碇ゲンドウの憂鬱、碇シンジの奮起 ~碇親子の和解旧劇版~   作:朝陽晴空

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第八話 惣流アスカの奮起(2022/09/01 16:30改稿)

 アタシは今まで、セカンドチルドレンとして選ばれた事が一番の誇りだった。

 ネルフのドイツ支部には、他にもチルドレン候補生がたくさん居た。

 過酷な競争の中で、チルドレンの地位を勝ち取ったんだもの。

 

 

 

 ママも喜んでいるはずだと周りの人達も言っていたし、そう思っていた。

 でも、参号機が使徒に乗っ取られたあの事件で、初めてアタシはエヴァに恐怖を感じた。

 エヴァは命を奪う兵器だったのだ。

 

 

 

 同い年のパイロットの血が流れるのを見た時、アタシは悲鳴を上げてしまった。

 シンジは司令の指揮には従えないと言ってネルフを出て行った。

 彼の言う通り、アタシ達を信頼してくれなかった碇司令の指揮には不満があった。

 

 

 

 でも彼のように、反抗してエヴァを降りるわけにはいかなかった。

 ママを悲しませてしまうと思ったし、何よりもネルフの病院に入院しているグランマの事もある。

 

 

 

 シンジがネルフを去った後、アタシは司令の家へ戻れと言われた。

 けれどアタシは家に帰らずに、制服姿のままで街をうろついていた。

 

「どうしたのアスカ、何があったの?」

 

 

 

 心配そうな顔で声を掛けて来てくれたのは、中学校で出来た友達のヒカリだった。

 ヒカリに会って、抑えつけていた感情が、涙となってあふれだしてしまった。

 

「ごめんなさい、突然泣き出したりなんかして」

「ううん、辛い事があるなら吐き出してしまえばいいのよ」

 

 

 

 ヒカリに優しい言葉を掛けられて、アタシは自分の気持ちをぶちまけたくなった。

 でも、エヴァで使徒に乗っ取られた参号機を倒した事は機密事項だからヒカリには話せない。

 

「今日ネルフでね、いろいろな事があって……シンジがエヴァのパイロットを辞めて元の家に帰っちゃったのよ」

「えっ、碇君が!?」

 

 

 

 ヒカリは驚いて両手で口を押さえて息を飲んだ後、眉間にしわを寄せて怒り始めた。

 

「アスカと綾波さんはエヴァのパイロットを続けているのに、逃げるなんて碇君を見損なったわ!」

「アイツを責めないでよ、エヴァのパイロットを辞めたくなる気持ちも解るんだからさ」

 

 

 

 でもシンジが居なくなってしまったのは寂しい。

 久しぶりに家族の温もりを教えてくれたのがシンジ、ミサト、碇司令の居るあの家だった。

 建物だけあったって意味が無い、家族とは人の集まりなのよ。

 楽しかった日々を思い出すと、再び涙が湧きあがってきた。

 

 

 

「私やっぱりシンジ君を許せない、だってアスカをこんなに泣かせてしまうんだもの」

 

 ヒカリはアタシのために怒ってくれている。

 こんなに心を温かくしてくれる友達が、まだアタシの側に居ると思うと嬉しくなった。

 

「家に帰りたくないなら、今日は私の部屋に泊まる?」

「えっ、いいの? アタシがいきなり行ったら迷惑じゃない?」

「ううん、アスカなら大歓迎よ」

 

 そのヒカリの心遣いが有難くてたまらなかった。

 商店街で夕食の食材を買い足すヒカリについて行ったんだけど、クラスメイトにシンジが一緒に居ないのを不思議に思われて、質問攻めにあった。

 

 

 

 明日、シンジの転校を知ったみんなはどんな反応をするのか。

 ヒカリのお姉さんのコダマさんと、妹のノゾミちゃんと、夕ご飯を食べたら憂鬱な気分は吹き飛んだ。

 そしてアタシはヒカリと他愛の無い話をしながら穏やかな気持ちで眠りに就いた。

 

 

 次の日の朝、ヒカリと学校に登校しようとしていたアタシはネルフへ呼び出された。

 衛星軌道上に、使徒が出現したらしい。

 

 

 

