碇ゲンドウの憂鬱、碇シンジの奮起 ~碇親子の和解旧劇版~   作:朝陽晴空

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第六話 碇シンジの奮起(2022/08/31 09:58改稿)

 僕は碇シンジ。

 エヴァンゲリオン初号機のパイロットだった。

 でも僕は自分の意志でパイロットを辞めた。

 

 

 

 それは僕達が参号機を痛めつけたせいで、乗っていた同い年のパイロットに重傷を負わせてしまったからだ。

 しかもそのパイロットがクラスメイトだったなんて、ショックだった。

 

「シンジ君、話を聞いて。司令の指示が無かったら、あなた達はやられていたかもしれないのよ!」

 

 

 

「ウソだ! ミサトさんならパイロット救出を優先した作戦を立てたはずだよ。父さんは僕たちを信じて無かったから最初から諦めたんだ、そうだろ、父さん?」

 

 マヤさんの話は僕の神経を逆なでするものだった。

 

 

 

 そして父さんは僕の質問に何も答えなかった。

 

「僕は父さんの下ではもう戦えない、エヴァを降ります!」

 

 僕がそう宣言をすると、発令所が騒がしくなった。

 

「お願いシンジ君、お父さんの気持ちを分かって!」

 

 マヤさんが声を震わせて必死に訴えかけてくるけど、僕の怒りは収まらない。

 

 

 

「綾波もアスカも、納得できないだろう!?」

「命令だから仕方無いわ」

「アタシは、エヴァを降りるわけにはいかないのよ」

 

 僕が同意を求めると、綾波とアスカは辛そうに答えた。

 うつむいて僕と目を合わせようとはしなかった。

 

 

 

 二人ともエヴァから降りれない事情があるのは分かる。

 でも僕は父さんを許せなかったんだ。

 ミサトさんが怪我をして入院している今、体を張って第三新東京市を立ち去ろうとする僕を引き止めようとする人は誰も居なかった。

 

 

 

 父さんもあっさりと僕のサードチルドレン抹消を認めた。

 そして僕は京都の伯父さん達の家へと戻った。

 伯父さん達は表向きは、僕の事を歓迎した。

 

 

 

 「もう恐い思いをする必要は無い」とか、「これからずっとここに居てもいいのよ」とか思いやりのある言葉を掛けてくれるけど、心はこもって無かった。

 

 

 

 どうせ父さんから振り込まれる僕の養育費が目当てなんだろう。

 伯父さん達は、また僕が出て行くと言ったら困るのだろうか、付け焼刃のご機嫌取りで母屋で暮らして良いと提案されたけど、僕は断って庭のプレハブ小屋に戻った。

 

 

 

 その方が気が楽だったからだ。

 一人になると第三新東京市での生活を思い返す事が多くなってしまった。

 残ったアスカや綾波はまだエヴァに乗っているのだろうか。

 

 

 

 ミサトさん、期待に応えられなくてごめんなさい……。

 短い間だけど学校でできた友達、トウジ、ケンスケ、委員長はどうしているんだろう。

 

 

 僕が無気力な生活に戻ってから2週間ほど過ぎた頃、僕の所へ加持さんが訪ねて来た。

 どうしたんだろう、僕はもうネルフと関係が無いはずなのに。

 

「君はいつまで逃げているつもりなんだ」

「別に逃げてなんかいませんよ」

 

 突然加持さんに言われて、僕は否定した。

 

 

 

「いや、君は全て父親が悪いと押し付けて、やるべき事から目を反らし続けているんだ」

 

 キッパリとそう言い切った加持さんに、僕は何も言葉を返せなかった。

 

 

 加持さんは僕にネルフで何が起こったのか話し始めた。

 僕が第三新東京市を去った翌日、宇宙空間に使徒が出現した。

 その使徒は前の使徒とは違い、落下して来る事は無かった。

 

 

 

 弐号機が長距離ライフルで狙撃したけど、使徒のATフィールドを破るだけのパワーには全然足りなかった。

 そうしている間に、使徒は弐号機に向かって虹色の光線のような攻撃を仕掛けた。

 使徒の光線は弐号機に傷を付けなかった。

 でも乗っていたアスカは精神的ダメージを受けた。

 

 

 

 その光線は人の心を壊してしまう恐ろしい攻撃だったんだ。

 綾波の乗る零号機が『ロンギヌスの槍』と呼ばれる武器を使って使徒を倒したんだけど、手遅れだった。

 

 

 アスカは魂の抜けた人形のようになって、病室のベッドで寝たきりの生活になってしまったらしい。

 あの明るかったアスカがそんな事になってしまうなんて、信じられなかった。

 

 

 十分にショックを受けたけど、加持さんの話はまだ終わらなかった。

 さらに次に襲来した使徒は、迎撃に出た零号機と融合しようとした。

 綾波は使徒に吸収されないため……零号機を自爆させた。

 

 

 

 緊急脱出装置で綾波は何とか助かったんだけど、命に関わる大怪我を負ってしまった。

 爆風が綾波の体に直撃して、怪我はひどいものらしく、綾波は集中治療室で死線をさまよっている。

 

