ありふれない青年が世界最悪   作:幻想者

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連続更新~


努力すると言うこと(下)

 

 

 

 

 訓練施設に到着すると既に何人もの生徒達がやって来て談笑したり自主練したりしていた。どうやら案外早く着いたようである。ハジメは、自主練でもして待つかと、支給された剣を取りだして自主練を始め、京楽はユカリに少し離れた場所に連れていかれた。

 

「ねぇ、先輩。少し、体術とか教えてくれないかな?」

「別にいいぞ。だが、私のは我流だ。教えられることは殆どないがな」

 

 京楽はそう言って臍の辺りに両手を添え置き、深呼吸をした。そして軽く構えをとる。拳の突き方や蹴りの入れ方、防御のやり方を反復させる。

 

「もう少し腰を入れろ。そうだ。体と連動させるように打ち出すんだ」

 

 京楽の指導の下、ユカリは護身用で技を受け流す為の動きや、蹴り技を教えていた。ユカリは才能は無いモノの、ある程度のセンスは持っていた。殴りよりも、蹴りの方が得意そうだったため、蹴りを中心的に教えている。

 

 ユカリを少し休憩させ、ハジメにも少し何かしら仕込もうかとハジメを探して辺りを見回す。しかし、ハジメの存在は見当たらない。

 

「……ユカリ。ハジメを知らないか?」

「へ? ついさっきまでしか見てないけど……」

「……そうか」

 

 京楽はそう言うと、「少し待っていてくれ」とだけ言い残して訓練施設の外に出ていった。嫌な予感がしているのだ。

 

 京楽がハジメを探して辺りを見て回っていると……

 

「ちょ、マジ弱すぎ。南雲さぁ~、マジやる気あんの?」

 

 向こうの人目につかなさそうな辺りからそんな声が聞こえてきた。

 

 京楽が気配を消しながら声のする方へ行く。そこには蹲るハジメに対して、檜山、中野、斎藤、近藤の四人が集団でリンチしている場面であった。

 

「……やりすぎじゃないか?」

「大丈夫だって、こいつはビビりだからチクったりなんかしねぇよ」

「そうか。なるほどな」

「しつこいな……ん?」

「なんだ。三下小者共」

「うわぁ! や、八雲!?」

 

 明らかにぶちギレる寸前であろう急に現れた京楽に、その場にいた五人は驚きをあらわにする。

 

 怒りを無理矢理抑えるように不機嫌そうに溜息を吐き、ハジメを見据えたまま動かない。檜山達はあれ? と首をかしげた。

 

「お、お前南雲を助けに来たんじゃ」

「……私が助けに入らなければいけないようなことをしていたのか?」

「い、いやぁ。そんなことは」

「なら私は介入しない。去るならさっさとされ。目障りだ」

 

 本来なら、京楽に喧嘩の一つや二つ売ってくるのだろうが、檜山達は見てしまったのだ。京楽が騎士を相手に圧倒していたことを。そんな敵いっこない相手には喧嘩を売らない。しかし、残念なおつむの四人は、思い至る。京楽が何もしてこないと言うことは続行して良いのでは? と。

 

 檜山が軽くハジメを蹴り飛ばし、近藤が剣の鞘で殴る。しかし、京楽は反応しない。何かを堪えるようにじっと目を閉じて立っている。

 

 ハジメはいつもなら自分を助けてくれるであろう京楽の行動に唖然としながら、京楽を見る。しかし、京楽は動かない。

 

 それから檜山達のリンチはエスカレートしていき、ハジメは京楽を見るが京楽は動かない。

 

「……なんで……なんで助けてくれないのさ………………助けてよ、京楽」

 

 ハジメがそう呟くと同時に次に来ると思われた痛みが来なかった。

 

「なんだよ、八雲」

「……好き勝手にするのはおしまいだ。これ以上はさせん」

 

 京楽がハジメを守るように檜山達の前に立ちはだかり、檜山達を睨み付ける。

 

「今さらヒーロー気取りかよ!」

「ウケるんですけど!」

「……」

 

 京楽は何も答えず沈黙したままだった。図星だからではない。京楽にそんな感じのことを言うと、決まってとある返答が帰ってくる。

 

「……人間とは、生命の頂点であり、生命の頂点であるが故に生態系を食い散らかす害獣のことだ。それ故、害が正義である道理はなく、正義が害である道理もない。故に、人間とは生まれながらにしての悪である。……私は認めよう。私は…………救い用の無い〝悪〟だ」

