碇ゲンドウの憂鬱、碇シンジの奮起 ~碇親子の和解旧劇版~   作:朝陽晴空

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第二話 葛城ミサトの憂鬱(2022/08/28 17:08改稿)

 私の提案で急に行われることになったシンジ君の歓迎会。

 思い付きで言ってしまったけど、やって良かったと思っている。

 最近、レイによるエヴァの起動実験の結果が芳しくなかったので、ネルフの皆も士気が低下気味だったのだ。

 

 

 

 シンジ君は思いつく限りの食べ物の名前を列挙したので、立食形式のバイキングとなった。

 

「あなたのために、お父さんが用意をしてくれたのよ」

 

 目を輝かせて並べられた料理を見ていたシンジ君に私が声を掛けても、反応は無い。

 きっと伯父さんの家では家庭料理すら目にしたことがないのだろう。

 硬直したシンジ君の口の端から、よだれが垂れている。

 

 

 

「父さん、本当に食べて良いの?」

「ああ、問題ない」

「ひゃほーい!」

 

 本当に嬉しい時は人って歓声を上げるものなのね。

 シンジ君は一番大きなトレーを持って料理の山へと突進し、鷲掴み!

 

 

 

「ちょっと待ちなさい! 料理を取る時は、トングを使うのよ!」

 

 まさかシンジ君に最初に教えるのがバイキングの作法だとは思わなかった。

 私は料理に食らい付いて喜ぶシンジの姿を見て嬉しく思った反面、悲しい気持ちになった。

 

 

 

 まるで子供の頃セカンドインパクトを体験した自分達のようではないか。

 あの時は日本中、いや世界中で食べ物が不足していた。

 今はあれから年月が経ち、飽食の時代に戻っている。

 

 

 

 伯父さんの家でのシンジ君の食生活を思うと、私はシンジ君がかわいそうになった。

 料理を皿に盛っては食べる、を繰り返していたシンジ君だったけど、私は彼がレイに声を掛けているのを目撃した。

 

 

 

 レイは透き通るような白い肌で、風が吹いたら飛ばされてしまいそうな印象を受ける、か弱い線の細い少女だった。

 まあシンジ君も痩せっぽちであることには違いないんだけど。

 シンジ君はレイの容姿より、持っていた皿の方が気になったみたいだ。

 

 

 

 ローストビーフ山盛りのバイキングであるのに、レイの皿にはサラダの中から、さらに野菜だけを抽出したようなものしか乗っていなかったのだ。

 

「君、それしか食べないの?」

「そう」

 

 レイはシンジに淡々と答えた。

 

 

 

「こんなにたくさん料理があるのにもったいないよ。ほら、この松坂牛のローストビーフなんか美味しいよ」

「肉、嫌いだから」

 

 レイが強く拒否すると、シンジは穏やかな態度を豹変させて、意地になってローストビーフを勧める。

 

 

 

「世の中には美味しい物を食べたくても食べれない人がいるんだよ。ダイエットなのかもしれないけど、こんな美味しいお肉を食べないのはもったいないよ」

 

 シンジにローストビーフの刺さったフォークを突き出されたレイは、恐る恐る口の中へローストビーフを入れた。

 しかし、すぐに咳き込んで倒れてしまった。

 

 

 

「レイ!」

 

 私は慌てて駆け寄って助け起こした。

 状況が掴めてないシンジ君は何か大変なことをしてしまったのかと、驚いている。

 

「あのミサトさん、いったい何が?」

「説明は後! この子を医務室に運ぶのを手伝って」

「はい」

 

 

 

 私はシンジ君と一緒にレイの身体を持ち上げて医務室へと運んだ。

 リツコに診察を任せると、ドアの前でふーっと息を吐き出した。

 

「驚かせてごめんなさい。レイは野菜以外を食べると、アレルギーを起こしてしまうのよ」

「えっと、あの子はもしかして……?」

 

 

 

「そう、あの子がファーストチルドレンの綾波レイ」

「じゃあ、僕がエヴァに乗らなかったら、あの子が乗って使徒と戦うんですか?」

「そう、シンジ君を脅すようで悪いんだけどね」

 

 ずっと抱えていた後ろめたさを吐き出すと、シンジ君は私に向かって微笑んでいた。

 どうやら私に対する不満などはないようだった。

 

 

 

「いえ、良いんです。僕は望んでここに居るんですから」

「今さらだけど、エヴァに乗るのを拒否することもできるのよ」

 

 悲しい気な顔でシンジ君は首を横に振った。

 そして遠い目をして切々と話し始めた。

 

 

