碇ゲンドウの憂鬱、碇シンジの奮起 ~碇親子の和解旧劇版~   作:朝陽晴空

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第七話 碇ゲンドウの奮起(2022/09/02 01:41改稿)

 家の居間で、葛城君にシンジと共に加持君の話を聞かされた時は驚いた。

 ゼーレが隠していた、ユイから私への手紙を読んで、大きな間違いに気づいた。

 

 

 

 彼女は起動実験で、命を落とす覚悟だった。

 使徒を真似て作ったエヴァンゲリオンは、不完全であると彼女は知っていた。

 エヴァの理論を組み立てたのは、彼女だからだ。

 

 

 

 彼女が死ぬつもりだと分かっていたら、あらゆる手段を使って止めただろう。

 私にとって彼女は全てだった。

 唯一無二の存在だった。

 彼女が居なければ、私は誰とも繋がることができない。

 息子であるシンジでさえも。

 

 

 

 ユイは人類補完計画が、ゼーレによって、都合の良いものに捻じ曲げられることを心配していた。 

 サードインパクトの後も、エヴァに乗っていれば、人は生き残れる。

 エヴァは選ばれた者が永遠に生き延びるための箱舟だったのだ。

 

 

 

 パイロットなって生き残れるのは未来を担うチルドレン達。

 すなわち、今となってはシンジと、惣流・アスカ・ラングレーの二人だ。

 残念ながら四号機は、サードインパクトが起こすL結界濃度に耐えられないだろう。

 

 

 

 ゼーレの思惑は違っていた。

 彼らはサードインパクトを愚かなる人類の浄化手段と考えていた。

 

 

 

 彼らから見れば、主役となるのはL.C.L.で一体化した人類の方である。

 逆に生き残ったシンジ達を邪魔者として排除しようとしていた。

 量産機にシンジ達を襲わせて、『生贄』とする企み。

 

 

 

 人類補完計画が実行されれば、ユイに再び会えると言うゼーレの誘いに乗り、計画に協力してしまった。

 済まなかった、シンジ。

 私は自分がゼーレに協力しているとシンジに知られ、拒絶されることを恐れて遠ざけていた。

 

 

 

 しかし使徒に勝つために、シンジを呼び寄せるしか手段がなかった。

 しばらく会っていなかった我が子は、私が思っていたより成長していた。

 『親が無くても子は育つ』、とは昔の人間は言ったものだな。

 

 

 

 同居して、シンジが父親である私の愛情を求めているのは感じていた。

 しかし、愛情の与え方が私にはわからなかった。

 葛城君が同居を引き受けてくれて感謝している。

 

 

 

 そして命懸けで私に真実を伝えようとしてくれた加持君にも。

 だから今度は私が、加持君を失って落ち込んでいる葛城君を助けなければならない。

 正直、人を激励するのは苦手だが、奮起した。

 私は決意を固めて葛城君の部屋のドアを開けた。

 

 

 

 突然現れた私に、枕に顔を埋めて泣いていた葛城君は、驚いて顔を上げて私の方へ振り返る。

 

「碇司令?」

「葛城君、私はゼーレに反旗を翻す決心をした」

「えっ……!?」

 

 

 

私の言葉を聞いた葛城君の目が見開かれた。

そして、戸惑いながら私に尋ねる。

 

 

 

「でも、碇司令は奥様を救うために、ここまでやって来られたのではないのですか……?」

 

 いや、私が一方的にユイに会いたがって居ただけだったのだ。

 彼女はシンジを護るためにその身を投げ打った。

 セカンドチルドレンの母親も同じ覚悟だったのだろう。

 

 

 

「ユイはサルベージを望んでなどいないと私は悟ったのだ。それならば私の進むべき道は、ゼーレの人類補完計画を阻止する事だ」

「碇司令……」

「加持君を失って辛いだろうが、打倒ゼーレに力を貸してくれないか?」

 

 

 

「はい、喜んで。……でも、その前に思い切り泣かせては頂けないでしょうか」

「ああ」

 

 私がそう答えると、葛城君は私の胸に顔を埋めて泣き始めた。

 戸惑いながらも私は、彼女の肩にそっと手を回した。

 

 

 

 ユイの再会を諦めてしまった私の胸にも、大きな穴が空いてしまった。

 しかし抱いた葛城君の温もりが、少し埋めてくれた気がした。

 私はさらなる温もりを求め、腕の力を強めた。

 

 

 

 彼女は私の抱擁を受け入れてくれた。

 そして彼女の涙が止まるまでじっと抱き続けた。

 落ち着いた葛城君は、私から体を離すと泣きはらした目をしながらも笑顔になる。

 

「碇司令、これからは家に居る時はサングラスを取って下さい」

 

 葛城君はそう言って私からサングラスを取り上げた。

 

 

 

 目を隠すサングラスは私にとっての心の壁。

 相手に感情を悟られないために、負けてしまわないために、肌身離さず掛けていた。

 そう、シンジを捨てて鬼になると決意したあの日から。

 

