう言うことをいうな。だが、普段運動をしないからな。少しは運動しろ。水だ、飲め」

 

 ハジメは京楽に渡された水を飲み、一息つき、雫達に気が付いたようで、挨拶を交わす。その間に、香織がハジメに話しかけ、ハジメが若干ひきながらも会話を進め、ユカリが面白いものを見つけた!と、ハジメを眺めている。

 

「……八重樫、放課後に白崎を借りても良いか?」

「私と一緒にが条件よ」

「ああ、それで構わない」

 

 京楽が放課後に香織と話があることを雫に話、了承した。恐らく、京楽からお叱りが来るのだろう。雫が溜息を吐くと、ユカリがハジメと京楽に学校まで送ってくれとせがみ、二人は苦笑いを浮かべながら雫達と別れていってしまった。

 

 ユカリに引っ張られるように連れていかれる京楽を見送り、雫は香織に放課後の確認をとる。

 

「香織、八雲君が放課後、私と香織に話があるらしいのだけど」

「うん、わかった。じゃあ、次に会うのは放課後かな?」

「かもしれないわね。私は席が隣だからまたすぐに会うのだけど」

「へ~、そうだったんだ~」

 

 雫達は学校を目指して、また歩き始めた。今度は、誰にも呼び止められることなく、学校に到着した。

 

 クラスに入り、席に座って思考を整理する。

 

 京楽にバレていることは確実であり、ハジメの反応からバラされていると言うことはないだろう。しかし、いくら普段冷たい京楽でも、友人が嫌がっているのなら対処するハズだ。そうなると、香織にハジメをつけ回さないように一度忠告するか、即座に教師に報告するかの二つだ。

 

 だが、香織は自分がストーカーであることを自覚しておらず、悪いことをしている。相手が嫌な思いをしているだろうと言うこともあまり自覚していない。天然思考と言えば聞こえは良いが、迷惑行為をしている人間ではあるのだ。こうなる前に、きっちり教え込んで措くべきだったかもしれない。

 

 雫がしばらくそう考えていると、隣の席に気配を感じ、軽く目を向ける。すると、そこにはいつのまにか京楽が座っており、読書をしていた。静かに、ハラリッとページをめくり読む。

 

「あら、もう来てたのね」

「……かなり考え込んでいたようだな。三十分は確実に過ぎていると思うが。……まぁ、ユカリを学校に送った後はタクシーを使ったからな。その分は早めに着いたが」

 

 小説を読みながら淡々と語る京楽に、雫は時計を確認すると、わりかし時間は経っていた。相当考え込んでいたようだ。

 

「悩みがあるなら聞くが……君のことだ。白崎に私がなにを言うのか考えていたんだろう? 安心しろ。私はあくまでも探偵助手だ。探し出すのが役目であって、訴え、裁き、罰するのが役目ではない」

「確かに、私はあなたが香織に何を言うかでフォローとか、あなたが香織に悪い感情を抱かないようにどうフォローするかで悩んではいるけど……」

「……良いのか? 口から考えが駄々漏れだが」

「いいのよ。どうせ、私の考えを読んでるでしょ?」

「ただの推測であり、独り言だ。あまり気にするな」

 

 京楽は読んでいた小説に栞を挟み、鞄にしまう。そして、いつものように飲んでいる紙パックの豆乳を飲み、雫に目をやる。

 

「今で言っておくが、私は白崎にそこまで悪感情は抱いていない。ストーキングを止めるならばの話ではあるが、白崎の感情を否定もしない。それは頭に入れておけ……………そろそろSHRが始まるな」

 

 京楽はそう言い終えると豆乳を素早く飲み干し、ゴミ箱に捨てて目を閉じた。今から寝るつもりなのだろう。

 

 雫は溜息を吐きそうなのを我慢し、何時ものように授業を受けた。

 

 隣の席で京楽は眠りはじめ、時折少し目を覚まして睡眠を再開する。それがいつもの京楽だ。そして、今日も例外なく眠り、少し起きて眠りを繰り返し。一日の授業が終った。

 







続きは、明日中には出せるかもですね……読みにくい文章かもしれませんが、読者様方、これからもお付き合いください

原作死亡キャラを生存させるか否か

  • 生存させる
  • 原作通り死亡
  • どちらでも構わない
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