ありふれない青年が世界最悪   作:幻想者

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鍛錬

 

 

 

 

「……アリス」

「はい!」

 

 魔法の使えない処刑谷の底。そこで、エルとアリスの二人は魔物の相手をしていた。

 

 二人が相手にしているのは、黒く硬い毛で体を覆う狼の群れ。高い統率力と、俊敏さで獲物を狩る魔物だ。

 

 司令塔らしい黒狼が吠えると、周りの狼がエルとアリスに襲いかかる。この魔物達は、大峡谷内においても優秀なハンター。

 

 個々の強さも然り。一体でも強力な魔物が連携して襲い掛かってくる。並みの冒険者や兵士では苦戦させられるだろう。まぁ、〝並み〟であればの話ではあるが

 

「………ブッチャー」

「ごめんなさい。私たちが生き残るために死んでください」

 

 エルは、その小柄な体躯から考えられない程の大鉈を片手で振り回す。襲いかかってきた黒狼は叩き斬られていき。アリスに襲いかかれば、避けられたあとに、無防備な背後から弓で貫かれたり、ナイフで刺されたりして討伐される。

 

 エルの大鉈でミンチにされるか、アリスに射殺されるか。魔物に与えられた道はその二つだった。

 

「アオォォォォーン!」

「……………うるさい」

 

 攻撃の号令と共に、一瞬にしてミンチにされる魔物達。エルの攻撃から生き残っても、アリスの狙撃で射ぬかれる。どちらにせよ待つのは死。

 

 黒狼が撤退を図ろうとすれば、アリスから飛んでくる矢を回避しながら逃げるしかない。だが、回避先を間違えばエルに追い付かれてミンチになる。

 

 敵対する相手を間違えた。そうとしか言えない。

 

「……………七……八……。………………ん。……アンリ、言ってた………魔物……討伐」

「はい。魔物の討伐完了ですね」

 

 アリスが弓を背負い、エルは大鉈を引きずりながら京楽の元へと向かう。

 

 二人は修行でライセン大峡谷で魔物討伐と、ライセン大迷宮の探索と踏破を言い渡されている。

 

 魔物の討伐は、二人の戦闘訓練。ライセン大迷宮の探索と踏破は、七つある大迷宮の中でも、ライセン大迷宮が比較的簡単だからと言うことでだ。ちなみに、ライセン大迷宮は、数多くの即死トラップと制作者のありがたい?お言葉。そして、制作者の善意?成分が多く含まれているだけだ。大迷宮の中でも簡単な方だ。

 

 ライセン大迷宮は力試しで踏破してもらう予定だ。内部構造をある程度は知っている京楽が居るのだ。アリスとエルの保護は出来る。

 

 そんなわけで、アリスとエルは京楽に鍛練させられている。二人の鍛練中、京楽は拠点で魔法の研究をしている。

 

 二人は、峡谷内にある拠点に戻り。拠点内のリビングで研究をまとめる京楽に声をかける。

 

「師匠様、今よろしいですか?」

「……あぁ、構わない。魔物の討伐は終わったのか?」

「はい。言われた通り、ヘルウルフの群れを討伐し終えました」

 

 ある程度まとめてある資料をピアスに入れ、立ち上がる。

 

「……食事にしよう。話はその時に聞く」

 

 そう言って京楽はピアスから暇に用意しておいた料理達をテーブルに並べる。

 

「あまり時間を作れなくてな。簡単なもので悪いが、我慢してくれ」

「………………大丈夫。沢山ある」

 

 アリスとエルが手を洗い、全員で食卓につく。

 

「…………………アンリ。考え事?」

「……少しな……。いや、今は良い。食べよう」

 

 京楽が料理に手を着け始めると、二人も手を着ける。アリスもエルも美味しそうに食べてくれる。手の込んだものは無いが、エルは質よりも量。アリスはある程度の質。余程空腹だったのか、二人ともよく食べる。

 

「……なぁ。アリス、エル」

「なんですか?」

「……………?」

 

 京楽は食事の手を止め、二人を見る。アリスもエルも疑問符を浮かべている。

 

「そろそろ頃合いだろう。明日からはライセン大迷宮の攻略を開始する。二人の実力なら問題ないだろう」

「攻略を始めるって、場所を覚えてないって言ってませんでしたか?」

 

