ありふれない青年が世界最悪   作:幻想者

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二章
始まりの朝


 

 

 

 

 時刻は早朝。朝日が登り、世界を照らし出す時刻。

 

 まだ薄暗い中、京楽は丸太で建てられたコテージから出てきて身体を伸ばす。

 

 背を伸ばせば背中からバキバキと音が鳴り、京楽はゆっくりと息を吐く。

 

「この生活も慣れてきたものだな」

 

 そんな独り言を溢しながら、京楽はかなり伸びている髪の毛を束ねる。元々後ろで少し束ねられるぐらいには長かったが、いまではちょっとした尻尾が出来そうなぐらい長い。

 

 髪の毛を縛り、結界魔法で地下水を直接汲み上げてその水で顔を洗い、簡単に身仕度を整える。

 

 京楽達は幻想郷を離れて今は旅をしている。自分の力を蓄えるための旅でもあるが、この世界を元ある姿へと戻すための旅でもあるのだ。

 

 そのため、大陸にある世界の内包する魔力地点を廻り、正常に動いているかどうかを見ている。この世界にある魔力溜まりは五つ。一つはオルクス大迷宮。マユ森林の中心地、グリューエン大火山、海底に沈んでしまった都市、アンディカ。そして、神山。この五つに魔力溜まりは存在する。

 

 現在回った場所はオルクス、マユ森林の二つだ。神山はエヒトの監視下にあるため後回し、グリューエンとアンディカは物理的に行きづらいため、今は術の研究と冒険者としての活動を行っている。

 

 術の研究はボチボチと言ったところだ。昔に使っていた魔法は魔力や製作リソースが不充分であるため、現状では製作不可の物が多く、世界の法則やらなんやらも少し改竄されているようで、使えなくなっていたものも多かった。

 

 今は研究を続けながら魔物で実験し、その場で試行錯誤を繰り返している。いくら使っても沸いて出てくる実験材料がいるんだ。幻想郷のように資料が大量にある上で、研究に最適な環境が常に保証されているわけではない。しかし、実験台に困らないと言うのは素晴らしい。

 

 京楽が身支度を整え、地球では半日課だったラジオ体操(勿論ラジオはない)を終える頃に、コテージからアリスが起きてくる。いつもよりも、少し早めの起床のようだ。

 

 頭に寝癖をつけ、あくびをしながら京楽のもとへやって来た。

 

「師匠様、おはようございます」

「ああ、おはよう。アリス」

 

 アリスは眠たそうな目で、京楽の汲んだ水で顔を洗い、簡単に身支度を整えはじめる。

 

 元々、アリスに身支度を整える習慣はなかったが、幻想郷で習慣付けさせた。いくら旅に出るとは言え、顔を洗う。歯を磨く、髪を整えるぐらいはしておいた方がいい。まぁ、元々髪の毛を整える習慣はあったようだが。

 

 京楽はそんなアリスを横目に、調理用の携帯アーティファクトを取り出して朝食の準備を始める。

 

 手のひらサイズのキューブを取り出し、地面に放り投げる。すると、屋外にキッチンが出現し、冷蔵庫、レンジ、コンロなどの家電も完備している。そして、皿や調理器具はその場で念じれば取り出すことができ、簡単にしまうこともできる。夢のようなアーティファクトだ。

 

 ちなみに、製作は世界的に名の知れた旧友達とアンリの合作だ。

 

 調理関係を一人で賄っていたアンリの要望と、「作れば、さらに美味い食事を提供する」と言う条件により、全員で力を合わせて作った。

 

 ナイフ、包丁等の調理器具関連には意匠の凝った彫りや装飾。機能性を重視した造形美。超多機能で非常に万能な物が大量に存在し。フライパンや、ボウル。泡立て器、鍋と言った調理器具も例外はない。

 

 携帯キッチンの中に入って、手を洗い、朝食の支度を始める。

 

 幻想郷産の野菜や果物、肉、魚を使い、朝食を作る。

 

 このキッチンは、一つ特殊な設備がある。それは、このキッチン内部のみの時間を一時加速、一時減速が出来るのだ。そのため、キッチン内での京楽は眼で追うのも厳しいほどの素早さで調理し、走り回っているのだ。疲れないのだろうか?