 無断外泊をしてしまったのだから、碇司令と顔を合わせるのは少し気まずかった。

 だけど彼は淡々と作戦内容をアタシに伝えただけだった。

 家族なら心配したと、パパのように叱って欲しかったのに、寂しさを感じた。

 ミサトが退院してきたら、アタシ達はまた家族に戻れるんだろうか。

 

 

 

 碇司令は宇宙空間に漂う使徒に向かって超長距離射撃をする作戦を立てた。

 ファーストとシンジは、前に同じような作戦で使徒を殲滅させたそうだ。

 

 

 オフェンスは射撃の能力の高いファーストに決まり、アタシは不本意ながらディフェンスになった。

 大きな盾を持たされて、使徒が前と同じ攻撃をして来ても18秒は耐えられるとリツコは言った。

 

 

 

「第二射まで20秒かかるって、2秒間はどうすれば良いのよ!」

「あら、これでも1秒盾の性能が上がったのよ」

 

 ファーストは3秒間、盾無しで初号機を守ったらしい。

 弐号機も同じ事が出来るはずだと、リツコは涼しい顔だ。

 

 

 

 でも、前の時みたいに日本中の電力を集めるだけの余裕は無かったようだ。

 ファーストが大型ポジトロンライフルで撃った陽電子ビームは、使徒のA.T.フィールドにあっさりと跳ね返された。

 

 

 

「使徒を殲滅させるには槍を使うしか方法がない」

「だが碇、あれは計画の鍵となるもの。ゼーレの承認無しに使う事は許されんぞ!」

 

 戦闘中にも関わらず碇司令と副司令は大声で言い争いを始めた。

 指示を受けられないファーストとアタシはその場で待機させられた。

 

 

 ミサトが居ないだけで、ネルフの作戦指揮系統はこんなにも頼りないのか。

 使徒が前みたいに降下してこないと、アタシ達には手の出しようがない。

 

 

 

 焦れてきた時、使徒から虹のようなまぶしい光が弐号機に向かって降り注いだ!

 乗っていたアタシの視界が真っ白に染まる。

 

 

 

「ここは……?」

 

 いつの間にかアタシは部屋の中に居た。

 部屋の中にはたくさんのぬいぐるみがあって、どこかで見たような懐かしい光景。

 そうだ、ここはドイツのアタシの部屋だ。

 

 

 

 窓から差して来る西日が不思議と悲しげに感じられたあの日。

 それは、ママが死んでしまった日。

 ぬいぐるみでおままごとをしながらママの帰りを待っているアタシの耳に、慌てたグランマの足音が近づいてくる。

 

 

 

 いや、来ないで!

 もう、ママが死んだなんて聞きたくないの!

 でもグランマはあの日と同じように、アタシに話した。

 

 

 

 アタシが忘れようとした心の傷をえぐられてしまった。

 これは使徒が見せている幻?

 使徒が精神攻撃を仕掛けてきたっていうの?

 

 

 

 次に見せられたのはセカンドチルドレンに選ばれた時の事だった。

 ドイツ支部の司令室に呼び出されたアタシは、ゲオルグ司令と向かい合っている。

 彼は笑顔でチルドレン就任の祝いの言葉を告げた。

 

 

 

「おめでとう! 君は競争に打ち勝ち、栄光あるチルドレンに選ばれた。亡くなられた君の母上も喜んでおられるだろう」

「はい!」

 

 アタシが返事をすると、彼は引き締まった顔になった。

 

「いいか、必ず使徒に勝て。そうでなければ、すぐにエヴァを降りてもらうぞ。パイロット候補生はたくさんいるのだからな」

 

 

 

 そうだ、アタシは使徒に負けるわけにはいかない。

 

「でも、アンタは使徒に負けた」

 

 自分そっくりの声がアタシの頭の中に響いた。

 

 

 

 そっくりの声は早口で「アンタは使徒に負けた」と何度も繰り返す。

 いやっ、もう止めて!