 アリスの質問に答えるように、ピアスから地図を取り出して見せる。

 

「……あまりやりたくはなかったが、〝千里眼〟で探した。大迷宮を見つけることは出来た。……まぁ、そのせいか頭痛が酷いが」

 

 地図には、現在地から大迷宮までが書かれている。アリスが地図を受け取り、パンを貪りながらエルが覗き見る。

 

「へ~。ここからあまり離れてないんですね」

「…………歩いて三十分。…………まだ近い」

「あぁ、思ったよりも近かったから。移動を焦る必要はない」

 

 大迷宮は、拠点地からそこまで離れていない。〝千里眼〟を長時間使わなくて良かったことに安堵する。

 

 〝千里眼〟は、使用時間が延びると頭痛が酷くなる。〝千里眼〟の派生技能は全般的にそうだが、〝並列思考〟で軽減はできるが、一辺にいろんな情報が脳に送られる。処理が遅れれば頭痛も酷くなり、鼻血もで始めれる。便利だが、それなりの代償がある。

 

「でも、今の私たちで踏破出来るのでしょうか? 私もエルさんも、特別強いわけではありませんし……」

「……そこは問題ない。私が保証しよう。……今のアリスとエルなら可能だ」

 

 不安がるアリスの頭を撫でる。

 

「………アリス。私はアリスのなんだ?」

「師匠様は、アリスの師匠様です」

「……私は今までに数多くの弟子を取ってきた。アリスはその中でも上位に組入る程の実力を持っている。………私が嘘をついたことがあったか?」

「ないです。師匠様は、アリスに出来ないことは言いません。………でも」

 

 エルがアリスに頭を預け、口にパンを押し付ける。

 

「……………アリス……弱くない…………大丈夫。私も、アンリも……いる」

 

 不安になるのは、空腹だからだ。だから食べて元気出せ。と言うことなのだろう。アリスの口に押し付けて無理矢理食べさせる。

 

「………アンリ。……踏破…………ご褒美」

「……前も言ったが、踏破のご褒美は私のフルコースだ。追加でつけるモノは検討しておこう」

 

 京楽が椅子に座り直し、苦笑いを浮かべる。

 

 大迷宮踏破のフルコースとは別のご褒美。何が喜ぶだろうか。魔法道具か、ここにはない和食料理か。

 

 エルは食事で喜ぶだろうが、アリスの喜びそうなものは、幻想郷に一度返してガウルフと触れ合えば喜ぶだろうか。

 

「………明日の朝、出発する。……これからは準備時間だ。休憩なり、特訓なり好きなように過ごしてくれ」

 

 京楽は「ごちそうさま」と一言だけ言って、自室に行く。やることは残っている。

 

「………大迷宮内で、私は探索の手伝いが出来ないかもしれない。そうなると…………」

 

 ぶつぶつ呟きながら部屋に帰る京楽を見送り、エルはサラダを貪る。隣でアリスがちびちびとパンを食べている。

 

「…………アリス」

「……なんですか」

「……アンリ……来れなかったら………………二人、頑張る」

 

 背中を軽く叩き。エルはサラダを食べることに意識を戻した。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

「……はぐれちゃいましたね」

「…………………アンリ……迷子」

 

 ここは、ライセン大迷宮内部。ライセン大迷宮を作ったミレディ・ライセンの煽り文を読みながら進んでいると、気が付けば京楽とはぐれていた。

 

 いつからはぐれたのかはわからない。ついさっきまでは一緒だったはずだ。

 

「……………ご飯」

「……エルさん、こんなときにでも食事なんですね……」

 

 お腹が空いたのか、アリスに食事を要求する。溜息を吐きながら京楽に預けられたピアスからサンドイッチを手渡す。

 

「………どうせ生きてる………アンリ、死なないし」

 

 サンドイッチを食べながら、アリスの前を歩いていく。アリスはこの先に思いやられながらとぼとぼとついていった。







お久しぶりです。作者です。
失踪していましたが、ただいま帰って参りました。投稿を再開する予定ですが、何かと忙しく、不定期になりますがお許しください。

原作死亡キャラを生存させるか否か

  • 生存させる
  • 原作通り死亡
  • どちらでも構わない
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