 

 私は久しぶりに他人の目を見つめて笑い合ったのだ。

 打倒ゼーレを誓った私と葛城君だが、二人だけではとても成し遂げられるものではない。

 まずはシンジに力を貸してもらわなければならない。

 

 

 ユイの死亡事故の真実を話すのは辛いが、乗り越えてもらわなければならない。

 

「父さん、サングラスはどうしたの?」

「必要が無くなったから外した。……変か?」

「ううん、そんなことない。父さんと目を合わせて話せて嬉しいよ」

 

 そう言われた私は、シンジから目をそらさず、ユイの遺言を伝えた。

 

 

 

「僕を護ってくれるためでも、母さんに生きていて欲しかった……」

 

 話を聞き終わったシンジは、目から涙をあふれさせた。

 14歳の子供に理解しろと言っても難しい話だ。

 

「父さんは、母さんを本当に死なせていいの?」

 

 

 

そうだ、私はユイを完全に殺す。

確かに人類補完計画を進めれば、ユイと会える希望は残っている。

だが私は退く訳には行かなかった。

 

「ああ、私は人類補完計画は是が非でも阻止しなければいけないと決意した」

 

私は涙で濡れるシンジの瞳をじっと見つめながら答えた。

 

 

 

「父さんの決意はそこまで固いんだね。僕も二度は逃げない、父さんに協力する。でも、やっぱり母さんに会えないのは寂しいよ……」

 

 声を上げて大泣きを始めたシンジを抱いて慰めたのは、葛城君だった。

 やはりシンジには、まだ母親のような存在が必要なのかもしれない。

 

 

 それから私は三人でユイの墓前へと向かった。

 ユイの死を完全に受け入れ未練を断ち切り、打倒ゼーレに向けて揺るぎない信念を持つためだ。

 

「ユイ、私達は命を懸けてゼーレの野望を阻止するとここに誓う」

「父さんと一緒に頑張るから、見ていてね、母さん」

 

 私達三人はユイの墓前で黙とうした。

 しばらくして目を開けると、お互いに顔を合わせてうなずいた。

 人類補完計画を阻止すると闘志を燃やしていた。

 

 

 

「さようなら、母さん」

 

 シンジが最後にユイに別れを告げて、私達は家へと戻った。

 明日から私達はゼーレとの戦いを始める。

 味方は一人でも多い方が良い、しかしゼーレ側に勘づかれてはマズい。

 

 

 

 話し合いの結果、赤木君の協力がが不可欠だと結論を出した。

 葛城君に飲みに誘うと言う口実で、手ごろなバーへと呼び出してもらう。

 しつこく食い下がる葛城君に根負けした赤木君は、仕事を終えた後ならばと応じた。

 

 

 

「赤木君、大事な話がある」

「ネルフではお話できない内容のようですね」

 

 バーに居ないはずの私の雰囲気で、赤木君は察してくれたようだ。

 葛城君に盗聴器などがないか確認させた後、私は特別室で私は加持君の集めた情報や、人類補完計画を阻止しようと決意した事を話した。

 

 

 

 ここで赤木君が協力してくれなければ、私達がゼーレに反抗する事はかなり難しくなってしまう。

 私は葛城君とこんこんと赤木君を説得した。

 だが話を聞き終わった赤木君は冷たい口調で答える。

 

 

 

「どうして命令して頂けないのですか、協力しろと」

「君の意思を無視して強制する事はできない」

 

 赤木君は失望したような表情でタバコを吹かした。

 

 

 

「碇司令、どうしてあなたはそんなに弱くなってしまわれたのですか。以前の碇司令は他人を信じようとせず、力で従わようとしていたではありませんか」

「確かに、葛城君やシンジと同じ屋根の下で暮らすようになって、私の凍っていた心も解け始めてしまったのかもしれんな」

 

 素直な気持ちを吐露すると、赤木君は悔しそうな顔で灰皿でタバコをもみ消した。

 

 

 

「……私が敬愛していた碇司令はもういらっしゃらないと言う事ですね。目の前に居るのはただの人の親。私は普通の人間には興味ありませんわ」

「リツコ、ごめんなさい。あなたの大切な人を奪ってしまって」

 

 葛城君が謝ろうとすると、赤木君は首を横に振って否定する。

 

 

 

「私は振られたわけじゃないわ、私の方から振るのよ」

 

 強く言い切ってくれた赤木君に感謝しつつも、私も詫びなければならない件がある。

 

「赤木君、私のせいでナオコ博士は……」

「皆まで言わないで下さい、私の母の死について、司令に責任があるとは思いません。憎むべきはゼーレです」

 

 その赤木君の言葉で、私達は力強い味方を得たと確信した。

 

 