 だけどアタシは何度も辛い場面を、強制的に頭の中に繰り返し思い起こさせられた。

 これが使徒の攻撃だと気がついても、脱け出す事ができない。

 

 

 

「助けて……シンジ」

 

 だんだんと自分の心が壊れて行くのを感じながら、アタシは意識を失った。

 

 

 次に目を覚ましたのは、病室のベッドの上だった。

 点滴をされていた所を見ると、アタシは使徒に負けた後、何日も意識を失って寝ていたのだろう。

 しばらく目を開けたままじっとしていると、病室にミサトが入って来た。

 

「よかった、気が付いたのね」

 

 

 

「……アタシが生きてるって事は、使徒はせん滅されたの?」

「ええ、零号機によってね」

 

 まさかファーストに助けられるなんて、この上ない屈辱!

 でもおかしい、アイツの攻撃は使徒には通じなかったはず。

 

 

 

「碇司令はロンギヌスの槍と言われる武器を零号機に投げさせてね、それで使徒のコアを貫いたのよ」

「……だったら、どうして最初からそれを使わせてくれなかったのよ!」

 

 碇司令に対する怒りと、ファーストに対する嫉妬が胸の中で爆発した。

 

 

 

「それに何で、アタシが使徒の攻撃を受けて苦しんでいるのに、すぐに使徒を倒してくれなかったの!?」

「使用するのに許可をとらなくてはいけない兵器だったのよ」

 

 ミサトにそう言われて、使徒の攻撃を受ける直前に碇司令が副司令と揉めていた事を思い出した。

 

 

 

「碇司令がアタシを大切な家族だと思っているのなら、副司令に止められても、その槍を使って使徒を倒したはずよ!」

「アスカ、あなたは疲れているからそんな事を考えてしまうのよ。今はゆっくりと休みなさい」

 

 

 

 興奮して暴れるアタシを、ミサトは押さえようとする。

 そんな時、部屋に第壱中学校の制服を着た男子がスッと入って来た。

 誰よこいつ? 

 

「あなたは……?」

 

 ミサトも驚いて彼に素性を尋ねた。

 

 

 

「フィフスチルドレン、渚カヲル。本日付けで弐号機のパイロットとなりました、よろしくお願いします」

 

 えっ!? 今コイツ、弐号機のパイロットって言わなかった?

 アタシは耳を疑った。

 

 

 

「どういうことかしら?」

「僕が弐号機に乗ることになったので作戦部長の葛城一尉にごあいさつに来たんですよ」

 

 コイツの言葉を聞いて、アタシは後頭部を殴られたようなショックを受けた。

 弐号機にアタシ以外の人間が、乗る……?

 

 

 

「待ちなさい、私の承諾無しにパイロットを勝手に決めるなんて、できないわ!」

 

 

 

 フィフスは止めようとするミサトを無視して、話を続けた。

 

「君はクビだ。当然だよね、使徒に負けたんだから」

 

 

 

 コイツの「使徒に負けたんだから」がアタシの中で繰り返される。

 またアタシの心が砕け散ってしまったのを感じた。

 ゆっくりと背中からベッドに倒れて、アタシは意識を失った。

 

 

 

 何日かしてアタシはうっすらと意識を取り戻したけど、アタシは生きる気力を無くしてしまった。

 ネルフの人間によって、運ばれて来る食事にも手を付けない。

 ミサトが病室に来る事も無いし、完全に見捨てられた、と思った。

 

 

 

 

 

 

「アスカ起きて、早く!」

「あ……ミサ……ト?」

 

 薄れている意識の中でアタシは、ミサトに肩をつかまれて揺さぶり起こされた。

 

 

 

「さあ、行くわよ」

 

 彼女はアタシの腕を引っ張って、ベッドから起き上がらせようとした。

 でも、長い間寝たきりだったアタシは、立ち上がれない。

 するとミサトはアタシの背中と膝に手をやってお姫様抱っこをした。

 

 

 

「どこに連れて行くつもり? 用済みになったアタシの事なんてもう放って置いてよ……」

 

 彼女の拘束から逃れようと身をよじったけど、ミサトはアタシを抱き締める力を強めた。

 

 

 

「そうはいかないわ、あなたはこれから弐号機に乗るのよ」

「えっ!? でも弐号機のパイロットはフィフスになったんじゃないの?」

 

 そう尋ねると、衝撃的な答えが返って来た。

 

「彼は使徒だったの、だからせん滅されたわ」

 

 えっ、アイツが使徒!?

