薫さんは生産職   作:紅 卍

10 / 21
花山、異世界でエルフに遭う

「俺が冒険者ギルドに登録しようとする………すると話しかけてくるやつがいるんだ………先輩の冒険者でな……こう言うんだ………『お前みたいなヒョロっとした若いのに、冒険者は務まらねえ。訓練場に来な。俺が冒険者の厳しさってやつを教えてやるぜ』……ってな」

 

 花山が言うと。

 サリオが、コップを置いて言った。

 

「では、冒険者ギルドに行ってみましょうか」

「行こう」

 

 そういうことになった。

 

●●●●

 

 冒険者ギルドは、酒場の隣の建物だ。

 受付カウンターでサリオが事情を話すと――

 

「いないいないいない。そんな奴いな~い」

 

――即答したのは、冒険者ギルドのギルド長だ。

 己より頭ひとつ高い花山の顔を見上げて、彼は言った。

 

「今時そんなことやる奴がいたら、追放どころか半殺しで役人に引き渡される――盗賊に雇われてそういう新人潰しをする奴がいるんだ」

 

 盗賊が次に行く地域に人を送り、冒険者ギルドの弱体化を行うことがあるのだという。ご当地の有力パーティーに潜り込んで他のパーティーと仲違いするように仕向けたり、経理の人間を籠絡して物資の出入を混乱させたり、酒場でデマを流したり。それと並行して新人潰しが行われた結果、数カ月後に盗賊が暴れだした頃には討伐の依頼が来てもろくに対応できない状態になっていたという事例が各地であったのだそうだ。

 

この町の冒険者ギルド(うち)みたいな小さな支部がそんなことされたら、ひと月も経たずに業務が破綻する(回らなくなっちまう)。だから、そういう奴を見逃さないようにちゃんと見張ってるんだ。それに見てくれ――訓練場なんて大層なもの、ここには無い!」

 

 ギルド長の言葉を疑うべくも無く。冒険者ギルドは細長い建物で、広さは酒場の4分の1も無かった。いま花山達が向かい合ってるカウンターも、人が2人並ぶのが精一杯。カウンターの向こうには机が一つと巻物や水晶玉の並んだ棚があるだけで、棚の隣にはドアが見えるのだが、訓練場などといった広い空間に繋がってるようには思えなかった。

 

「………」

 

 ギルド長の説明に沈黙する花山。

 そこへ追い打ちするように、サリオが訊いた。

 

「そもそもですね……ねえ、ギルド長。このカオルさんに一太刀浴びせて傷を付けられるような人――そんな人って、ここのギルドにいます?」

「いないな」

 

 きっぱり答えるギルド長。

 いや――花山が追いすがった。

 

「実力不足と勘違いされてパーティーをクビになってばかりの奴が実は最強だったりってことは……」

 

 そうだな……ギルド長が顎髭――若々しく整った顔立ちが少しでも老けて見えるように生やしている――を撫でながら答えた。

 

「確かに、パーティーをクビになってばかりの奴なら1人いる。だが、実力不足ってわけじゃなくてな。酒癖と手癖が悪くて、酒に酔っては仲間の金をくすねるんでその度パーティーをクビになってるんだ」

 

 と言って、棚の隣のドアを開けると何かを取り出して持ってきた。

 ボロボロの布の塊――に見えたが違う。

 人だった。

 長い耳からすると、エルフ。

 エルフの女だ。

 

「こいつ――アルチュっていうんだが、昨夜、隣の酒場で酔ってウザ絡みしてたんで預かって物置に放り込んどいたんだよ」

 

 そう説明するギルド長の足元で。

 大の字になってエルフの女――アルチュが叫んだ。

 

「うるせー。てめ、何ミてんだこのやろう馬鹿やろう。気に食わねえのか。アタシが気に食わねえのかこの野郎。殺すのか!? 犯すのか!? 好きにしやがれ馬鹿やろう。殺せ! 犯せ! 酒よこせ! 酒! 酒! 酒! 酒よこせ! うだぁああああああ!!!!」

 

 昨夜から物置きに閉じ込められているということだったが、どう見てもまだ酒が抜けていない。

 それもそのはずで……ギルド長によると。

 

「知っての通り、エルフっていうのは空気から栄養を合成出来る――だから人間より少ない食事で生きてけるんだが、アルチュ(こいつ)の場合、栄養だけじゃなくて酒も合成できるみたいなんだ。だから、その気になれば息をしてるだけで酔っぱらっちまえるんだよ」

 

「酒~。酒よこせええええ」

 

 アルチュの醜態を見ながら、サリオが言った。

 

「それでも酒を欲しがるんですから、度し難いですよねえ……」

 

「そういうもんだ……」

 

 歌舞伎町が縄張りの花山にしてみれば、アルチュの様な酔っぱらいは見慣れたものだった。

 手癖の悪さでしくじる者も、また同じくだ。

 そういう人間を何人も見てきた花山だから、出てきた問いだったのかもしれない。

 

「こいつが強いってことは有り得ない……ってのは分かるが。しかし、アルチュ(こいつ)には何か取り柄がある――違うかい?」

 

 何らかの利用価値が無ければ、ギルド長も世話をしないだろうという考えだ。

 アルチュが全く取り柄の無い人間だったら、とっくに野垂れ死にしてるはずだった。

 パーティーをクビになってばかりの奴――ギルド長は、そう言っていた。

 しかし何度もクビになっているということは、何度も加入を許されているということでもあるのだ。

 

「その通りだ。こいつには不思議な嗅覚と運の良さがあってな。こいつが加入してるパーティーからは、まず死人が出ない。もちろん例外はあるが、例外なくこいつの言うことを無視して危険な場所に突っ込んでった結果だった。だから新人や危なそうな依頼を受けたパーティーにはこいつを加入させてるんだが……それで結果も出してくれてるんだが………」

  

「殺せ! 犯せ! 酒! 酒ぇええ!」

 

「それを帳消しにして尚余る、このザマですか……ところでカオルさんは、危険な戦いがご所望なんですよね?」

 

 サリオが言った。

 

「ん……」

 

「だったら、冒険者は止めたほうが良いですよ」

 

「…………?」

 

「冒険者ギルドっていうのは、ランクによって請けられる仕事に制限があるんです。カオルさんならあっという間に最上級のランクに行けるでしょうが、それでもカオルさんに傷を付けられるような魔物や強者との戦いっていうのは、任務として請けられない。それくらいの難敵ともなると軍隊の管轄になってしまうんですよ。でも、だったら軍隊に入れば良いかっていうと、これも上手くない。カオルさんくらいの強者だと、おそらく王宮から声がかかって近衛兵に引き立てられるでしょう。で、近衛兵が何をするかっていうと王宮の警護です。自分の都合で戦うなんてことは、まず出来ません。じゃあ、どうすればいいかっていうと――あれです」

 

 あれ……サリオが視線で示した先を見ると。

 

「ぐう……ぐぼぼ……ぐごぽ………」

 

 汚くいびきをかく、アルチュの姿があった。

 サリオが言った。

 

「あれを使って、生産職に就くんですよ」

 




読者の皆さん的に、板垣作品以外のキャラが出るのはアリでしょうか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。