 

 京楽はそう言うと、檜山達を睨み付ける。それだけで檜山達は竦み上がってしまう。京楽は修羅場馴れしている。そして何よりもヤクザや暴力団、マフィアとの関わりがあったため威圧が凄い。

 

「ぜ、全員でかかればどうってこと無いはずだ! やっちまえ!」

 

 檜山がそう言った瞬間。突然、怒りに満ちた女の子の声が響いた。

 

「何やってるの!?」

 

 その声に「やべっ」という顔をする檜山達。それはそうだろう。その女の子は檜山達が惚れている香織だったのだから。香織だけでなく雫や光輝、龍太郎もいる。

 

「い、いや、これはその……」

「南雲くん!」

 

 自分が大声を出したことが原因で現れてしまった為に、頭の中がパニックになり、なんとか言い訳をしようと口を動かそうとしたが、それを無視して香織は倒れて咳き込むハジメに駆け寄っていった。

 

「それで、これは一体どういう状況なの?」

 

 ギロリ! と鋭い目線を檜山達に向ける。仮にも親友が好意を持っている相手に集団でイジメていたのだ。雫の腸は煮えくり返っていた。京楽がハジメを守るように立っているため、かなりのことがあったのは予想できた。

 

 ビクッ! と檜山達は誤魔化し笑いをしながら頭をかく。まさしく典型的な三下のチンピラといった風貌だ。

 

「あんたたちが何をどうこうしようが興味ないけど、やっていいことと悪いことの区別くらいいい加減つけなさい」

「そうだ。いくら南雲が戦闘に向かないからって、同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

 三者三様に言い募られ、檜山達は苦笑いでその場をそそくさと立ち去った。香織の治癒魔法によりハジメが徐々に癒されていく。

 

「あ、ありがとう。白崎さん。助かったよ」

 

 苦笑いするハジメに香織は泣きそうな顔でブンブンと首を振る。

 

「いつもあんなことされてたの? それなら、私が……」

 

 何やら怒りの形相で檜山達が去った方を睨む香織を、ハジメは慌てて止める。

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから! 大丈夫だから、ホント気にしないで!」

「でも……」

 

 それでも納得できなそうな香織に再度「大丈夫」と笑顔を見せるハジメ。渋々ながら、ようやく香織も引き下がる。

 

「南雲君、何かあれば遠慮なく言ってちょうだい。香織もその方が納得するわ」

 

 渋い表情をしている香織を横目に、苦笑いしながら雫が言う。それにも礼を言うハジメ。しかし、そこで水を差すのが勇者クオリティー。

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう? 聞けば、訓練のないときは図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてるよ。南雲も、もう少し真面目になった方がいい。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

 何をどう解釈すればそうなるのか。ハジメは半ば呆然としながら、ああ確かに天之河は基本的に性善説で人の行動を解釈する奴だったと苦笑いする。

 

 天之河の思考パターンは、基本的に人間はそう悪いことはしない。そう見える何かをしたのなら相応の理由があるはず。もしかしたら相手の方に原因があるのかもしれない! という過程を経るのである。

 

 それを聞いてハジメは既に誤解を解く気力が萎ている。それを察して雫も溜息を吐きながら手で顔を覆って、ハジメに謝罪をする。

 

「ごめんなさいね? 光輝も悪気があるわけじゃないのよ」

「アハハ、うん、分かってるから大丈夫」

 

 笑顔で大丈夫と言って立ち上がるハジメに、横から京楽は光輝の言い分を正しいと肯定する。

 

「……意見が同じことは癪だが、こればかりは天之河の言い分も正しい」

「えっ?」

 

 突然の京楽の意見に、それも光輝を物凄く嫌っている京楽から肯定の声を出され、ハジメは驚きの声を出して京楽を見つめる。

 

「正直に言うが、確かにハジメは弱い。これまで体術を軽く面倒を見てきたが、全くもって出来ていない。言い換えればセンスや才能というものが全くない。だから、檜山達にサンドバックにされる。だが、才能がないのが努力をしない理由にはならない。漫画の主人公でも落ちこぼれは存在するし、現実の世界で才能人間を努力した者が打ち勝ったなんて話しは星の数ほど存在する」

 

 普通に正論ではある。だが、現実と漫画は全然違うだろと内心少しムッ! と不機嫌になったハジメが京楽を睨む。

 