 じゃあ弐号機を動かせたのって、インチキのようなものじゃない!

 

 

 

「でも病人のアタシを担ぎ出さなくても、ファーストが居るでしょ」

 

 皮肉を言うと、さっきよりショックな答えをミサトから聞かされた。

 

 

 

「レイは零号機で使徒を倒すために自爆をしたのよ」

「自爆!?」

 

 アタシがこの病室でふてくされている間、零号機は単独で使徒との戦いに臨んだ。

 使徒に勝てないと判断したアイツは、わざと使徒と融合して自爆した……。

 

 

 

 弐号機との共同作戦ならば、他の戦い方もできたかもしれないのに。

 零号機の自爆は、アタシのせいだ。

 

「それで、ファーストは?」

「エントリープラグが無事だったから、命は助かったわ」

 

 

 

 でも自爆ともなれば、フィードバックによる相当のダメージを受けたに違いない。

 

「レイに謝るためにも、あなたは弐号機で戦って生き残るのよ」

 

 ミサトはアタシの心の中を見通しているようだった。

 彼女に抱き上げられて病室を出ると、ネルフの様子がいつもと違うことに気が付いた。

 廊下に悲鳴と銃声が響いている。

 これは普通じゃない。

 

 

 

「戦略自衛隊がね、ネルフを占領しようと侵攻を始めたのよ」

「えっ!?」

 

 戦う相手は使徒じゃなくて、同じ人間だっていうの!?

 

 

 

「詳しく説明する時間は無いけど、兵士はエヴァとチルドレンを狙っているの。だから、私はアスカを迎えに来たのよ」

 

 足手まといのアタシを抱えたまま、ミサトが逃げ切れるのは難しいと思った。

 それに、命の危機に直面しているのはファーストも同じだ。

 

 

 

「ミサト、アタシは別に死んでも構わないから、ファーストを助けてあげて」

 

 そう言うと、彼女は愛おしそうにアタシの頭を胸に抱き寄せた。

 

 

 

「バカ、そんな事出来るわけないじゃない、アスカは私の大切な家族なんだから。それにレイは碇司令が助けに行ったわ」

 

 ミサトの言葉を聞いたアタシは胸が熱くなった。

 見捨てられたんじゃない、そう自分で思い込んでしまっただけ。

 

 

 

 アタシ達が進もうとしている方で銃撃戦が起きている。

 ミサトは強行突破を考えているようだった。

 そんな事をすれば彼女も無傷では済まない。

 

 

 

「大丈夫よ、アスカを弐号機の元へ送るまでは死なないから」

「アタシを一人にしないでよ!」

 

 アタシは泣いてミサトを思いとどまるように説得しようとした。

 

 

 

 すると、一人の戦略自衛隊の兵士が足早にこちらに近づいてくるのが分かった。

 アタシをお姫様抱っこしているミサトは銃で応戦する事が出来ない。

 これまでか、と思うと、マスクの下から現れたのは加持さんの顔だった。

 

 

 

「よお葛城、無事にアスカを連れ出してくれたみたいだな」

「加持!? あんた死んだはずじゃ!?」

「驚いたか? 敵を欺(あざむ)くにはまず味方からって、言うだろう」

 

 

 

 怒り出しそうになったミサトを、加持さんはなだめた。

 彼はゼーレの目をごまかすために死んだと偽装していたようだ。

 リツコと副司令が協力していたから、周囲にはバレずにいたみたい。

 

 

 

「二人は俺が守る。さあ、弐号機の所へ行こう」

 

 加持さんに先導されて、アタシ達は弐号機ケージへとたどり着いた。

 でも弐号機はベークライトによって固められていた。

 戦略自衛隊はエヴァの動きを封じる手を打っていたのだ。

 

 

 

「これじゃあ、弐号機に乗れないじゃない!」

「呼び掛けるんだ、そうすれば彼女は答えてくれる」

 

 彼女って、弐号機の事?

 確かにエヴァはロボットでは無くて、人造人間だと聞いてはいたけど……。

 

 

 

「お願い弐号機、アタシを乗せて!」

 

 ミサトに抱かれたままそう叫ぶと、ベークライトを突き破って、エントリープラグが飛び出した。

 まだ乗っていないのに、どうして!?

