ありふれない青年が世界最悪   作:幻想者

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考える夜

 

 

 

 

 ほぼ全員が戦争参加の決意をした以上、戦いの術を学ばなければならず、平和主義にどっぷり浸かりきった日本の高校生がいきなり魔物や魔人と戦うなど不可能だ。

 

 その辺の事情は当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。

 

 王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇める神──創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンなる人物が建国した最も伝統ある国ということだ。国の背後に教会があるのだからその繋がりの強さが分かるだろう。

 

「ねぇ、京楽。大丈夫なの?」

「……何がだ?」

「戦うんだよ? 魔人族って言うのと」

「大丈夫なわけないだろう」

 

 京楽はそう悪態をつく。そう、全くもって大丈夫ではない。殺し合いをさせられるのだ。大丈夫なわけがない。京楽の場合はなんとかなるかもしれないが、全員が京楽のような異質な人間ではないのだ。

 

「こんな状態じゃ、〝なるようになる〟何て言えはしないしな」

 

 そう呟いて、京楽はハジメの隣を歩いていた。ちなみにユカリは京楽の手を強く握っている。京楽的には不快で堪らないのだが、わざわざ邪険にしてユカリの不安を煽るようなことはしたくない。不快感を堪えながら歩いていた。

 

 聖教教会の正面門にやって来ると聖教教会は【神山】の頂上にあるらしく、門を潜るとそこには雲海が広がっていた。

 

 高山特有の息苦しさなど感じていなかったので、高山にあるとは気がつかなかった。おそらく魔法で生活環境を整えているのだろう。

 

 台座には巨大な魔法陣が刻まれていて、イシュタルが何やら唱えだした。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん──〝天道〟」

 

 その途端、足元の魔法陣が輝き出してロープウェイのように滑らかに台座が動き出し、地上へ向けて斜めに下っていく。どうやら、先ほどの〝詠唱〟で台座に刻まれた魔法陣を起動したようだ。この台座は正しくロープウェイなのだろう。

 

 雲海を抜け地上が見えてきた。山肌からせり出すように建築された巨大な城と放射状に広がる城下町。ハイリヒ王国の王都だ。台座は、王宮と空中回廊で繋がっていて高い塔の屋上に続いているようだ。

 

 教会に負けないくらい内装の廊下を歩く。道中、騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違うのだが、皆一様に期待に満ちた、あるいは畏敬の念に満ちた眼差しを向けて来る。

 

 巨大な両開きの扉の前に到着すると、その扉の両サイドで直立不動の姿勢をとっていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げ、中の返事も待たず扉を開け放った。

 

 イシュタルは、それが当然というように悠々と扉を通る。光輝等一部の者を除いて生徒達は恐る恐るといった感じで扉を潜った。京楽は入る前に一礼してから入っていく。

 

 扉を潜った先には、真っ直ぐ延びたレッドカーペットと、その奥の中央に豪奢な椅子──玉座があった。玉座の前で覇気と威厳を纏った初老の男が立ち上がって待っている。

 

 その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。

 

 玉座の手前に着くと、イシュタルは京楽達をそこに止め置き、自分は国王の隣へと進んで手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。

 

(手にキスするということは親愛、敬愛していることを意味する。この国はエヒトの信者と判断して良さそうだ。となると、殆どが敵か……本当にめんどくさい)

 

 そこからはただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。

 

 後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。ちなみに、途中、美少年の目が香織に吸い寄せられるようにチラチラ見ていたことから香織の魅力は異世界でも通用するようだ。

 

 その後、晩餐会が開かれ異世界料理が大量にだされる。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかったが、不可解にもピンク色のソースや虹色の飲み物が置かれていた。

 

 ランデル殿下がしきりに香織に話しかけていたのをクラスの男子がやきもきしながら見ているという状況もあった。

 

「……」

「……京楽? なにも食べないの?」

「……食べる気にならん。食べるなら自分で作ったものを食べる。誘拐しておいて信用しろはむしろ信用出来んしな。第一何が入っているかわからないからな」

「そう言えば、潔癖症でしたね、先輩」

 

 盛り付けられた料理をみるだけで、京楽は水にさえも手をつけようとはせずにグラスの中身を揺らしながら目を閉じて突っ立っている。そんな京楽に一応食べるようにハジメやユカリは勧める。

 

「楽しんでおられますか?」

 

 全く手をつけようとはしない京楽に近付いたのは王女リリアーナ。すぐ隣にいるハジメやユカリに全員が敵意や侮蔑の表情を向けていたが、ハジメはひきつった笑みを浮かべながらリリアーナに視線を向け、ユカリはビクビクしながら振り返り、京楽は話しかけられたのでグラスの中の飲物を揺らすのを辞めて、目を開くことなく振り向く。

 

