碇ゲンドウの憂鬱、碇シンジの奮起 ~碇親子の和解旧劇版~ 作:朝陽晴空
日本行きが決定したと聞いた時、アタシは狂喜した。
これでやっと使徒と戦える!
本当は最初に襲来した使徒も、アタシの弐号機が日本に行って倒すはずだった。
ファーストチルドレンは、シンクロ率が低くて戦力にならないと聞いていたからだ。
それが突然現れたサードチルドレンによって使徒が3体も倒されるなんて!
でもこの前の使徒を倒すのにかなり苦戦したみたい。
恐れをなした本部は、戦力の増強として弐号機を呼ばなくてはいけなくなったわけね。
待ってなさいよ、エースパイロットはアタシだって知らしめてやるんだから!
ドイツから出港した弐号機を乗せた船は、国連の艦隊に守られて日本に向けて出発した。
加持さんもアタシと一緒に日本に来てくれると聞いて、嬉しかった。
アタシは小さな頃からエヴァのパイロットだったから、ネルフの外にはほとんど出られない。
機密情報が外に出てしまうのを防ぐためだ。
もちろんツイ〇ターなどのSNSも使用禁止。
そんな状況だったからアタシに同世代の友達ができるはずもない。
ネルフの中で、アタシに優しくしてくれた人は加持さんだけだった。
作戦部長だったミサトは、彼とイチャイチャしていて気に食わなかった。
「ねえ加持さん、日本に着いたらアタシは学校に通えるのよね」
「ああ、きっと同い年の友達がたくさんできるぞ」
学校ではアタシがエヴァのパイロットだと、身分を明かしても問題が無いみたい。
アタシがエースだと知れれば、きっと憧れの的ね。
そのためにもサードチルドレンに負けるわけにはいかないわ!
「ええーっ、冴えないアンタがサードチルドレン?」
甲板の上でシンジと対面したアタシは驚きと失望を同時に感じた。
ドイツを出る前に、加持さんに顔写真を見せられた時も、なよなよした男だと思っていた。
実際に会って見るとチビでやせっぽちで、表情も自信の欠片も感じられない情けない印象を受けた。
こんな冴えないやつをライバル視していたアタシもどうかしていたわ。
きっと3体も使徒を倒したのもまぐれに決まっている。
それよりも油断ならないのは、加持さんの昔の恋人だったミサトね。
ミサトだけ日本に行って安心したけど、また加持さんと再会させるなんて。
焼け木杭には火が付き易いというから、油断はできないわ。
アタシは石像みたいにポカンと口を開けて立っているシンジを見てイライラが募ってきた。
加持さんとミサトの話に割り込もうかと考えていると、船体が大きく揺れた。
館内放送で流れた使徒襲来の知らせに胸が高鳴る。
ついにデビュー戦がやって来たのだ。
そうだ、シンジの目の前でアタシの華麗な操縦テクニックを見せてやるわ。
浮かれてるアイツの天狗の鼻をへし折ってやる。
相変わらずぼーっとしているシンジの腕を強引に引っ張って、弐号機の格納倉庫へと向かった。
そして予備のプラグスーツをアイツに投げ付けた。
「さあアンタもこれに着替えるのよ」
「えっ、でも……」
「着・替・え・な・さ・い!」
思いっきりにらみつけてやると、シンジはプラグスーツに着替え始めた。
そうそう、おとなしくいうことを聞けばいいのよ。
「って、アタシの前で着替えるな! 貧相なソイツをしまえ!」
プラグスーツに着替えるには下着も脱ぐ必要があるけど、アイツはデリカシー以前の問題だ。
シンジを追い払った後、見てしまったアイツのアレを思い出した。
もしかしてアタシに欲情した?
「気持ち悪い」
「ご、ごめん……えっと、惣流さんって、僕が今まで見た中で一番可愛い女の子だから、びっくりしちゃって」
一番可愛いだなんて、加持さんにもいわれたことがなかったから、アタシの顔はカアーッとなった。
「顔を赤くした惣流さんもとっても可愛いよ」
「こ、このバカっ! 会うなりナンパなんて、なに考えているのよ!」
照れ隠しにアタシはシンジをグーパンチで殴ってしまった。
突き飛ばされたシンジは壁に後頭部を打ちつけてのびてしまった。
もうこいつの事をサードチルドレンなんて呼ばない。
バカシンジ、それが新しい呼び名だった。
気絶したシンジをエントリープラグまで押し込むと、アタシも乗り込んで弐号機の起動を開始した。
コイツを先に座らせたから、アタシはコイツの膝の上に乗る形になった。
「あ、あれ……ここは……?」
シンジが覚醒すると、思考ノイズが発生し、弐号機はエラーを起こした。
「ほらっ、アンタのせいで起動に失敗したじゃないの、ドイツ語で考えなさい!」
「ゾ、ゾーリンゲン!」
「バカっ!」
あきれたアタシは日本語モードで起動をやり直した。
ドイツ語モードよりシンクロ率が下がるのよね、しかも異物を混入してるし。
でもシンクロ率はいつもと変わらなかった、いや、逆に今まで一番高かった。
実戦で最高記録を更新するなんてアタシって天才ね!