 

 

 戦えるエヴァが無くなったネルフは、アメリカから四号機を呼び寄せた。

 そして新しいパイロットしてフォースチルドレン『鈴原トウジ』を登録したと聞いて、僕は目の前が真っ暗になった。

 

「どうしてトウジがパイロットになるんですか!?」

 

 

 

「俺が調べた所によると君のクラスの生徒達は皆パイロットの候補だったのさ」

 

 僕の質問に答えた加持さんは、今までマルドゥック機関と言う組織やネルフについて調べていたのだと話した。

 

 

 

「俺の言いたい事は解っているよな。これらの出来事は全て君がネルフから逃げ出した事によって引き起こされた」

「そんな、僕が居ても同じ結果になったかもしれないじゃないですか! 責任を押し付けないで下さいよ!」

 

 

 

 口答えをすると、僕は加持さんに思い切り頬を殴られた。

 

「君はエヴァに乗って使徒に戦う力を持っている。守りたいものを守らずに放棄して、こんな所で腐っているのが君の正義なのか?」

 

 そうだ、僕はアスカや綾波を守ると言う誓いを破ってしまった。

 

 

 全て父さんが悪いと言い訳して伯父さんの家に逃げ込んでいたんだ。

 僕がネルフに戻れば、トウジはパイロットにならなくて済むかもしれない。

 

「加持さん、僕はネルフに戻ります。そして、父さんにまたエヴァに乗せてもらえるように頼みます」

 

 

 

「よし、それでこそ葛城が期待したシンジ君だ」

 

 僕は加持さんの車に乗ってネルフへと戻った。

 ネルフの正面ゲートには、僕がやって来たと知って、父さんやミサトさん達が集まっていた。

 

「……なぜ帰って来た」

「僕はエヴァンゲリオン初号機パイロット、碇シンジだからです!」

 

 車から降りた僕は父さんに向かって大きな声でそう答えた。

 

 

 ネルフに戻って来た僕を、ミサトさんは笑顔で受け入れてくれた。

 でも父さんの家でまた暮らし始めるのは気まずい。

 

 

 

 そんな僕に、ミサトさんは「司令に口止めされていたんだけどね」と僕に何通もの手紙を手渡した。

 その手紙には「頑張れシンジ」、「期待しているぞシンジ」などの言葉が、父さんの字で書かれていたんだ。

 

 

 

「司令もね、シンジ君を褒めてあげようと考えていて、口では言うのは無理だから、手紙に書いてみようと思ったんだって。ふふっ、可愛い所があると思わない?」

「じゃあ、父さんは僕の事を認めてくれていたんですね」

 

 

 

「ええ、使徒に勝ったご褒美として高いレストランでおごったのだって、司令が私から御馳走してくれって頼まれたのよ」

 

 その後もミサトさんは、父さんが僕の事を大切に思っていたかを話してくれた。

 聞いている僕の方が恥ずかしい気分になって来たから、僕は途中でミサトさんの話を止めた。

 

 

 

 父さんに対する僕の憎しみは収まったけど、面と向かってお礼を言うのは照れ臭かった。

 だから僕も父さんに「ありがとう」と手紙を書いたんだ。

 ミサトさんは似た者親子ね、笑っていた。

 

 

 

 それから僕は、入院しているアスカと綾波の病室へお見舞いに行ったけど、二人とも話せる状態じゃなかった。

 二人がこんなになってしまったのは僕のせいだ。

 もちろん、その場に居ても助けられるとは限らないけど、何かしてあげられたかもしれない。

 

 

 

 これからは僕が、エヴァに乗って使徒を全て倒す。

 ベッドに横たわるアスカと、綾波の手を握って、そう誓ったんだ。

 初号機のパイロットに僕が復帰したから、トウジは四号機のパイロットにさせられずに済んだんだ。

 

 

 

 元々トウジと、四号機のシンクロ率はとても低くて、戦力にならないと判断されたみたいだ。

 その代わり、弐号機のパイロットして、ドイツ支部から渚カヲル君がやって来た。

 カヲル君は弐号機とアスカより高い数値でシンクロ出来たから、戦力として期待された。

 

 

 

 同じエヴァのパイロットの仲間として、僕も頼もしく思った。

 カヲル君とは打ち解ける事が出来て、学校でもトウジとケンスケと自然に遊んだりしていた。

 

 

 

 アスカが病気だったから、洞木さんの表情が暗かったのは気がかりだったけど。

 参号機のパイロットになってしまったクラスメイトの友達も同じだった。

 回復するのはいつになるのか、と僕に深刻な顔をして聞いてくる。

 答えてあげられないのが辛かった。

 

 

 

「そうだ、バンドを組まないか?」

 

 カヲル君がピアノを演奏できると知ると、ケンスケはそんな提案をした。

 ピアノを弾けるカヲル君がキーボード、トウジがドラム、ケンスケがギターで僕がベース。

 ボーカルは委員長の総勢五人のバンドになった。

 

 