 赤木君を同志に加えた私達は、シンジも交えてゼーレに反撃の狼煙(のろし)を上げる作戦を練った。

 反攻の足掛かりとなるのは、ネルフの中に潜む親ゼーレ派の人間を懐柔することだった。

 冬月はもとから人類補完計画に強く反対していた。

 

 

 

 ユイ君に会えるかもしれないと思わせて、私は今まで彼を従わせていた。

 私が人類補完計画を止めると言ったらどのような反応を示すか。

 それに彼はゼーレとの交渉役もしていた。

 もしかして、私の知らないところで深い繋りを持っているかもしれない。

 

 

 

「とりあえず、副司令には独房に入って頂くのが良いかと思います」

 

 味方に付くか、敵に回るか予想の付かない冬月。

 今は彼の良識に頼るしか説得材料がないと判断した葛城君は、動きを封じるように進言した。

 

 

 冬月を拘束すると、すぐにゼーレが反応を示した。

 ネルフの外国支部全てが手先となり、本部のMAGIオリジナルへハッキング攻撃を仕掛けて来た。

 

「ダナン型防壁を展開しました。これで72時間は外部からのアクセスはシャットアウトされます」

 

 

 

 赤木君によりプロテクトが掛けられ、MAGIの接収が不可能となった。

 するとゼーレは、日本政府にネルフがサードインパクトを起こして世界を滅亡させようとしている、と偽情報を吹き込んだ。

 

 

 

 今まで表向きは協力関係を築いていた、戦略自衛隊がネルフへと攻め寄せる。

 政府との交渉は冬月に任せていた。

 彼の動きを封じ込めたことが裏目に出たのだ。

 

 

 我々ネルフにも戦闘部隊は存在するが、質・量ともに大きく戦略自衛隊に劣っている。

 発令所の大型ディスプレイには次第に悪化する戦況が映し出されている。

 

「父さん、僕を初号機で出撃させて下さい!」

 

 

 

 葛城君の隣でディスプレイを見ていたシンジが志願した。

 戦地へ息子を送り出すのは親としては忍びない。

 だが、私は最悪の状況を想定した。

 

 

 

 ここにも戦略自衛隊の隊員が攻め入って来る。

 反乱の首謀者である私達は、ただで済まされないかもしれない。

 

 

 

 一万二千枚の特殊装甲に守られているエヴァの中に居れば、サードインパクトが引き起こされてもシンジは生き延びる事が出来る。

 葛城君も同じ考えだったようだ、私と顔を合わせてうなずいた。

 

 

 

「葛城君、シンジを初号機まで誘導した後、病棟に居るセカンドチルドレンを弐号機に乗せろ。レイは私が引き受けた」

「ですが碇司令、すでに零号機はありません」

「だが、四号機が残っている」

 

 

 

 アメリカ支部から輸送された四号機。

 シンジの希望により、フォースチルドレンは登録を抹消された。

 その後本部のケージで安置されていたのだ。

 

 

 

 その提案を葛城君は受け入れた。

 私達が別れる直前、彼女は私にそっと耳打ちした。

 

「……司令、この戦いが終わったら申し上げたい話があるのですが、良いですか?」

「ああ。いくらでも時間はある、問題無い」

 

 

 

 そう答えて、私は一足先に発令所から出て行くシンジと彼女を見送った。

 発令所に残る赤木君に指示を下した後、私も発令所を飛び出した。

 戦略自衛隊がチルドレン達が入院して居る病棟に着く前に、急がなければならない。

 

 

 

 レイの病室へとたどり着くと、病室で寝ているはずの彼女の姿は無かった。

 彼女はまだ傷が回復しておらず、絶対安静を命じていた。

 ベッドから起き上がることすらできないはずだ。

 

 

 

 まさかレイはリリスとの融合を果たすつもりなのか……?

 隠し通路を使って急いでセントラルドグマに向かうと、ヘブンズゲートを潜ろうとしている彼女の姿を見つけた。

 

 

 

「レイ、何をしている……!」

「私が行かないと……碇君達が……」

 

 辛そうに顔を歪めて答えるレイ。

彼女が向かっている方向はセントラルドグマだ。

 

 

「行くな!」

 

 

 

 私は正面に回ってレイの両肩を掴んで押し留めた。

 しかし彼女は悲壮な決意を固めた凛とした表情で答えた。

 

「碇司令の補完計画委のためにユイ博士の遺伝子から生み出されたクローン、それが私です」

「違う、お前は私達の娘だ!」

 

 

 

 のどから声を振り絞るように叫ぶと、レイは涙を流しながら嬉しそうに微笑んだ。

 それは私が初めて見る、彼女の輝くような笑顔だった。

 

 

 

「ごめんなさい、碇司令」

 

 レイが発したA.T.フィールドによって私は横に跳ね飛ばされた。

 背中から激しく壁に打ちつけられ、全身が痺れるような強い痛みが走る。

 身動きの取れなくなった私は、セントラルドグマに向かって歩いて行く彼女の背中を見送る事しかできなかった……。




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