この時のアタシは、シンジがシートに座っていたのを忘れていた。
後に、この記録を超すシンクロ率を出せなくなったアタシは、悩むことになる。
出現した使徒は魚のような形をしていた。
それなら話は簡単だ、大きな船の上で待ち受けて、顔を出したところを切り裂いてやる。
弐号機を操り、因幡の白兎のように、海に並んで浮かぶ艦隊の甲板を跳ねて、一番大きな戦艦の甲板へと飛び移ろうとした。
「見なさい、アタシの華麗なジャンプを!」
「う、うん……」
歯切れの悪いシンジの返事。
お尻に違和感を覚える。
何か固い物が当たっている。
自分がコイツの膝の上に座っている事に気が付くと、血の気が引いた。
「このスケベシンジ、何を膨張させているの!」
「そ、惣流さんのお尻があまりにセクシーだから……」
焦ったアタシは、操縦を誤って弐号機は海の中に落ちてしまった。
これでは使徒を華麗に切り裂いて倒すことなんて、できない。
「アンタのせいでデビュー戦がメチャクチャよ!」
「そ、そんなこと言われても……」
「シンジ君も弐号機に乗っているの!?」
二人で言い争いをしていると、モニター通信からミサトの声が聞こえて来た。
ミサトは二人が協力して使徒の口をこじ開け、無人の戦艦を突撃させて、使徒のコアに自爆攻撃を仕掛ける作戦を立てた。
実力を見せつける形で使徒を倒したかったけど、負けてしまうよりはマシだ。
ミサトの作戦に従って、アタシたちは使徒を倒すことに成功したのだった。
「シンジ君が弐号機に乗ってくれて助かったわ。おかげで使徒を倒すことが出来たし」
「何を言ってるのよ、ミサト! シンジはアタシの足を引っ張ったのよ!」
「はいはい、解ったわよアスカ」
ちっとも解ってない!
次の使徒はアタシが華麗に倒してやるんだからね!
でも次の使徒との戦いは散々な結果となった。
単独出撃で倒してやると大見得(おおみえ)を切ったアタシだけど、二体に分裂した使徒を倒すことが出来ず、弐号機は投げ飛ばされてしまった。
頭から地面へと突っ込み、醜態を去らす弐号機。
副司令にお説教をされるはめになってしまった。
戦略自衛隊がN2爆弾を投下して、何とか使徒の足止めに成功したけど、副司令に富士五湖が富士六湖になったと皮肉を言われてしまった。
ミサトは二体に分裂した使徒を倒すためには、初号機と弐号機のユニゾン攻撃しかないと作戦を立てた。
そして、なんとミサトは生活リズムを合わせるためにシンジと同居するべきだと宣言した!
「ちょっと、何を言い出すのよ! チャラくてスケベなバカシンジと同じ家で暮らすなんて真っ平よ!」
「随分とシンジ君も嫌われたものね。でもいいの? 拒否したらレイが弐号機に乗ることになるけど」
アタシ以外の人間を弐号機に乗せるなんて、そんなの耐えられない!
弐号機を人質に取られた形になったアタシはシンジとの同居を受け入れた。
アイツ、発情して襲って来やしないでしょうね。
「心配ないわ。防犯カメラに死角は無いし、私や碇司令も夜は家に居るんだから」
何ですって!?
ミサトは『司令も』って言わなかった?
改めて確認すると、アタシは碇司令の家にミサトとシンジと居候することになったらしい。
「お陰であたしのビール腹も改善されたわ……フフフ」
ダークな笑みを浮かべるミサト。
こ、これは悪夢よ!
早く使徒を倒して自由な生活を取り戻すしかないわ!
その日からアタシにとって憂鬱な生活が始まった。
まず生活用品を買うためにシンジに道案内をさせて商店街に買い物に行ったんだけど、そこで学校のクラスメイトに見つかってしまったのよ!
シンジのやつはバカ正直にアタシと同じ家で暮らすためだと話してしまった。
さらに追い打ちをかけるように、碇司令の家だから問題が無いなんて言うもんだから、早くも『親公認のカップル』とレッテルを貼られてしまった。
明日からどの面下げて学校に通えばいいのよ!
