碇ゲンドウの憂鬱、碇シンジの奮起 ~碇親子の和解旧劇版~   作:朝陽晴空

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第九話 綾波レイの奮起(2022/09/02 10:05改稿)

 碇君がネルフを去ってしまった翌日、衛星軌道上に使徒が出現した。

 降下の気配を見せない使徒に対して、碇司令は過去に葛城一尉が立てた『ヤシマ作戦』を基にした作戦を実行。

 私は碇司令の命令に従い、大型ポジトロンライフルの射手を担当した。

 

 

 

 作戦中だと言うのに、私は碇君とのことを思い返していた。

 彼のお陰で、私は生まれ変わることができた。

 この世界には、エヴァ以外に色々と素晴らしいものがあると知った。

 

 

 零号機が使徒の陽電子ビームを受けて倒れてしまった後、碇君は心配して駆けつけてくれた。

 私の無事を心から喜んでくれて、抱きしめてくれた。

 

 

 

 でも、今一緒に使徒と戦っているのは彼じゃない。

 盾を持って私を守っているのは初号機では無くて弐号機。

 セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー。 

 

 

 

 私は彼女と話したことはなかった。

 仲良くしろと、誰からも命令を受けていないから。

 

 

 

「ポジトロンライフル、エネルギー充填、100%」

「発射準備よろし!」

 

 青葉二尉と日向二尉の合図に従って、引き金を引いた。

 

 

 

 陽電子ビームは間違いなく使徒に命中した。

 でも距離が遠すぎたせいなのか、それとも使徒が強かったのか。

 私の攻撃は、使徒のA.T.フィールドに弾き返されてしまった。

 

 

 

 その結果を目の当たりにした碇司令は冬月副司令と相談を始めた。

 碇司令は、ロンギヌスの槍を使わないと使徒は倒せないと主張している。

 私も同じ意見だった。

 

 

 

 でもゼーレとの関係を崩したくない副司令が猛反対しているみたい。

 私は命令がないと動けない。

 勝手に槍を取りに行く独断専行などできるはずもなかった。

 

 

 

 そうしている間に、使徒から弐号機に向かってスペクトル光線が照射された。

 苦しむセカンドチルドレンの叫び声が、モニター通信で聞こえてくる。

 発令所にもその声が伝わっているはず。

 

 

 

「助けて、シンジ……」

 

 彼女が碇君に助けを求めるつぶやきが、私の耳に届いた。

 そうだ、彼女は碇君が好きだった人。

 碇君の大切なものは、守らなければならないと思った。

 

 

 

「レイ、セントラルドグマに降りて槍を使え」

 

 碇司令から待ち焦がれた命令が下される。

 私はエレベータではなく、メインシャフトから飛び降りてセントラルドグマへと向かった。

 

 

 

「何をしている!?」

 

 モニター通信で碇司令の驚く声が聞こえた。

 そう、地上に戻るにはエレベータを使わないといけないから、飛び降りても意味は無かった。

 冷静さを欠いてしまうとは、初めての経験だった。

 

 

 

 ドグマに到着した私は懐かしさを覚えた。

 どうしてかは分からない。

 記憶の一部が欠落してしまっている……そう感じるのだ。

 

 

 

 司令の命令通り、十字架に縛り付けられている白い巨人の胸に刺さっているロンギヌスの槍を引き抜く。

 その瞬間、私の中に形容しがたいイメージのようなものが流れ込んできた。

 思わず槍を落としてしまいそうになる。

 

 

 

 そのイメージの正体は気になるけど、今は任務遂行が最優先。

 降りてきたエレベータに乗って、地上を目指す。

 

 

 

 地上に到着した私は、碇司令の合図を待たずにロンギヌスの槍を投げてしまった。

 命令違反に気が付いたのは、使徒が殲滅された後だった。

 

 

 

 発令所に戻った私は、弐号機から救出された彼女の容体を赤木博士に尋ねる。

 

「惣流さんの容体はどうですか?」

「かなりの精神的ダメージを受けたみたいだけど、汚染区域ギリギリで助かったわ。数日経てば目を覚ますはずよ」

「そうですか」

 

 

 

 博士の話を聞いて安心してため息がもれた。

 

「あなたがシンジ君以外の人の事を心配するなんて珍しいわね」

「彼女は碇君の大切な人だから」

 

 

 

 そう答えると、赤木博士は驚いて息を飲んでいた。

 

「あなた、ずいぶん人間らしくなったわね」

 

 赤木博士にそう言われて、私は複雑な気持ちになった。

 

 

 

 人形その物だった以前と比べて、人間に近づいたと言われたのは嬉しい。

 でも博士は、私をまだ人間とは違うものだと思っているとも感じられて、悲しかった。

 

「あっ、ごめんなさい、そう言うつもりじゃなかったのよ」

「いえ、構いません」

 

 彼女は私の微妙な感情の変化に気がついたみたいで、謝まった。

 でも私は、碇君以外の人にも感情を伝えられるようになったのだと、また少し嬉しくなった。

 

 

 

 惣流さんが目を覚ましたら、少し話してみよう。

 これからまた一緒に使徒と戦う事になるのだから。

 私はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 それから数日後、また使徒が襲来した。

 惣流さんはまだ目を覚まさない。

 エヴァに乗って戦えるのは私だけ。

 

 

 

 碇君も一人で使徒と戦っていた時期があったのだから、私もで不安だなんて言っていられない。

 今度の使徒は、参号機を乗っ取った使徒のように、侵食して融合して来るタイプの使徒だった。

 

 

 

 私の乗っている零号機も、使徒に右腕をつかまれて侵食されそうになった。

 赤木博士の判断で、侵食された右腕を切り離して、なんとか私は助かった。

 でも、近づいたら侵食されてしまう使徒をどうやって倒せるの?

