碇ゲンドウの憂鬱、碇シンジの奮起 ~碇親子の和解旧劇版~   作:朝陽晴空

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外伝二話 碇アスカの奮起

 シンジがドイツに留学してから三年が経った。

 彼はチェリストとしての才能を開花させ、ドイツでも大きなケルン・フィル管弦楽団に入るまでになった。

 日本にも何度か公演に来るほど、有名な楽団のようだった。

 

 

 

「はぁ……」

 

 ケルン・フィル管弦楽団の来日公演を告知するポスターを見て、ため息を吐き出した。

 今度の公演にはシンジも楽団の一員としてやって来るらしい。

 

 

 

「どうしたの? そんな憂鬱な顔しちゃって。シンジ君と久しぶりに会えるのに、嬉しくないの?」

「シンジがすっかり、雲の上のような存在になっちゃったんだな、って」

 

 そうぼやくと、ミサトは大きな声を上げて笑った。

 同じ夕食の席に着いていた碇所長やレイもつられるように笑う。

 

 

 

「プライドの塊のようなアスカが、しおらしいことを言うじゃない」

「アスカ君、自信を持て。辛い花嫁修業をやり終えたのだ。あのシンジにはもったいない位の、素晴らしい女性になっているぞ」

「そうよ、アスカ」

 

 碇所長やレイもそう言って励ましてくれるけど、アタシはシンジの隣に立つ資格があるのかと悩んでいた。

 

 

 

 ソロでも若き天才チェリストとしての活動を始めたシンジは、ドイツでも有名なピアニストともデュオリサイタルをしていた。

 シンジの来日が決まると、日本のピアニストからもオファーが舞い込んだらしい。

 

 

 

 シンジがデュオを組むことになったピアニストの名前は、大井サツキ。

 才能あふれる彼女だが、共演者との男女の付き合いがマスコミを賑わせる、恋多き女性としても名が知れていた。

 レイも目くじらを立てて彼女とシンジのデュオリサイタルに反対していたが、色々としがらみがあり断り切れなかったらしい。

 

「心配いらないわ、レイ。シンジ君とアスカのラブラブは、その程度では揺るがないわ」

「ラブラブって、アンタねえ……」

 

 

 

 ミサトなりに応援してくれたんだろうけど、心の中にかかった霧は晴れなかった。

 心の動揺は料理にも現れた。

 碇所長は、味が乱れていると指摘した。

 

 

 

 せっかくシンジに花嫁修業の成果を見せるチャンスが訪れたのに、このままでは美味しい手料理を食べさせてあげられない。

 

「どうしよう、ミサト……」

 

 シンジの来日の日が迫るにつれて、アタシは不安な気持ちが膨れ上がってきた。

 

 

 

「花嫁修業の成果の伝え方は、料理だけとは限らないわよ」

 

 ミサトはアタシに着物と文金高島田の髪型で、シンジと再会することを提案した。

 試しに着付けをやって見る。

 

 

 

「まるでお姫様みたい」

「うむ、見事な大和撫子だ」

 

 レイと碇所長も、これならシンジも感動すると絶賛してくれた。

 自信が持てれば、きっと料理も上手くいくはず。

 久し振りに日本に帰ってくるシンジのために、メニューは和食に決めた。

 

 

 

「どうですか、碇所長?」

「合格だ。よし、最高級のシジミを用意しよう」

「ありがとうございます!」

 

 おみそ汁にお墨付きをもらったアタシは、準備万端でシンジを出迎えることができた。

 

 

 

 

 

 

「久しぶり、すっかり綺麗になって、ビックリしたよ」

「アンタこそ、アタシの背を追い越すほどになるなんて、驚いたわ」

 

 空港でアタシはシンジと再会した。

 今まで写真でしか分からなかったお互いの姿を間近で見て、感動を覚えた。

 

 

 