「僕はあのプレハブ小屋で生きているのか、いないのか、よくわからない生活を送っていました。学校でも楽しいことなんて全然ありませんでしたし」

「もしかして、自暴自棄になってエヴァに乗ろうとしているの? そんな心構えの人間をエヴァに乗せるわけにはいかないわ」

 

 

 

 もしシンジ君に自殺願望のようなものがあるのなら、私は止めなければならない。

 でもそんな心配をよそに、シンジ君は声を上げて笑い出した。

 

「僕は愉快で仕方ないんです」

「何を言ってるの?」

 

 私が尋ねると、シンジ君は目に涙を浮かべて笑い続けた。

 

 

 

「だって、僕を捨てた父さんが、今度は僕を必要としているんですよ? 何度も迎えに来てって頼んだのに、無視し続けた父が僕の前に現れたんですよ。面白い話じゃないですか」

 

 歪んだ愛情の求め方だと私は思った。

 

 

 

 でも私にも彼の気持ちが理解できる。

 私の父も母親や自分を放って研究に熱中する様な人だった。

 だから南極の基地に居る父に呼ばれた時は嬉しかった。

 

 

 どうして父は私を必要としたのか。

 今となっても解らないが、私も父さんに呼ばれた時は嬉しかった。

 

「シンジ君、ずっと寂しかったのね……」

 

 

 

 思わず私はシンジ君を抱きしめていた。

 本当は碇司令にこうして欲しかったのだろう。

 

「別に……そんなことは……ないです」

 

 

 

「葛城一尉、どいてください」

「うわっ!」

 

 医務室から出てきたレイに声を掛けられると、私達はあわてて体を離した。

 

 ミサトはバツが悪そうな顔をしながらレイに答える。

 

 

 

「ごめん綾波さん、僕が無理に肉を食べさせようとしたからこんな事になっちゃって」

「別にもう謝らなくていい」

 

 レイは頭を何回も下げて謝るシンジ君を止めた。

 ちょうどいい機会だと思い、私はレイにシンジ君を紹介した。

 

「レイ、サードチルドレンの碇シンジ君よ。仲良くしてあげてね」

 

 

 

「……命令ならばそうします」

 

 表情を変えずにレイはそう答えた。

 シンジ君もどう反応を示したらいいのか分からず、沈黙。

 

 

 

「変わった子ですね」

「そうね」

 

 私たちは顔を見合わせてため息をついた。

 レイはこのまま家に帰ると言う。

 少量の野菜しか食べられないレイにとっては、バイキングは退屈なものかもしれない。

 

 

 

 またバイキング会場に戻ろとした廊下で、私はシンジ君に尋ねた。

 

「これからの住居なんだけど、どうする? 申請すればお父さんと一緒に住むことができるのよ」

「そうしてください、未成年の子供の面倒を見るのは親の義務ですから」

 

 サラッとそう言ったシンジ君の態度に、笑いがこみ上げてきた。

 

 

 

「またまた、シンジ君ったら、本当に素直じゃないんだから。お父さんと暮らしたいって正直に言えばいいのよ」

 

 私はシンジ君をからかった後、シンジ君が同居を希望しているといち早く報告するため、司令室へと赴いた。

 

「……そうか。冬月、席を外せ。私は葛城一尉に話がある」

「えっ!?」

 

 碇司令に言われて副司令が部屋を出て行くのを見て、私は何か咎められる事をしたのか、恐怖におののいた。

 

 

 

「葛城一尉、君は早くもシンジの信頼を得たようだな。そこで君にシンジの保護者役を命じる」

「私がですか!? しかし、シンジ君は司令と同居する事を希望しておりますが」

 

 

 

「私は司令の仕事が忙しくてほとんど家に居られない、葛城君が同居してくれると助かるのだが」

「承知いたしました、お任せください!」

 

 私は自信満々に返事をしながら、自宅の散らかり具合を思い浮かべた。

 

 

 

 シンジ君も最初は戸惑うけど、そのうち慣れるでしょう、と私は気楽に構えていた。

 しかし次の碇司令の言葉によって地獄へと叩き落とされてしまった。

 

「うむ、それでは私の家にシンジと葛城君の部屋を用意するように手配して置く」

 

 

 

「へっ!? ええーっ!?」

 

 碇司令の意図を理解すると私は司令室に響き渡る大きな悲鳴を上げてしまった。

 まさか私が碇司令と同居!?

 さらば、私の自由気ままな独身貴族生活。

 

 

 

 その日から、針のむしろに座っているような生活になった私は、憂鬱な毎日を送るのだった。




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