碇ゲンドウの憂鬱、碇シンジの奮起 ~碇親子の和解旧劇版~   作:朝陽晴空

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第一話 碇ゲンドウの憂鬱(2022/08/27 19:17改稿)

 私は特務機関ネルフ総司令、碇ゲンドウ。

 ネルフは人類全体の敵となる『使徒』に立ち向かう汎用人型兵器『エヴァンゲリオン』を開発・運用する事を目的に建てられた組織だ。

 

 

 

 表向きはそうなのだが、ネルフには裏の顔がある。

 それは人類補完計画の遂行。

 

 

 

 ゼーレの死海文書によれば、使徒が襲来するのは約2週間後。

 ファーストチルドレン、綾波レイをパイロットとしてエヴァンゲリオン初号機の起動実験を何度も行った。

 しかし実戦に耐えられるシンクロ率を出すことができなかった。

 

 

 

 エヴァのコアに取り込まれてしまったユイの遺伝子を持つレイなら高いシンクロ率なると予想していたのだが、シナリオが狂ってしまった。

 

「碇、これでは使い物にならんぞ」

 

 冬月が私を責め立てるように決断を迫る。

 

 

 

「問題ありません、全てはシナリオ通りです」

 

 冬月にはそう答えたが、額に冷汗が浮かぶほど焦っていた。

 使徒に負けるようなことがあっては、私の目的も達成できなくなる。

絶対に失敗は許されなかった。

 

 

 

 

 

 

「先生、しばらくここをお願いします」

 

 実験棟を出て司令室へと戻ると、私は深く考えた。

 レイの他にチルドレンとなる適格者が居ないわけではない。

 

 

 

 ドイツ支部ではセカンドチルドレンと弐号機による起動実験で高いシンクロ率を出すことに成功していた。

 弐号機を直ぐに日本に呼び寄せて使徒を倒させると手段もあるが、それでは私の満目が丸潰れである。

 キール議長も私の器量を疑問視するだろう。

 

 

 弐号機のコアとなっているのは、弐号機のパイロットの実の母親。

 レイはユイの肉体を受けついているが、魂はユイの娘ではない。

 

「やはり、母と子がシンクロ率の条件と言うのか……?」

 

 つい独り言を漏らしてしまった。

 

 

 

 その仮説が正しいのならばレイよりも高いシンクロ率を出せる適格者は存在する。

 しかしその仮説を認めてしまっては、私にとって辛い事実を受け入れなければならなくなる。

 

 

 

 私はネルフのMAGIシステムが完成した日の夜、赤木ナオコ博士を問い詰めた。

 ユイの実験の失敗は事故ではなく、最初から仕組まれたものでは無いのかと。

 彼女は貝のように口を閉ざし、私の質問に答えを出さなかった。

 

 

 

 そして次の日の朝、彼女は墜落死をしてしまう。

 キール議長にすべて不幸な事故だと説得され、私も疑惑を振り払うように人類補完計画の遂行にまい進した。

 

 

 

 エヴァのシンクロにとって母子の愛情が重要なカギだと認めてしまえば、私は再びゼーレに疑惑を抱かなくてはならなくなる。

 だが、レイによる初号機とのシンクロは失敗続きだ。

 背に腹は代えられなかった。

 

 

 

 

 

 決断を下した私は京都の兄夫婦の家まで息子のシンジを迎えに行った。

 シンジを預けたのはちょうど10年前だ。

 

 

 

 突然訪れた私に兄夫婦は驚いた。

 シンジに用があると告げると、兄夫婦は気まずそうに、庭にあるプレハブ小屋を指差した。

 兄夫婦に大切に育てられていると思っていた私が愚かだった。

 

 

 

「僕を見捨てた父さんが、今さら何の用?」

 

 10年振りとなるシンジの再会。

 警戒するオオカミの様な鋭い視線を向けるシンジ。

 4歳の頃の、あどけないシンジの姿しか覚えていない私はショックを受けた。

 しかし感情を表に出さずに、私は低い声で告げた。

 

 

 

「必要だから迎えに来たまでだ」

 

 私の言葉を聞いたシンジは目を輝かせたように見えた。

 だが、すぐにふてくされた表情を作った。

 

 

 

「父さんは勝手だよ」

「いかがいたしますか、碇司令」

「子供のワガママには付き合ってられん、連れて行け」

 

 私はシンジを強制的に連行するように命じた。

 もうエヴァは関係ない。

 こんな場所にシンジを置いていたら、さらに性格がねじ曲がってしまう。

 

 

 

「お待ちください、碇司令」

「何故止める、葛城君」

 

 しかし、私の前に作戦部長の葛城君が立ち塞がった。

 彼女はパイロットとなったシンジの直接の上司となるため、同行していたのだ。

 

 

 

「強引に連れて行くのは得策ではありません、私が説得して御覧にいれます」

 

 葛城君はそう言うとシンジに簡単な自己紹介をした後、話を始めた。

 

「シンジ君、突拍子もない話だけど、私たちはあなたの力を必要としているの」

「それはさっき聞いたよ」

 

 

 

 不機嫌な顔になったシンジに、葛城君は順序立てて使徒やネルフ、エヴァについて説明を続けていった。

 話を聞いていくうちに、だんだんとシンジの顔は引きつってきた。

 

 

 

「そんな……映画みたいな話……冗談だろ?」

「冗談を言うために、わざわざあなたのお父さんがここまで訪ねてくると思う?」

 

 真剣な表情の葛城君に言われて、シンジは黙り込んだ。

 しばらく黙り込んでいたシンジは、口を開いて葛城君に尋ねる。

 

 

 

