ありふれない青年が世界最悪   作:幻想者

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書き終えましたので、投稿します


閑話 侍少女と探偵青年(下)

 

 

 

 

 時刻は放課後。一般生徒の下校時間は暇に過ぎており、学校には部活に性を出す部活生と顧問、残業に泣く教師達が居る。そんな学校の備え付けの武連場で、事は起こっていた。

 

 制服に身を包み、防具を身に付けないまま片手に竹刀を持った京楽と、防具に身を包み武連場の床に倒れている剣道部員達。

 

 そこに立っていたのは、竹刀をだらりと下げて持っている京楽と、我関せずを貫いていた女子部員達と見学で見ていた香織ぐらいだ。

 

 京楽は呆れ気味に剣道部員達を眺めており、雫は遠くを眺めていた。何故こんなことになったのか。時を遡ること一時間半ほどだ。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 京楽は香織に言いたいことを言うために体育館裏に呼び出し、そこで、雫も交えて話をする予定だったのだが……

 

「君か、香織と雫に話があるって言うのは」

「ああ、そうだが?」

「二人から手を引け。それが俺からの要望だ」

 

 何故か頓珍漢な会話が始まってしまった。そして、京楽は視線で訴える。コイツ誰だよ、と。

 

 京楽の前には、爽やかイケメンが居た。しかし、京楽はこのイケメンの正体を知らないのだ。クラスの関わりのない人間の顔も覚えていない京楽に、全く関係もない別のクラスの人間を覚える気にはならなかったのだ。

 

「……要望はわかったが、君は誰だ? 私は、白崎と八重樫に話があるからとここに呼んだのだが」

「俺は天之川光輝だ。香織と雫の幼馴染みだ」

「で、幼馴染みの君が何のようだ? 二人から手を引けとは言われても、手をつけていないんだが……」

 

 京楽は二人に手を出すつもりもないし、出す気もない。京楽はただ、香織に友人が困っているから後をつけ回さないでほしいと告げるたかっただけだし、雫は香織や京楽のフォローに回るために入ってきたのだ。それ故、イケメン、天之川光輝に睨まれる筋合いはない。

 

「何を言っている! 二人をこんなに人気のないところに呼んでおいて怪しくない訳がないだろ!」

 

 ごもっともなのだが、京楽の気遣いである。自分の思い人を公衆の面前で暴露された後、無自覚でやっていたことをただただ責められるのだ。京楽もそんなことをする趣味はないし、見世物にする気もない。

 

 そして、初犯ではあるため厳重注意で終わらせたかったのだ。ハジメも犯人が居たとして、その事を公にしたがらないだろうし、ハジメのことだ。かえって同情することだろう。

 

 それらを考え、屋上は告白で使う生徒が多いため避け、屋上よりも告白に使われないが人気のない体育館裏に呼んだのだが……気遣いが裏目に出てしまったようだ。

 

「まぁ、そういう気持ちもわからなくはない。だが、私はただ二人に話があるだけなんだ。そこまで怪しまないでほしい」

「季節外れのマフラーにその下からマスクを着けてる不審者に言われたくないね」

「マフラーもマスクも着けている理由があるんだがな……」

 

 京楽がマスクやマフラーを着けているのは、目立つ傷痕を隠すためだ。好き好んでこんなに暑苦しい格好をして居るわけではない。ちなみに、マフラーは冷感素材を使っているため、そこまで暑さは感じないが……

 

「俺と勝負しろ! 俺が勝ったら二人に手出しをするな!」

「ちょっと、光輝」

「光輝くん、いくらなんでも勝手すぎるよ」

「……君の勝利したときの利益しか無い時点で、私が受ける意味がないな」

「怖じ気づいているのか」

「いや、勝負する理由がないと言っている」

 

 京楽が勝負しなければいけない理由はない。勝手もなにもないし、負けてもなにもない。勝手も負けても意味がないのであれば、戦う理由は存在しない。

 