家に帰ると、シンジは夕飯の調理を始めた。
どうして保護者役のミサトが作らないのかと尋ねると、シンジはミサトは帰りが遅いし、世話になっているからだと話した。
ふん、ミサトに尻尾を振っているワンコ君め、アタシは飼い慣らされたりしないわよ!
夕食前にシンジにお風呂に入ることに勧められたけど、冗談じゃないわ!
「でも、湯船に入った方がスッキリするよ?」
「別に良いわよ、ドイツではシャワーを浴びるだけだったし」
湿度の低いドイツでは、湯船に入るなんて習慣はなかった。
ネルフでも人の集まる大浴場なんかに興味は無かった。
アタシはテル〇エ・ロ〇エじゃないのよ、ママ。
「僕も伯父さんの家に居た頃は濡らした布で身体を拭くだけだったけど、父さんがお金をかけたジャグジーバスなんだよ」
シンジは目を輝かせて湯船の素晴らしさを訴えかけていた。
まさか変な事を考えているんじゃないでしょうね。
アタシは自分が入った後、シンジや司令が入ると考えて気持ち悪いと思ったけど、湯船に浸かってみた。
あ、意外と心地よい。
ミサトの話だと日本は湿気が多いから、湯船に入る方がアカも落ちて気分もスッキリするんだとか。
ドイツでもミサトはネルフの大浴場に行くってよく話していたっけ。
お風呂からあがったアタシはシンジをからかう事にした。
着ている服をバスタオルに完全に隠してシンジの居るダイニングキッチンに向かう。
「シ~ンジ」
「えっ、ちょっと惣流さん、服を着てよ!」
「そんなこと言っちゃって、アタシの裸に興味あるんでしょう」
振り返って耳まで赤くなったシンジの前で体に巻いたバスタオルを取った。
アイツの反応を見て大笑いするつもりだったけど、タイミングが悪すぎた。
「行儀が悪いぞ」
何とダイニングテーブルには碇司令が着席してたのだ。
ミサトとはと言うと、額に汗してキッチンで料理を作っている。
「君は料理はしないのか?」
「えっと、今までエヴァの操縦に専念していたしてございまして……」
うう、泣く子も黙るネルフ総司令の前で、敬語の使い方までおかしくなってしまった。
「それはいかん。女性は男性の胃袋を掴む料理を作れるようにならなければならんぞ」
「はーい」
碇司令にエプロンを渡されたアタシは、初めてキッチンへと近づいた。
キッチンに立つミサトの背中からはオーラが漂っていた。
「ミサト、アタシは何をすればいいの?」
「惣流・アスカ・ラングレー、あなたは何もしないで」
ミサトの話によれば、碇司令はかなり料理の味にうるさいらしい。
「こんな味噌汁が飲めるか!」と、テーブルをひっくり返されて怒られた話を聞いて血の気が引いた。
ドイツでミサトが料理する姿なんて一度も見たことがなかった。
「しばらくの間、アスカは見学よ。味が変わったと碇司令に叱られても困るものね」
真剣な表情で料理に取り組む横顔を見て、もしかしてミサトは楽しみ始めているのではないかと思った。
あのミサトがここまで変わるとはね。
もう二度と、インスタントラーメンには手を出さないだろう。
夕食は慣れない和食で、さらにお箸を使って食べさせられる事になった。
刺し箸、なみだ箸、探り箸、迷い箸、寄せ箸、ねぶり箸。
あらゆる箸の作法についてアタシは碇司令に注意を受けた。
「碇家の嫁となるのだ、礼儀作法はしっかりとせねばならん」
「!?」
碇司令の言葉に、アタシたち三人は息を飲んだ。
「嫁に貰うなら、アスカみたいな娘が良いと言っていたな、シンジ」
「!?」
さらっと碇司令に暴露されると、シンジは石像のように固まった。
ミサトが大喜びでからかいそうな話だけど、碇司令の前ではさすがにできないか。
アタシも真っ向から否定できる雰囲気ではなかった。
夕食の後も当然司令が家にいるもんだから、ラフな格好でリビングに寝っころがるなんて事は出来ない。
部屋に戻って、やっと一人になれたアタシは大きなため息を吐き出した。
こんな窮屈な生活は長く耐えられそうにない。
それにしてもバカシンジのヤツ、アタシをアスカと呼び捨てにした上に、結婚したいだなんて……。
碇司令に話してしまうから、いい迷惑よ。
早く使徒を倒して束縛から解放されたいとアタシは願っていた。
でも、後にアタシ達を待ち受ける重い憂鬱に比べたら、こんなのは大した事じゃなかった。
使徒との戦いは過酷さを増していき、ついにあの事件が起こったのよ……。
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