 

 包丁を片手に食材を切り、炒め、混ぜ、温め、飾りつけ。それらを素早く一人でこなす京楽に、アリスは少しほどソワソワしている。何か少し声をかけたそうだが、緊張してかなにも言えないようだ。

 

 最近、アリスの起床時間が早い。

 

 色々慣れてきたから。と言うのも有るだろうが、起きてからは京楽を見続けているのだ。少し気になってしまう。

 

「……どうしたんだ、アリス。私の顔に何かついているか?」

 

 調理中の手を止め、時間を元に戻した京楽がアリスに目を向ける。しかし、アリスは何でもないと首を振り、分かりやすく視線を外した。

 

 京楽が料理に戻り、アリスを一瞬だけ見やると、アリスは京楽の手元に視線が来ている。身嗜みが出来ていない訳ではないようだ。

 

 他の可能性を考えながら朝食作りを再開し、時間を再度加速させる。瞬時にキッチンの端から端を移動し、料理を皿に盛りつけ、盛り付けてある皿には時間遅延で傷んだりするのを防止する。

 

「あ、あの」

「……………………なんだ?」

 

 アリスが京楽に声をかけ、京楽は動きを止めずに時間だけを元に戻す。聞くつもりはある。何か要望があるならば可能な限り答えるつもりだ。

 

 当のアリスは覚悟を決めたように京楽を見て、頭を下げた。

 

「し、師匠様! 私にお料理を教えてください!」

「ああ、良いぞ」

「忙しいのは──え?」

「私もプロではない。趣味程度の物しか造れないし、それ一本を極めた人間よりも些か劣るが良いか」

 

 調理の手を止め、アリスに視線をやる。アリスは何故か困惑していた。断られるとでも考えていたんだろうか?

 

「えっと……アリスは邪魔になりませんか?」

「邪魔にはならないな。かえって人手が増えて助かる」

「……アリス、何も出来ませんよ?」

「そこは安心しろ。私が教えてやる」

 

 京楽はアリスに手を洗うように言い、隣に呼ぶ。アリスはそう言われるがまま手を洗い、京楽の隣に来ると、京楽はアリスの髪を見ていた。

 

 アリスの髪型は小さめのサイドテールだ。纏められていない髪をどうにかしなければいけない。本人が気に入ってサイドテールにしているようだが、料理中は少し我慢してもらうことにしよう。

 

「アリス、少し失礼する」

「ふぇ?」

 

 素早く背後に回り、髪の毛簡単にまとめ、自分の予備のリボンで一つに縛る。髪型をサイドテールからポニーテールに変えたのだ。アリスはされるがままに髪を纏められ、京楽は手を洗う。

 

「料理中は髪の毛を纏めてほしい。事故に繋がったり、衛生面的にあまりよろしくないからな」

「あ、ありがとうございます」

「あぁ、あと」

 

 京楽がアリスにエプロンを渡し、着るように言い。付け方を知らないようだったので、付け方も教えた。

 

 京楽がアリスの隣に立ち、サラダの和え方や卵を解かせたり、ちょっとした裏方に回ってもらう。側で京楽は見ており、手が空いているし、アリスに手伝ってもらいながらデザート作りにかかっている。器具の持ちかえや、材料を運ぶのは結界魔法で距離を縮めて取ったりしている。

 

 はやり作って正解だった。距離を操れればその場から動かなくても器具でも材料でも簡単に取ることができる。燃費はよろしくないし、少々扱いにくいが便利なものだ。

 

「師匠様、終わりました」

「ありがとう。では、エルを起こしてきてもらえるか? 私はあと少しだけやることがある」

 

 アリスにエルを頼み、京楽は器具をテキパキと片付ける。そして、テーブルに皿を乗せ食事の用意を終わらせて少し空を見上げた。

 

 日も上がってきており、少し暖かい。

 

「………そう言えば、この辺りにあるんだったか?」

 

 視線を宿営地から離れた場所、絶壁下に向けた。

 

 絶壁下は魔力が霧散してしまい魔法が使えない特殊区域であり、その地の危険性を跳ね上げるように強い魔物が蔓延る。それ故に処刑所として使われていた歴史が存在する。人はその峡谷をこう呼ぶ、〝ライセン大峡谷〟と。

 

 そして、京楽には懐かしの場所。思い出の場所だ。

 

「………ここで修行させてもいいかもな」

 

 京楽はそう呟き、一人の少女を思い起こす。金髪碧眼のウザい美少女。アンリ・マユを名乗っていた頃の旅仲間であり、友人。そして、同じ志を持った解放者の生き残り。名はミレディ・ライセン。

 

 ミレディもオスカーと同様に迷宮を作り、試練を与え、自分の所有している神代魔法を攻略者に継がせている。京楽は近場に住んでいるから、と言う理由で魔法を使えない。厳密に言うならば、燃費や効率がかなり悪くなって使いにくくなるライセン大峡谷に一緒に作ったのだ。

 

 作った正確な位置は忘れてしまったが、どの辺りに作ったかは微かに覚えている。

 

 ミレディの迷宮は、物理トラップで構成されている。しかも、全てが即死級の殺傷能力でだ。アリスとエルは魔法以外にも戦闘手段はある。アリスは自身の固有魔法で自然物を操ったり、エルは固有魔法の暴食で向かってきたモノ、体に触れた大抵のモノを喰らい。無力化する。