「……ああ、お姫さんか。何かようか?」

「ちょっと、この国のお姫様なのに失礼だよ」

「先輩、機嫌が悪いからって流石に不敬が過ぎると不味いんじゃ……」

「ふふっ、そんな畏まらなくても。宰相達は貴方の持つ雰囲気に気圧されて避けておりますが勇気を出して行く価値はあったようですわね」

「この人、絶対大物になるよ。……あっ、名前まだでしたね。南雲ハジメです」

「妹のユカリです」

「八雲京楽だ。八雲と南雲がファミリーネーム。京楽、ハジメ、ユカリがファーストネームだ。紛らわしいかもしれないがよろしくしてほしい」

「よろしければ三人のことは名前で呼んでもよろしいですか? 私のことはリリィと呼んでください」

 

 明るく気さくなうえに憶さないリリアーナに周りの眼で人を判断しない人だと評価した。

 

「構わんぞ」

「「は、はぁ」」

「はい。ところで京楽様はいただかないのですか? 見たところによると、手をつけてはいないご様子なので……」

「………先に謝ろうか。他人の作ったものを食べると言う行為に嫌悪感を感じてしまうものでな。すまないが、食べることはできん」

「………わかりました。料理人に通しておきますので、良ければ厨房をお使いください。先に調べておくべきでしたのに、申し訳ありません」

「……あまり気にするな。は、その様子だと無理そうだな……まぁ、私個人的な問題だ。こればかりは姫さん側の問題ではない、そう責任を負おうとするな。いつか押し潰れる」

「見た目によらず、優しいのですね。その言葉、ありがたく受け取っておきます」

「……そうか」

 

 それから京楽はリリアーナに厨房を貸してもらえる許可を取り、材料と器具の使い方は料理人達に使いながら教わり、軽食を作って食べている。この世界にもパンがあったことに感謝。

 

 リリアーナの話によれば王宮では、衣食住が保障されている旨と訓練における教官達の紹介もなされた。教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたようだ。いずれ来る戦争に備え親睦を深めておけということだろう。

 

 晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内されると天蓋付きベッドに愕然した。

 

 京楽はそれを確認しから窓を開ける。窓を開けて入ってくるのは、涼しい夜風だ。

 

 夜風を浴びながら先程までの晩餐会を振り返る。

 

「王宮の部屋の作りもそうだが、本当に戦争があるのか疑わしいな。財政も食糧も問題なさそうだし、戦争を控えとるなら晩餐会が出来るほどの食糧を振る舞えるはずがないし、少しは躊躇うはずだ」

 

 京楽は状況の不審点を上げていった。

 

 主な不審点は経済と食糧。次に上がったのが何故クラスメイト達のような戦争を知らない若い自分達だったのか。その次が、一つの神を狂気的に信じる人間族の信仰宗教、〝エヒト教〟。自分達を見る貴族達の目などが上がっていく。貴族達が京楽やクラスメイト達に向けていたのは喜びだ。「これで自分達の子供や、自分が戦争に出て死ななくていい」と言う喜びの目だ。

 

 そんな目を向けられているのに気がついたのは京楽とすぐ近くに居たハジメ、察しの良さを買うなら雫辺りだろう。狂信的な人々。光輝が言ったような力が沸いてくる感覚はない。京楽の感覚はいつも通りだ。京楽があれこれ思案していると、一つの可能性が現れてきた。

 

「……もしかすると、本当に元凶の可能性があるな。はぁ」

 

 京楽が行き着いたのは、やはり神が全てを企てた元凶であると言う可能性だ。

 

 自分達を地球から呼び出した神が全てを仕組んでいるのではないかと言う可能性だ。しかしそれは、京楽が一番考えたくない可能性だ。神が全ての元凶であるとするなら、戦争が終わろうが帰してもらえるわけがない。神が狙っている本当の目的が達成されない以上、確実に絶対に帰してもらえるわけがない。

 

 もちろんそうなれば自力で帰還の手立てを考えなくならなければいけない。仮に帰還の手立てがわかったとしても、実践させてもらえるかは不明だ。

 

 そして当たり前だが、コレは一つの説に過ぎず、あくまでも憶測だ。それに、戦争をさせる意味がいまいちわからないが、これも最悪ただの暇潰しの可能性がある。

 

 エヒトは創成神であり、世界の創設者なら、敵対している魔人族もエヒトが作ったのだろう。要は、自分の産み出した存在を戦わせて楽しんでいるのだ。性格がネジ曲がっている。性格が良いとは言い難い。

 

 憶測の域をでないが、その時はその時だ。しかし、可能性はあるので今からでも対抗策を練っておくべきだろう。

 

 溜息を吐いて、近くにあった椅子に腰掛ける。

 

「……母さんは大丈夫かな」

 

 京楽が真っ先に心配したのは唯一の肉親である母の事だ。

 

 京楽の母、京は家事スキルがない。一応料理は、料理だけは出来る。そのため、食には困らないだろうが、問題はその他だ。掃除や洗濯は苦手で、京楽が修学旅行で一日二日出掛けただけでかなりの散らかり様をみせる。

 

 そのため、掃除や洗濯は必ず京楽がやり、食事はたまに京がやる。基本は全て京楽がやっているため、家事スキルはかなり高い。本人が女顔、もとい中性的な顔立ちなので一時期アダ名が〝ママン〟だった。人嫌いではあるが、何かと面倒見は良かったりするのが原因だ。本人曰く、「人間は嫌いだが、やらなきゃいけないこととそうでないことぐらいの区別はつく」だ、そうだ。