 京楽がゆらゆら光輝の言い分を避け、雫が光輝を止めようとしているが暴走している光輝はなかなか止まらない。

 

「……はぁ……状況が状況だ。仕方ない。その勝負、受けてたとう」

「やっとやる気になったか」

「やる気にはなないが、目の前で困っている知り合いに手を貸さないほど、落ちぶれてはいない」

 

 京楽は光輝を睨み、光輝は京楽の威圧に一瞬押し負けたが、勢いと義憤?で押し返し、雫達と京楽を連れ、武連場にやって来た。

 

 光輝は肩に持っている竹刀バックから竹刀を京楽に向け、京楽は溜息を吐き、雫や香織は光輝が竹刀を向けた意味を理解して止めにはいる。

 

「光輝くん、いくらなんでも剣道は」

「光輝、あなた正気なの! 八雲君は──」

 

 雫は包帯の巻かれた京楽の右腕に一瞬目をやる。京楽は怪我をしているのだ。それなりに大きな怪我を。そんな相手に、光輝の得意な剣道で挑むなどこんな出来レースがあって良いわけがない。

 

 雫が光輝を本気で止めようとするが、

 

「……八重樫、止めるな。余計面倒になる」

「でも、あなたの右腕」

「気にするな……勝負を受けたのは私だ。そして、勝負種目の確認をしなかったのも私だ。自業自得とも言える」

 

 京楽は静かにそう告げ、光輝に視線を戻す。光輝の目は敵意剥き出して、少し不機嫌そうだった。

 

「でも、剣道よ? あなた、剣道やったことあるの?」

「いや、剣道をやったことはない。だが、勝手はわかっているつもりだ」

 

 そう言って武連場に入り、雫に頭を下げた。

 

「すまないが、竹刀を貸してもらえるか? さすがに持ち歩かないからな」

「ええ、でも、真竹製だから扱いづらいわよ?」

「それで構わない。振れるのならそれで十分だ」

 

 そう言って、雫の差し出した竹刀を受け取り、片手で持って軽く振る。が、やはり少し重たいらしい。剣先を下に垂らしており、持ち位置を調節し、光輝の前に立つ。光輝は防具を身に纏い、京楽用にと防具を用意していた。光輝の周りには男子部員達が不思議そうに見ており、見世物になっていた。

 

「八雲、防具を着けろ」

「……いや、必要ない」

「なに?」

「防具など着ける必要はない」

「何でだ」

「簡単なことだ。身を守るための防具であるならば、最初から当たらなければいい」

 

 剣道に正面から喧嘩を売るような物言いに、部長と思われる先輩が京楽に諭すように、危険だから防具を着るように言うが、京楽はそれを拒否。雫や香織も防具を着けるように言うが、当たり前のように拒否をした。

 

「部長、良いですよ。彼に防具を着せなくても」

「しかしだな、天之川」

「大丈夫です。俺が寸止めしますから」

 

 光輝が前に出て竹刀を構え、京楽ろくに構えを取らず、竹刀をだらりと垂らしたまま立っている。

 

「……どうした。私は準備完了だ」

「構えないのか」

「これでも構えている。言っただろう。私は剣道をしたことがないと」

 

 京楽の言葉に、周りがざわつく。しかし、光輝はそんな回りを気にせずに雫に審判を頼む。雫もやりたくはない。だが、こうなることを選んだのは京楽だ。やりすぎになるなら自分が止めにはいればいい。雫は二人の間に立ち二人を確認する。

 

 光輝は眼に敵対心を宿し、京楽の目はいつものようななにも感じさせない、考えを読み取れない目だ。構えらしい構えを取らない京楽だが、雫はそんな京楽に違和感を覚えていた。

 

 しかし、試合を始めさせないわけではない。

 

「二人とも、用意はいいかしら」

「俺はいつでも大丈夫だ」

「ああ、問題ない」

「では─────始め!」

 

 光輝が踏み込み、京楽の頭に竹刀が迫る。

 

 光輝は防具を身に付けていない京楽を怪我させてしまわないように寸止めのつもりだった。やる気無さげな京楽も、真剣に防具を着てやるだろうと言う考えからではあるが、光輝は京楽を気遣いはしたのだ。

 

 しかし、その気遣いは無駄に終った。

 

バシンッ!