 アタシとシンジが話していると、周りが騒がしくなった。

 ウワサのピアニスト、大井サツキがこちらに向かってやってきたのだ。

 

「碇シンジ君……ね?」

「はい」

「デュオリサイタルの件、引き受けてくれてありがとう。よろしくお願いするわ」

「こちらこそ」

 

 シンジとその女が握手をすると、カメラのフラッシュが一斉に光った。

 ロシア人とのハーフだから、アタシより背が高かった。

 

 

 

 その女の見下すような視線が少し気に食わなかった。

 シンジのそばにいたアタシを上から下まで値踏みするように見ていた。

 

「その子は、あなたのガールフレンド? そんなかっこうをしてこれから結婚式にでも出るつもりかしら」

「はい、彼女が良ければ」

 

 

 

 きっぱりとシンジがそう言い放つと、その女はあっけにとられたようだ。

 驚いたのはアタシも同じだ。

 てっきり、お茶を濁すと思ったんだけど、いつの間にかシンジはたくましい男に成長していた。

 

 

 

「でも……シンジ君のパートナーは、音楽が分かる人間が相応しいと思うの」

 

 その女が腕を組みながらそう言うと、取り巻きの記者たちも同意するようにうなずいた。

 コイツら、この女のシンパなの?

 

 

 

「別に、そんな事はないと思いますけど……」

 

 シンジは怒りをこらえているようだった。

 ここで険悪な雰囲気になったら、デュオリサイタルがぶち壊しになってしまう。

 だから、アタシが言ってやった。

 

 

 

「アンタ、このアタシがシンジの相手に相応しくなっていうの!? いいわ、そこまで言うのなら、ピアノでアンタを倒して、ぐうの音も出ないようにしてやる!」

「面白いわね。お嬢ちゃん、お名前は?」

「碇・アスカ・ラングレーよ、覚えておきなさい!」

 

 売られたケンカを買ってしまったアタシは、デュオリサイタルの日に、このピアニストの女と対決をすることになった。

 

 

 

「アスカ……リサイタルの日まで一週間も無いんだよ」

 

 週刊誌は、大井サツキとアタシの対決の記事をこぞって書き立てた。

 アタシはあの女に乗せられて、売名行為に手を貸してしまった。

 

 

 

「今から謝りにいこうかしら……」

「僕はアスカとデュオできるなんて思っても見なかったから、楽しみだよ」

「でも、アタシが負けたら……」

「そんなことでアスカと別れたりしないよ。君があの時背中を押してくれたお陰で、僕はチェリストになれたんだ」

 

 シンジはそう言って優しくアタシの手を握ってくれた。

 

 

 

 下手でも良いって彼は言ってくれたけど、アタシは一大決心をして奮起する。

 

「これからピアノの特訓よ! シンジ、アンタも付き合いなさい」

「別に勝つ必要なんてないと思うけど……演奏を楽しめば良いじゃないか」

「何を生温い! アタシが負けず嫌いなのは知っているでしょ!?」

 

 

 

 そう言ってアタシはグイグイとシンジの腕を引っ張った。

 

「そんなに急いで、どこに行こうとしてるんだよ?」

「まず市役所で婚姻届けを提出してからよ! ……ミサト? 大至急、レイを連れて市役所に来なさい! 以上!」

 

 シンジとは絡ませている腕とは反対の手で、ミサトに電話をかける。

 日本の婚姻届には証人が二人必要だってことは調査済みよ。

 

 

 

「市役所に行った後は結婚式をするからね!」

「ええっ!?」

「披露宴は別日にするから心配ないわ。アタシ達には時間が無いのよ、さっさと歩く!」

「走ってるじゃないか!」

 

 シンジの抗議は右から左へと受け流す。

 アタシ達は全力疾走でタクシー乗り場へと向かうのだった。




『碇レイの憂鬱』に続く……かもしれません。

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リメイクで設定や説明文を削りましたが、どうでしょうか?

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