 

 京楽は考えるのを止めて背凭れに背を預けて天井を見上げる。マフラーを緩めて深く溜息を吐くと、扉をノックする音が聞こえた。

 

「……開いてる。用があるなら入れ」

「……失礼します」

 

 京楽が勝手に入るように言うと、入ってきたのはユカリだった。枕を抱きながら入ってきたユカリの顔は少し赤い。

 

「……なんだ?」

「ちょっと、一緒に寝てくれないかなって……」

「ハジメの所に行けばいいだろう? 何故、わざわざ私の所に……」

「兄さんには断られちゃって……それに、兄さんだから恥ずかしいって言うのも……ちょっとあって……」

 

 ユカリはそう言いながらモジモジと動く。身長百六十前後のセミロングの黒髪に爛々と輝くような赤い目。着痩せするだけで、ある程度育つべき所は育っているユカリは、一年生の間ではかなりの人気を誇る。そんな美少女に迫られ、思春期男子であるならば首を縦に振るような場面だが、京楽は溜息を吐いた。

 

「流石に無理だ。寝るまで近くにいることは出来るが、一緒に寝るのはな……」

「ダメ、ですか?」

「……ああ、ダメだ。あざといぞ」

 

 ユカリが上目遣いで京楽を見るが、京楽は視線を外す。しかし、ユカリは京楽の首を縦に振らせる方法を知っているのだ。

 

 京楽の側に行き、上目遣いでジーっと眺める。そして、

 

「……本当に……本当にダメなの?」

「……………………………………………………はぁ」

 

 かなりの間が空いてから京楽は溜息を吐き、手袋を着けてユカリを見る。

 

「……今回だけだぞ」

「やった」

 

 京楽は何だかんだユカリに甘い。いや、ハジメやユカリ、ハジメの両親にたいしてかなり甘い。基本は誰に対しても塩対応な京楽も、ハジメやユカリには優しい。一応、最近は香織や雫に対しても軟化してきてはいる。

 

 ユカリが喜びながらベッドに倒れ込み、京楽を誘う。京楽は呆れながらもユカリの隣に寝転がる。少し距離があるが、京楽は潔癖症。ならびに軽度の接触恐怖症を患っている。それ故のギリギリの不可侵領域だ。それを攻めると言うことはかなりユカリに気を許している。信頼していると言うことだ。ちなみに、ハジメの場合は、肌に触れないならば触っても何も言われず、母親の京は完全に大丈夫だ。ユカリは自分から行くのには勇気は要るが出来るまでにはなった。

 

 ユカリは京楽の恐怖症を克服させる手伝いをしており、逆に京楽もユカリの恐怖症を克服させる手伝いをお互いにしている。

 

「……ユカリ、男性恐怖症は治りそうか?」

「……先輩のお陰で、だいぶ治っては来てるんですよ? ……でも、やっぱり兄さんとかお父さん、先輩以外の人は怖くて……」

「……そうか」

 

 ユカリの頭にそっと手をやり、若干躊躇いながらも手をおき、優しく頭を撫でる。京楽なりの親愛の証だ。頭を撫でているとユカリが少し頭を揺らす。

 

「……嫌だったか?」

「ううん。……ちょっと怖いけど……心地よくて……なんか、複雑な気分」

「…………そうか。恐怖対象が近くにいる時点であまり休めないだろうが、安心しろ。私は味方だ」

「世界が私を敵だと言ってもですか?」

「……もしそうなるなら、一緒に逃避行でもしてやるさ」

「兄さんが敵になったとしてもですか?」

「…………すまないが、その時は自力で逃げてくれ。なに、ルートは用意してやる……………冗談だ。だから、そんなに悲しい顔をするな」

 

 二人はそんな会話をしながらお互いに眠気が来るまで話す。

 

 しばらく話をしていると、京楽に眠気がやって来た。徹夜や考え事が立て込んでいたため、頭は疲れているんだろう。京楽に眠気が来たのを察したのか、ユカリが微笑んだ。

 

「先輩の方が先に眠気来ちゃったんですね。先に眠っていいよ」

「……そうさせてもらおう」

 

 京楽は目を閉じ、眠気に身を委ねた。

 

 ユカリは京楽が眠ったことを確認すると、京楽の頬に手を伸ばす。一瞬触れようとしたが、恐怖で躊躇ってしまう。だが、そっと、京楽の頬に触れる。

 

「……先輩。私、頑張ってますよ。ここまで触れるようになったんですよ」

 

 ユカリが京楽の頬を撫で、そう呟く。その顔の頬は赤く、少し緩んでいる。

 

「……先輩。大好きです。また明日も、一杯。私に構ってね」

 

 ユカリはそう呟いて目を閉じた。やって来ていた睡魔に身を委ねて、眠りの世界に落ちていった。

 




連続更新だよ~。
続くかな?
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