 

 

 

 赤木博士が提唱した作戦は恐ろしいものだった。

 眠ったままの惣流さんを弐号機に乗せて出撃させる。

 そして、使徒が弐号機と融合しようとしたところで、弐号機を自爆させて倒す。

 

 

 

「リツコ、あんたなんてバカな事を考えているの!」

「でも、ここで零号機とレイを失うわけにはいかないのよ」

 

 前の使徒との戦いの時は碇司令と副司令が言い争いをしていたけど、今度は葛城一尉と赤木博士がつかみ合いのケンカになっている。

 

 

 

 自爆するタイミングが早ければ、使徒は倒せない。

 遅すぎては使徒に身体を支配されてしまう。

 そんな危険な作戦を他のパイロットにさせるわけにはいかない。

 

 

 

「レイ、あなたは撤退するのよ。命令に従いなさい!」

「嫌です!」

 

 私は赤木博士に逆らって、使徒へと近づいた。

 

 

 

 もし碇君がネルフに戻ってきて、惣流さんが自爆したと聞いたら、強く自分を責めると思う。

 私は彼にそんな苦しい思いをさせたくなかった。

 

 

 

「戻れ、レイ!」

 

 碇司令、勝手な事をしてしまってごめんなさい。

 使徒の侵食がある程度達したと判断した私は、座席の下にある自爆装置のレバーを引いた。

 

 

 

 爆発の閃光で視界が真っ白に染まる。

 最後に浮かんだのは碇君の笑顔だった。

 

「さようなら、碇君」

 

 私は碇君に二度目のさよならを告げた。

 

 

 

 

 

 次に私が気が付いたのは、病室のベッドの上。

 零号機の自爆により、私は命を落としたはずだった。

 

「どうして私、生きているの?」

 

 

 

 爆発に巻き込まれたせいで、まだ身体中が痛くていうことをきかない。

 でも、A.T.フィールドの使い方を思い出した私は、体を浮かせてセントラルドグマを目指した。

 

 

「レイ、何をしている……!」

 

 ヘブンズゲートを開いて、セントラルドグマの中へ入ろうとした私は、碇司令に呼び止められた。

 彼は私が何をしようとしているかを分かっているようだった。

 両肩をつかまれて、全力で行く手を阻もうとしていた。 

 

 

 

「私はエヴァに乗るために、ユイ博士の遺伝子から生み出されたクローン、それが私の存在価値です」

「違う、レイ、お前は私達の娘だ!」

 

 

 

 今まで優しくされても、自分に向けられたものではないかと、不安だった。

 やっと碇司令の本心を聞く事ができた。

 自然と笑顔になり、目から嬉し涙があふれだす。

 

 

 

「ごめんなさい、碇司令」

 

 私は強いA.T.フィールドを発生させ、彼を突き飛ばした。

 

 

 

 ジオフロントでは人類補完計画が、初号機と弐号機を依り代にして発動しようとしている。

 サードインパクトが起こる前に、私がアディショナル・インパクトを起こさなければ。

 

 

 

「ただいま」

「おかえりなさい」

 

 私の身体は、セントラルドグマにはりつけにされていた白い巨人の中へ吸い込まれた。

 これで欠けていたリリスの心が補完され、シン化を遂げた。

 

 

 

 そう、これは本来使徒が起こそうとしていたサードインパクト。

 私はこの力で、碇君が望む世界を創る。

 

 

 

「綾波……?」

 

 碇君以外のヒトが全てL.C.L.に還ったことにより、人類補完計画は潰えた。

 白いエヴァンゲリオンに乗っていた九人の人間達も、L.C.L.の海へと飲み込まれた。

 

 

 

 そして今、私と碇君はL.C.L.の海の波が押し寄せる砂浜に立っている。

 

「碇君、あなたはどんな世界を望むの?」

「僕は……母さんと約束したんだ。世界中の人々を幸せにするって」

 

 

 

「それが、この世界なの?」

「違うよ」

 

 頭上には無数の人々の魂の輝きが、星空のように瞬いている。

 私が尋ねると、彼は首を横に振って否定した。

 

 

 

「僕が望んでいるのは、結果の平等じゃなくて、誰もが幸せになれる機会が持てる世界なんだ」

 

 彼がそう言うと、一つの液体となっていた人達が光の粒となって飛び散った。

 完成したジグソーパズルのピースが、バラバラになるかのように。

 

 

 

「碇君、これでお別れね……さようなら」

「さようなら、綾波。また、会おうね」

 

 彼の言葉を聞いて、私は驚いた。

 私をまだ綾波レイと言う人間として求めてくれることが嬉しかった。

 

「また会える機会はいくらでもあるよ、月と太陽と地球がある限り」

「……そうね」

 

 

 思わず笑顔が零れる。

 あのヤシマ作戦の時のように。

 

 

 

「命令に従うだけの空っぽの人形だった私だけど、碇君は私に生まれ変わる機会を与えてくれた。ありがとう。今度は惣流さん達とも友達に……」

 

 そこまで話したところで、世界は白い光に包まれた。

 彼の新世紀が始まったのだ。

 さようなら、エヴァンゲリオン。




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