 バンドをやりたいって父さんに相談したら、すぐに練習場所を用意してくれた。

 「勝手に使え」とそっけない態度だったけどね。

 僕も「ありがとう」と素直に父さんにお礼を言えた。

 アスカや綾波が回復して退院したら、演奏をして驚かせてあげようと張り切った。

 

 

 でも、そんな楽しい日々は長くは続かなかった。

 弐号機と高い数値でシンクロするカヲル君を、父さんやリツコさんが怪しみだした。

 正体が使徒だとバレたカヲル君は、弐号機を操って暴挙に出た。

 

 

 

 ネルフのセントラルドグマと呼ばれる場所に向かって、世界を消し去ろうとしたんだ。

 カヲル君を殺すなんて、したくは無かった。

 でも、僕はもう逃げられない、いや、もう逃げない。

 

 

 

 覚悟を決め、僕は初号機でカヲル君を追いかけ、彼を使徒として殲滅した。

 

「よくやったな、サードチルドレン……いや……シンジ」

 

 初めて父さんが、僕に直接優しい言葉を掛けてくれたけど、気分は晴れなかった。

 

 

 

 だって、友達をこの手で殺してしまったのだから。

 その日の夕食も、終始暗い雰囲気だった。

 いつも場を和ませようとしてくれるミサトさんも、何だか落ち着きが無かった。

 

 

 

 夕食を終えた僕は部屋に戻ろうとしたけど、ミサトさんに引き留められた。

 そのミサトさんの表情は、僕が今まで見たことがないほど青い顔をしていた。

 僕と父さんも、顔を引き締めてミサトさんの前に座り直した。

 

 

 

 ミサトさんは、加持さんから別れの言葉と一緒に、USBメモリーを渡された。

 その中には加持さんが調べた『ゼーレ』と呼ばれるネルフを影で操る組織の情報が入っていた。

 

 

 

 ゼーレは『人類補完計画』を実行するために、大災害『セカンドインパクト』を引き起こした。

 使徒がネルフだけを狙って攻めて来るのも、エヴァで使徒を倒させるのも、全てゼーレの計画だった。

 父さんがゼーレに協力していたと聞いて、僕はまた裏切られた気持ちになった。

 

「父さん、やっぱり僕は利用されていたんだね」

 

 

 

 僕は父さんに強い憎しみを込めた視線を向けた。

 目を合わせたまま、父さんは何も答えない。

 殴りかかろうとした僕をミサトさんが止めた。

 

「待って! 司令は騙されてゼーレの計画に協力させられていたの」

「騙されて?」

 

 

 

「シンジ君のお母さんを、エヴァから救い出すため。そう言われたんですよね、碇司令?」

 

 父さんはミサトさんの言葉を否定しなかった。

 彼女は加持さんが突き止めた、エヴァの秘密を僕に説明した。

 

 

 

 ゼーレは南極で発見した使徒のコピーであるエヴァを造り出した。

 でも完成させるには、エヴァのコアに人間を使う必要があった。

 母さんは実験により、初号機のコアにさせられてしまった。

 

 

 

 母さんは自分の意思でコアになった。

 でも母さんから父さんに差し出された手紙は、ゼーレの人間によって握りつぶされてしまった。

 ゼーレは不幸な事故が起きてしまったと、父さんの気持ちを人類補完計画に協力させるため利用した。

 

「じゃあ父さんは、母さんを助けるために……?」

 

 

 父さんはずっと押し黙っていた。

 

「碇司令、これが加持君がゼーレから奪った奥様からの手紙の内容データです、プリントアウトしました」

 

 ミサトさんが父さんに紙を渡した。

 紙を受け取った父さんは書かれている内容に目を通してから顔を上げる。

 

 

 

「それで……加持君は……どうした?」

 

 父さんが尋ねると、ミサトさんは目から涙をあふれさせて答える。

 

「加持君は私にこのUSBメモリを託した後、連絡が取れなくなりました。ゼーレに殺されたのだと思います……」

「そうか……」

 

 

 

 彼女はすすり泣きをしながらも、しっかりと自分の気持ちを父さんに伝えようとしていた。

 

 

「加持君は、自分達の人生を狂わせてしまった、セカンドインパクトの謎を解き明かそうと必死でした。そして人類補完計画を阻止しようとしていました。司令、奥様のお気持ちがわかった今、これ以上計画に協力なさらないでください。それが私と加持君の願いです」

 

 

 

 そこまで話したミサトさんは大きな泣き声を上げて、自分の部屋へ走り去った。

 彼女を一人にしておけないと、後を追いかけようとした僕は父さんに止められた。

 

「待てシンジ、彼女の事は私に任せて欲しい……」

 

 決意を秘めた顔で父さんはそう言うと、ミサトさんの部屋へ入って行った。

 僕は部屋の前で待つことしかできなかった。

 子供の僕じゃミサトさんを慰めるのは難しいかもしれない。

 でも、父さんなら……。

 

 

 

 父さんが人類補完計画に協力しなくなったら、これからネルフはどうなるんだろう。

 僕には分からない。

 ただ、ゼーレの思い通りにはさせたくない、そんな決意を固めた。




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