 

 エルはスラム出身と言うこともあり、護身程度ではあるが徒手戦闘が可能だ。

 

 一応、二人には京楽が指南している。だが、アリスは戦闘があまり好きではないし、エルは戦闘となると辺り一帯を食い荒らす。そのため、二人との戦闘では手を焼いているのだ。どっちかにいつも不備がある。

 

 アリスもエルも固有魔法を発動する際に、魔力の消費はかなり少ない。だが、魔力を消費する以上、ライセン大峡谷内ではかなり消耗することになる。いい経験になるだろう。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「………………と言うわけで、今日からしばらくは大峡谷で戦闘術の鍛練だ」

「はぁ、よくわかりませんけど」

「……?」

 

 京楽はキチンと説明したが、アリスもエルも首をかしげながら朝食を食べる。エルに関しては、食べることに夢中で聞いていなかっただけだろう。首をかしげながらも、食事を口に詰め込み咀嚼している。

 

「アリス、エル。お前達二人は自分の固有魔法に頼りすぎだ。少しは体術や、武術を使った戦闘に慣れろ」

「そう言われましても……。全部勝手に発動しちゃいまいすし」

 

 アリスの〝自然の寵愛〟は、自動発動型の固有魔法で、空気の壁を作って自分を守ったり、地面やら、空気やら、水やらを使い、アリスに敵対する。アリスが脅威と認知した対象に自動的に攻撃する。そのため、アリスは武器を使って戦うよりも、固有魔法をメインに戦った方が強い。

 

「そう言うが、私の様に固有魔法そのモノを発動させない様な相手に襲われたらどうするつもりなんだ?」

「それは……ロウさんに助けて貰います!」

「呼べない状況だとしたら?」

「うっ」

 

 体術が出来ないわけではないが、護身と呼べるほど出来るわけではない。そんな今のアリスが、京楽の様に魔法の妨害や、救援を呼べない環境を作り出せる。そうすることが出来る環境下では、アリスに自衛の術はない。

 

 京楽は、万が一を考えてアリスに体術を教えている。実戦で使え、尚且つ力もそこまで必要のない技を教えているのだ。

 

 ただ、アリスはあまり戦闘が得意ではない。得意でない理由としては、勿論アリス自身が戦いを好まないと言うのもある。だが、狩りはある程度できる様で、弓は辛うじて扱えるし、固有魔法で罠を仕掛けて獲物を狩ったりも出来る。

 

 しかし、狩り以外。弓以外は剣を持たせてもまともに扱えず、短剣であったとしても、扱うのは得意ではない様。

 

 本来であれば、ライセン大峡谷で修行は難しい。が、エルは基本的に戦えるし、武器もある程度は使える。

 

 エルと京楽の二人で守っていれば、アリスも魔物と戦えるのだ。エルが前に出て、アリスが後方から射撃。一つのパーティーは組めるので、それで修行をしてもらう。

 

「エル。今回は、ライセン大峡谷で鍛練を積んでもらう。そこで、アリスと一緒に魔物と戦い、大迷宮を探す。そして、そこを攻略する。それが、今回の流れだ」

「…………面倒」

「……クリアしたあかつきには、手に寄りをかけた食事を用意すると誓おう。勿論、私のフルコースだ」

「! ……がんばる…………アリス……一緒に」

 

 食事に夢中だったエルをその気にさせ、アリスに視線をやる。

 

 アリスは溜息を吐いていた。今回の修行は過酷だが、固有魔法に頼りすぎないよう。自分で無理にでも制御出来るようにするには、これぐらいの荒治療も必要だろう。

 

「……アリス、固有魔法を制御出来るよう。がんばるんだぞ」

「はい……」

 

 アリスは気負っている。

 

 ライセン大峡谷は、危険地帯だ。不安になるのは当然だ。だが、京楽はいつでもアリスとエルを〝遠視〟や、〝千里眼〟、〝世界眼〟で見ることが出来るのだ。いざとなれば助けに行けるし、離れていても〝結界魔法〟で境界を渡れば良いのだ。助けに行くのは容易だ。

 

「あまり気負いすぎるな。安心しろ。対処できそうに無いなら、私もすぐに加勢する。弟子を見殺しにするのは好きじゃないからな」

 

 アリスはそれを聞いて、もう一度溜息を漏らした。

 

 「ギリギリでしかクリアできない無茶難題を突き付けられた兵士に見える」とは、そんなアリスを見ながら朝食を貪るエルの感想だった。






久しぶりの投稿になります。読みにくさ、誤字などがあれば報告ください。

原作死亡キャラを生存させるか否か

  • 生存させる
  • 原作通り死亡
  • どちらでも構わない
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