 エヴァが勝手に動くなんて、見たことがなかった。

 

 

 

「これで弐号機の覚醒は成った」

「中に居るあなたのお母さんが、きっとアスカを助けてくれるはずよ」

 

 加持さんとミサトが何を言っているのか、今のアタシにはワケが分からなかった。

 

 

 

 ミサトに抱きかかえられて、アタシは弐号機のエントリープラグのシートに座われた。

 

「ありがとう、アタシをここまで運んでくれて」

「アスカ、弐号機のエントリープラグの中に入ったら、お母さんに向かって強く呼びかけて」

「うん」

 

 

 

 戸惑ったけど、彼女の言う通りにやってみる事にした。

 L.C.L.の注水が終わり、弐号機が起動すると、アタシはママに向かって呼びかけてみる。

 

「ママ、お願い。アタシの声が聞こえるなら答えて」

 

 

 ミサトの言葉を信じて、何度も強く念じた。

 

 

 

 すると灰色のベークライトに覆われていた視界が真っ白に染まる。

 あの使徒の精神攻撃を受けた時と同じだ。

 恐怖を感じて、胸が締め付けられる思いがした。

 

 

 

 でも今度アタシの目の前に広がったのは、ヒマワリ畑だった。

 小さい頃ママと隠れんぼうをして遊んだ思い出の場所。

 アタシの身体もその時と同じ4歳に縮んでいた。

 

 

 

 感じる空気も夏のドイツの空気そのものだった。

 背の高いヒマワリの林の中に隠れるアタシ。

 目の前を麦わら帽子を被ったママが通り過ぎた。

 

 

 

「ママっ!」

 

 アタシは飛び出してママの背中に抱き付いた。

 ママはゆっくりと振り返ると、アタシの頭を優しく撫でてくれた。

 

 

 

「ダメじゃないアスカちゃん、隠れんぼうをしているのに、自分から出て来ちゃ」

「ママってば、こんな時でもマイペースなのね」

 

 実際に隠れんぼうをした時も、アタシはママが見つける前に、耐え切れずに飛び出したことを思い出した。

 ママは同じところを何回もウロウロしても探し物を発見できない、性格だった。

 

 

 

「アスカってば、パイロットになった今でも甘えん坊さんね」

「ママはずっとそばに居てくれたの?」

「そうよ、弐号機とのシンクロを通じて、アスカのことを見ていたわ」

 

 

 

 アタシは一人じゃなかった、アタシが弐号機に乗っている時、ママは見守ってくれていた……!

 

「ごめんねママ、アタシ一人の力じゃ、弐号機にママが居るなんて気付けなかった」

「謝らなくてはいけないのは私の方。アスカをエヴァに縛り付けてしまったから」

「えっ……?」

 

 

 

 エヴァに乗って使徒を倒せば、ママも喜んでくれると信じていた。

 逆に心を痛めているなんて、思っても見なかった。

 

「私の勝手な願いを押し付けてしまって、本当にごめんなさい」

 

 

 

「ううん、アタシはエヴァのパイロットになれて良かったと思ってる。エヴァのお陰でアタシは日本で友達や家族を作ることが出来たのよ」

 

 アタシが笑顔でそう言うと、ママは嬉し涙を流した。

 そしてアタシを抱きしめたまま、耳元でそっとささやく。

 

「ずっとこうしてあげたいけど、もう時間が無いわ。こうしている間にも、初号機は戦っているから」

「えっ、シンジが……?」

 

 

 

「アスカ、頑張って。私は弐号機の中からあなたを見守っているから」

「ありがとう。そして、さようなら、ママ。会えて嬉しかったわ」

 

 アタシはママから身体を離して、笑顔で手を振って別れた。

 決して後ろを振り向かない。

 もう一度ママの顔を見たら夢の世界から帰れなくなってしまうから。

 

 

 もう二度とママとは直接話せないのだろう、これは一度きりの奇跡なんだとアタシは感じていた。

 風景がヒマワリ畑から弐号機のエントリープラグの中へと切り替わった。

 夢のような時間は終わったんだ。

 

 

 

 身体中から力があふれる。

 少し前まで病院のベッドで寝たきりだったとは思えない。

 きっとママが力を貸してくれているんだわ。

 

 

 

 この力でシンジを助けてみせる!