 

 なにかが強く物を弾くような音が鳴り、それと同時に、光輝の腕は跳ね上げられ竹刀を弾き飛ばされていた。

 

 光輝は今起こった現状を理解できず、周りにいた部員達も理解できずにいた。しかし、京楽の動きは見えていた。開始の合図と同時に竹刀が跳ね上がり、光輝の竹刀から京楽の竹刀に飛び込んできたのだ。

 

「……どうした。竹刀を拾わないのか?」

 

 京楽は竹刀をゆっくりと下ろし、自然体で立つ。

 

 京楽に言われて我に帰り、光輝は竹刀を拾って構える。今度は両手で力強く竹刀を握り込み、京楽に踏み込む。しかし、京楽は面狙いの光輝の竹刀を避けて胴を叩く。それも、光輝が京楽に打ち込まれるように自分から当たりに行っているような、不可解な動きをしてだ。

 

「強いな」

「……君が弱すぎるだけだ」

 

 光輝はその一言に唖然とし、周りの部員達も唖然としてしまった。光輝が弱すぎる。京楽はそう言ったのだ。

 

 剣道部において天之川光輝は、新入部員でありながらもエースの様な存在だ。剣道界隈で実力、権力の共に強い八重樫流の門下生であり、その八重樫流の中でもトップに位置する実力を持つ光輝を弱いと言ったのだ。それも、呆れ気味の溜息を吐いて。

 

 その行為が光輝に火を付けた。

 

「俺は、弱くなんかない!」

 

 光輝が暴走してしまったのだ。竹刀を振り、京楽にそれを向ける。竹刀をただ振り回しているだけではあるが、幼い頃から竹刀を振っている光輝の動きには無駄が少ないく、隙こそあれど、体の動きを連動させて竹刀を振る。と、言う点においては無駄が殆んどない。

 

 竹刀から風を切る音が鳴り、京楽に全力で殴りかかりにいく姿を止めに行けるものはいなかった。いや、止める必要もなかったとも言う。

 

 光輝が振り回す竹刀を避け、竹刀を腰にさすような動きを見せたかと思うと、次の瞬間には光輝が吹き飛ばされていた。それと同時に、大きな強打音が武連場に鳴り響く。

 

「し、雫ちゃん。今、何が起こったの」

「あの状況で、一瞬の居合の構えからの抜刀したのよ」

 

 混乱している香織の隣で、雫は出来るだけ冷静に起こった現状を処理していた。

 

 光輝が竹刀を振り回す中、京楽は一瞬だけ構え、そこから抜刀して見せたのだ。威力は防具を着ている人間が吹き飛ばされる程度だ。色々馬鹿げている。

 

「この程度か。この学校の剣道部は強豪だと聞いていたんだが……」

「ぐぅ、何をした」

「何をしたか、か。叩き飛ばしたとしか言えんな」

 

 光輝が立ち上がり、京楽はそれを無感動に眺める。それから部員達に目を移し、呟いた。

 

「まぁ、この弱さも仕方がないか。子供の癇癪を止めることも出来ないような者達だからな」

 

 この言葉で光輝がさらに謎の暴走をし、部員達は自分達の看板に泥を塗られて怒り、京楽を叩きのめそうとしたが、返り討ちにあって冒頭に戻る。

 

 京楽は嘘を着きたがらない。元々嘘をあまり言わない質だからと言うのもあるが、本音をストレートに伝えると言うことはまずない。彼自身、人がどのように言われれば、どう反応するのかは知っているし、道徳がないわけではない。

 

 今までの発言も、ある程度はそうなると知っていての発言だ。

 