 それを理解しているのか、京楽はさらに話を続ける。

 

「けどだ、天之河。ハジメは努力はしている。確かに私達は戦争に参加するためにここに呼ばれた。しかし、生産職であるハジメが戦闘で活躍する意味はない。戦闘面ならそこらの騎士とかに任せたほうが柄を挙げてくれることだろう。だがな、生産職にしかできないことがある。それは裏方仕事、後方支援だ。さっき天之河も言ったように、ハジメは訓練のないときは図書館で読書に耽っている。それは、私がハジメに必要な知識を蓄えるように薦めたからだ。ユカリもそうだ。この世界にハジメが好きな本類が置かれていると言うことはない。ハジメも決してサボっていた訳じゃない。私の証言で足りないなら、ユカリからも求めたり、司書なんかにも聞いてみるといい」

 

 京楽の説明を聞いて少し怒った表情をした香織が質問してくる。

 

「それならどうして南雲くんにもっと努力した方がいいなんて言ったの? 八雲くんは、南雲くんが一生懸命勉強しているのを側で見ていたんでしょ?」

「簡単なことだ。私は別に強くなる努力をしろって言った訳じゃない。抵抗する努力をしろと言っている」

「抵抗……」

「そうだ。ハジメのさっきまでの行為は、元の世界では優しいと評されるだろう。暴力に対して同じ暴力を振るわない。まさしく、聖人と呼ばれる者の行いだ。だが、この世界は戦争真っ只中の世界。さっきの行為はただのヘタレと評される。当然だ、殺らなければ殺られる世界で、何もせず蹲る行為に何の価値がある?」

「それは……」

 

 何も言い返せないハジメに京楽は言い聞かせる。

 

「結論から語ろう。勿論価値などない。野端の雑草以下の価値もない」

 

 京楽の言葉がハジメに容赦なく突き刺さり、京楽は更に続ける。

 

「だが、かと言って檜山達に反撃するくらいの意思をみせろだなんて言わない。それはむしろ着火剤に火をつける。燃えているガソリンに油を追投下ような行為だ。今さっきハジメがするべき行動は声を挙げること、助けを求めることだ。……さっき、私は敢えてハジメを助けなかった。私がもっと早めに助けていれば、苦しい時間はもっと短くなったかもしれないな。だが、私が助けなかった理由は──答えられるな?」

「僕のためにならないから」

「ああ、そうだ。私は助けを求められていない。残念なことに私は聖人でも善人でもないただの偽善者だからな。だがな、リンチされる友人に助けを求められて黙っているほどクズではないつもりだ。声を上げたから私は助けた。声をあげることも立派な抵抗だ」

 

 ぐうの音も出ない程の正論に自分のさっき京楽を睨みつけた行動が恥ずかしくなる。天之河はそんなに深く合理的に考えて言った訳じゃない。だからそこまで深く刺さらない。

 

 けれど、自分の親友の言っていることは正解で合理的だ。だからこそ、自分の未熟さを分からせられる。どこまでもハジメに厳しく、ハジメを思った親友は優しい。

 

「……ああだこうだ言ったが、所詮は他人の戯れ言だ。聞くも聞かぬもハジメの好きにしろ。わからないようなら何度だって説明してやる。だが、これだけは忘れるな。────戦いの中、弱いだけでは淘汰されるだけだ。抵抗しろ。声をあげろ。声が上がらないなら声をあげなくたっていい、大きな音を鳴らせ。何があっても足掻き続けろ。それでも助けが来ないなら、生き延びるために死ぬ気で生き抜け」

 

 親友の何よりも強く、重たい言葉をハジメは受け止めた。京楽は自分に自由をくれる。京楽が強制することは滅多に無い。全てを選ばせてくれるのだ。

 

「……柄にもないほど熱くなりすぎたな。自分でも吐き気がする。……何をボーッとしている。早く行くぞ、ユカリが待ってる」

「う、うん」

 

 ハジメは京楽の背中を追いかけていった。残されそうになった香織達も京楽の後ろに続いていった。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだが、今回はメルドから伝えることがあると引き止められた。何事かと注目する生徒達に、メルドは野太い声で告げる。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

 そう言って伝えることだけ伝えるとさっさと行ってしまった。ざわざわと喧騒に包まれる生徒達の最後尾で京楽は欠伸をした。嫌な予感を背負いながら、京楽は部屋に帰った。

 

 

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