碇ゲンドウの憂鬱、碇シンジの奮起 ~碇親子の和解旧劇版~   作:朝陽晴空

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第三話 綾波レイの憂鬱(2022/08/28 13:35改稿)

 新しいエヴァのパイロットとして、葛城一尉から碇君を紹介された時、私は嫌な気分になった。

 だって彼は私の居場所を奪おうとしているから。

 

 

 

 私はエヴァに乗って、使徒と戦うために生み出された存在。

 碇司令が優しくしてくれるのも、きっと私がエヴァのパイロットだから。

 

 

 

 彼が正式なパイロットになったら、きっと私は碇司令から必要とされなくなってしまう。

 でも葛城一尉は彼と仲良くしろと命令した。

 

 

 命令なら、従わなければいけない。

 拒否すれば、きっと碇司令に嫌われてしまうから。

 

 

 

 でも仲良くするとはどういう事なのだろう。

 誰かと仲良くした経験などないから良くわからない。

 

 

 

 葛城一尉に質問したら、一緒に楽しく過ごすことだと教えられた。

 命令通り、二人で学校に登校する。

 学校に通い始めた頃、碇君はずっと私の側に居てくれた。

 

 

だけど、しばらくすると彼は同じクラスの鈴原君と相田君と登校するようになった。

 鈴原君は碇君に暴力を振るったと、葛城一尉から聞いた。

 でも、私と居る時より彼らと居る時の方が、碇君は楽しそうだった。

 ……どうして? 男の友情って何? 私にはわからない。

 

 

 

 これでは命令を遂行できない。

 何とかしなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 そしてついにネルフに使徒が襲来した。

 第三使徒サキエル。

 15年ぶりの使者。 

 

 

 

 下されたのは待機命令。

 予備パイロットして、ケージで待機する零号機の中から、初号機と使徒との戦いを見ていた。

 そう、私は予備。

 碇君に何かがあった時の代わり。

 

 

 

 このまま初号機が使徒を倒せば、私の零号機の出撃は無い。

 碇君の乗る初号機は圧倒的な強さで使徒を撃退してしまう。

 碇司令はこれならドイツ支部の弐号機にも負けないって満足してした。

 

 

 

 さらに彼は次の使徒も倒してしまった。

 このままでは私の存在価値が無くなってしまう。

 祈るような気持ちで零号機の起動実験に臨んだ。

 

 

 

 やっと私も、A.T.フィールドを発生させられるぐらいに、エヴァとシンクロできるようになった。

 でも私にとって、碇君が脅威であるのに変わりはなかった。

 

 

 

 

 

 だけど次の使徒との戦は様子が違った。

 三角錐を上下に貼り合わせた形ををした使徒。

 彼の強力な陽電子ビームによって、初号機で出撃した碇君は、大きなダメージを受けてしまった。

 

 

 

 応急処置を受けた碇君は、集中治療室に運び込まれた。

 彼の命に別条は無かった。

 

 

 

 大きな損傷を受けた初号機は、赤木博士達が多い急ぎで修理している。

 葛城一尉の立てたヤシマ作戦では、零号機だけでなく、初号機も必要になるから。

 私は病室に居る碇君へ食事を運んで、作戦のスケジュールを伝えるように命令を受けた。

 

 

 

「僕はあんな怖い思いをしてまで、エヴァには乗りたくないよ……」

 

 碇君が吐いた弱音を聞いて、私は体中の毛が逆立つような強い怒りを覚えた。

 予備パイロットの私と違って、彼は正規パイロットなのに。

 赤木博士や碇司令だって、彼に期待している。

 

 

 

「嫌なら逃げて帰れば?」

 

 感情的になった私の口から、そんな言葉が突いて出た。

 私はそれ以上、彼の顔を見ていられなくて、病室を飛び出した。

 そして、葛城一尉や碇司令に、初号機に乗せて欲しいと、直談判した。

 

 

 

 でも葛城一尉は、零号機と初号機を同時に出撃させる、ヤシマ作戦を決行すると答えた。

 葛城一尉も碇司令も、碇君がまた初号機に乗ってくれる、と信じているみたい。

 作戦会議室で待機していると、時間通りに葛城一尉は、碇君と一緒に姿を現した。

 

 

 私と顔を合わせた碇君は気まずそうにしていた。

 彼は私に謝ろうとしているみたいだけど、彼の方に顔を向けなかった。

 

 

 ヤシマ作戦の内容は、使徒の索敵範囲外から陽電子砲で狙撃して、中心部にある使徒のコアを一撃必殺で破壊。

 射手を担当するのは初号機。

 零号機は万一に備えて、使徒の陽電子砲を防ぐ役目だった。

 

 

 

「この盾は敵の攻撃に17秒は耐えられるから、防御は頼んだわよ」

「はい」

 

 葛城一尉にためらう事無く私は返事をした。

 

 

 

 でも碇君は戸惑った様子で、葛城一尉に質問をした。

 

「一発で使徒を倒せなかった場合は、二発目を撃つには20秒かかると言ってましたよね!?」

「3秒間は、零号機のA.T.フィールドで頑張って耐えてもらうしかないわね」

 

 

 

「……そんな! それじゃあ綾波は大怪我……悪ければ死んじゃうかもしれないじゃないか! それで綾波はいいの?」

「別に問題ないわ、命令だもの」

 

 碇君は私の居場所を奪おうとしているの?