 弐号機を覆っていた硬化ベークライトを力任せに粉砕した。

 

「アスカ、このままジオフロントへ向かって! シンジ君はそこに居るわ!」

 

 

 

 ミサトが大きな声で叫んだ。

 ジオフロントはネルフ本部のある場所だ。 

 もう敵はそこまで攻め込んで来ていたのか。

 

 

 

 弐号機で走りながら上を見上げると、地下にあるはずのジオフロントから地上の青空が見えた。

 天井都市は戦略自衛隊のN2爆弾によって吹き飛ばされたのか。

 第三新東京市のヒカリ達も気になるけど、今はシンジの救援が先だ。

 

 

 

 戦略自衛隊の攻撃が集中している場所の中心に、初号機は居た。

 空を飛ぶ戦闘機を叩き落し、戦車を踏み潰している。

 ネルフ本部を守ろうと、近づく敵を排除していた。

 

 

 京都へと帰ったらしいけど、加持さんが連れ戻してくれたって話は本当だったのね!

 

「弐号機、どうしてここに!?」

「アタシよ、シンジ!」

 

 シンジが本部から出てきた弐号機に気が付いたみたい。

 初号機からのモニター通信に、アタシは精一杯元気な笑顔と声で答えた。

 

 

 

「アスカ!?」

 

 まるで幽霊でも目撃したかのように驚いているシンジ。

 病室で寝たきりで、ミイラのようだったアタシとのギャップに驚くのも当然か。

 

 

 

「話は後よ、今は力を合わせて戦いましょ!」

 

 戦略自衛隊の軍隊が束になってかかってきても、アタシ達のエヴァはびくともしない。

 通常兵器がエヴァに通用しないことはヤツらも分かっている。

 目的はネルフ本部の制圧だ。

 

 

 

 アタシ達はネルフ本部へと近づいた敵部隊を片っ端から全滅させた。

 しばらくすると、戦略自衛隊の戦力は侵攻してきた時の10分の1までに減少した、と発令所のミサトから通信が入った。

 

 

 

 ミサトたちもネルフ施設内に潜入した敵の歩兵部隊を、辛くも撃退できたようだ。

 戦略自衛隊の部隊が撤退を始めるのを見て、アタシ達はグータッチした。

 

 

 

 お互いに話したい事がたくさんある。

 しかし敵はアタシ達二人に息を付く時間を与えてくれなかった。

 

 

 

 九体の白いエヴァンゲリオンが、地上から飛来し、ジオフロントへと降り立ったのだ。

 アタシ達二人は、包囲されてしまった。

 そして弐号機宛てにモニター通信が入った。

 

 

 

「そこまでだ、セカンドチルドレン。君達はもう終わりだ」

「えっ?」

 

 相手はドイツ支部のゲオルグ司令だった。

 彼がどうしてエヴァに乗っているのか。

 どうしてはるばる日本へとやってきたのか。

 

 

 

 困惑していると、他のエヴァから一方的に通信が放たれた。

 

「これより、人類補完計画を執り行う。しかし、約束された未来へと旅立つのは我ら九名」

「邪魔者はこれより排除する」

 

 

 

「邪魔者ってアタシ達の事!?」

「うん、加持さんはサードインパクトが起きても、エヴァに乗っているパイロットだけは生き残れるって話していた、だから母さんは僕をエヴァに乗せたんだと思う」

 

 きっとママも同じ気持ちで、アタシをエヴァのパイロットにしたに違いない。

 その願いが今、九人の勝手な大人達によって汚されようとしている……。

 

 

 

「君への最後の命令は『死』だ。降伏も許さん」

 

 ゲオルグ司令からの通信が切れると、九体の白いエヴァ達は剣を構えた。

 先手必勝! アタシはとっさにシンジに通信を送る。

 

 

 

「シンジっ、3時の方向!」

「分かった!」

 

 アタシ達は包囲を切り抜けるために、その一角へと飛び込んだ。

 数の上では圧倒的に不利だ。

 だけど絶対に負けないわよ……!




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