「……どうして、僕が危険な目にあってまで、使徒と戦わなければならないんですか?」

「あなたにしかエヴァを動かすことができないからよ」

「……僕が嫌だと言ったら?」

「代わりにあなたと同い年の女の子が乗ることになるわね」

 

 

 葛城君がそう告げると、シンジはさらに怒った。

 

「さっき、僕しかエヴァを動かせないと言ったじゃないですか!」

「その子もほんの少しだけエヴァを動かせる可能性がある限り、乗せなくてはならないの。でもエヴァを動かせなかったらその子、確実に使徒に殺されるわよ」

 

 

 

 その葛城君の言葉を聞いたシンジはのどを鳴らした。

 

「それって脅しじゃないですか!」

「そう受け止められても仕方が無いわね」

 

 指摘された葛城君は深いため息をついた。

 

 

 再び沈黙が辺りを支配する。

 誰もが声を潜めてじっとシンジの言葉を待った。

 

「……分かりました、僕はネルフに行きます」

 

 

 

「シンジ君、ありがとう」

 

 シンジの返事を聞いた葛城君は安心した様子だった。

 そして立ったままじっと動かない私を見つめて言い放つ。

 

 

 

「だけど、僕はミサトさんとその同い年の子を助けるためだ、父さんのためじゃないからね」

「……ああ、それで構わん」

 

 感情を抑えた低い声で私はそう答えた。

 結果としてシンジがネルフに来る事になったのだ、葛城君に罰を与えずともよい。

 

 

 

 シンジを連れてプレハブ小屋を出た私を引き留めたのは、兄夫婦だった。

 彼らはシンジがまだ未熟な子供であると言ってエヴァに乗せることに反対した。

 

 

 しかし葛城君は憎らしげに私の兄夫婦をにらみつけた。

 

「あなた方はシンジ君ではなくて、自分達の身が可愛いんでしょう。司令からシンジ君のために振り込まれた養育費を使い込んでいたのは解っているんですよ」

 

 私は良かれと思って兄夫婦に多額の現金を渡していた。

 それに兄夫婦は味を占め、投機株に手を出して大火傷を負っていた。

 

 

 

「なあ、シンジ君もここに居たいだろう? 怖い思いをする必要はないじゃないか」

「さようなら伯父さん、叔母さん」

 

 猫なで声の兄夫婦に対して、シンジは冷たい目で答えた。

 兄夫婦は膝を折ってその場に崩れ落ちる。

 

 

 

「ゲンドウ、頼む。私たちを救ってくれ!」

「今までシンジの面倒を見てくれてありがとうございました」

 

 私も兄夫婦を一瞥すると、シンジと葛城君の居る車へと乗り込んだ。

 シンジの隣には葛城君が座り、私は奥の場所へと座った。

 

 

 

 葛城君は陽気な性格だと聞いているが、さすがに司令の私の前では自戒しているようだ。

 とりあえずシンジにネルフの概要が記されたパンフレットを渡していた。

 シンジも車内の気まずい雰囲気を、パンフレットに視線を注いでやり過ごそうとしている。

 

 

 

 やがて車は第三新東京市に到着し、ジオフロントの中に入った。

 するとシンジは辺りの景色を見回して驚きの声を上げた。

 

「凄い……!」

「これが私達ネルフの本部、人類を使徒の脅威から守るための砦。その総指揮をとっているのが、碇司令よ」

「父さんはこの仕事をするからに僕が邪魔になったの?」

「……そうだ」

 

 

 

 シンジの質問に私が重たい声で答えると、葛城君は少しでもその空気を軽くしようとする。

 

「だけど、司令はとっても忙しくなってシンジ君の面倒が見られなくなったから、シンジ君を伯父さん達に預けたと思うのよ」

「預けた? やっかいものを押しつけた、の間違いじゃないんですか?」

 

 

 

 皮肉めいた呟きの後、シンジは自分の細い腕を私達の前に見せつけた。

 栄養失調までとは行かないが、シンジは瘦せていた。

 兄夫婦は最低限の食事しか与えていなかったことがわかる。

 

 

 

「そうだ、今日はシンジ君のパイロットの就任の歓迎会をやりましょう! シンジ君の好きな物を好きなだけ頼んで良いから!」

「何でも食べさせてもらえるんですか?」

 

 葛城君の言葉を聞いたシンジの目が鋭く光った。

 まるで肉に飢えた猛禽類の猛獣のようだ。

 

「え……ええ! だって命を懸けて使徒と戦ってくれるシンジ君のためですもの、構わないですよね、碇司令?」

「……好きにしろ」

 

 ぶっきらぼうに私はそう答えた。

 それならばとシンジは私の愛情を試すかのように思いつく限りの贅沢を尽くした注文をした。

 

 

 

 葛城君はさすがにやりすぎだと、やんわりとシンジを諫めた。

 

「ちょっとシンジ君、フォアグラやトリュフは今の季節は旬じゃないかなー、とお姉さんは思うけど。それにローストビーフと特上ウナギ10人前って、そんなにたくさん食べきれないでしょ? それぐらいにして止めておいたら?」

「僕の歓迎会なんでしょう? じゃあたくさん人を呼べばいいじゃないですか」

 

 

 

 シンジはふて腐れた顔で葛城君に言い返した。

 葛城君から親の責務を果たせと厳しい視線が送られてきたが私はそれを跳ね返す。

 

「……問題ない。その程度で良いのか、シンジ?」

 

 

 

 私がシンジを挑発すると、葛城君は天を仰いだ。

 こうしてシンジがネルフに到着した日早々に、ネルフ本部で大宴会が行われる事となった。




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