 エヴァに乗って戦うのは、私にとって当然のことよ。

 

 

 

 私は碇君にそう答えた。

 そして私達がブリーフィングルームでプラグスーツに着替えて待機している時、彼は私に質問を浴びせた。

 

「綾波はどうしてエヴァに乗るの?」

 

 

 

「私はエヴァでしか、碇司令や皆と繋がることができないから」

「僕も似たようなものかもしれない。伯父さんの家で暮らしていた頃、僕は生きる目的なんて無かったんだ」

 

 それから碇君は黙ってしまった。

 会話が続かない。

 でも無理して話そうとはしなかった。

 

 

 

 出撃の時間が来て、私はゆっくりと立ち上がる。

 

「私はいつ死んでも構わないと思っている、さよなら、碇君」

 

 

 

 どうして私は碇君に、さよならを告げてしまったのだろう。

 零号機に乗ってから、私はそう思い返した。

 

 

 

「時刻はゼロゼロマルマル、状況開始!」 

 

 葛城一尉の号令でヤシマ作戦が開始される。

 初号機の攻撃は、完全に使徒の不意を突いた。

 けれど高エネルギーの接近に気が付いた使徒も陽電子ビームを発射し、お互いのビームが干渉し合って軌道が捻じ曲げられた。

 

 

 

 一撃必殺を狙った攻撃は失敗に終わり、使徒は私達の存在に気が付いた。

 そして私達に向かって陽電子ビームを放った。

 十分な距離を取ったつもりだけど、使徒の射程は長かったのね。

 

 

 零号機で盾を構えて、初号機を護るように立ち塞がる。

 盾は零号機の全身を覆うほどの大きさだけど、それでも熱さが私にも伝わってくる。

 

 

 

「綾波!」

 

 碇君の叫び声がモニター通信から聞こえてきた。

 10秒もすれば持っている盾は溶けてしまう。

 それから先はA.T.フィールドを張っても何秒も持たないだろう。

 

 

 

 私は死を覚悟した。

 

「僕を独りにしないでよ!」

 

 碇君の言葉を聞いて、私に生きたいと言う気持ちが芽生えた気がした。

 彼が私のことを必要としてくれている。

 零号機のA.T.フィールドが少しだけ強まったのを感じた。

 後で思えば、それが私の命を救ったのかもしれない。

 

 

 

 

 

「綾波……綾波……!」

 

 エントリープラグの中で、気を失っていた私は、碇君に揺さぶり起こされた。

 

 

「碇君……?」

「よかった、怪我も無くて……!」

 

 

 私は突然、彼に抱きしめられた。

 それから5秒後、彼は赤い顔になって私から離れた。

 

 

 

「……ごめん! 嬉しくて、つい」

「碇君、この前も葛城一尉と抱き合ってた。嬉しいと抱き合うのね」

 

 

 

「……えっと、普通は自然と笑顔になるんだよ。今の綾波みたいにね」

 

 私……今、笑っているの?

 頬の辺りの筋肉が緩んでいるのか、私は手で触って確かめてしまった。

 

 

 

「歩ける? 肩を貸そうか」

 

 エントリープラグから出た私は足をよろけさせてしまった。

 碇君に肩を貸してもらって、私達はゆっくりと歩き始める。

 

「僕達、エヴァに乗る以外何も無いけど……これから見つけて行こうよ。生きていれば考える時間はあるよ」

 

 

 

 私達は自然に空に浮かぶ月を眺めていた。

 

「月が……綺麗ね」

 

 思わず私はそうつぶやいた。

 碇君は私に光を与えてくれた人。

 そのつぶやきを聞いた彼は、「綾波、その言葉の意味、国語に授業で習わなかった?」と言った。

 

 

 

 碇君に誰かと話すことが苦手なら、本を読んだり、絵を描いてみたりする事を勧められた。

 彼も伯父さんの家で孤独な時間を過ごす時、寂しさを紛らわすためにそうしていたと話した。

 

 

 

 世界にはエヴァ以外にも興味が持てる面白い事が広がっている。

 そう解かっただけでも、私は闇夜に浮かぶ月のように静かに輝いて生きていけると思った。

 

 

 学校に登校して、私は碇君と朝の挨拶を交わす。

 休み時間は自分の席に座って本を読む。

 それだけだったけど、私は楽しい生活を送れていたつもりだった。

 

 

 

 私と碇君の間に割って入ってきた、騒がしいあの子が現れるまでは。

 日本にやって来て、碇君と同じ家で暮らすようになったセカンドチルドレン。

 彼女は私と碇君が話すだけでも文句を言って来る。

 

 

 私たちは『付き合っている』わけじゃない。

 けれど、碇君と彼女の事を考えると胸がモヤモヤしてしまう。

 この気持ちは何だろう?

 私の憂鬱な日々がまた始まった……。




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