 しかし、京楽自身も自分に呆れている所がある。それは、独り言だ。

 

 京楽は独り言が多い。何かを深く考えていたり、思考を整理するために独り言が多く、疲れていたり、呆れていたりすると時折独り言を溢してしまう。勿論、言わないように気を付けてはいるが、度が過ぎた呆れはついつい溢れてしまうのだ。

 

「……はぁ。私の悪い癖だな」

 

 京楽は雫に竹刀を返し、少し離れたところで見ていた香織に目を向ける。

 

「……白崎、八重樫から私の連絡先を聞いて、出来るだけ今日中に連絡をくれ」

「え? えっと」

「下心はない。少し話があるだけだ。そこは八重樫が保証するだろう。話の内容が気になるなら八重樫に聞いてくれ。連絡先を交換しにくいのであれば私が予定を会わせる……あと、八重樫。練習場を乱してしまったことは謝ろう。何かあれば連絡をくれ……流石に左一本での対処は難しい」

 

 京楽はそう言い、帰路に着いた。

 

 京楽がいなくなるのを確認して、雫は起き上がり、痛みに唸る部員達を横目に見ていた。正直言って、京楽は強かった。

 

 剣道はやったことがないとは言っていたが、別の似たようなものをやったことがあるんだろう。竹刀を振りにくそうにしてはいたが、他の人が長く使っている物だし、京楽は右利きだ。左で振る感覚をうまく掴めていないんだろう。

 

 京楽はつまらなそうだった。なぜか男子部員全員を相手と乱戦になっていても、つまらなさそうだった。雫にはそう見えたのだ。

 

 それから、顧問がやって来て、連帯責任として剣道部は一ヶ月の部活謹慎となった。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 その翌日。いつものように京楽は自分の席で本を読んでいた。

 

 静かに。ただ静かに、本を読んでいる。しかし、その顔は無表情で楽しんでいるのか、つまらないのかもわからない。

 

「おはよう、八雲君」

「ああ、おはよう」

「香織と話せた?」

「ああ、後をつけないように釘を指しておいた。後をつけるぐらいなら、声をかけて一緒に帰ってはどうか、とな」

 

 京楽は、何処か疲弊したような口調でそう返した。その京楽に、雫は苦笑いを浮かべる。また香織が迷惑でもかけてしまったのだろう。

 

「ごめんなさいね。香織は天然だから……」

「君が謝るな。首を突っ込んだのは私だ。そこにわざわざ君が介入する必要はない……だが、君も苦労しているんだな……今度、茶でも飲みに行くか?」

「あら、あなたからお誘いが来るなんてね。意外よ?」

「私も普段人は誘わん。茶の時間ぐらいなにも考えずにゆっくりしたい」

 

 京楽はそう言い、本から雫に視線を転じる。そして、薄く微笑んだ。

 

「……私は人間が嫌いだ。欲深く、傲慢な人間と言う種がな。だが、人間は弱く、そして暖かい。友を茶に誘うのに理由はいるか?」

「ふふ、そうね。じゃあ、近々行きましょうか」

 

 京楽が雫に初めて見せた無表情以外の顔。その顔は優しく、綺麗だった。

 

 これが、侍少女と探偵青年が友達になった瞬間だった。

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

「雫ちゃん? どうかしたの?」

「いいえ、なんでもないのよ」

 

 京楽と別れて部屋に戻った雫は、ついさっき見た京楽と、自分を初めて友と呼んだ京楽を比べてしまい、自然と笑っていた。それを不思議に思った香織に問われても、雫は答えるつもりはない。京楽はもう少し失踪するようだ。ならば、今この話をするわけにはいかないのだ。

 

 宿場町ホルアドの夜は、そんな少女の思い出を思い出させていた。

 

 

 






文章の見直しをしていないので、誤字、脱字がございましたら報告していただけるとありがたいです

原作死亡キャラを生存させるか否か

  • 生存させる
  • 原作通り死亡
  • どちらでも構わない
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